まさの劇場人日記

オペラの音楽スタッフの日常を綴ります

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椿オケ練 ケータイ投稿記事

今日は椿姫のオケ練。
何度も椿姫やってる東京フィルさんですから、とてもやりやすかったです!
余計なことはせず、だけど自分のやりたいことは主張しての精神でやりました。
鑑賞教室の宿命で本番まで休みなく稽古が続きます。明日はオケ合わせ。

さて劇場ではいろんなことが起こってます。みなさんご存知の通り次期監督予定者が
発表されました。尾高忠明氏です。彼とオペラは正直結びつきませんねえ。
でも監督の仕事の多くは人選びや組織の統制にあることを思えば新鮮な人事と
いえなくもありません。若杉監督は一期で終わりということになります。

海外ではインテンダントが変わればスタッフも総取っ替えということも
珍しくありません。今後スタッフの処遇がどうなるかは私には伺い知れぬ
ことですが、いくつもの劇場が存在するヨーロッパならともかく、常設の歌劇場が
ここしかない日本では、特にここ数年の上演ノウハウを知るすばらしいスタッフ
抜きでは今後の上演も考えられません。これらのスタッフ(音楽だけでなく
演出チーム舞台チームなども含めて)は日本においてはオペラ上演の財産なのです。
若杉監督就任時にはそれまでにノヴォさんが確立したシステムを踏襲する形が
とられました(それゆえ私も今いるわけですが)。今これらのチームは非常に
うまく機能していますので、今後もこの形の継続が必要と思うのです。
具体的にいうなら、例えば「再演」があるときに、前回にそれを経験してる
スタッフがいるからこそ短い期間でも出来るということがあげられます。
音楽チームに関していえば、演奏の諸問題や舞台裏周りの配置、どこの
パートを何人で演奏したか、ここはこのように処理した、これを処理するのに
何人必要、などの情報を持っているわけで、いざ舞台稽古に入ってもこのへんに
ついてはスムースにことが進むのです。もし来シーズンにあるリング再演で
8年前の初演に関わったメンバーが誰もいなかったらそりゃえらく大変なことに
なったでしょう。

上演の良い悪いに関しては、個々の演出家指揮者キャストの力に負うところが多いの
ですが、その土台を作っているのは劇場のスタッフパワーなのです。
私は常々感動することですが、新国の舞台スタッフのプロ根性は世界一といっても
よいと思います。椿姫の手動による装置移動など、この正確さは驚異です。
舞台監督助手と呼ばれるチームがまたすばらしい!各歌手のケア、出はけの誘導は
いうに及ばず、上演全体をいかにスムースに運ぶかをいつも考えて行動する
彼らの姿勢には頭が下がります。海外からいらした歌手がこれらのスタッフの
すばらしさを口にするのも納得という感じです。

しかし実際に上演の成否を左右するのは上記した通りアーティストのちから。
このアーティストを選ぶのは主に監督の重要な任務なのです。つまりお客様から
見て監督の力量が判断されるのはまさにこの点であります。それだけ監督という
存在は劇場の舵取りにとって重要なものなのです。若杉監督には任期最後まで
力を尽くしていただきたいし、新監督予定者には今すぐにも将来のヴィジョンを
構築していただきたいと願っています。

回復剤 私の場合

今は鑑賞教室「椿姫」の稽古真っ最中である。すでに3日間が過ぎたが
この段階で合唱団の加わるシーンを除いては立ちがきちんとついている。
明日合唱団とのシーンをやれば全部つくことになるのだ。そして
その後の2日間は通し稽古、そしてオケ合わせ、ピアノでの舞台稽古、
オケとのGPを兼ねたBOと進んでいく。毎年のことながら稽古はたったこれだけ
である。ダブルキャストを組んでいるので稽古量はすべて×2となるのだが。

つまり事前の音楽稽古1回、立ち稽古5回、オケ合わせ1回、舞台稽古2回で
公演となるのだ。本公演での再演より時間が少ない。
だから一回一回の稽古は真剣だ。立ち稽古だからといってさらっとやっていい
わけではない。みんな真剣に取り組んでいるおかげで毎回の稽古の集中度は
かなり高いものとなっている。

私は毎日が真剣なのと最近の気温変動に体がついていけず、体調がよくなかった。
今日も夕方までの立ち稽古を振ったら相当疲れてしまったのだが、その後
飯守マエストロのトリスタン稽古に参加、そしたらマエストロのパワーなのか
音楽のパワーなのか稽古が終わる頃には体調が戻ってきたではないか!
今日はクルヴェナールだけの稽古だったので、トリスタンのパートをがんがん
歌いまくってきた。喉の調子も悪かったのに…でもなんだか歌うたびに気分が
よくなってくるから不思議だ。それに先生の稽古はほんとうに面白い。
「このマルケはバイロイトでもオケが爆音でいくら頑張っても絶対聞こえないんです!」
「ここのクルヴェナルはアルベリヒみたいでいい」
「ここのホルツトランペットをあてにしてはいけない。絶対この楽譜通り聞こえてこないから」
「ここの"Schliess nicht,Kurwenal"を"Scheiss nicht,Kurwenal"と言ったら
オケが笑って弾けなくなった」
「クルヴェナルが死んだあとのライトモティーフはディズニーのようなメルヘンだ」
といったように先生でなければ語り得ないことも満載で片時も飽きることがない。
私が椿姫を6回も振るという話しをしたら、飯守先生も若い頃労音で50回近く
椿姫を振ったということであった。そういえば昔は労音って相当回数の多い
本番をやっていたんだなあと思い出したのである(実際に体験はしていない)。

というわけでトリスタンは封印のはずだったが、これが気分回復剤となるとは…
やっぱり好きなんだな〜ワーグナーが。明日からも椿姫の稽古を頑張ります!
なんと7月12日までは休みなく走り続けるのだ〜!

録ってから見ていなかった「古畑中学生」を見た。最初は回想物語なんて
田村本人がでるわけでもないし絶対本編よりつまらなくなると思っていた。
ところが見終えた今ではシリーズの傑作に数えられる作品という感想を持っている。
演出がいい、役者がいい、そしてなにより台本がいい!一見脈絡のない事柄が
ひとつにまとまっていく様は爽快だ。どんでん返しの見事さは以前放送された
石坂&藤原の回をしのぐかも。そして現在の古畑とのつながりにもなるほど
と思わせる仕掛けが!見る前の悪いイメージは完全に覆された。

こういう感想を私だけでなく日本中の多くの人がもっているんだと思うと、三谷さん
ってすごいなあとおもわざるを得ない。今の日本、オペラでこういう現象を起こす
のは無理だ。もちろんテレビで気軽に見られるのと劇場まで足を運ばないとだめ
という違いはあるわけだが、見るものに直球でインパクトを与えられるのがすごい。
オペラでもそんなインパクトを与えられたらと思うが、なかなか難しい。
ただカプレーティやバタフライを高校生が見に来てちゃんと反応してくれること
を考えるとそんなに悲観することはないのかなあ…

トリスタン二幕にマルケ王の嘆きという長丁場がある。トリスタンの裏切りを本人を
目の前にして訴える場面だ。私は初めてここを聞いた時はなんだかわけのわからない
音楽としか思えなかった。それもそのはず、ぜんぜん解決しない音楽でどこへ
連れていかれるのか想像がつかないのだから。しかしひとたびその細部を理解すると
このような音楽しかありえないと思っちゃうから不思議だ。内容からいっても
安易に解決音にいけないのである。同様の「語り」が中心のシーンはワーグナーには
たびたび登場する。有名なのはワルキューレ2幕のヴォータンであるとか、
黄昏1幕のワルトラウテだろう。パルジファル1幕のグルネマンツの語りも
すごい。またここまでごっつくなくてもジークフリート2幕1場や3幕2場、
はたまた1幕2場だって聞き通すのにはかなり骨がおれるはずだ。
以前にも書いたがこういう音楽を楽しめるようにするためには、対訳を読み内容を理解し
音楽を聞き込んで自分自身をこれらの音楽が楽しめる体にしてしまうのが一番よい。
とにかくこういう音楽ははっきりいって通向きだ。一般の聴衆、予備知識なしで
音楽を聴いたり見たりする方は一度でこれらのよさがわかるものではない。
いわば直感的感覚的に楽しめる「古畑中学生」のようなエンターテイメントと
正反対なのである。

ただ私はワーグナーを味わうというのはそういうことだと思っている。もちろん
細部は気にせず流して観賞してもそれなりに楽しめるだろう。しかし細部を追求した
者にはさらなる悦楽が待っているのだ。「ワグネリアン」なる種族が生まれる
わけはここにある。「長い」とか「退屈」とかネガティブな印象だけを持ってしまうと
ほとんどの場合引き戻すことは難しいが、少しでもポジティブな印象、例えば
「なんだかワーグナーって壮大ですごい!」とか「ストーリーの深層を知りたい!」
とか「あんな長い音楽のスコアはどうやって書いたんだろう?」というような
感想を持ったならば、はまれる可能性ありなのだ。中には「なんとなく
ワーグナーには興味があるんだけど、どうも最初の一歩が踏み出せない」という
方もいるようだ。そういう方にはまず勇気を出してCDなりDVDを体験して
みること!わけがわかんなんくてもいい、一つでも何か興味を持ったなら
それでファーストステップ通過なのだ。
例えはよくないが、これって宗教ににているかもしれない。素晴らしい宗教なのかも
しれないが、最初の一歩が難しい。でもその素晴らしさを知ったらば一生かけてでも
それを追求できる。でもワーグナーのほうが楽なのは「入信」しなくてもいいこと!

私たちオペラの音楽スタッフは楽譜や歌唱の細部にこだわるのが仕事であって
ある意味「オタク」なのだが、特にワーグナーと付き合う場合はその度合いが顕著
になる。そんなスタッフの中でも私は特に細かいのかもしれない。でもいやというほど
しつこく迫ってもそれに耐えうるのがワーグナーだ。深い聞き方のできる観客に
納得してもらえる音楽を私達は作らなくてはいけない。そういうこだわりの集まりが
あのワーグナー独自の世界を生み出すのだ。トリスタンのマエストロは私の10倍以上
こだわる飯守氏である。ほんと先生の練習はしつこい!いやになるくらいこだわる!
でも、これがないとワーグナーはできないのだ。

一般の方が「古畑中学生」を気楽に楽しむように、オペラにもそういう気楽な
楽しみを見いだしてくれたらなあという思いをもつ一方、トリスタンのような
聴衆の理解力を試すような作品も必要だと感じるのである。

さて、新国立劇場の鑑賞椿姫の特設ページなるものができたようだ。時間があったら
覗いてみていただければ幸いである。

劇場は本公演をすべて終えてあとは高校生の鑑賞教室と子供オペラを残すのみ。
まもなく鑑賞椿姫の稽古がはじまる。今回は大役を担うことになっているが、
連日稽古と本番が続くので体調管理には気をつけようと思っている。

先週はシティフィルのトリスタンがはじまったのでそれで手一杯!
だいたい全幕を振ったが、振ってみないと発見できないことってのがある。
「ああ、ここはこうなっているんだ」という発見とともに、自身のテンポ設定の甘さ
もみえてくる。もちろんテンポはある意味歌手と共に作るものではあるが、
計算を間違うとその後の流れが悪くなるという見通しの甘さが露呈する。
これは振る側の理解不足なのだ。これは弁解ではないが、かのバレンボイムも
20年以上トリスタンとつきあってきてまだ発見するものがあるという。また
初めてトリスタン公演を振る指揮者はまずうまくいかないという話しもある
くらい一筋縄ではいかない作品であるのだ。私のような「新参者」がいきなり
これというものを確立できなくても当然かもしれない。いや、決して開き直ってる
わけではなく、それだけ偉大な作品に対して今後も真摯な姿勢で取り組みたい
と思っているのだ。

トリスタンに取り組むうえでいろいろ考えた一週間だった。音楽技法が特別視
されがちなトリスタンだが、技法の変遷をあらためて確認したくジークフリート
の一幕を弾いてみたり、指導動機技法に関連してワルキューレのヴォータンの
長丁場について考えたり(←私自身はここ好きだが、なぜ音楽的に弱いと
いわれるかを考えた。ヴァルハルの動機のこの場面と一幕での象徴的劇的使用
と比較すると興味深い)した。決してトリスタンだけが特別ではなく、
それまでの過程がやはりあるのだ。しかしトリスタンで極めて成熟した
技法を展開したことに異論はない。
私はマイスタージンガー以降を先に経験してしまっているので、トリスタンを
研究すると抜け落ちていた部分が穴埋めされたような感じである。
「マイスターの時にはこのように書いているのか」などとマイスタージンガー
以降の作品について、今まで見えなかった部分も見えてきたりして
新たな理解が得られるのもうれしい。

さてこんな喜ばしいトリスタンとの付き合いは明日で一時中断、椿姫に集中だ。
椿姫のようなイタオペの代表のような作品を前にすると以前の私なら
戸惑って焦っていただろう。今は様々なイタリア物に接することも多くなり
以前ほどの違和感は消えた。

すでに椿姫では後年の作品に見られるドラマ性重視の姿勢が存在する。
ヴェルディはいかにドラマを音楽で描くかについて深く考えていたはずだ。
ある場所には丁寧にメトロノームの数字も書いたりオケのバランスにこだわり
ぬいたダイナミックを書いたりする彼である。今まで思っている以上に
スコアには情報が隠されているのだ。短い時間で書いた作品とはいえ、
そこは天才のやること、こちらが心してかからないとダメなのである。

今回私はこのドラマ性を損なわないやり方をひたすら考えている。
でもこのアプローチなら別に椿姫に限ったことではなくて、トリスタンでも
やっていたことなんだけど。むしろパーツパーツでこれまで見てきた椿姫も
トリスタン同様全体のドラマの見通しで考えられるようになったという
ことか。とにかくいままでの公演で数多く行われてきた「慣習」による
演奏法は、このアプローチを前面に押し出すなら見直さねばなるまい。
ともすると「椿姫はこうやるもんだ」的な空気がこれだけメジャーな作品
だとないとはいえない。この作品に初めて接した学生時代は、このような
作品には伝統的なやり方があってまずそれを知らないとダメみたいな
雰囲気を感じていた。確かに常套的にこのようにするというやり方は知って
おかなければならないことだし、それがないとオペラはできないともいえる。
(これはイタオペに限らずドイツオペラについても同様のことがいえる)
カデンツのいれかたやテンポの揺らしかたなどの伝統的なやり方は勿論
知っている。しかし最近そういうやり方について、そのようなやり方がよい
と感じることもあるし、おかしいと感じることもある。私の場合それを決める
基準は「ヴェルディがどう望んだか」である。

今後稽古が始まり歌手たちと細部をつめていくが、もちろん私の考えのおしつけを
するつもりはなく、歌手と理解したうえでやっていこうと思っている。
かくいう私自身もどのような椿姫になるのか、大変楽しみにしているのである。

トリスタンの稽古

今日は9/21,23に行われるシティフィルの「トリスタンとイゾルデ」
の稽古に行ってまいりました。今日が指揮つき稽古の初めての日で
トリスタン役の成田氏の稽古でした。彼は以前からこの役を
歌ってきており、全曲は初めてですが要所はすでにものにしており
さすがです。

特に2幕をやっていて思いますが、イゾルデなしで歌っていると
支えの一方がない感じできつそうな感じ。ですからできる限り
私はイゾルデのパートを歌いながら指揮します。「トリスタンと
イゾルデ」というだけあってお互いが力を補いながら進行して
いくのです。

さて私にとっても「トリスタン」は初体験、いままで他のすべての
ワーグナー作品をやってきましたが「トリスタン」はやはり特別。
作品を身体にいれるまでには相当大変な思いをしました。
「トリスタン」は3つの幕の音楽のスタイルがまるで違います。
もちろんジークフリートのように作曲年代が離れているわけでなく
意図的にそのように書かれているわけです。この3つの様式を理解するには、
ただでさえ長大な音楽ですのでその情報量の多さに耐えうる柔軟な頭が必要です。

第1幕は二人の人物による対話が流れの中心です。「タントリスの歌」を
はじめとする朗唱が多い幕です。第2幕はいわばベルカント音楽です。
一幕の人物対比と比べて流麗さが際立ちます。第3幕はトリスタンによる
朗唱としゃべりが中心、緊張と弛緩の連続でできています。
特に3幕のトリスタン一人でずっぱりのシーンの音楽はこれ以上ないと
いうほどに複雑精緻に書かれており、すべての和声連結やテンポの
アゴーギグをマスターするのは容易ではありません。のちに書かれた
「黄昏」や「パルジファル」はこの複雑さを幾分削ぎ落としているので
そこまで大変ではないのですが、ここではそのときのワーグナーの
技法をすべて出し尽くしたともいうべき内容になっているのです。

トリスタンに於ける和声が非常に大胆であることは常に説明されることですが、
それを実感する例を一つあげましょう。第2幕の中程イゾルデの歌に
"mit mir dich im Verein wollt' ich dem Tode weihn"という箇所がありますが、
この終止部に付けられた和声はCes-durの四六からgis-mollのドミナントへいく
という非常に大胆なものです。同じような進行はマルケの歌 "Dies wundervolle Weib"
のすぐあとにもあります(h-mollの6度つまりG-durの1度からgis-moll
のドミナントへいく)。しかしながら印象的ではありますがそれ以上に
大胆な和声がトリスタンでは多用されているためか、異様な感じをうけること
はありません。
これが黄昏の第1幕最後、いわゆる "Falscher Gunther"の歌いだし前の和音には
同様なD-durの六からgis-mollのドミナントへの進行がありますが、これは
大変に異様です。トリスタンほどの大胆さがない中で、この進行が突然くると
ギョっとした感じが出て、いかにもグンターのまねをするためのしゃがれ声の
ために喉のポジションをクッと変えたという感じがでます。
つまり黄昏では異様さを感じる進行がトリスタンではそれほどでもないという
ことは、他にも大胆な和声進行がトリスタンにはてんこもりだということです。

ディテールにこだわらないといけない私のような職業にとっては、トリスタンの
この複雑な進行をきちっと把握しないことには作品を理解したとはいえないのです。
これから長く続くであろうトリスタンとの付き合いで日増しに理解度が増して
いくことを期待しているのです。

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