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「監査役設置会社」についてお話ししましょう。
監査役会設置会社とは「監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)又はこの法律の規定により監査役を置かなければならない株式会社」(2条9号)のことをいいます。
ポイントは
1 非公開会社において,監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを置いている会社(389条1項)は,「監査役設置会社」ではないこと
→ 監査役がいるのに,監査役設置会社にならない
2 取締役会設置会社及び会計監査人設置会社は,原則,監査役の設置義務を負っていますが(327条2項3項),これらの会社が定款で監査役を置く旨の定めを置いていなくても,「監査役設置会社」に該当する
→ 監査役がいないのに,監査役設置会社になる
ということです。
今日は,ポイント1について,詳しくお話しします。
現行の小会社の監査役が会計監査権限しかないのは,小会社の監査役は社長の妻子や親戚等が多いため,会社が倒産したときに,監査役に対し,業務監査義務違反に基づく損害賠償請求がされるようなことがあっては困るからです。
会社法では,監査役を置かないという選択肢もありますが,「妻に報酬を払うために監査役にしたい。でも,倒産したときの責任は負わせたくない。」という強烈に強いニーズがあるため,非公開会社の監査役の権限を定款で会計監査権限に限定することができるようになっています(注・以上のような,身も蓋もない理由は,試験では書かないでくださいね)。
このように会計監査権限しか有しない監査役(以下「小監査役(こかんさやく)」といいます。)の制度は,責任限定のための制度ですから,監査役の職務がことごとく免除されていて,通常の監査役の多くの規定が適用されません(取締役会による取締役の責任の一部免除(426条)もできません)。
権限があまりに違うので,小監査役に,「監査役」とは違う名称を付与しようという計画もあったのですが,「会計監査役」では会計監査人が怒るでしょうし,「小監査役」だと「股間さわる役」と間違われるので(嘘です),監査役という名称のままになりました。
しかし,監査役設置会社の中に,「小監査役の設置会社」を含めてしまうと,沢山の条文で
「監査役設置会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)」
と書かなければならないため,監査役設置会社の定義から,小監査役の設置会社を覗いて条文の見通しをよくしているわけです。
ただし,次の規定については,「監査役設置会社」に「小監査役の設置会社」を含むことが明示されていますので,注意が必要です。
1 設立時監査役の選任(38条2項2号),
2 費用請求等(388条)
3 計算書類等の監査関係(436条1項,438条,441条2項,495条,497条)
4 登記(911条3項17号)
(このほか,監査役の選任とその報酬の規定は,小監査役にも適用されます)。
なお,登記では,監査役か,小監査役かは,区別できませんので,
「なんで会計監査権限に限定されていることを登記させないんだ」
という質問が来ます。
しかし,現行法だって,資本金1000万円,負債300億円の会社は,大会社になり,監査役に業務監査権限がありますが,そのことは登記されません。監査役の権限が登記から区別できないのは,現行法も同じなのです。
そう説明すると,「資本金基準で小会社なら,小監査役の可能性があることを予想できるだろ」と食ってかかってくる人もいるのですが,私は,会社法だって「非公開会社なら,小監査役の可能性があることは予想できるよーだ。」と子供のケンカのような反論をしてしまいます。
そもそも,監査役は,債権者のためではなく,株主のために監査しているのですから,その監査の範囲を公示する意義は乏しいのです。
債権者にとっては,監査役に業務監査権限があった方が,万一のときに,損害賠償請求できるというメリットがあるかもしれませんが,現実には,そんなことを考えて取引している債権者はいません(小会社と取引したことがない人なんていないでしょ。)
以上のように,登記しても無益な事項を,あえて会社法で登記事項にする必要はないので,会計監査権限に限定されていることは登記事項から外れているのです。また,こうすることにより,債権者から「おい,あいつは小監査役だぞ」と偏見の目で見られることもなくなるでしょ。
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