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資本充実の原則

 今晩は,ボジョレーヌーボーを2本開けてしまい,頭のねじが3本ほど緩んでいるので,あまり頭を使わない8問の「資本三原則」のうち,資本充実の原則について話します。

 会社法の勉強をはじめると,資本原則を習って,それがすごく大事なことのように教えられます。そして,「資本の充実」の本当の意味もわからないまま,「資本の充実っていうのは債権者保護のために絶対必要だ」と思いこむようになるのです。
 このような状態になることを,私は「資本教に入信した」と表現しております(笑)。
 私は,資本金が,現実の世の中で,債権者保護に役にたっている場面をこの目で見たことがないので,資本教には入信しておらず,詐害行為取消権の特則という程度に考えています。
 
 さて,そういうちょっと冷めた目で,資本充実の原則(資本金の額に相当する財産が現実に会社に拠出されなければならないという原則)を見てみましょう。

 以前もお話ししましたが,資本充実の原則は,大昔に存在した「定款で資本金を定め,その資本金に見合う株式を発行しなければならないという法制」では,その位置づけは明確でした。
 定款で資本金を定めるという点が資本確定の原則で,その資本金に見合うだけの株式について引受人を見つけ,払込みをさせて,株式を発行するのが資本充実の原則です。
 ところが,授権資本制の採用により,資本確定の原則が放棄されると,資本充実の原則がとたんに不明確になってしまいました。
 現行商法では,株式の発行価額の総額が資本金となるわけですから,素直に考えれば,「株式の発行→資本金」という流れなのに,資本充実の原則は「資本金→株式の発行」という逆の流れの説明だから分かりにくいのは当然です。
 ここで,「資本充実の原則は,なくなったよ」とか「変わったよ」とか言ってくれたらよかったのですが,そうもいかず,一時期の商法では,「設立時に発行する株式総数」を定款で定め,かつ,一株の発行価額を5万円以上とする難しい法制度を採ることにより,資本充実の原則があるということになっていました。
 「設立時発行株式総数×5万円を計算すれば,資本金の原則的金額がでるから,定款から資本金の最低額が決まっているということができる」
→それに見合うだけの数の株式を発行しなければならない。
→その株式の発行にあたっては,払込みがされなければならない。
という感じの説明ですね。

 でも,冷静に考えてみると,定款で設立時発行株式総数を定め,その引受けや払込みを強制しているだけであり,別に「資本金」を表に出す必要はないのです。おまけに,発行価額が5万円以上でなければならないという制限が廃止されてしまいましたから,現行法では,定款からは資本金がいくらになるか,ちっとも読み取れなくなっているのです(最低資本金制度によってなんとか最低額だけは分かりますが)。
 それなのに,従来の資本充実の原則の定義のままで,条文を説明しようとするから,初学者は,資本確定の原則とごっちゃになったり,理解困難になったりするわけですよ。

 しかも,多くの本で,引受人に対して,現実の払込みをさせることを「資本充実」だと言いきってしまうので,いよいよ資本充実の意味が分からなくなります。
 現実の払込みをしなくても,会社が引受人に対して払込請求権をもっていれば,会社の債権者は困りません。会社の資産が,現金なのか,債権なのかの違いに過ぎないわけです。そりゃあ,債権は債務者の資力によって価値がかわるのですが,一旦,払込みをした後,会社はそれを貸し付けることだってできるわけですから,現金か債権かにこだわる実益は何もないのです。
 実際,現行商法では,引受人が払込をしないと,発起人等が払込担保責任を負うわけですが,それだって発起人等に対する債権にすぎないわけで,「現実に払い込まないと資本充実を害する」というのは,なんか,おかしな話なのです。
 引受人が,現実の払込みをしなければならないのは,株主の責任について間接性を確保するための方策に過ぎず,資本充実の原則とは関係ないという方がよほどわかりやすいと思いませんか。
 
 それから,引受・払込担保責任についても,本の12問で書いたような理由で,会社法では廃止され,今や,従来の資本充実の原則は見る影もありません。

 よく考えてください。資本金が増加すればするだけ,剰余金の配当を制限することができるのですから,配当制限という機能だけ見れば,出資された財産の額にかかわりなく,資本金は大きければ大きいほど,債権者に有利なのです。

 しかし,資本金には,登記を通じて,一般人に対し,「この会社は,一旦は,資本金の額に相当する財産が出資されたんだよ(今は,減っているかもしれないけどね)」とアピールする効果があるので,その効果を確保する必要もあるわけです(でも,ここで保護されるのは,現在の会社の資産に対する信頼ではなく,過去の出資に対する信頼にすぎないんですよね。)

 そこで,どんな法制度を整えれば,その効果を確保することができるかを考えると,皆さんもすぐに「出資された財産の額が資本金の額になる」というルールさえ作れば必要十分だということに気がついていただけるのではないでしょうか。

 というわけで,本では,以上の理解を前提に,資本充実の原則を従来の意味から変容させて,まだ資本充実の原則はあると説明しています。
 ただ,ここまで来てしまうと「それって条文をそのまま説明しているだけで,「資本充実の原則」なんて言わなくてもいいんんじゃないか」という疑問も生ずるでしょう。まあ,そうなんですよ。「廃止」と言おうが,「変容」と言おうが,説明としてわかりやすいのは何かってだけで,実は大した問題じゃないんですね。

 ここらへんは,新会社法100問の著者でもある郡谷さんと岩崎さんが,商事法務の特別解説で書いているので,それを読んでもらいたいところですが,その特別解説は,レイザーラモンHG並に過激なので(会社法100問の答案より過激です),純真な受験生が影響を受けるとまずいかも。

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