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「まぼるって強いと思う。」
「私も最近はそう思います。自分は強く成れたと。でも、どんな事にも強いと言う訳では無い。私は心の訓練をした分だけ強く成る。経験した事が無い種類の侮辱を受けたら、僕は、怒り任せに、相手に矛言葉を差し向けて仕舞う。」 俺は其(そ)の話を聞いて、思い出した言葉が有った。有る物が有る。無い物は努力して創られば有る。何もし無ければ、無い物は無い。」 此(こ)の言葉は、まぼるに会った初めの頃に聞かされた。初めは、「有る」だの「無い」だの訳の解ら無い事を言う、こいつは気狂い(きちがい)だなと思った。 けれども、寮生活を始めて、其(そ)の言葉の意味を理解し始めた。家族と一緒に暮らして居た時には気にも留め無かった当たり前だと思って居た事が、僕以外の家族の誰かがしてくれていたんだなと、強く感じる様に成った。そう感じさせられる事が幾(いく)つも有(あ)った。炊飯の事。僕が実家に暮らした時代では御飯は何時(いつ)炊飯器の中に有った。泉の様に。だけれども、其れは、自然現象でそう成る訳では無い。俺の母が米を研(と)いで、蛇口を捻(ひね)り、水の量を確認し、炊飯器に入れて釦(ぼたん)を押したから、炊飯器からはホカホカの御飯を茶碗に寄(よ)そる事が可能だったのだ。 何もし無ければ、無い物は無い。当たり前だ。其(そ)の位(くらい)の事は、俺にだって解っていた。頭で。寮生活を始めて、実感として当たり前の事を学んだ。 「僕は、幾つかの知識を持っている。だけれども、知ら無い事はやっぱり知ら無い。鍛えた事が無い部分に関しては、やっぱり弱い。だから、いきなり強過ぎる言葉を僕に浴びせ掛ける事はし無いで欲しい。徐々に厳しい言葉で攻めて来て欲しい。」 俺は唾を飲んだ。 まぼるが俺に御願いをした。 まぼるが俺に弱い部分が有ると発表した。 心が強く見えるまぼるの弱い部分を知り、俺はまぼるとの仲間意識を強くした。 何時だって真面目なまぼるの「御願い」は重かった。 俺は俺には持ち切れなさそうな重さをまぼるから持たされた。 其の事に涙が出る程嬉しかった。 と言うか涙が出た。 まぼるには見せ無かった。 食堂に突っ伏せて、まぼるには顔を見られ無い方向に顔を向けた。腕で涙を拭き取りつつ。 このタイミングで涙を出す事に成るとは思いも寄ら無かった。 まぼるが普段一生懸命に生きている事を知るが故(ゆえ)の涙だった。 自分が悪役に成る事を買い、自分が好きな相手の為を思って、相手から離れて、高校を卒業し、大学に入ってからは、自分に何か世の中の為に出来はし無いかと考えた末に、「言葉」と言う道具しか上手く使え無いと思い至り、祈る様に言葉を発するまぼるの気持ちは俺には解っていた。 こんな何気無い大学生食堂での会話だって、自分と話す相手の未来と、社会の未来、学校の未来を考慮して一言、気を入れながら言葉を使っている事も俺は知っていた。 知っていたからこそ、まぼるが言った、「御願い」は重かった。 俺は暫くしてから返事を食堂の外を眺めながら言った。 「了解っ!」 俺は、まぼるには、安易に傷付く言葉を言わ無い。 まぼるが言う様に心が傷付く事も心を強くする為には必要だ。 少しずつ突っ突(つ)こう、其の昼休み時間に心に決めて、肝に命じた。 俺が持つ気と、まぼるが持つ気は異なる。気が違う。とまぼるは思ってるのだろう。が俺にはまぼるの気持ちは実は解っていた。そりゃあ、其れ其れ違う人なのだから、違う種類の気を持つのだろうけれど。気違いどころか…。 (筆者:羽旨魔歩流)
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羽旨魔歩流の気違い
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