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新・会社法100問が発売になったので,読者の皆さんが100問の中で「あれっ?」と思うようなところを補足していきましょう。
今日は,15問の「発起人の権限」についてです。
この問題の中で,私は,会社の設立のために必要な行為について,定款で定めた設立費用の範囲内であれば,発起人の権限に含まれるという大審院の判例の立場を採りました。
実は,この見解は,学者で支持してくださる方はいないのではないかと思われるような少数説であり,裏話をすれば,この問題の作成者は,最初,別の説で原稿をあげてきました。
そこで,私は,「実務家として,本当に,大審院の判例は死んだと言いきれるのか」と考えてみたのです。
この判例に対する批判として,最も代表的なものは,28条4号の設立費用は,個々の債務を特定せずに,総額で定款に記載されるため,設立費用債務の総額が,定款の額を超える場合に,どの行為に基づく債務が会社に帰属するかを特定することができないという点です。
しかし,本にも書きましたが,例えば,「100万円以内なら,僕のツケで買物してきていいよ。」というように,総額で代理権を制限することは頻繁に行われており,その場合,時系列ごとに売買代金を合算していき,一つ一つの行為について有権代理かどうかを判断しますから,判例批判は,必ずしも的を射ていないように思います。
また,本には書きませんでしたが,私は,「会社の設立を直接の目的とする行為」と「財産引受け」を発起人の権限としながら,その両者の中間的な行為である「会社の設立のために必要な行為」だけを発起人の権限から外すという見解は,不自然だと思います。
むしろ,判例の見解の方が,発起人が拠出した費用の求償の範囲と,発起人の権限を一致させるという意味で,28条の趣旨に合致する合理的な見解ではないでしょうか。
そして,ここからが今日のキモなんですが・・
発起設立における払込保管証明書の制度が廃止されたことは,発起人の権限についての判例の見解を補強する意味を持っている。
と思うのです。
現行商法では,発起設立も募集設立も,設立登記に払込保管証明書が要求されることから,設立登記までは,払込取扱銀行から,払込金を引き下ろすことができません。
このことは,設立中の会社が設立に必要な行為や財産引受け等に際して,契約の相手方にお金を払わなければならないときは,とりあえず発起人が立替払いをするのが原則であるということを意味します。
設立中の会社は,権利能力なき社団なので,一見,いろんなことができて,お金も沢山持たせることができそうに見えるのですが,実は,その財産の大部分は,払込取扱銀行に保管されていますし,しかも,発起人の権限が「会社の設立を直接の目的とする行為」等に限定されているとすれば,設立中の会社が現金を借り入れたりすることもできないので,設立中の会社に実質的に帰属する現金で費用を支払うということはできず,通常は,発起人(又は発起人組合)が自腹を切らざるをえません。
すなわち,現行商法では,設立中の会社が実質的に所有する金銭で設立に必要な費用を払うというシチュエーションは考える必要はなく,発起人の権限については,発起人が自腹で未払わなかったときに,その債務を設立後の会社に効果を帰属させることができるかという議論に終始していたのです。。
ところが,会社法では,発起設立における払込保管証明書の制度が廃止されたため,発起設立の場合には,発起人が,設立前に,払込取扱銀行から払込金を引き下ろし,そのお金を会社のために使用することが可能になりました。
さて,発起人が払込取扱銀行から引き下ろしてきたお金は,発起人個人のお金ではなく,設立中の会社が実質的に所有する金銭であり,設立後は当然に会社の財産となるお金です。
したがって,発起人が,このお金を利用するためには,それが発起人の権限の範囲内でなければなりません。ここで,発起人の権限について,「設立中の会社が実質的に所有する現金を設立費用の支払いにあてることができるか」という文脈で論ずる必要がでてきたわけです。
もし,発起人の権限が「会社の設立を直接の目的とする行為」等に限定されているという見解を採れば,そのお金を設立に必要な行為の支払いに充てることができず,発起人としては,目の前に会社のお金があるのに,わざわざ自腹を切って,設立後に会社に求償しなければならないということになってしまいます。
このような硬直的な結論は,発起設立における払込保管証明制度を廃止した意義を没却することになるでしょう。
ですから,私は,発起人が,払込金を,設立のために必要な費用の支払いに充てることができるようにするという観点からも判例の見解に合理性があると思い,学説的には少数説である判例の立場を堅持することにしたのです。
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