はてノ鹽竈

東北地方から日本史を眺めていきます。

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 阿彦伝説において、垂仁天皇から「急キ越路ニ發向シテ凶賊阿彦ヲ平グヘシ」と詔され、精鋭軍を率いて越に入った大若子命――度会氏の遠祖――でしたが、阿彦の軍勢はかなり手強かったようです。当時、朝廷側のトップクラスであっただろう精鋭軍をもってしても、籠城する阿彦軍を攻めあぐね、将兵の戦意が萎えはじめていたことが『喚起泉達録』や『肯搆泉達録』にも記されております。そのジレンマから大若子命を解放してくれたのが、当地の女神の神託でした。神託を下した女神は「姉倉姫神」といいます。 そのあたりの『喚起泉達録』のくだりを、拙くも意訳してみます。

――意訳――
 梅雨の長雨で江川も増水し渡る事もかなわず、大若子命は「岩峅之堡(いわくらのとりで?)」に籠城する阿彦軍を攻めあぐね、軍の士気が萎え初めていたある日のこと、焦れた大若子命は本陣の扉――簾のようなものか?――を押し上げ、南の空を眺めて晴れ間を窺っておりました。そのとき、遠くから白髪の老女が歩み寄ってきました。命はいぶかしみ、
 「そちは何者ぞ」
と質したところ、老女は、
 「私はこの川を渡せる船人です」
と答えました。
 老女は続けて、
 「久しく凶賊に虐げられておりました故、帝のお助けをお待ちしておりました。命がおいでになりましたことを、誰しもが恭しく思っております」
 そう礼を言うと、更に続けて、
 「ただ、命が粉骨砕身攻撃されているにもかかわらず、どうも賊の妖術に陥って諸将も倦怠ムードになっておられるようですね・・・。まずはこれを取り払わなくてはなりません・・・。でも、心配御無用です。昔、大巳貴命が平定されたときも妖術にはまりましたが、それをとりはらって事を成し遂げたのです。命も大巳貴命に倣えば、妖術は空しくして欺かれることもなくなるでしょう」
 こうして、老女は大巳貴が妖術から抜け出したときの方法を、大若子命に伝授し始めました。
 「私が織り、千幡姫が晒した八搆(はっこう)の布が八折ありますので、これを命にお渡しします。昔、事勝國勝長狭が湯津爪櫛(ゆずのつまくし)をひきならして蒔いた八節勢(やぶせ)の竹もこの野にあるので、これを柄として竿の幡としてください。そうすれば将兵たちもまとまりますし、凶賊もすぐに亡びます。また、身の汚れを濯がれる際には、決して濁った水など浴びずに、神の清浄な水を用いてください。その水は、私の知るところ、藤井、華井、桃井、櫻井、と、四つほどが邑にあり、全て神が炊く冷水ではありますが、それら四つの井の内でも藤井が最も優れております。この水で炊飯すれば、飢えて苦しむこともなくなります・・・・・・云々」
 ひととおり法を授けた老女が帰ろうとするとき、大若子命が呼び留めました。
 「奇しきかな、そなたは何故古の神の戦法を知っているのだ。語る言葉も神代のような今世のような・・・」
 老女は答えました。
 「私を知りませなんだか・・・。私は小舟の竿を手繰りながら命に侍っておりました。はるか昔、私は船倉山に住まいしておりましたが、罪を問われて大巳貴命にこの地に流されたのです。罪の償いに、世のために紡織の業をしているのです・・・・・・云々」

 老女はどうやら姉倉姫神であったのです。姉倉姫は、越中で古くから伝えられてきた神話の主人公でもありました。
 阿彦はもちろん、大彦命――ヤマト――が越を平定するよりも、はるか昔のことです。越中船倉山の神「姉倉姫」は、能登補益山の神「伊須流伎彦(いするぎひこ)」の妻であったのだそうです。しかし、夫伊須流伎彦が、能登杣木山の能登姫と深い仲になったので、姉倉姫が嫉妬しました。そして、ついに戦争にまで発展したというのです。これを仲裁したのは、出雲の大国主命であったといいます。その後の顛末については幾通りか伝えられておりますが、いずれ姉倉姫は敗北して、小竹野という地に流され、紡織をして罪を償ったのだとされております。現在、その地には姉倉比賣神社が鎮座しております。当神社の栞に記載の「御由緒略誌」にはそのあたりのスキャンダラスな展開は記載されておりませんが、冒頭の次の記述は印象的でした。

――この越中に姉倉比賣という女神がおられました。我々の郷土を舞台として活躍され、私たちには、一番関係が深く、また私たちの祖先ともいうべき神さまであります。――
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 中央の偉人が、ご当地を代表する神様と対面するというくだりはお約束です。雄略天皇と葛城の一事主しかり、藤原実方中将の鹽竈大神しかり、なるほど、姉倉姫神も当地を代表する神様なのでしょう。
 それにしても、夫に浮気をされて、それに怒ったことが発端で、最終的には罪人にされてしまうなどと、全くもって踏んだり蹴ったりな、実に気の毒な女神様であります。どこか、前に触れた沼河比売(ぬなかわひめ)の物語に似ております。そのときは、沼河比売に求婚した八千矛神の正妻「須勢理毘売(すせりびめ)」が嫉妬しました。
 いずれ、このときの姉倉姫神の神託にあった“幡”の神威による阿彦征伐の大手柄で、大若子命は垂仁天皇から「大幡主命」の名を賜るのでした。

――引用:太田亮さん『姓氏家系大辞典(角川書店)』所載『度會氏系圖(?)』――
越國に荒ぶる凶賊ありて皇化に従はず、取平に罷れと詔して、標釼を賜ひ遣く。即ち幡上罷り行き、取平げて返し事白す時、天皇・歓び給ひて、大幡主と名を給ひき。垂仁天皇即位二十五年丙辰、皇大神宮・伊勢國五十鈴河上宮に鎭り座す時、御供仕へ奉りて大神主と爲る



閉じる コメント(6)

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こんばんわ。
3日前位のニュース(フジテレビ)で、戦後に旧ソ連に強制連行されたシベリア抑留者を取材した番組を見ました。
その元抑留者は「阿彦さん」という方でした!
現在、カザフスタン在住だそうです。
はるか昔の伝説的な人物と同じ名前の方が、実在するんですね!

2011/10/1(土) 午前 0:04 [ 佐藤えみし ]

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北のエミシさん、ありがとうございます。

アヒコ姓やアビコ姓の方はわりといらっしゃいますよ。私が直接関わった方だけでも5〜6人はおります。もちろん、当時は今調べているようなことは微塵も考えておりませんので、特にご先祖さまのことや風習についてなどなにも聞いてませんし、それ以前になんとも思っておりませんでした・・・。
太田亮さんの『姓氏家系大辞典』で引いてみても、三輪氏族やら毛野氏族やら、肥前松浦に関係している系統やらと、なんだか頭がこんがらがりますね。
そういえば、小学一年のときの隣のクラスのアビコ君は、実に無鉄砲で腕白な少年で困ったものでした(笑)。

2011/10/1(土) 午前 7:26 今野政明

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こんばんわ

NHKの鶴瓶の家族に乾杯で鹽竈神社の末社である

御釜神社の水が震災の朝、いつもより

澄んでいた。と管理しているおばさまが

話されていました。

天災のの時は、水の色が変わると

聞いたのですが

いかがお考えでしょうか。

前の日、ほで祭で水替え神事とか

あるのでしょうか。

2011/10/3(月) 午後 9:43 [ yamato ]

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yamatoさん、ありがとうございます。

テレビ放送でそのような話があったということは、人づてに聞いております。「いかがお考えでしょうか」とのことですが、管理されている方がそうおっしゃっていたのですから、そうであったのではないのでしょうか、としか言いようがありません。

御釜神社の神竈の水の変色は「災異の前兆」と考えられていたようで、そのような場合、藩政時代においては別当法蓮寺からすぐ藩に報告されていたことが、記録として残っております。確認できたものだけでも、少なくとも十数回はあったようで、中には藩主の安産や死去を予知した例もあったようです。

水替え神事については、たしか年に一度のみだったと思います。しかもそれは帆手祭りのときではなく、藻刈神事の翌日――藻塩焼神事の前日――の七月五日のはずです。

余談ながら、あくまで薬萊神社の宮司から賜った話ですが、水の変色ならぬ、枯渇という異変もあったようで、以前拙ブログ下記記事にてとりあげております。

http://blogs.yahoo.co.jp/mas_k2513/23826099.html

2011/10/3(月) 午後 11:43 今野政明

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今野様、深夜遅くのコメントの返事

ありがとうございました。

今後とも、宜しくお願いします。

また、

水の変色も、枯渇という異変も

今後とも地震(ない)が、起こらない

ことを しおがまさま に

祈念いたします。

2011/10/4(火) 午後 5:32 [ yamato ]

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yamatoさん、ご丁寧にありがとうございます。

2011/10/5(水) 午前 11:33 今野政明


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