はてノ鹽竈

東北地方から日本史を眺めていきます。

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象潟の老婆

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 おけさおばこライン――新潟・秋田間の国道7号――全般に言えることですが、私はこのエリア独特の黒光りする瓦屋根の町並みと海のコントラストがたまらなく好きなのです。
 この地の屋根が黒いのは、豪雪地帯ならではの知恵のようです。太陽熱を吸収した黒屋根は雪が残りにくいのだと聞きます。

 先日しばし秋田県象潟(きさかた)の町を散策してみました。この日は快晴で、あまり出会えない鳥海山ともしっかり出会えました。

象潟町内から鳥海山を望む
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 私は昔から庄内地方――象潟は庄内ではありません念のため――の風景が好きで、思い立つとしょっちゅう訪れるのですが、どうも鳥海山には嫌われているようで、何故か雲に隠れていることが多いのです。この日も午前中はそうでしたが、よく晴れ渡った日でも鳥海山の頭にだけは笠雲がかかって隠れてしまっていることが多いのです。地元の人によると、鳥海山の頭に笠雲がかかっている場合は翌日に雨が降るのだそうです。そういったローカルな天気予報を聞くと、この山がいかに生活に密着したものであったのかを思い知らされます。
 ちなみに、月山はいつも機嫌よく出迎えてくれます。登山のときなどは下界が雨にもかかわらず頂上は晴天でした。しかしながら“死の山”から歓迎されるのも複雑な気持ちです。“お迎え”が近いのでしょうか。ウチのカメさんに竜宮城行きを頼んでおかなければなりません(笑)。

 象潟の町を車で徘徊中、陸奥国松島で悲嘆にくれながらも健気にせんべい――後世「松島こうれん」と呼ばれることとなる名物せんべい――を焼き続けた「紅蓮(こうれん)尼」の生誕地を見つけました。ファザードランプを点滅させ、下車して付近をうろうろしていると、ヤクルトレディーのような小型のカート(?)を引き回す老婆が路上駐車の私の車をじっと注視しておりました。邪魔だったのかと思い、
「すみません」
と謝って車を移動させようとすると、なにやら実に流暢(りゅうちょう)かつネイティブな出羽言葉で話しかけられました。私もプレーンな東北人ですが、陸奥言葉と出羽言葉ではだいぶ異なります。最初は何を言っているのかわからず、思わず私の脳内に♪アイマネイリアン、アイマリーゲーエイリアン♪と、スティングの哀愁漂う歌声が駆け巡りました。
 なにやら○千円という金額を叫んでいることに気付きました。反則金の話かと思い動揺していたのか、この人はこのような姿をしてもしや婦警さんなのだろうか、といささか冷静さを欠いた思考状態でいると、
「宮城?」
と聞こえました。ナンバーを見たのでしょう。
 「・・・はい、そうですが・・・」
 「ババヘラエース買ってげ」
 「は?」
 思い出しました。
 そういえばこのテのお婆さんとは、同じ秋田県の角館(かくのだて)でも遭遇したことがありました。秋田の名物アイスクリーム「ババヘラアイス」の婆さんだったのです。もちろん同一人物ではないでしょうが(笑)。象潟にもいらっしゃったのですね。
 それにしても○千円は高すぎます。聞き違いだったのでしょうか。
 ところが、そうでもありませんでした。どうやらひとまとめでお土産に買っていってくださいと言っていたようです。もしかしたら先ほど「宮城(みやぎ)」と聞こえたのもひょっとしたら「土産(みやげ)」と言っていたのかもしれません。
 そうとわかればこの会話を楽しみたいものです。他所者(よそもの)の私に微塵も媚びることなく、堂々たるネイティブな地元言葉で話しかけてくださった老婆・・・。敬意を表して、通じるかどうかわかりませんが、失礼のないよう持てる語学力をフルに発揮して私なりの最高な陸奥言葉――仙台弁――で応えることにしました。
 「だれ、溶げすぺや(何をおっしゃいますか、溶けてしまうではないですか)」
すると彼女は、
 「三時間は溶げね、でーじょーぶだ(三時間は溶けませんから大丈夫ですよ)」
どうやら通じたようです。
 「三時間ではけんねす(三時間では帰りませんよ)」
そう言って笑顔で手を横に振るとあきらめてくれたのでした。

異形(いぎょう)の相

 後に蜂子皇子と同一視される能除大師の姿については、肖像画なり木像なりが存在しております。私も写真でしか見たことはないのですが、正直なところ、これらは実に不気味なものです。大きな鼻とまるで“口裂け女”のような口、とても偉大な開祖の肖像とは思えない、むしろ妖怪の姿をしております。何故このような“絵”になってしまうのでしょうか。これが写実とは程遠く、作者が抱いた心的イメージの具現化だとしたならば、少々悪意の感情を読み取らざるをえません。
 もしわずかなりにも写実性があったのだとしたならば、それは人々が能除大師の容姿に対して抱いた違和感をそのまま表現してしまった可能性があります。当然、肖像は本人在世当時のものではないので、口伝による特徴がデフォルメされたのかもしれません。それであれば、能除大師がいわゆる醤油顔の日本人ではなかったことを念頭に入れておいた方がいいのかもしれません。
 どうにも「なまはげ」などの“鬼”と同じにおいがします。なまはげに似た習俗は、男鹿に限らず日本海沿岸に広く分布しております。同じ秋田県でも象潟(きさかた)の「あまのはぎ」や、山形県では遊佐(ゆざ)の「あまはげ」、新潟県にも村上の「あまめはぎ」、そして石川県能登の「あまめはぎ」などなど・・・。
これらを全て「海の向こうからやってきた」と言い切れれば面白いのかもしれませんが、残念(?)ながら男鹿の習俗としての「なまはげ」が各地に伝播したものと考えられそうなので、やめておきます。
 ただ、根本のなまはげそのものには、やはり渡来人の影を感じます。
 “異形の相”と言えば、「猨田彦(さるたひこ)大神」を思い出します。天狗のような鼻を持つこの神は、よく「道祖(どうそ)神」――「岐(ふなど)神」「塞(さえ)神」――を祭る神社の祭神として見かけます。
 道祖神とは、よく峠の村界や、街道の分岐点、渡船場、などの交通の要所に祀られる事が多いのですが、黄泉の国から生還するイザナギの故事に因み、生死の“境界”に存在した神様であったことからそうなったのでしょう。 
 そのため、特に辺境の地で信奉されていた神などは、ヤマトが進出する際にその地――異界――を案内してくれた地主神として、杓子定規(しゃくしじょうぎ)に祭神をサルタヒコとされているケースも多々見られます。
 杓子定規かどうかはわかりませんが、宮城県の鹽竈神社や志波彦神社の祭神についても本当はサルタヒコであるとする有識者もおります。

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