自作小説★れすり版陰陽師★

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一条戻り橋、この世とあの世をつなぐ橋。その近くに晴明の屋敷はある。

牛車を軋ませながら博雅は晴明の屋敷に向かう。

橋を渡るか渡らぬかといううちに、向こうからゆらりと揺らぐ人影。

源博雅様お待ち申し上げておりました。蜜虫が妖しげに頭を垂れる。

博雅が御簾をあげて、その蜜虫を見返す。「私を博雅と、知っておるのか、そなたは・・・」

博雅が最後まで言い終わらぬうちに、ついと踵を返し、灯りを向こうの屋敷に向けた。

「これはどうしたのだ・・・。先ほどまでは誰もいなかったではないか。」

先ほどまで人の気配のなかった部屋に、いつのまにか屋敷の外で待っていた蜜虫が酒の用意をしている。

そればかりか、もう二人女官が控えていた。

「源博雅殿、これは蜜虫でございます。私の世話をしております。

そちらの者たちは、博雅殿のお相手にご用意致しました。」

晴明にこう説明されても、源博雅は狐につままれた様な顔をしている。

「晴明」

「はい。なんでございますか?」

「説明しろ。俺には訳の解からんことは苦手だ。」

「それでは、どうぞお座り下さいませ、そこにそう立っておられたら、話もできませぬゆえ。」

促されて博雅はその場に坐り込んだ。飾りけのない立い振る舞いに、晴明はふっと微笑んだ。

「何が可笑しいのだ。俺が戸惑っているのが面白いか?」

それこそ晴明を詰問しているようだが、その目は笑っている。

博雅は心の内で、晴明は俺を試しているのか、そうならのってやろうではないか。

と思っていた。

「いえそうではありません。博雅殿は、どこか他のお人とは違うておりますなぁ。」

と晴明が小さく笑った柔らかい声だ。

博雅はその声を心地よいとかんじた。

管弦に秀でた博雅には、今まで聴いたことのない珍しい楽器の音色のように思えた。

晴明の笑い声に反応するかのように、傍らに控えていた蜜虫や女官たちも笑う。

博雅も先刻までの胡散臭さとは違いこの場の雰囲気に馴染んでしまった。

今迄から、見知っていた者のように。

「さあ、ちゃんと説明してもらおうか。」

博雅は、壁を正して晴明に向き直った。

そして晴明の顔を真近で見て、美しいと胸のうちで呟いた。



つづく             (レスリー・チャンへ捧ぐ)

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博雅は美しく妖艶な晴明を初めて観た出会いと驚きを思い起こしていた。

灯りの向こうの屋敷の門に五忙星が浮かぶ。

「晴明の屋敷か?」

博雅は首を傾げ密虫に問いかけた。

「私が来るのを誰から聞いた?」

「晴明さまでございます。」

蜜虫はそう応えると歩きだした。

不思議とまるで地をふんでないような、その女の動きに誘われるように

博雅は牛車を降りて蜜虫に続き屋敷の門に足を踏み入れ驚きしばし立ち尽くす。

門に入る前は灯りなぞ見えなかった。それが今あかあかとわのあちこちに灯りが灯されていた。

「晴明はどこだ。」

傍にいた蜜虫に問おうと探すが姿が見えなくなっている。

その時屋敷から人影が現れた。

「博雅殿、晴明でございます。よう御出で下さいました。」

その人影は、透き通った声でそう言った。

博雅は声の主の方へ一歩踏み出した。灯りがその人を照らす。

ふんわりとした動きで、その人も博雅に近づく。華奢な首筋をゆらっと傾げる。

博雅は晴明を間近で観たのは初めてだった。

陰陽師は源博雅からすれば、ずっと身分が低い。同じに座することはなかった。

(男?それとも・・・女?)博雅の心を見透かしたように晴明は微笑んだ。

私は男でございますよ、と応えたようにみえた。

しかし、博雅の目前にいる晴明は童子のような瞳でいながら、

どこかしら艶やかさがあり儚げで宮中で噂される男とは到底思えなかった。

妖しい術を使い式を意のままに操る狐と人間の間に出来た子よと宮中の者どもは晴明の噂をする。

もちろん晴明自身に問うたものなど誰もいない。

博雅自身も、広沢遍照寺で久家や坊主に術を見せろとせがまれて、蛙を粉微塵に吹き飛ばしたのを見かけたが

果たしてそれが妖しの術かどうかはわからなかった。

こ煩いものどもを追い払うのには役に立つだろうが、と思っていた。

けれどその時、ちらりと見た晴明の姿が脳裏から離れなかった。

男とも女ともとれる姿。今博雅の目前にそのときと違わぬ晴明がいた。

「源博正殿、御酒のご用意も致しておりますゆえ、どうぞ、お上がり下さい。」

美しい声だ。博雅は頷いて轡を脱いだ。



つづく           (レスリー・チャンへ捧ぐ)

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「博雅様、まずは一献お召し上がりください。蜜虫、酒をこれに。」

それまで控えていた蜜虫が博雅の前に進み出る。鳥帽子をつけた。

水干し姿の蜜虫と呼ばれる女は晴明の身の回りの世話をしているという。

鳥帽子姿なのだから妻ではあるまいが・・・。

酒を注ぐ蜜虫を眺めながら博雅はぼんやりとそんなことを思っていた。

さっきから控える女官も蜜虫も宮中の女御にもなかなか居ないであろうという美形だ。

他の貴族の噂にもならんとは、どういうことだ。

いやそれより、この屋敷はいったいどうなっているのだ。

博雅は表面こそ落ち着いている風に繕っているが内心は晴明に対する好奇心に満ち溢れていた。

博雅はわくわくする気持ちを抑え切れなかった。

あの玄奨をお上から任されたときでさえ、これほどではなかったとさえ思う。

「晴明、早く説明してくれぬか?この屋敷に俺が来るのがどうして分かった?

先ほどの庭の灯りはどうしたのだ?この者達はどこから現れたのだ?」

矢継き早の質問に、晴明は笑みを浮かべながら、頷いた。

「そんなに、お急ぎなさいますな。何から応えてよいものやら、晴明を困らせないでくれませぬか。」

晴明は博雅の顔をじっと見た。晴明の美しい顔を博雅も見つめた。

広い額、咎の上がった涼やかで曇りのない瞳。鼻筋の綺麗に整うた高い鼻。

意志の強そうなそれでいて触れてみたくなる唇。

これはこれはまわりの者たちが放っておかぬだろう。

管絃を奏でるには不似合いな指先だが、博雅は武芸にも秀でていると聞く。

お上が傍から離さず他の者にはお許しのでない頼みでも博雅のためなら、心を砕くという。

晴明は博雅に、博雅は晴明に興味があった。

「なにから、お話いたしましょう。」

ゆるりと晴明が聞く。

美しい顔がほんのりと灯りに映え、ぞくっと身震いを憶えるほど妖しく輝く。

瞳がきらきらと瞬き、上気したように頬が紅色に染まっている。何だ晴明はやはり女ではないのか。

さっき頭をよぎった考えが益々膨らむ。次の瞬間、博雅は思わず晴明を引き寄せていた。



つづく           (レスリー・チャンへ捧ぐ)

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自分でも何故そうしたのかも分からなかった。

抱きとめた晴明の体は紛れもなく男の体に違いなかった。

しかし、博雅は離そうとしなかった。

「この屋敷が不思議な事も、そこの者達が何処から来たのかという事も今の俺には、どうでもいい事だ。

さっき出逢ったばかりのお前をこうして抱きとめている俺の方が何倍も不思議だ。」

博雅は腕の中に晴明を抱いたまま呟いた。晴明も抗うことを忘れていた。

その容姿ゆえ、幾度となくこのように、かき抱かれたことはあった。

そのたび、相手を撥ねつけることも忘れなかった。

手ひどく撥ねつけ冷淡に振る舞えた。それが何故、抗うことすらしようとは思わないのだ。

晴明は己に問うた。(心が惹かれあっておうてるのよ)会ったことのない母の声がした。晴明は涙が溢れた・・・。

「博雅さま。私にもわかりません。けれどこうしておるのが、なぜか当然のことのように思われます。」

晴明の応えに、博雅は黙ってその唇を奪った。

眼の端に白い人形(ひとがた)が二枚ひらりと舞った。何時の間にか蜜虫の姿も消えている。

なるほど、博雅は胸のうちで一人頷き晴明を抱く手にいっそう力を込る。

奪ったままの晴明の唇から、甘い吐息が漏れる。



つづく              (レスリー・チャンに捧ぐ)

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どのくらいこうしていたのか、博雅はようよう晴明の唇から離れて、改めて晴明を見た。

「晴明、俺はその・・・稚児を弄ぶことはせん。御前のこともそのように扱うつもりはない。

しかし、御前といると俺自身の歯止めが利かぬような気がする。」

博雅はこう言いながらも腕の中の晴明を抱きとめたままだった。

腕の中の晴明が悪戯っぽく博雅の顔を見上げると声をたてて笑った。

博雅が冷静さを失ってしまったあの声だ。ころころ柔らかくてそれでいて清々しい。

宮中や久家の屋敷に召されて、と弔い払いをしている時とは違う晴明だった。

あの蛙を粉微塵にした晴明と同じかと思うほど、晴明は博雅の腕の中で無防備だった。

「博雅さま、私をこうするために、ここへ参られたのですか。」

肩を震わせて笑いながら晴明は問うた。

「いや、それは違うぞ。そのような・・・ことは・・・。」

あったかもしれん。という言葉を飲み込んで、博雅はかろうじて言葉をつないだ。

「実は頼まれごとをしてな。さる御方が屋敷に怪異な事が続くので皆に知れんように、

晴明、御前を連れてくるようにとな。」

腕の中の晴明をそっと放して博雅は居ずまいを正すとそう云った。



つづく          (レスリー・チャンへ捧ぐ)

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