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サークルの部室は学生食堂の裏側にあって、古い木造の2階建てだった。その一階の端っこ
に立て付けの悪いドアがあって・・・・なかなか開かないので窓から出入りしている部員も多数
いた・・・・そこを開けるとタバコの煙と酒の匂いとバッド・カンパニーの曲が外へと流れ出てくる
のであった。
その日、僕が部室を訪ねると、いつもの通りの先客がいた。一日の大半をこの部室で過ごし
時には酔っぱらって宿泊している先輩AとBであった。先輩AとBは同学年の先輩Cの足がいか
に臭いかについて話し合っていた。先輩Cは、この文芸サークル以外に、落語研究会にも所属
していた。
「それにしても強烈だぜぇ・・・・あいつの足は」
「俺も人のことは云えないけど、あいつのことだけはいくら悪く言っても言い足りないわ」
「あれで落研だもんなぁ〜〜・・・・・前の客はかわいそうだ」
「足袋にオードイーター入れてるんだろ。あいつ」
「あいつの家は絨毯変わりにオードイーターを敷き詰めてあるらしい」
「一家でくせえのかよ?」
「しらん・・・・・・あれ!!???・・・・・・高畑・・・・・お前なにやってんだ?」
先輩AとBの視線を辿ると、部屋の真ん中に置かれたでかいテーブルの奥に高畑が座っていた。
夏休み前以来三ヶ月ぶりに見る高畑は、木の椅子にうずくまって、自分の靴の匂いをかぎながら
顔を上げた。
「・・・・・・・・・・・・たかはた・・・・・・・・お前も足臭いのか?」
先輩Aが言った。フランス帰りの高畑は、おかっぱだった黒髪を薄茶色に染めていた、その軽やか
なウェーブのかかった髪の間から覗く瞳は・・・・・重々しく暗かった。
高畑は右手に持ったハイヒールを鼻に押しつけるようにしてクンクンと匂いをかいでいた。そのハイ
ヒールは爪先が必要以上に鋭く尖っていて、凶器のように見るものを威嚇する、彼女のトレードマー
クだった。(自称落研のホープである先輩Cは、それをブッチャーブーツと呼んでいた)
「たたたっ・・・・たかはた・・・・・どーした???だいじょーぶか???」
先輩Bが心配げに腰を上げた。
「いやいやだいじょうぶです・・・・・自分の靴の匂いを急に嗅いでみたくなっただけで・・・」
その時、午後の授業を知らせる予鈴が鳴り響き、先輩二人はそそくさと部室を出て行った。
入り口に取り残された僕は、ここで会うとは思っても見なかった高畑の姿に、自分をどう対応させて
よいのか分からず逃げ出したいような衝動にも駆られた。
「久しぶりだね・・・・・・」
そう言って、高畑は鼻から靴を離した。
「・・・・・・・・・うん・・・・・・・帰ってるとは思わなかった」
「ふんっ・・・・・・帰ってきちまったよ」
高畑の服装は、あきらかに洗練されていた(・・・・というか、以前が無頓着過ぎた)以前はダボダボ
した印象だった容姿がパキパキしていた・・・・・・ドボドボしていた滑舌がピキピキしてきこえた。
そんでもってツヤツヤしたスーツの下に見える紫のブラウスが「わたしは無謀を覚悟で未知なる
大人の女への道を歩み始めてしまったのよ・・・・」的な強く痛い意志を物語っているのだった。
その紫色の上に描かれたシュールな模様に何処か見覚えがあって。僕はそれをジーッと見つめ
ていた。高畑は僕の食い入るような視線の先をなぞって、自分の胸元を見た。
「なに見てるのよ・・・・・」高畑はピキピキした声で僕に言った。
「いやいや・・・・・そのブラウス・・・・・」
「可愛いでしょ・・・・・ちょっとシュールレがかってて・・・・・」
そう言って僕を見つめる高畑の瞳には、無謀な覚悟が秘められていたのかも知れない。
だけど、僕はその時不意に気づいたのだった。そのブラウスの生地と、今僕の履いているパンツ
の模様が瓜二つだということに・・・・・・・僕たちは、案外繊細な部分で趣味が合うのかも知れない。
そんなことを考えながらボンヤリと高畑を見つめた・・・・・高畑も視線を逸らさなかった。
「わたし、帰ってきちゃったよ・・・・・独りで・・・・・この街に・・・・・」
声も容姿も思考も全て芝居がかって見えたのだけど・・・・・僕は、その全てを許容したうえで、高畑
を好きになっていたのかも知れない・・・・・・その瞬間に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく。
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小説
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ふふ、やっぱりmasayukiさんはその頃私に会ってたら、完全に惚れてたな(笑)。高畑的行動が納得できるとともに、この歌も大好き。
2010/10/27(水) 午後 11:06 [ saku ]
sakuさん
いやいや今だって惚れちゃうと思うよ(笑)
2010/10/28(木) 午前 8:03 [ すいす ]
つづきはないんですか? 気になる。
2010/10/29(金) 午後 3:50 [ onkun ]
おんくん
ちょっと待っててくらはい・・
2010/10/30(土) 午後 3:13 [ すいす ]
何時の間にか小説を再開されて、いたのですね!!
楽しく読ませて頂きました。でも、この文体は?!・・・
2010/10/30(土) 午後 8:31
イチローさん
はいボチボチ書いてます
2010/10/31(日) 午前 7:02 [ すいす ]
剽窃紛いの文章は書かない事だな、あっは!
2010/10/31(日) 午前 7:46 [ str*tc*ster*1*59 ]