はてノ鹽竈

東北地方から日本史を眺めていきます。

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 花も恥じらう16歳。そんな時代が私にもありました。高校に入学し、これから青春時代を謳歌しようと夢と希望と不安とが交錯していたある日、どこでどう間違ったのでしょう、私はとっても悪い先輩たちに捕獲されてしましました。そしてバラ色になるはずだった私の青春は、格闘技に没頭する陰陰滅滅としたものに塗り替わっていくのでした。それはあたかも本郷猛なる若者がショッカーなる悪の秘密結社に拉致され、バッタ能力の改造人間にされてしまったかのような出来事でした。
 その夏のその某格闘技のとある大会は、地方にも浸透させるという名目で涌谷の町で開催されることとなりました。
 涌谷に到着すると、まず試合会場の公営体育館に集合し、計量を済ませるとそこから全選手団の宿があるところまでバスで移動する段取りになっておりました。町の至るところには「歓迎○○△△大会予選」というポスター。どこかプロレスの巡業のようなイメージで、あたかも自分が著名なレスラーにでもなったような錯覚に陥り、少しいい気分になったりもしておりました。
 全校がこぞって町中を歩いて移動していると激しい爆音で一台のバイクが迫ってきました。どうやら地元の高校生らしいのですが、ジャージを着たこの奇妙な御一行様の行列が大変邪魔だったらしく、あたかも“いつもここから”のネタのごとくエンジンをふかして威嚇して通り過ぎていきました。見上げた勇気です。ここにいる少なくとも100人以上の全員が格闘家であることを知っていての威嚇なのでしょうか・・・。まして、彼が直接的に威嚇した赤備えの軍団は県下最強のチームなのですが・・・。
 さて、御一行様はある山の頂上にあるラドン温泉付き施設に到着しました。そうです、その山こそ奥州三観音の一つがある篦岳なのです。
 各校とも、団体用の各々の部屋に案内され、私たちもその流れに身を任せようとすると、
「あ、○○高校さんですか。皆様はこちらです」
と、他校とは異なる方向へと案内されました。とりあえず言うとおりに後をついていくと、どうも厨房の裏のような裏舞台を経由して“離れ”ではないかと思われるような薄暗い空間につれていかれました。狭い階段を上って「こちらです」と案内された部屋は、小屋裏のような妙に天井の低い、とはいえそこそこに面積の広い畳敷きの空間でした。何故か平安時代のような赤塗りの柱や長押(なげし)も妙で、先輩たちは騒ぎ始めました。
「なんだここは!女郎部屋じゃねえのか?」
「いや、ここは・・・布団部屋ではなかろうか・・・・」
諸説紛糾している中、私はふと天袋が気になり、低い天井故にすぐ手が届くのでそれを開けてみました。
「!」
そこに見えたのは、見覚えのある赤備えの足元でした。県下最強の○○高の部屋だったのです。私に気付いた先方の一人が、
「おお!△△高だ!」
そう言うと一斉に人が集まり、みんなでこちらを覗きこんできました。つまり、先方からすれば、自分達の足元の地袋の中に私たちがひしめいていたのです。なんという差別的屈辱的待遇でしょう。やはり私たちの部屋は布団部屋であったのでしょうか・・・。
「なんじゃこりゃあ!」
先輩たちは大騒ぎでした。
 さて、既に計量も済んでしまった私たちは夕食を楽しみにしておりましたがまだ時間があります。せっかくラドン温泉なので、まずはひとっ風呂浴びてこようと同期の仲間二人とともに大浴場へ向いました。なにしろ布団部屋発の私たちですから迷路のような館内に不案内で、途中廊下で女将さん(?)に場所を確認しました。
すると、
「今日は男性客しかいないから女湯に入ってもいいですよ」
とのこと。とは言え、そう言われてまっすぐ女湯に向かうようではいかにも変態っぽいので、おとなしく男湯に入りました。
 ラドン温泉につかると、気持ちよくなりついつい歌のひとつも歌いたくなります。浴場には私たち3人しかおらず、私は遠慮せずに歌いました。
 すると、隣の女湯から対抗するように歌いだした輩がおりました。他校の選手でしょうか。だとするならばここを明日の前哨戦と思えば負けるわけにはいきません。私はより大きな声で歌いました。しかし向こうも負けてはおりません。
「おのれ!」
お互いエスカレートしてほとんど甲子園の応援合戦の様相を呈して来ました。
 いい加減のぼせてきた私たちは部屋に帰りました。
 部屋に帰るとH先輩が怒号をあげておりました。
「どこの学校の奴だ!俺に対抗して歌ってくるヤツがいやがった!」
「・・・・」
 さて、腹が減っております。なにしろ全部員減量して先ほどの計量に臨んでいるのです。私たちは浴衣に着替え、大食堂に行きました。食堂から見渡す風景は素晴らしいものがありました。霧が立ち込めたその日の風景は実に牧歌的かつ幻想的で、しばし見入ってしまいました。
 やがて、他校の選手たちも三々五々集まってきたのですが、ふと異様な光景に気がつきました。
「もしかして・・・浴衣着てるのって俺達だけじゃねえか・・・・?」
他校はどこも厳粛にジャージのまま食堂に現れたのでした。
「・・・・・」
 気を取り直して、食事を楽しみました。
「お、なかなかうまいじゃねえか」
我が校はみんな満足げにやいのやいのと食べ物をかっこむようにほおばって団らんしていたのですが、ふと他校の様子を見ると計量が終わったというのに明日に控えた試合に備えてか、急激に胃に負担をかけまいと一品一品選びながらストイックな食事を展開しておりました。
「・・・・」
部屋に帰ると、H先輩が急に全員を招集しました。
「全員外に出ろ!」
「なんだなんだ・・・」
 なにしろ、霊場の山頂ですから外は真っ暗で不気味です。
「これから一年生は二人ずつタッグを組んで肝試しだ!」
「ええ〜!」
そうして連れて行かれたのが篦峯寺の参道階段の麓でした。H先輩は言います。
「この階段の上に寺がある。そこの鐘を鳴らしてこい。その鐘の音で任務遂行を確認する」
「うわあ〜・・・」
「ジャンケンで順番を決めろ」
 私は同期のAと組んだのですが、幸いジャンケンに勝利しました。先攻はTとSのタッグと決まりました。
 彼らは暗闇の足元に注意しながら恐る恐る階段を上っていきました。そのうち彼らの後ろ姿が見えなくなりました。
 ・・・・・
 どのくらいの時間が過ぎたでしょうか、一向に鐘の音が聞こえません。
「鐘をさがしているんでしょうかね」
「おかしいな、そんなに遠くはないはずだ」
「遅すぎる・・・・」
 だんだん全員が心配になってきました。
 やがて、暗闇に階段を下りてくる二人の姿が見えてきました。任務を遂行していないとはいえ、無事戻った彼らに先輩たちも安堵したようで、叱りつけることもしませんでした。何より、彼らの顔が真っ青――まあ、暗闇でよく見えませんが――だったことが気になりました。
 「どうした!何があった!」
先輩たちが矢継ぎ早に質問しました。
 Tがもごもごと口を動かすと、全員固唾を飲んで耳をすませました。
「・・・・住職に怒られました・・・・」
「・・・・そ・・そうか・・・」
イメージ 1
イメージ 2

 翌日、全員惨敗だったことは言うまでもありません。

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