はてノ鹽竈

東北地方から日本史を眺めていきます。

時事―ニュース所感――

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 今回の大津波には、いろいろと考えさせられました。その中で、人間という頭でっかちな生き物が、精神構造上どうしても強烈な恐怖心を忘れるメカニズムになっているらしいことを思い出しました。恐怖心に限らず、「喜・怒・哀・楽」全てにおいて、人間は激しい感情の動きに短時間しか耐えられないらしく、たとえ喜びの感情であっても、長く続くと脳はそれを異常事態と判断し、鎮静化してしまうのだそうです。なるほど、いつまでも激しく脈打ち続けていては心臓が持ちません。それは私たちの精神の自己防衛本能なのです。そんな話を、たしか昔ラジオで聞いたことがあります。快楽の感情ですらそうなのですから、“激しい恐怖心”を引きずることが体にいいわけがありません。いえ、決して津波被災者の方に賢(さかし)らな心理学を語ろうというのではありません。そんなことは、私ごときにはあまりに重すぎて、到底無理な話でもあります。ただ、自分も含めた人間全員に言えることとして、やはり私たちは先人たちの発する警告を軽んじてはいけない、という戒めが頭をもたげ、痛烈に鳴り響く今日この頃なのです。恐怖心を本能でかき消してしまうのが人間の性(さが)であるならば、やはりこれはなんらかの形で強制的に後世に伝えていかなければならないものであり、歴史を学ぶということは、私たちは先人たちの残した切実なメッセージをしっかり受け止めねばならぬこと、と真剣に考えているのです。
 最近、災害復興政策として、高台に住宅地を造成し、被災者に換地するという案が、首相を含めて真剣に論じられております。当然、これは重要な議論で、早急にしっかりと煮詰めていただきたいと願っております。
 ただ、ここで絶対に考慮しなければならないのは、過去にも大津波の度に同じ議論が繰り返されていたはずで、しかもその成果がしっかり実現もされてきたはずなのに、結局今回のような悲しい結果を避けられなかった、という“現実”です。
 ある地域では、恐ろしい津波の教訓を生かして防潮堤を築き上げたというのに、何故かその外側――海側――にも住宅が張り付いてしまいました。事情を知らないままそのニュースを聞いてしまうと、短絡的に大変な愚行に聞こえ兼ねないのですが、よく考えるとこれは極めて自然な成り行きであることに気が付きます。おそらく、最初は単純な作業小屋などから建ち始まったのでしょう。漁業を主産業とする集落の日常において、防潮堤は作業効率を著しく阻害する邪魔者でもあることも否めません。そうなると、せめて漁船との連絡がスムーズな場所、すなわち防潮堤の海側に作業小屋くらい欲しくなるのはあたりまえでしょう。作業小屋があれば、そこにはちょっとした休憩スペースも欲しくなるでしょう。繁忙期ともなれば、時にはそこに寝泊まりすることもあるでしょう。一人の漁師が、その人生の中で、はたして何回津波がくるものでしょうか。一度も遭遇せずに生涯を終える方もたくさんいらっしゃるはずです。そのような漁師から、そのまま息子に家業が継承されたなら、津波の記憶など心配性な年寄りの世迷言にしか聞こえないかもしれません。当初の鉄壁な危機意識はそうやって徐々に崩れていくものだと思われます。代替わりが進めば、千年などという途方もない時間を待たずとも、ものの百年もあれば十分恐怖の記憶は薄れていくでしょう。私たちはそのような現実も含めて物事を考える必要があります。
 偉そうに語る私も、正直なところかつて仙台平野を襲った平安時代の貞観津波など、どこか歴史上の事象にしか捉えていなかったようです。いえ、最近の調査結果から現実に再来する可能性を十分科学的に想定できたのですが、平安時代と平成の現代では、例えばかつて暴れ川であった河川も、まるっきりレベルの異なる堤防で制御されているわけで、同じ規模の津波が襲いかかってきたとしてもここまでひどいことになるとは思いもしませんでした。
 2010年8月、「産業技術総合研究所」の「活断層・地震研究センター」は、センター長の岡村行信さんをはじめ、宍倉正展さん、澤井祐紀さん、行谷佑一さんら「海溝型地震履歴研究チーム」を結成させて、仙台平野と福島県北部沿岸部の貞観津波当時の海岸線や津波浸水履歴を調査させ、その結果を発表しております――AFERC NEWS No.16『平安の人々が見た巨大津波を再現する――西暦869年貞観津波――』――。
 その調査手法を簡潔に触れておきましょう。
 津波は、海岸付近の土砂を浸食して内陸に運びますので、浸水域にはそれらの土砂が堆積されることになります。特に西暦869年の貞観津波の堆積物については、その約半世紀後の西暦915年に降下堆積したという「十和田aテフラ」なる火山灰の直下に分布しているので、比較的識別が容易であるのだといいます。
 また、当時の海岸線については、平野部の海岸線に形成される「浜堤列」という微地形の調査によって明らかになります。これは海岸線の年輪みたいなものです。浜堤列が複数列発達している仙台平野や石巻平野は、海岸線が少しずつ前進して平野が形成されていったことがわかります。肝心な堆積物は、浜堤列と浜堤列の間の湿地に沈殿して、浸水が引いた後も残されます。航空写真判定によって確認された仙台平野と石巻平野の浜堤列は20列程度とのことですが、実際にその分布を調べると、現海岸線より数列内陸にある浜堤を境に、そこから海側には「十和田aテフラ」や「貞観津波堆積物」の分布がみられなかったといいます。つまりは、そこが貞観津波襲来時の海岸線であったことを意味することになります。
 レポート資料添付の図を見る限り、そのラインは、おおよそ貞山堀、東名運河、北上運河のラインと考えてよさそうです。
 このような調査結果から、津波の波源を数値シミュレーションによって求めた結果、貞観津波は宮城県から福島県にかけての沖合の日本海溝沿いにおけるプレート境界で、長さ200キロメートル程度の断層が動いた可能性が考えられ、マグニチュード8以上の地震であったことが明らかになっておりました。
 また、この調査はあくまで宮城県沿岸を中心に進められているので、震源域の長さは200キロメートル程度にとどまっておりますが、仮に福島県以南の沿岸でも同じ調査をしたならば、おそらく今回の大震災同様500キロメートル程度の長さにまで及ぶことでしょう。
 それにしても、このレポートの資料を見ると一瞬今回の震災データと見まがいます。それほど、震源域や浸水エリアなどが酷似しているのです。この調査がいかに高い精度で行われたかに驚かざるを得ません。
 この調査は、宮城県沖で巨大地震が発生する確率が30年以内で99%というショッキングな発表を受けて、文部科学省が東北大学を中心に委託した「宮城県沖地震における重点的調査観測」の一環で調査されたものです。つまり、一研究グループの論考という類のものではなく、公式な発表と言っても差し支えない類のものでありました。したがって、極めてリスクを伴う原発を管理し、万が一の事態にも備えなければならない東電が「想定を超えていた」とする弁明はとうてい受け入れられないのです。
 念のため強調しておきますが、これは今回の震災の半年以上前に発表されているものなのです。私は、せっかくのこの素晴らしい調査結果を得ていたにもかかわらず、それがみじんも防災に生かされなかった現実が大変悔やまれてしょうがないのです。
イメージ 1
ありし日の名取川河口の風景――閖上付近――

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私も、その貞観津波の研究を地震の直前くらいにたまたまテレビで観ていまして、「わ〜!ホントにキタ〜!」という印象でした。

それにしても、地震の後の報道で、市長さんだかが堤防は「10mじゃダメだ」と言い張って、15mのものを建てさせたり、校長先生が避難のときに海岸に向かうのはどうかと言ってルートを変えさせたりして多くの人の命が救われたというのを読んで、後世の人々のことを本当に思い遣るということが本当の英雄なんだなあ…と、その無名の人々に感動しました。

2011/4/16(土) 午後 10:01 卯喜多ドラみ

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卯喜多さん、ありがとうございます。

>「10mじゃダメだ」と言い張って、15mのものを建てさせ〜

岩手県普代村の村長さんですね。これは明治三陸津波の15メートルという伝承を信じて成功した事例ですよね。
学生時代、地すべり研究を専門とする教授と会話をしていたとき、とある地すべり地形丘陵地への住宅団地造成のアドバイザーを任されて、悩んでこぼしていたことがありました。
教授曰く
「ここ百年二百年でどうこうはないんだけど、1000年スパンであれば地すべりを引き起こす可能性があるんだよなあ。例え1000年後とはいえ、専門家としてそこに住宅地を造成することを承認していいものかどうか・・・」
難しい問題ですが、今の感情は「承認すべきじゃない」に傾いております。最近になって、いろいろな意味で1000年という時間は、気が遠くなる時間ではありますが、“決して架空ではない”と考えるようになってきたのです。

2011/4/17(日) 午前 8:20 今野政明

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私も1000年周期について思うところがあったので、横から失礼します。

少々乱暴な計算ですが、人生100年として、1000年に一回の大津波を
食らう確率は1/10。10発装弾の銃でロシアンルーレットをやるか?と言われれば
絶対にそんな賭けには出ないですよね。(半分の1/20だとしても同じですね。。。)

日本人の感覚として4ケタだと思考停止してしまうのかもしれません。
「980年周期」とかにしておけばもう少しリアルに考えれられたのかもw

2011/4/17(日) 午後 11:46 [ ロビンソン ]

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ロビンソンさん、ありがとうございます。

なるほど、1/10の確率と言われると妙に緊迫してきますね。

ところで、昨日から私の携帯電話のバッテリーがすぐ消耗するようになっております。本震の数日前にも同じ現象がありました。初代バッテリーの寿命がきて、新品に交換した直後だったにもかかわらずです。
念のため、お互い大余震に警戒しておきましょう。

2011/4/18(月) 午前 7:02 今野政明


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