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人類待望の大発明

今年もこれで最後のブログということで
年末恒例、短編小説を掲載します
も小説を掲載しました
去年の作品と同じ博士かどうかは言いません
でも人類待望の大発明をした科学者の物語です
15分もあれば読めますのでお付き合いくださいませ
ただちょっとセンシティブな表現があるので
未成年だと思う人は読まない方がいいでしょう

さて “人類待望の大発明” と聞いて
あなたは、どんな物を連想するでしょうか? 
透明人間になる薬? 
スーパーマンのように自由に飛べる道具? 
それとも、150億光年の果てまで行けるワープ航法? 
それぞれ個人個人の欲により “人類待望の大発明” とは異なった物にでしょう
例えば筆者の私
私はより多くの人に感動を与えたいと言う欲がある
その為に知識を得る時間と創造する時間、創作する時間が欲しいです
そう、かいつまんでみると時間が欲しい
時間を自由に操りたいとまでは思わないが
世界中の人々から1秒ずつもらえれば
多少は今より立派な作品ができるのではないかと思います
この物語に登場する博士は
その “人類待望の大発明” を完成させたと豪語しています
さて、この天才博士の欲とはなんだったんでしょうね


『人類初の大発明』
 
 博士はついに人類待望のマシーンを発明したと言う。
彼は学界発表までの間、その警護を民間の警備会社に依頼した。
しかし、発表までと言ってもその期日さえ知らされていない。
いつ打ち切られるかわからないが、かつて資産家の御曹司だった博士。
報酬は良いので、会社が断るはずはない。
マシーンの詳細は知らされていないが、放射能等の危険性はないと言う。
 研究所は郊外に有る小さな建物だ。
昔、診療所だったと言う重厚なレンガ造りの平屋だったので、楽そうな仕事に思えるが、この警備チームで3度目。
過去に警備にあたったメンバーは3人失踪している。一度目は一人、二度目は二人だ。
 マシーンとその設計図を盗難されるなどの被害はなかったが、3人もいなくなっているのに事件性にならないのがおかしい。
それは博士側も騒がれてその発明品が世間に知れ渡ってしまうのも困るし、警備会社側も無責任な社員を使っていたと汚名を着せられる心配がある。
 そんなこともあって今回のチームリーダーは、警備員を守るため仲間に黙ってカメラで監視することにした。
そして全て女性の編成にした。
行方不明になったのは全員男性だったからだ。
女性と言っても男でさえ一瞬で腕の骨を折られるくらいの凄腕で、美形ぞろい。
社内ではアマゾネス部隊と言われている。
 リーダー以外、常にこの小さな研究所を4人の女性が3交代制で警備することにした。
一人はその発明品のある研究室の前、あとの3人は建物の外部からの警備だ。
リーダーは機材の詰まったワンボックスカーの中にいる。
 このチームが警備についてから3日がすぎた。
リーダーはメンバーの写真を持ってくるようにと博士に言われた。
「3日経ったが今回のメンバーは一通り巡ったのかな?」
「はい、それぞれ3巡はしています」
「写真持ってきた?」 
「はい」
 リーダーは言われるままメンバー12人の写真付きの名簿を見せた。
「このコとこのコ、それから、えー、このコ。昼間の同じ時間帯にシフトしてもらえないかな?」
「しかし、それぞれ特性を活かし時間と場所を設定しています。これ以上の…」
 そう、リーダーは意見していると、遮るように博士は言った。
「いいから !  私の言った通りにしてくれ」
「…はい」
 リーダーは納得いかなかった。
何しろその3人は12人の中でも特に美人だからだ。
でも、これも事件解決の糸口になるかもと博士の意見を受け入れた。
 リーダーはこの3人を特に見張るようにした。
するとどうだろう、その警備員3人に向けられたカメラからの映像は次々と持ち場を離れていった。
 なにやっているんだ。
まさか、とうとう事件となってしまったのかと、リーダーは急いで警備員のいた場所へ向かう。
やはり、その付近には警備員はいない。
そしてトイレにもいない。その次の場所もさらにその次も、例の3人は誰も残っていない。
 事件発生と見たリーダーは警察と自分の会社へ連絡した。
博士にも報告しようとしたが彼はいなかった。
数分もしないうちに警察は来た。
それを待っていたリーダーは警備員が消えた場所へ案内する。
 しかし、警備員は戻っていた。
リーダーはこの不祥事を彼女に尋ねた。
「どうしたんだ?」
「え、どうもしませんよ」
 反応も的外れだが、なぜか、彼女は心ここにあらずと言った感じだ。
リーダーの慌てようと警察官の姿も有るのに、その幸せそうな表情はどういうことなのか。
「嘘つけ、さっきこの場所にいなかっただろう」
「え、と、トイレへ行っていました」
「嘘だ、トイレも確認済みだ。俺は警報を無線で流した。お前のイヤホンも鳴ったはずだ」
「き、気がつきませんでした」
 普段は品行方正な彼女だが、ここまでとぼけられるとさすがのリーダーも頭に血が上った。
しかし、警察もいる手前、取り乱すわけにはいかない。
リーダーは焦りの表情へと変わった。
 その次の警備員も、またその次の警備員も似たような反応だった。
警察はリーダーの心情と対応に理解しながらも、条件反射的に
「軽率にならぬよう気をつけるように」と念を押された。
 どう考えてもおかしい。
彼女らが正しいのならば自分は、幻覚を見るようになってしまったとしか考えられない。
そんな事は無い、自分を信じたいと思うリーダーは、改めてモニターを見直した。
 すると3人とも消える前に、誰かに話しかけられているような反応がある。
そして2〜3言その相手とかわすと微妙に目つきが変わり、その場所からいなくなる。そして間もなく自分の姿が映し出される。
 そして自分がいなくなってからさらに数分後、何事も無かったかのように警備員が現れ、警察を連れた自分が現れる。
それが共通した画像だ。
 リーダーはこの画像をもとに3人のうちの1人に尋問を試みた。
だが、顔を紅潮させるものの頑として何もしゃべることはなかった。
自分の事だけではここまで強くなれるはずがない。
まるで誰かをかばっているかのようだ。
「君の態度からして、誰かをかばっているのはわかる。だが、そのかばっている相手を俺が知っているとしたらどうする」
「え?」 
「これを見ろ」
 見せられたのは別の角度からとられたカメラの映像だった。
「映っているのは博士だ。ただ通り過ぎるだけだがな。この場所で、この時刻。君と話していたのは博士だというのは誰が見ても理解できることだ。これは他の二人も同じだ」
「え、他の二人?」
「そうだ、中山と西田もだ」
 彼女の中に何か変化があったようだ。
目の動きが違う。それは怒りのようにも見える。
「博士に抱かれました」 
「何!」
「博士に声をかけられたら、一目惚れと言うか本当に好きになってしまったんです。あんなに高揚した経験はありませんでした。これが一目惚れなんだ。これが本当の恋なんだと思ったんです」
「そして寝たのか」 
「はい」
「こういっては何だが、あんなに不細工なのに一目惚れしたのか」
「はい」
「君は一目惚れで寝るほど、そんなに軽いのか」
「いいえ、でも、事実からすると否定できませんね」
「だが、寝たと言っても君がいなくなったのはたった数分だ。これは鶏並みの早漏でないとしたら、博士と寝たと言うのも嘘になる」
「博士の発明はタイムマシーンです。私たちはその後3時間は愛し合いました。もうクタクタになるくらいで、元の時間へ戻すから心配ないよっていいましたけど、仕事に戻っても上の空だったのです」
 これで全て解った。
博士が開発したのはタイムマシーンだ。
彼は時を自由に操り、美人警備員3人に悪さをしたのだ。
 それにしても腑に落ちない、博士は精力絶倫なのか? 
そうじゃないとするならば、この体力ある女たち3人をクタクタにさせるほどテクニックがあるのか? 
単純にタイムマシーンを使ったのなら日にちが違う博士が誘惑したと考えられるが、ならば、なぜ同じ日に決行したのか? 
そもそも、これだけ容姿端麗の美女3人、それぞれ一般的女性より経験も誘いも多いだろう。
なのにあの醜男の博士がいくら金持ちとはいえ、2〜3言で口説けるのか?前のチームの3人失踪とは関係ないのか?
 リーダーは、一つの回答を導きだした。
博士は催眠術を使えるのでは無いだろうか。
ならば一瞬で惚れさす事も、クタクタにする事もできるだろう。
3人同時と言うのもゲーム的発想か、あるいは、ミステリー的にして、性的に悪戯する事からの隠れ蓑としたのではないだろうか。
いずれにしてもタイムマシーンの存在は否定できない。
きっと前任者の失踪事件はタイムマシーン秘密保持に関わっているのではないだろうか。
 リーダーはそう考えたが、警察に行っても証拠は無い。このままでは事件解決にならない事は解っていた。だから、博士が尻尾を出すように仕掛けを準備した。

 数日が経過した。

 タイムマシーンを発明するほどの天才を相手に、果たして自分が対抗できるのか。
不安はあったが、自分は警備のプロ。
多少なりとも一般的な人より犯罪の研究はしている。
それを自信にかえ、博士に挑んでいったのだ。
「博士、私の仲間3人の失踪事件についてですが、ひょっとして博士が3人を殺したんじゃないでしょうか?」
「何を薮から棒に」
「彼らは発明品の目的を知ってしまった。だから殺された。殺された死体をタイムマシーンで未来に持って行って始末する。そう、人類待望の発明とはタイムマシーンですね」
「タイムマシーン?」
「タイムマシーンさえあれば簡単にアリバイもつくれ現代の常識からすれば完全犯罪は可能だ」
「タイムマシーンって、人類が待望にしているものなのか?」
「それはそうでしょ。時間を自由にできるなんて。これこそ神業だ」
「確かにそれも私が造った。が、そんなのはたいした発明じゃない。確かに難問だったよ。だが苦労してもそれだけ見合ったものは何も無い。私が言う人類待望の発明品とは、このナンパマシーンだ」
 博士はポケットからソフトボール大の機械を出して見せた。
全体がピカピカのピンクゴールドで覆われた金属製のものだ。
「これを使えば言葉を交わすことなしに相手を惚れさすことができる。原理は簡単、生まれたばかりのヒヨコは、最初に目にした動く者を母親と思う。その修正を司る遺伝子プログラムをヒトゲノムから探し、それを恋愛に作用するように刺激を与える信号を浴びせるだけだ。ただ普通の一目惚れより60兆個の細胞全部に作用する為、その情熱度は比じゃない。これぞ人類待望のマシーン、惚れ薬じゃないかね」
 人によって価値観はそれぞれ。
何がその人物にとって大切なのかは、本人にしかわからない。
ナンパするのが博士にとって大発明だとは考えもつかなかった。
「なんだねその顔は、こんなものが大発明だなんて認めないって顔をしているなぁ」
「だって、タイムマシーンの方が大発明でしょ。博士はそれも考えだしたのでしょ」
「だから、君は君のままなんだ。このマシーンを恋愛から、尊敬へ目盛をかえる。するとどうなる? 君だって、私に平伏すようになる。」
 確かに、使い方次第で世界征服さえできてしまう。
これは大発明と言っていいだろう。
「君のようなイケメンに、わからないのもムリはないだろう。だが私のような男は女にもてるのが最高の夢なんだ。ある者は政治家に成って権力を、またある者は何が何でも金持ちになって財力を、またある者は筋トレで体力をと、不細工な男は何かしら力をつけたがる」
「俺も男だ、もてたいと言う気持は解る。だが、科学者としての誉れと言うか。難しい物の発明の方が、人類待望の名にふさわしいのでは」
「まだ、なんにも解っちゃいない。そりゃ実際タイムマシーンを造ったときは有頂天だったよ。だが一度造ってしまえば面白くも何ともない。過去の不明な歴史を解明しても、私は歴史学者ではないから発表しないし、証明する為にタイムマシーンの存在を証さなければならない。ましては未来を変えないようにビクビクしながら使うのも怖いものだよ。反対に未来に行けば新しいものを持ち帰って発表って言うのもあるが、私はパクるのは大嫌いなんだ。それこそ科学者としての誉れでは無い。研究し工夫する面白さがない」
「ならば、俺がタイムマシーンの使い方を教えるよ。過去の大量殺戮や戦争、震災など未然に阻止できる」
「事件解決に役立てるなら、タイムマシーンは君にあげてもいい。私も試みた事がある。しかし、リサーチすると事件や戦争は悲惨なものほど必要なんだとわかってくる。バカな人類の教訓の為、必要なんだよ。一つ防いで、もとの時代に戻ると、同じような事が、別の場所で起きている事になるんだ。だからいつの時代も戦争が絶えない。戦争を起こす奴は神の使命だと思っているのかもしれないな。それに、君は考えが甘いぞ。例えばナチスを未然に防ごうなどと思っても先ず無理だ。言葉が通じたとしても人を説得する事などできない。君がヒトラーを殺すならできるだろう。しかし、未然と言う事は罪がないんだよ。無罪の人間を君は殺して廻るのか? それこそ殺人鬼だ。災害を予知したとして、君が行ってもいったい何人の人間が君を信じて非難すると思う。過去に戻り、ちょっとした君の作用が未来を変えてしまって、君自身の存在が亡くなっても保証はしないよ。君にその情報収集力と分析力があるといいんだがね。だいたい過去の3人失踪事件の分析も間違っている。彼らは、私の発明品を知ったからでは無い。彼らにそんな洞察力は無かったよ」
「では、なぜ?」
「君たちアマゾネス部隊を呼ぶ為だよ。失踪させればアマゾネス部隊が来るとタイムマシーンで知ったからさ。あんなに、貴重な体験ができるとはね。イケメンって言うのはいつもあんな思いをしているんだから羨ましいと言うか。ご苦労さんと言うか。さすがに同時に3人と言うのは疲れる。今度からは月一くらいに使おうと思っている。実際3人は殺していない。ただ、寝ている間に少し未来の自宅へ連れて行っただけだ。仮に、殺されたと分析した君は、前の3人のように殺されるんじゃないかと心配しなかったのかい?」
 リーダーは一瞬ドキッとした。だが彼には切り札があった。
「俺は心配ない。こんなこともあろうかと手紙を警察と妻宛に送っておいた。俺が戻らなければ手紙に書いてある場所へ行くようにと」
「さすが警備会社の一部隊を率いるだけはある。だが、そんな事をされたら私は殺人犯として世に報道されてしまう。それでは困る。いっそ君が死んでくれないか?」
「なに?!」
「私を誰だと思っているんだ。過去も未来も自由に行けるんだよ。後ろに誰がいると思う?」
「え!」
「その手紙二通と証拠の文書をもった私と、ピストルを持った私だ。君は今3人の私に囲まれているんだよ」
「何だって!」
「もう一つ死ぬ前にいいことを教えてやろう。この時間にはもう一人の私がいてね。きっと警察かどっかに行って、アリバイをつくっていることだろう」

未来人

一昨年の最後のブログは、短編小説を投稿した。

今年もおそらく今日がブログは最後。
2年ぶりに短編小説を投稿しようと思う。
今年は戦争の危機を感じた。おそらく来年も続くであろう。
そんな時期なのでこの小説を選んだ。

なん年前だかも覚えていないくらい昔に書いたが
楽しんでもらえるだろうと思う。
ちなみにこの小説のネタは私の夢で見たこと。
私は映画並みに楽しい夢を見ている。


『未来人』
 
 画家を目指す青年のところへ、一人の男がやって来た。
「こんばんは」
「どなたですか」
「信じてもらえないだろうが俺は、未来から来た」
 そんな事は信じないに決まっている。しかしその男、実は既に一年後のその青年のところへ行き、信じさせる証拠を作る為にやって来たのだと言う。
「それだったら僕の過去とか見て来て、言い当てればすむ事でしょう」
「そんな面倒な事できると思うか? ここだってやっと探し出したんだぞ」
 通信システムが発展していない20世紀初頭、確かに人を捜し出すのは大変な事だ。
「じゃ僕を過去に連れて行くとか」
「それもダメだ。タイムマシーンは定員が1名なんだ」
「そんなの誰が造ったの?」
「俺だよ。1人乗りでも莫大なエネルギーがいるのに、2人乗りにしたらもっと大変だろう」
「いったい何の用?」
「大変な事になる、俺が何もしないとお前は偉大な画家になる」
「そうなの? 美術大学受験には何度も失敗しているし、教授には建築家の方が向いていると言われたのに」
「これからはアカデミックな絵は売れなくなる。お前は革新的な技法で、多くの支持を得る」
「ヘー、そうなんだ。それは良かった」
「いいや、ダメだ。それでは世界が滅亡する。お前はもっと器のでかい男だ。もっと凄い仕事をしてもらわなくてはならない」
 そう言うと男はポケットから同じものを二つ取り出した。
「いいか、これは未来のストップウォッチだ。秒単位は当然だが、日単位まで表示される。このボタンを押すと数字が動きだし、もう一度押すと止まる。もう一つのボタンを押すとゼロになる。やってみな」
 男は青年に一つのストップウォッチを渡すと試させた。その時代にもストップウォッチはあったが実物を見た事はなかった。
「そうだ、慣れるの早いね。気に入ったかい?」
「うん、くれるの?」
「いずれあげる。でもその前に、これは俺が未来から来た事を証明する為に使う。今から二つ同時にスタートさせ、一年後またここで会う。お前のストップウォッチは364日と23時間辺りを表示している頃、俺はまたお前の目の前に現れる。俺のストップウォッチは、1時間も経っていない。わかるな」
「待ってよ、一年後の会う一時間前にスタートさせれば証明にならない」
「さすが、わかっているな。頭脳の回転がなかなかいい。そこで、君に問う。どうすれば信じられる?」
「封筒に入れ、封をし、僕がサインしよう」
「それじゃダメだ。袋の上からでもボタンは押せる」
 すると青年は台所の方へ行った。もどってくるとフタの付いた広口のガラスの瓶を二つ持って来ていた。
「更に、この瓶の中に入れてフタをし、フタと瓶にかかるように切手を貼ってその境にサインしよう」
「確かにいい考えだが未来ならこんな事、簡単にできるぞ」
「それはそれで、未来から来たと言う証拠になる」
「なるほどな、俺より頭脳明晰のようだな」
 すると、同時に押されたストップウォッチをそれぞれ、封筒に入れ、青年がサインをし、ガラス瓶に入れ、フタをねじって止め、その境に切手を貼り、フタ側と瓶側それぞれ青年がサインした。
 男はそれを一つもって忙しそうに出て行ったが、青年は嬉しくなった。自分は画家で大成すると言う言葉を信じ画業の励みになっていたからだ。
 
 一年が経った。青年はあと数時間で一年前の男が来ると思うと少しドキドキした。するとドアをノックする音がする。青年はドアを開ける。一年前の男が同じ容貌で立っていた。
「本当だったんだ。瓶は?」
「おい、ちょっと待ってくれ。人違いか? 俺はお前とは初対面だ」
「そうか、一年前はたしか、一年後に僕のところへ行ってから僕のところへ来たと言っていたなあ」
「おい、何言っているんだ?」
「そうだよね。何もわからないよね。未来から来たんでしょ」
 男は人差し指を口の前で立てる仕草をすると、振り返り、周囲をうかがった。
「なんで知っている?」
「いいから、中へ入って」
 青年は男を安アパートの部屋の中へ入れドアをロックした。
「君は一年前に僕のところへ来て、あれを渡したのさ」
 青年は机の上にある瓶を指差した。
「僕が君を信用しないから、ストップウォッチを二つ持って来たのさ。それで、梱包は僕に任せると」
「そうか、じゃ未来へもどって、ストップウォッチ2つ取って来なくちゃ」
 部屋から出ようとする男に青年は引き止めた。
「待ってよ、あと数時間もすれば、数時間後の君がここに現れる。二人同時に見たらそれだけで、納得できるだろう。どう?」
「お前はなかなか頭がいい。でも同じ時間に全く同じ物質が半径50メートル以内に居てはならないんだ。お互いが引き寄せ合って融合してしまう。つまりどちらかが消えてなくなるんだよ。するとどうなると思う?」
「難しすぎてわからないな」
「今の俺に未来の俺が吸収されたとする。すると俺は未来に行って、過去の俺に吸収される。つまり俺自身、ぐるぐる回っている事になる。逆に俺が未来の俺に吸収されるとする。俺はそこで未来がなくなるからその時点で俺はいなくなる」
「けっこう恐いんだね、タイムトラベルって」
「だろう? じゃ、数時間後に」
 男はあわてて出て行った。
 それから約1時間後、彼は再び現れた。こんどは瓶を持っている。
「よ、戻って来たぞ」
 男は手に持っている瓶をそのまま青年に渡した。
「どうだ、よーく確認してくれよ」
「うん、間違いない。開けてみていい?」
「ご自由に」
 青年は先ず、自分が持っていた瓶を開ける。ストップウォッチは364日23時間45分を表示している、まだ秒は動いたままだ。そして次に男が持って来た瓶を開け、ストップウォッチを見た。時間は45分を表示、同じく秒も動いたまま。
「確かに、確認した。君を信じるよ」
「ありがとう」
「で、何を教えてくれるの?」
「これは、お前が演説しているところだ」
 男はボタンがいっぱい付いた妙な箱を、取り出し見せた。箱に付いているスクリーンに青年の未来の姿が映し出される。
「これ誰?」
「これがお前の未来の姿だ」
「これが? なんだこの身なりは。美意識が強い僕はこんな格好できない」
「これは電池式だからそう何度も見られない。予備の電池も持って来たが、あまり見るな。それと、分解して科学を進歩させようなどとも思うなよ。歴史が変わる」
 そう言いながら男は分厚い冊子を青年に渡した。
「俺は科学者で、歴史は詳しくないが、調べて来た。その本は、歴史で書かれたお前の業績だ。それを5年かけて全て頭に叩き込んでおけ」
 青年はペラペラと冊子をめくっている。少しずつ目が止まって行った。次第に顔が青ざめて行く。
「今から俺が書いたこの本の通りに行動しろ。演説する文章も丸暗記するのだ。それと図書館へ行き、歴史や政治、哲学を勉強しろ。そうすれば、お前は歴史上欠かせない人物となる」
「待って、これ僕がやるの?」
「俺がなにしにここへ来たと思う、お前しかいない。未来はお前の双肩にかかっている」
「やだよこんなの。僕は絵描きなんだ。平和を愛するんだ。確かに廃墟とか興味はあるけど、基本的には美しいものが好きなんだ」
「平和を愛するならば、これをやるんだ。お前が画家になったらそのときの未来はこの本の後ろの方に書いてある。それと比べるとお前に科せられた仕事がいかに重要かわかる。考えている暇はない。今日から絵を描くのはやめて、演説を勉強しろ」
「えー、こんな事できないよ」
 男は青年に背を向けながら話をしていた。残酷な仕事をしなければならないのはさぞ辛かろう。暗い顔をしているに違いないと思いながら振り返ると、青年の目は血走ったかのようにやる気に満ちている。
「わかった、やるよ。そもそも僕は周りの人間を見返してやりたかった。でも、頭も良くないし、体も小さい。他の人間に勝るのは観察力と描写力だけだった。戦えるのは絵しか無いと思ってこの道に進む事にしたんだよ。でも、こんな方法があるならやってみる」
 男は青年の態度に戸惑いながらもアドバイスを言った。
「人はあやふやな将来に不安があるから努力をしない。しかし、5年後、末代まで暮らせる宝を発見すると決まっていれば、人はその5年間、宝を発見するまで努力を惜しまないだろう。お前の未来は約束されている」
「何も恐れる事はないんだね」
「ああ、突き進め。俺の時代では誰でもお前の名前は知っている。アドルフ・ヒトラー。歴史上もっとも残酷な独裁者だ。俺は当初、お前を暗殺することを考えた。ところがお前がいなくなった世界の未来は人類滅亡だった。その時に現れた独裁者が弱虫でな、すぐ最終兵器を使ってしまったんだ。だから世界が終わった。お前が画家で大成功した未来も同じだった」
 未来にとって核兵器発明前にヒトラーは独裁者としての出現が歴史上必要だったのだ。
「いいか、徹底的にやれよ。後生が二度とあやまちを犯すまいと思えるように」
 人間が、あれほどまでに冷酷になれたのは、そんな後ろ盾があったからだろう。
「君はもう僕の前には現れないのかい?」
「ああ、残念だけどな。これからノストラダムスのところへ行ったり、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ニュートンのところへ行ったり結構忙しいんでね」
「淋しいな。この一年間、君の事を忘れる日はなかった。どれだけ待ち遠しかったか。どれだけ元気づけられたか」
「大丈夫だって、間もなくお前の周りには常に人が居るようになる。俺なんか近寄りたくても近寄れなくなるんだ。淋しくなんか無いよ。俺の事なんかすぐ忘れる」
「忘れる訳ないよ。君の置いて行った資料で、勉強しなくちゃならないんだから」
「いいや、忘れるんだ。歴史上俺の存在は無い。君ならできる。元気でな」
「ああ、君もな」
 未来人は出て行った。

さて来年初詣の願掛けは
絵が売れますようにとか、有名になりますように
小説家になれますように、お金に心配しない暮らしができますように。
願い事は個人個人たくさんあることだろう。

だが一つ願えば全て叶えられることはないだろうか。
例えば1回だけ、魔法をかけられるとしたら
自分が魔法使いになれと魔法をかければ、ずっと魔法をかけられる。
初詣は欲張らないでたった一つ、願掛けするようにしよう。

よみうりカルチャー浦和 透明水彩
よみうりカルチャー大宮 パステル・色鉛筆・水彩画

消えた命

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今年もあとわずか
最後の投稿となりそうなので特別企画
このblogでも 小説を趣味で書いていると記載したことがあるが
本当にそうなのか疑っている方々に特に読んでもらえればと思う
数ある中 この時期にぴったりなのがあるのでそれを掲載
実はこの作品 私の半生を盛り込んでいる
もちろん全てではないが ディテール的なエピソードは私の経験だ
そういうことも踏まえて読んでもらえると幸いである


『消えた命』

歳の瀬、彼女との関係を全て理解した私は冷静にテレビ報道を見ている。
―切符の販売された枚数は43枚です。しかし、死傷者含め41名しか確認取れていません。―
前の駅で母娘が乗車した目撃もある。事故の前の駅を過ぎてもその親子が乗っていた目撃証言もある。まだどこかにいる可能性があるのだ。冷たい風が吹き荒ぶ中、二つの命を懸命に探し続けている人々の映像が放送されていた。
未確認の2名と事故原因、この2つの真相全てを私は知っているのだ。


数日前、世間はクリスマスでにぎわっていた…。雪国を走る特急列車の中、母親と思える女性と2歳くらいの女の子がお揃いの白いコートを着て、発車直前にあわただしく最後部から乗り込んだ。そして、そのままの勢いで前方へ歩いてゆく。母親はフードを深々と被り口と顎のラインしか見えない。ガラガラの特急列車なのに座る事なくスタスタと歩いている。ヒールの高いブーツの靴底には雪がついているのに滑る事など無い。
列車は、悪天候のためダイヤが大幅に遅れていた。そのことを、家族へ携帯電話で報告している女の子もいた。退屈そうなサラリーマンの姿もある。そんな中、歩き続けていた母娘は、先頭車両に座っていた私の横まで来ると立ち止まった。
空席はたくさんあるのにもかかわらず、なぜ立ち止まったのだ? こんな状況から察すると、私に用があると思うのが普通だ。
見ると娘は私に微笑みかける、真っ白な肌に真っ黒な瞳とまつ毛のコントラストがはっきりした可愛い子だ。幼い子供はみな可愛いが、こんな可愛い子は、そう滅多にいない。
そんな事を切掛けに母親に話かけようとした。
「可愛い子ですね。」
私はそういいながら顔を見ると、やはり私の知っている女性だった。およそ3年も会っていないのに昔のままの姿だった。いや、正確に言えば初めて会った頃のまま変わっていないのだ。とりあえず私は
「久しぶり、懐かしいね。」
と話しかけた。彼女と初めて会ったのは35年も前の事だ。


それは人類が月へ行っていた頃、私は幼稚園へ通っていた幼児であった。私と父は、父の友人らとスキーをしに冬の雪山へ行った。奇しくもその山はこの線路の辺だったと記憶している。例年になく大雪で、しかもその日は吹雪いていた。私と父はコースを外れてしまい遭難したのだ。ひどい吹雪だったので助けが来る事も無く、なんと父は凍死してしまった。それなのに、私は凍傷もせずに助かった。
母も亡くしていた私は子供のいない叔父の家へ引き取られる事になり、なに不自由なく育てられた。
春を迎え、温かくなってきた頃のある日、不思議な女性が現れた。住み込みで働くというのだ。
義父となった叔父は縫製工場を営んでいた。今では住み込みなど珍しいが、その当時は当たり前の事だった。義父も若い頃は住み込みで働いていたし、他にも男性が2人住み込みで働いていた。
彼女は高校を卒業して義父の会社へ就職してきたと聞いていたのだが、今から思えば助平ったらしい社長の自宅へ住み込むなんて度胸あったものだなと思う。だが、不思議な事に、義父はその後も手を出す事はなかったらしい。義父をよく知る私から見ればそれは奇跡に等しいのだ。
不思議なのはその事ではなかった。それは彼女の容姿だった。彼女はとても美しく均整の取れた身体で完璧に近かった。でも難をいえば色黒だったのだ。
だが、70年代の日本は健康美という事で、こんがり日焼けしたキャンペーンガールがクローズアップされ始めた頃だ。世間的に色黒も徐々に好まれるようになっていったので、逆にチャームポイントとなり彼女は、男女問わず回りの人間に人気があった。
労働基準法も現在ほど一般的には知られていない時代だった。普通の感覚で経営者は労働者を好き放題に使っていた。そして彼女も例外ではなく工場での仕事以外、私の世話係りをする仕事も与えられていたのだ。そのお陰で私は工場の仕事が終われば彼女といつも一緒。幼稚園に行くときも彼女に見送ってもらわなかったら行かないとわがままも言っていたようだ。食事のときも、テレビを見ているときも、いつも一緒だったように記憶している。
ある日、助平だが気の弱い義父が精一杯のセクハラをしたのを覚えている。もっともその当時、セクハラなんて言葉はなかったのだが、彼女の首にキスマークをつけたのだ。今の時代だったら大変な事になるが、彼女は笑っていた。私はそのときキスマークたるもの初めて見たのだが、それ以上に義父に対して強い嫉妬を覚えた。私は悔しくなり、ソファーに座っている彼女に抱っこしてもらって、首を吸った。だが、30分くらい吸い付いていたと思うがキスマークはできず、一瞬でつけた義父に対し更に強く嫉妬した。
テレビの中では宇宙飛行士が月面に国旗を刺す映像が映し出されていた。月や南極点など国旗を立ててくるという行為は“ここは俺のだ”という深層心理がそうさせているという。私にとって義父が彼女につけたキスマークは、義父の旗のように見えた。
日曜日のお出かけにもついていった。出かける前は化粧が長かったのを覚えている。
私は化粧をしていない彼女のほうが好きだったので。化粧を止めるように脇の下をくすぐったり、お尻を蹴ったりしたのだ。最初の頃は笑いながら
「マー君、止めて。」
と言っていたが、そのうち本当に怒った顔で
「しつこい!」
と言われ気まずくなったことを覚えている。
何はともあれ、私は彼女が大好きだった。好きと言っても恋愛感情的なものではない。兄弟がいないので詳しくは判らないが、おそらく歳の離れた頼れるお姉さんと言った感覚ではないだろうか。
当然お風呂に入るのも一緒、これは義父にもできない私だけの特権だった。私は女性の身体に興味を抱く年齢ではなかったが、高校生時代陸上で鍛えたと言うその身体の美しさは、はっきり脳裏に焼きついている。欠点だと思われた色黒は、石鹸の泡に濡らされるとブロンズのような輝きとなった。透き通った肌や、引力に逆らう弾力性、そして柔軟な身体。石鹸の泡まみれな身体は、風呂場のチープな電灯に照らされ艶々に輝いていた。
身体を洗いながらよく背中で両手を結んで見せたのを覚えている。そのとき背中だけではなく前も横も全て見せてくれた。あのオッパイの美しさは見たものしか判らない。今思うと、どうして後から鷲づかみしなかったのか後悔するが、幼児なんだからそんな発想は無かったのだ。残念なことだがしかたがない。
ファッションデザイナーであり画家である私は、生まれて40年以上経つ。ファッションショーの舞台裏や裸婦のデッサンなど、通常の男性より女性のヌードを見る機会が多いと思う。なのに、少年の頃見た彼女以上、綺麗な身体は見たことが無い。
なぜそんなに良く記憶しているのかと疑問に思う人もいるだろう。または思い出だから美化してしまったのだろうと思う人もいるだろう。しかし、学力は無いが、画家となった私だ。ビジュアル的な記憶力の良さには自信がある。でも逆に、幼い頃の経験が、今の美意識を形成していると言われると否定できない。ゆえに幼い頃、良い形を見ておいて本当に良かった。今から思えば私がどんな年齢になろうと彼女のような容姿の女性を追い求めていた。そんな気がしてならない。
私は子供だったせいか、そう長く風呂に入っていられなかった。だから私は自分の身体を洗い終えるとさっさと出て行く。でも、そのあと彼女は一人になると異常といえるほど長風呂だった。義母は
「風呂場で何しているんだか。」
と意味深な事を言っていたが、その当時の私にはわかる由もない。逆に毎度のようにその言葉を発する時の義母が嫌だった。
小学校に上がってからだったろうか。あまり話をしたことが無い同級生が、多分、ラジオかテレビで覚えてきたのだろう。オヤジに使うようなギャグのような事を私に言ってきた。
「若いね〜、ちゃんと風呂入ってる?」
今から思うと小学生なんだから若いに決まっているのだが、純でウブな私は素直に答えた。
「入ってるよ。」
「へーこいつ若い姉ちゃんと風呂入ってんだって。すげーなー。やらしいなー。」
あ、やられたと思った。しかし私は、男なら誰もがうらやむような美しい女性と実際に毎日入っているのだから何も言い返せなかったのを覚えている。
義父の家はまあまあ金持ちだったので、近所じゃ有名な我が家だから、嫉んでいるのだろうか? それともこいつは彼女のこと知っていて一緒に風呂へ入っているのを知っていたのか? 何て要らぬ心配までしてしまった。
こんな事も有った。
ある朝パジャマ越しではあったが寝覚めると、彼女の乳首を吸っていたことがあったのだ。寝ながら吸っていたのだろうが、母親意外初めて吸ったオッパイだ。パジャマはべチョべチョになっていたので彼女も気がつかないはずは無いと思うのだが彼女は寝ていた。私はもっとしゃぶっていたかったのでそのまま寝たふりをして吸っていた。思い返せばあんなことをされて眠り続ける事などできないと思う。彼女の悪戯だったのではないだろうか? 今となっては、そんなふうにも考えてしまうのだった。


毎年の社内旅行もべったりくっ付いていたような気がする。大迷惑だったはずなのに嫌な顔一つしなかった。
私の記憶の中で彼女とは最後の社内旅行のときのことだ。彼女のそばに近寄れない何かを感じた。それは社員の一人、上村が彼女のそばから離れないからだった。上村は当然私よりも遥かに年上ではあるが、この場ではあえて上村と呼び捨てさせていただく。恋敵というより、家族から離れて行く寂しさから来る反発のようなものだ。彼女も上村から離れようとはしない気がした。完全に私は無視されたのだった。
「人の恋意地邪魔する奴は、馬に蹴られて…」
なんて社員の一人にアドバイスされたほどだ。
そんな中、また不思議なことが起こった。
いろいろ観光地を廻った後、旅館に着くと先ずは一風呂といった感じだろうか。義父と一緒に大浴場へ行った。温泉は混浴ではなく男湯だ。しかし、彼女が入って来たのだ。彼女の美しさに周りの男の視線は釘付けにされたように動かない。こんなチャンスなのに恥ずかしがって目をそらす人までいる。
私が湯船に浸かっていると入ってきてその隣に座ると、今日一日離れていたことを詫びるかのように何か楽しげに話をした。こんな不思議な光景なのに、義父をはじめ誰も何も言わない。何も音が聞こえない。温泉は絶え間なくかけ流しだ。楽しい会話をしているはずなのに、私は愛想笑いをし、相槌を打っているだけだ。私の入浴としては、かなり長い時間が過ぎた感じだ。私ものぼせ気味になり、立ち上がった。
でも彼女は浸かったまま。額に汗をかきながら眉間にしわを寄せ、辛そうに熱い。熱い。といっている。音は聞こえないのにそう言っているのはわかった。
「熱いなら出れば。」
という私の言葉に対し、彼女は力が入らないのというのだ。
「どうして?」
と聞くと、脚が…と言う。
「脚がどうしたの?」
と私は問いかけつつ彼女の脚を見た。するとどうだろう。脚が定まった形になっていたいように見える。湯面の波のせいだと目を凝らしてみても膝から下が不自然な形だ。
私はあわてて叫びながら彼女を抱えて、湯船から出そうとすると、空気の抜けた風船の人形のように、皮だけになっている。
「あー!」
と私はショックのあまり叫んだ。周りの人がその事態にどんどん集まってきた。すると私は集まってくる男たちの、目の多さに絶叫して飛び起きた。
周りを見回すと真っ暗。月明かりに照らされた障子だけぼんやりと光っている。そこは旅館の布団の上だった。
「夢か。」
私はほっと一安心したのだが、あまりにもリアルに見た夢であったので、しばらく興奮状態は冷め止まなかった。
社内旅行から帰ってくると、彼女は、私の事など頭の中になくなってしまったように、構わなくなった。夜も毎日のように、遅く帰ってくる日が何日も続くようになった。私は彼女にとって邪魔者になった。そう思うようになり悲しい日々が続いた。
やがてどのような理由なのか子供だった私には知らせないまま彼女は義父の会社を辞め、引っ越していった。間もなくして上村も辞めていった。彼のその後の音沙汰はない。


それからどれくらい年月がたったのだろう。私が小学4年生の冬休み。まだ1ドル=360円の時代、ハワイへ旅行する事になった。
義父はそれまでも盆と正月は国内旅行へ連れて行ってはくれていたのだが、どこへ行っても豪遊だったので、その金額ならハワイもいけるという事で行く事になったのだ。
ハワイ旅行へは私と義父母と彼女、そして余計なのが2人。仕事を貰っているメーカーの社長と先生と呼ばれているデザイナーの女性。合計6人で行った。後でわかった事だがこの社長と先生は不倫関係だった。以前義父と義母と私の3人で社長の自宅へ訪問したとき奥さんと娘さん2人がいたのを憶えている。不倫なんて小4の少年には分からないのは当たり前だが、私たちの四人は一部屋、社長と先生で一部屋だったのは確実に覚えているので不倫関係だったのは確実だ。
小4の私にとってそんな大人の関係はどうでも良く、ハワイだというのもどうでも良かった。ただ久しぶりで彼女と一緒、もう上村のことなど私は思い出すはずもなくとても嬉しかった。行きのジャンボジェットの中、8時間も長かったのに苦にならなかったのは、彼女とずっと手をつないでいたからだ。
海外なんて当然初めてで、それなりに楽しかったと思う。始めてみる真っ白なビーチ、イルカの曲芸、こんなに甘くて美味しいのかとわかったパイナップルに潮吹き岩。運転中なのにタクシーのドアが開くハプニング。どれも楽しかった。だが、私は彼女と一緒にいるのが何より楽しかった。現地で水着をショッピングに行ったとき、試着の更衣室の中も狭いのに一緒だった。そしてお風呂も…。だが、ビーチで一緒にいた記憶はないのだ。
そういえば、夏休みは里帰りしていたと思うが、彼女との思い出が一つもない。浅黒い肌なのに、強い日差しの中で彼女は調和が取れない。似つかわしくないという印象だ。
ハワイ滞在最後の夜、ハワイアンダンスのディナーショーのあと彼女は見たことがないほど酔っていた。泥酔と言っていいほど。女がこんなに酔っちゃってと、少し軽蔑視したのを覚えている。ホテルへ戻ると、自分たちの部屋には戻らずにそのまま6人とも社長と先生の部屋へなだれ込んだ。最後の夜なのでしばしの歓談といった感じだろうか。彼女は両脇に先生と社長に支えられたままベッドへ倒れこんだ。しかも先生は彼女の腰を抱いたままだ。うつ伏せになっていたが先生に抱っこされている体制だ。当時レズビアンなんて言葉も、その意味どころか、そんな関係が存在する事も知らないのに、なんとなく今まで体験した事のない空気になっているのは覚えている。
もう夜も遅いので、私たち家族は部屋へ戻る事にした。社長さんは介抱してすぐ部屋へつれて行くといった。私たちは3人で部屋に戻った。それから30分ぐらい経ってからだろうか、義父はホテルの廊下へ出て左右を見渡し、
「帰ってこない。」
と言いながら怒ってドアと鍵を閉めたのを覚えている。
元社員ではあるが、彼女のご両親から娘を預かった責任があるのなら、私と義母だけを部屋に戻し、回復するまで待っていたら良かったのにと、大人になった今の私なら思うが、義父はどうしてそうしなかったのだろう。仕事上の圧力か何かがあったのだろうか。そうだとしても娘同然に思っている子を、引き渡すなんて卑怯な話だ。
きっとあのドスケベ先生と社長のことだ、最悪な事が行われていたのだろうと想像できる。彼女も大人の世界に好奇心は有ったと思うし…。
結局、彼女が帰ってきたのは次の朝だった。気になっても今となっては訊くに訊けないし、あの酔い方では覚えていない可能性もある。しかし、肌で何か感じていたのだと思う、その夜を境に彼女に対し凄い嫌悪感を覚えた。帰りの長い道のりも席を別にしてもらい、一言も喋らなかったと記憶している。一刻も早く、彼女と離れたいという気持でいっぱいだった。
大人になって、いろいろな情緒が見えてくるようになると、それくらいのアバンチュールよくある事だと気付く。子供だったからしかたがないと思うが、あんな冷たい態度を取ってしまったことを、謝りたい気持でいっぱいになる。だが、お酒は強いはずなのになぜあんなに泥酔してしまったのか? 健康そうに見えるが、ひょっとして彼女は暑さに弱いのだろうか?
季節も違うのになぜだか、秋のとても気持がいい天気の日に、この時の事を毎年のように思い出すのだった。30年たった今でも…


その後しばらくして話したのは、私が高校2年の早春、家の新築祝いだった。もうすでに彼女は結婚しており、義父とは外注として仕事の関係をして、つかず離れずの距離で生活していたのだが、私は会うのが久しぶりだった。
宴会が始まる前からいるのは、お互いわかっていたのに、私のところへ近づいてこない。あのときの気まずさが残っているゆえ、酒と力を借りたのかもしれない。話し出したときは、皮肉にもまた酔っ払った姿だった。旦那さんが迎えに来るまで数十分間、話をした。
「マー君は可愛かったよね。私、本当は食べちゃいたかったんだ。」
高校生には刺激的過ぎるが、私は割と冷めて答えた。
「食べて欲しかったよ。」
「本当?」
「うん。」
「くそー、もったいなかったな。」
酔った席での事だから下品な冗談だったのだろうが、本当に残念そうだった。
よく大人の女性と毛も生えてない少年の肉体的関係をインターネットの某サイトで拝読した事がある。本当にそんな事あるのかなと疑ってばかりだが、思い返すと私自身も体験できた可能性があったのだ。彼女同様、私も残念に思う。
しかし、その内容の本当の意味はやっと現在になってわかった。その内容は最後に話すとしよう。


また月日が経った。
再会したのはつい3年前。私は家を出て結婚し、すでに15年経った頃。彼女は初めて出会ってから30年以上も経ったのに18歳の時のままだった。見た目の年の差は逆転してしまっていた。義父から彼女のご主人は、私の結婚後、間もなく雪道をスリップしガードレールを突き破って崖の下へ転落、亡くなった事は聞いていた。私の結婚生活も、初めから上手く行かなかったが、何とか今まで頑張っていた。しかし、本能は我慢の限界まで来ていた。そんな時、彼女との再会だった。
懐かしさで話をしてはいたが、年下に見える彼女だ。次第に昔の姉と弟のような関係から、男と女の感情が芽生えてきた。私はいけないことと知りつつ、何も逆らうことなく流されるように男女の関係に堕ちていった。
彼女の美しい身体を男としての目線から始めてみる。やはりこれほど美しい身体は見たことがない。カーテンを開けた窓から入る月明かりに、照らされたその身体は透き通っているようだ。まるで夢のようだった。長年求めていた身体、1回や2回の関係で済むはずはない。密会は続いた。
ある夜、彼女は私の子が欲しいといった。あいにく本妻とも子供には恵まれず欲しい気持ちは山々だったが、逆に子供がいないから画家なんていう不安定な職業に身を投じているともいえる。子供なんて育てる自信が無かった。
「大丈夫よ。マー君には一切迷惑かけないから。マー君の好きなハリウッド女優だって、シングルマザーでしょ?」
そう言うと彼女は野獣のように交わってきた。その魅力のお陰で、達するまでそう時間は要さなかった。体を抜こうと思っても、彼女の部分はまるで咥え込む様にし、私から離れない。今までにない興奮にかつてない量を注ぎこんでしまったような気がする。一滴も残さず搾り取られた感じだ。こんな魅惑的な交わりが密会の度に数回続けられた。
やがて彼女は妊娠し私の前から去っていった。きっと私の事を考えて去っていったのだろう。そう私は思った。


そしてまた会うことができたのは、この列車の中。
「久しぶりね。」
「ひょっとしてこの子は?」
と聞く。
「そうよ。」
と短く答えた。私はとても愛しくなり、その娘を抱き寄せた。
「いい子だ。お母さんは優しい?」
頭をなぜながら私はきいた。
「うん。」
娘はコクリとうなずいた。視線を彼女に向けると真っ白な狐の毛でトリミングされたフードを外した。色黒の肌と真っ白なコートのコントラストが眩しく見えた。
「実はね、これは仮の姿なの。もう会えないかもしれないから、マー君には本当の私を見せるけど、今まで見た人で生きてはいないわ。でもマー君は特別。」
そう言うと見る見るうちに彼女の肌は透き通るような真っ白な肌になっていった。同乗していた客の5〜6名はその姿を見たようだ、驚きで固まっている。私も固まっている。これが本当の姿ってどういうことなのだ。しかし、長い間追い求めていた完璧な美を、ついに目にした私は、嬉しさでいっぱいだった。
「マー君には色々迷惑をかけてきてしまったわ、ご免なさい。」
「迷惑って?」
「マー君の記憶にある私はすべて嘘なの。」
「え、どういうこと。」
「私はもう1000年も生きているからウブでもなんでもないわ。いろんな事を知っているの。夏もお風呂も大嫌いだし。」
「え?」
「あなたのお父さんの命を奪ったのもこの私なの。…そのときマー君は子供だったけど、私はあなたを愛してしまったわ。将来子供を産むならマー君の子と決めていたの。これでも葛藤があったのよ。だから一度結婚したけど、マー君をいつも見ていられるところにいたの。マー君が結婚したのをきっかけに、ショックで前の旦那も食べちゃったけど、マー君が結婚生活、上手く行ってなさそうだったから…。」
どういうことなんだ。父は凍死したんじゃなかったのか? 旦那は雪道でスリップ事故だったんじゃなかったのか?
「最近は皆、賢いからなかなか雪山で遭難してくれなくなってね。しばらくぶりだし、今までの分を帳消しにするためにも、この電車に乗っている数名の命貰うわ。でもこの電車にマー君が乗っているなんて、乗った瞬間わかったから、後ろから前まで歩いちゃった。また迷惑かけちゃうね。これも運命なのかしら。」
と言って彼女は私の頬に手を添えると、軽く口付けした。彼女は外から入ってきたばかりだからなのか、氷のように冷たい。私は娘の視線を感じ、よけい脈拍が速くうっているのに気付いた。
「ごめんね、本当にごめんねマー君。…だけどこんなチャンスは無いから、実行させてもらうわね。あなたはかすり傷さえ負わせないから安心して。」
眼のピントも合わないほどの近さで話した。私はもう本当に会えないと察した。会えないとなると私は貪り付くように彼女とキスをした。今までにない長く深いキスだった。その心地よい興奮で一瞬、意識が飛んでしまった。意識が戻ったのは、ガラスのように透き通って濡れた唇が、ゆっくりと離れてゆくところからだった。
興奮も冷め止まぬ中、照れからだろうか、私は車窓の外に目を転じた。すると竜巻と思える。雪の柱のようなものが見えた。そして電車は鉄橋を差し掛かった。
そのときである、突風のような横風が列車にぶち当たったかと思うと、いきなり50tもある485系の重い車体はフワッと宙に浮いた。
音は消え、まるでスローモーションのように見える。乗客も荷物も全て宙に浮いている中、彼女と娘、そして私は身体の形通りの低反発クッションで固定されているかのように動かなかった。その刹那に脱線、先頭車両は建物にあたり、くの字に折れ、2両目、3両目も脱線した。1両目からは死者が出た。彼女の本当の姿を見た人々だ。
私と彼女そして娘は何事もなかったかのように車外で立っていた。猛吹雪の中なのに少しも寒くないし、音も無い。気がつくと、1両目の車体を覆う透明なドームが存在するかのように、吹雪は除けて通り過ぎる。
「でも、マー君に知って貰えて良かったわ。私の本当の姿を。この子にも父親がどんな人かわかっただろうし。」
そういうと彼女は壊れた電車に近づいて行き、何かを拾うような動きをした。小さくて私からはよく見えないが水晶のように透明でキラキラ光るものだ。そして拾ったものは胸の谷間に入れている。
しばらくすると彼女は私に微笑みかけた。娘は満面の笑顔で手を振っている。彼女と娘は吹雪の中へ消えていった。






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