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ランボー・・・好き?

      もう秋なのか・・・・などとアルチュールランボーのごとく呟いて

    煙草を吸いながら、雨模様の空をながめている。

    
    ランボーは中学生の頃から愛読している。最初は金子光晴の訳で読んだ。

    それ以外にも小林秀雄訳、粟津則夫訳、他数冊が本棚にある。

    最近は、名前を失念したが、ちくま文庫の訳本を枕元に置いている。


    フランス語が分かれば原書で読みたいのだが、今までそういう努力を怠ってきたし

    今更、習う気にもなれない。


    「何で同じ内容の本をこんなに買ってるのよ、ばっかじゃない」と嫁がなじる。

    「うるせー、お前ごときに、この俺の無垢で純粋で繊細な気持ちが分かってたまるか」

    と、心の中で叫びながら、おずおずと、その冷たい視線を避ける。

    
    私のようなランボー好きが、この国に大勢いるのではないだろうか?

酒の席での余興に「酔いどれ舟」など暗唱し、若い部下達の不興を買っている

    中年が、何処かにいるのでは・・・・・。



    中学時代、誰彼かまわずランボーについて熱く語りかけ、呆れて誰も相手に

    してくれなくなって、終いには自分の祖母を相手に、「地獄の季節が」どーの

    「イリュミナシオン」がこーのと、喋り続けた自分の姿を思い出し、苦笑して

    しまう。「そーかい、そーかい」と訳も分からず聴いてくれた祖母も、もう

    いない。



    ランボーが好きということは、決してランボーに付いて研究しようとする

    事ではない。ランボー好きは、アルチュールランボーその物になりたかった

    嘗ての少年達の事なのである。


    などと・・・・負け惜しみ的に呟いてみる秋の入り口。

     


    

水晶の舟 其の四

 その日の夜、隣の男が訊ねてきた。

 銭湯帰りに買った缶ビールを呑みながら、私はインターネットで将棋を指していた。
 幾つかの部屋を覗いて「パラドックス」を探してはみたのだが、やはりこの時間に彼はいなかった。
三千人もの将棋好きが、アルファベットと数字を組み合わせた記号に姿を変えて、この画面の中にいる。
 ある時間にだけ姿を見せる人もいれば、一日中画面の中で過ごしているような人もいる。 
勝ち負けに拘らず、将棋を楽しむ人もいれば、勝つことのみに拘泥し、あらゆる権謀術数をめぐらす輩もいる。話し好きの人もいれば、暴言を吐き散らす奴もいる。会社の経営者もいれば、受験生もいる。
医者や弁護士もいれば・・・・ニート、引き籠もりもいる・・・・・・。 
 ただ単に「将棋好きの集り」という一言では括りきれない何かが、この画面の向こうにはある。

 この中で一体、自分はどういう位置にいるのだろう、棋力は上位に属しているが、生活も人生も破綻寸前にある。守りの駒を全て失い、詰みを覚悟した玉のようだ。 
「パラドックス」を探しながら、私はそんな事を考えていた。
 
 以前に指したことのある相手を見つけて、対戦している最中に、隣の物音が聞こえた。
その途端、私は集中力を失った。
 ドアが開閉される音・・・数歩で部屋を横切る足音・・・建付の悪い窓が引き開けられる音・・・
衣類が擦れる音・・・・・・・携帯電話の着信音・・・・・もそもそと会話する声・・・・・・・・・
蛇口を捻る音・・・・水の流れる音・・・それをコップで受ける音・・水が喉から体内へ流れ落ちる音。
 

    (どうしました・・・時間切れになりますよ)

 パソコンの画面に書かれた相手のメッセージに気付き、我に返った。

  (ごめんなさい・・・ちょっと考え事してて)

 慌てて返事を返し、駒を動かした。    最悪の一手だった。

    (なんか・・・今日は変ですね)

  (はい・・・ちょっと悩み事が・・・・)

 私は、投了のボタンを押して(負けました)と打った。

    (悩み事ですか・・・・あなたは女性の方ですね?)

 (はい)

    (私は七十になる老人です、人生で課せられた義務はつつがなく完了し、最早悩む事柄もない)

  (・・・はい)

    (悩む事が無くなると、終局ですね将棋も人生も)

  (そんなこと・・・・)

    (楽しみは孫と遊ぶのと此処での将棋位です)

  (お幸せなんですね)
 
    (平穏無事で、単調な暮らしを幸せと呼ぶのなら、確かに今は幸せです)
    
  (それは・・私が捨てて・・・今・・後悔してる物かも知れない・・・・・)

    (そうですか。調子の良い時に、またお願いします、あなたは筋が良いから、指してて楽しい)

  (はい、ありがとうございます)
 

 私は、席を去りパソコンの電源を落とした。途端に深い夜が私を包み込んだ。
遠くでサイレンの音が鳴っている。中古で手に入れた扇風機がぎしぎしと呻いている。
 隣室の扉が、何か不安げに開く音が聞こえる。

   
 
        つづく

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