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東北地方から日本史を眺めていきます。

トビの一族

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 隠蔽された日本史と東北地方を結びつけるキーワードをトビの語感から探ります。
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偽書と捏造

 これから私は、畿内の先住民族の王者、長髄彦(ながすねひこ)の話しに触れて、その長髄彦の兄「安日(あび)」なる人物を始祖と“自称”する“奥羽の安倍氏”についても考えていこうとしているのですが、この話しは、東北地方の歴史を語る上で少々デリケートにならざるを得ない部分を含みます。
 どういうことかと言うと、この系譜を過大に強調していたと思われる『東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)』の偽書疑惑問題があるからです。
 現在、史学の輩が仮に新説を発表したとして、その論拠を『東日流外三郡誌』に求めていたとするならば、その時点で“論外”とされることでしょう。
 また、平成12年(2000)、ある研究者による旧石器遺跡の発掘捏造があきらかになったことにより、東北地方の各市町村史や論文に目を通す際、どうしてもその日付以後のものかどうかなどの確認作業との戦いになってしまいます。
 困ったことに、それら自体に論拠を求めずとも、それを参考にした論稿にそれが反映されていることもあるので、かなり注意が必要です。
 これらは本当に全く困った問題なのですが、私は必ずしも彼等当事者の見解全てを否定する気にはなれません。私はおそらく彼等には、彼等なりになんらかの“新事実に対する思惑があった”と想像しております。
 もちろん、それらが偽書や捏造ではなかった、などと述べるつもりはさらさらないのですが、そのことによって東北人全体が、自らの輝かしい歴史の“可能性を語る”ことを“ヒステリックに放棄”し、その研究自体までも去勢されてしまう風潮については、私はかなり“問題”だと思っております。
 偽書創作や捏造というものは、もちろん許されるものではありませんが、それらに対する徹底的に執拗な断罪姿勢には、少々どなたかの政略的意図を感じることもあります。私は、歴史学者や考古学者の先生方々に、その捏造の舞台となった場所を避けることなく、あらためて冷静かつ客観的なメスを入れて、しっかり洗い直していただきたいと強く念願しております。そうすれば、捏造されたものほどではないにせよ、おそらく、かなりの確率でそれなりの新事実が現れるのではないか、と期待しております。
 また、東北地方に限らずですが、いわゆる“偽書”と呼ばれる文書が世の中にはたくさんはびこっておりますが、それらに触れること自体を学問的ではないといってタブー視する風潮も見られます。そしてそのような専門家の中には、それらを「一顧だに値しない」と頭ごなしに否定することで自らの“大人ぶり”をアピールしている方も少なからずいらっしゃいます。
 もちろん、それらは妄想や偏重的なイデオロギーを助長する危険性をはらんでいることは十分に認めるところですが、それらが世にある以上、その存在理由を真摯に見つめることも重要かと思っております。
 
 これから私が語ろうとするものは、いわゆる偽書に基づくものではありませんが、それらに“気付かされた”という“きっかけに基づいて”、微力ながらいろいろ駆け巡った上で私なりの考えを提示する部分があることは否定しません。もちろん、例によって私の想像は“想像”と“明言”していくつもりなので、そのような展開にアレルギー反応がなければ是非暖かくお見守りいただければ幸いです。

トミヤビメ

大阪府 石切登美霊社より
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 「鳥見屋媛(とみやびめ)――登美夜毘売――」とは、『日本書紀』によれば“初代”「神武(じんむ)天皇」の畿内進出に対し果敢な抵抗を示した「長髄彦(ながすねひこ)」の“妹”であり、かつ「櫛玉饒速日(くしたまにぎはやひ)命」の“妻”です。
 「櫛玉饒速日命」とは、物部氏や尾張氏の祖であり、物部氏が自らの正当性を世に問うた史書『先代旧事本紀(せんだいきじほんぎ)』で言うところの「天照国照彦天火明櫛玉饒速日(あまてるくにてるあまのほあかりくしたまにぎたまにぎはやひ)命」のことです。字面を見てわかるとおり、恐ろしく重要な言霊“天照”が含まれております。

 つまりトミヤビメとは、“男神”天照(あまてる)――ニギハヤヒ――の妻です。
 もう少し過激に言えば、ヤマトより先に畿内を治めていた“先住王朝の皇后”なのです。

 『先代旧事本紀』の主張は、それとは若干異なるものですが、とりあえずはトミヤビメという言霊にはそのくらい危険な匂いが漂っていたことだけ“感覚”としてわかっていただければ足りると思います。
 黒川郡のこの地には、おそらくニギハヤヒなりナガスネヒコなりを信奉する一族がいたのでしょう。それが朝廷にとっていかに目障りなものであったかは推して知るべしかと思います。慈覚大師円仁率いる天台密教の最も重要な任務は、そのような“邪教”を正し、天台密教にて教化することだったと思われるのです。
 ちなみに、トミとは長髄彦(ながすねひこ)の本拠地――諸説あり――「鵄邑(とびむら)」の“トビ”が、「登美」「鳥美」「鳥見」「等弥」「鳥海」などと表記変遷された形であることが、特に奈良県内の関連地の各表記を見ればわかります。トミもトビも、この場合同じ意味と考えて差し支えありません。

奈良県桜井市 鳥見山「等弥神社」にて
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 前に、山形県酒田市沖の「飛島(とびしま)」の「飛(とび)」と、その対岸本土側の「鳥海(ちょうかい)山」の「鳥海(ちょうかい・とみ)」とについて因果を疑っておきました。また、鳥海山にニギハヤヒ降臨伝承があることも少し触れたと記憶しております。
 実は鳥海山という名前は古代には存在しませんでした。おそらくは、中世以降、ある人物との関わりの中で、ニギハヤヒ降臨伝承を踏まえて「鳥海山」という命名がなされたものと私は考えております。それについては、後にあらためて触れるつもりです。

十のお宮

 宮城県黒川郡富谷(とみや)町の地名由来について『黒川郡誌』には次のように書かれております。

――引用――
富谷村 往古當村熊谷字宮の澤に宮十社ありしを以て此の地方をトミヤと稱し文字にも十宮と書きたりしが後之を富谷と書き改めたりと云ふ 十社の内日吉神社のみ残りしが明治四十一年熊野神社に合祀せり
熊野神社も亦此の十社の内にて熊谷にありしが富谷に遷したるものなりと云ふ 宮の澤には十宮建立の跡今尚存せり

 また、富谷町内の、某娯楽温泉施設――名を伏せる必要もありませんが――の入口には次のような話が紹介されておりました。

――引用――
「十のお宮」伝説
 ずっとむかし、熊谷の里に、それは美しい長者の娘がおった。近所の男達はこの娘の噂で持ち切り。
 この娘のもとに毎夜通ってくる若者がいた。
 娘を口説いたが娘はいつも聞き流していた。ところが毎晩あんまりしつこいので修験者に相談した。娘は教わったとおり「明日返事します」と約束し、帰る若者の袴のすそに、糸をつけた縫針を刺しておいた。次の日、娘が糸をたどって行くと、大きな大蛇の化身であった。
 その夜訪れた若者に、「私の願いを聞いてくれたら結婚しましょう。熊谷の源内にある大木の上にコウノトリが卵を生んでいます。その卵をもってきてください。」若者は思いつめた顔で帰ったが、それっきり姿をみせなかった。
 村人が大木のところに行ってみると、大蛇は十の破片になって、熊谷の谷に落ちていたそうだ。大蛇は卵が欲しくて、卵を抱いたコウノトリをぐるりと巻いたところ、羽ばたきされてバラバラになってしまったそうだ。村人達は大蛇のたたりを恐れて十の破片を一切ずつ埋め、そこに十のお宮を建てて祭った。
 この、十のお宮から富谷と呼ぶようになったそうな。
                                 おしまい
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 どこか、奈良県の三輪山の巳(み)さん――蛇――の伝説に通ずるものがありますが、ここに「修験者」「大蛇の化身」「コウノトリ――白鳥――」「長者の娘」という“おなじみ”(?)のキーワードが出てくるところがミソかと思っております。
 そして、その十の宮があったという熊谷の地には、“日吉神社”があります。いよいよ役者が揃ったという感じです。
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 日吉(ひよし)神社――日枝(ひえ)神社・山王社――がある場合、とりあえず天台密教の痕跡であると疑ってよく、慈覚大師円仁開基伝承に相通ずるものがあります。
つまり、黒川郡熊谷の里に、日吉神社の神威をもって鎮魂すべき、そもそもの聖地・霊地があったと考えられます。
 私は、十の宮からトミヤの由来譚は、むしろ逆で、おそらく元々あった“トミヤ”という地名に“十の宮”という伝承が後から語呂合わせされたものと考えます。
 仮に本当に十の宮が祀られていたとしても、それはそれで何者かを“封印”するイメージは揺るぎません。そもそも先ほどの「とみや湯ったり苑」(ぁ・・・!)の入口に書いてあった伝承自体、「村人達は大蛇のたたりを恐れ」たとしておりました。
 では元々“トミヤ”とは何を意味していたのでしょうか。私は『日本書紀』でいうところの「三炊屋(みかしきや)媛」、つまり、“亦の名「鳥見屋(とみや)媛」”を意味するのではないかと思うのです。
 そうだとすると、朝廷側にはあまり愉快なことではないのです。

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