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小説のネタ

  夢で見たものをヒントにして一つの物語ができあがる場合がある。自分の潜在意識を追いかけ

  ながら想像力で肉付けしていくのでこれはけっこう面白い作業だと思う。


  昨夜見た夢・・・・・・・何世紀か前に絶滅した動物の話。

  その動物の話を最初に耳にするのは、たぶん深夜のラジオから聞こえてくる番組の中での事だ

  った。それを聞いているうちに、なんとなく懐かしく感じ始める。その動物は海にすむ獣で、

  躰は人間の何倍もあるのだが、動きが鈍く、おまけに正確がとびきり穏和で優しいせいで人間

  に滅ぼされてしまう。

  そのラジオを聴いた日の日中、僕は別の場所で(病院の待合い室とか行き付けの定食屋)其処に

  置いてあった古い雑誌の誌面に同じ動物の記事を見つける。

  そして家に帰り、家族と夕飯の席を囲んでいると、いきなり娘が、その絶滅した海獣の話を僕

  に話し出す。


  だいたいこんなストーリーだった。目が覚めてから多少肉付けした部分もある。

  いつの間にか、この絶滅した動物の話題が自分の日常を取り囲み、僕は自分の遠い記憶の中か

  ら、ある出来事を探り出す・・・・・それは幼い頃、その動物の載った絵本を僕に読んでくれ

  た人の記憶・・・・・・さて、ここからが想像力を発揮する領域です。


  ・・・・・・・なにか面白い結末があるのなら・・・・ここまでの話をお譲りしますよ。


  それでは・・・・憂鬱な気分を引き摺って飲みに出掛けます・・・・笑。

4月になれば・・・・

  「意外と小さいのね・・・・・」

  背後で独り言のように呟く妻の言葉を聞いて、私は我に返った。

  何十年ぶりかで訪れた故郷。私の生まれ育った場所に、妻を連れてくるのは始めてだった。

  定年を迎えて職場を去り、家で退屈な毎日を送っていた私を、妻が旅行に誘った。

  彼女と二人で出かけることなど滅多になかったから、行く場所など何処でも良かったのだが

  妻の提案で目的地が決まった。


   少年時代を私が過ごした場所、そして追われるように家族で逃げ出した、私の故郷。

  「あなた大家族だから、もっと大きな場所を想像してたわ」

  「そうだね・・・・子供の頃はバカでかい家に感じてたんだけど」

   家は取り壊され、雑草の生えた更地になっていた。

  姉弟と隠れんぼをしたり、喧嘩をしたり、親に叱られて泣きながら祖母の部屋に駆け込んで

  布団の中で慰めてもらったり。様々な想い出がこの場所に埋まっている。

  「この辺に台所があったんだ」

  私は嘗て、母親が夕餉の準備をしていた場所に立った。貧弱なコンクリートの上に簀の子を

  乗せただけの台所で、煮炊きをする母親の姿が浮かび上がった。

  すきま風の入る古い家だったが、家に帰ると必ず母親のいたこの場所だけは、常に暖かだった。


   家では小さな商いをやっていて、そこそこ豊かな家庭だったが、ある時から、父親が博打に

  手を染めて急激に傾いた。二つ年上の兄が中学にあがる年の冬から春にかけてが、一番酷い時

  期だった。あんなに明るかった母親が段々無口になり、やがてブツブツと独り言を口にするこ

  とが多くなった。怖い大人達が、我が家に出入りするようになり、その度に私たち姉弟は家の

  彼方此方に分散して隠れた。

   優しく綺麗だった母親の顔が、無表情な老婆のものに変化していき、家は荒れ放題になって

  いた。

   ある日、家に帰ると、昼寝をしている弟の首に手をかけている母親の姿を見つけた。

  私は驚いて駆け寄り、母親の手を強く握りしめて哀願した。蝋人形のようなその顔に生気が
 
  戻り、母親は泣き崩れた。私は母親の首にしがみつき、大声で泣いた。

  「ごめんね、ごめんね」眠りから覚めた弟と私に、母親はそう繰り返し、泣き続けた。

  「もう少し我慢してね・・・・きっと・・・4月になれば・・・・・」

  


   一瞬の強い風が私の頬を過ぎり、曖昧な記憶を運び去っていった。

  桜の花びらが、春の風に乗って舞っている。私は嘗て母のいた場所にしゃがみ込み、空を見あ

  げた。

  「少し疲れたんでしょ」

  「うん・・・・随分歩いたからね」

  「だけど、良い処ねここ・・・・この土地買って家建てようか?」

  「今更いいよ・・・何時まで生きられるかわからないし・・・・」

  「ねえねえ・・・・なに思い出してるの?」

  「・・・・・・なにもないよ」

  「泣いてるわよ・・・・あなた」

  「たまにはいいだろ・・・・・4月になれば・・・・・」

  「なによ?・・・・・もう4月よ」

  「そうだね、もう4月だ」


  4月になれば・・・・・何か望みでもあったのだろうか?

  優しかった母親のいた場所から、私は空を見あげて、問いかけてみた。


 

  

  「いま、なにか轢いたでしょ」

  助手席に座る妻が言った。いつものおっとりとした口調だったので、夕飯は何を食べよう

  か、とか明日の朝は早く家を出るの、といったような事を僕に訊ねているのかと思った。

  「あなた・・・なにか轢いたわよ」

  僕たちは真っ暗な山道を車で走っていた。峠を下って、漸く眼下に街の灯りが見えてくる

  地点にいた。

  「そーかな・・・・なんの衝撃もなかったけど」

  そう言って、僕は助手席にチラリと眼をやった。妻は助手席の窓に顔を向けて、暗い闇を

  眺めている。彼女の実家で法事があり、その帰り道だった。久しぶりに会う両親や親戚に

  囲まれて、妻は少女のように活き活きとしていた。あんなに無防備な笑顔を見るのは暫く

  ぶりだった。あまり親しくない人達に酒を注ぎ、愛想笑いしながら、僕の視線は彼女の姿

  を追いかけていた。

  「ねえ、戻りましょうよ。気になるわ」

  「戻ったってなにもないよ・・・僕はなにも轢いちゃいない」

  「だけど、一応確認しなくちゃ・・・・」

  「ねえ、僕は疲れてるんだ・・・・・早く家に帰りたい」

  「だって・・・」

  「君の勘違いだよ、おそらく、石でも跳ねたんだろう」

  「だって・・・・聞こえたもん・・・・悲鳴が」

  「寝ぼけておかしな夢でも見たんだよ」

  僕は少し苛苛した口調でそう言った。とにかく早く帰りたかった。そして、この女を抱きた

  かった。

  曲がりくねった下り坂をおりて、赤信号で車を止めた。助手席を見ると、妻は黒い塊のよう

  に身を屈めていた。その小さな肩に手を置くと、小刻みに震えているのが分かった。

  「ほんとに、なにか轢いたのかな・・・・」そう囁いた瞬間、僕の首筋に恐怖が奔った。

  「轢いたのよ・・・・私の言うことなんか、なにも信じてくれないのね」

  信号が青に変わり、僕はアクセルを踏んだ。家に帰るまでの間に、別の話のきっかけを

  作ろうとあれこれ考えてみたが、結局彼女との間には、なんの話題も見つけることができ

  なかった。

  

  

  

日溜まりのテーブル

  
  まだ一日は終わらない。陽が沈み辺りが闇に包まれるまでには、少し時間がある。

  夕暮れ前の雑踏には、甘くやるせない狂気が隠れている。行き交う人々の口元には

  行く当てのない歌が沈んでいる。
  
  外の喧噪から逃れて部屋に彷徨い込んだ光が、テーブルの上で揺れている。凍えた

  子供のように小刻みに震えながら。誰かを待ち続ける瞳のように、定まらぬ視線で

  淡く消えいりそうに、白い光が震えている。

  
  テーブルの向こう側で俯く少女の頬も、時々小さく震える。泣いていいのか、微笑

  んでしまおうか迷っているように見える。

  私は少女にかける言葉を躊躇っている。何度か口を開こうとしたのだが、その度に

  白い光が彼女の表情を隠してしまう。

  混乱から逃れるように、私の記憶は時を遡っていく。少女の姿がみるみる小さくなり

  泣きじゃくるまっ赤な顔が、私のこめかみを熱くする。

  ・・・・・・・この子を泣かせてばかりいた。そして私は、この子の母親を傷付けた。

  「なぜ・・・・・・・・・」

  消えいりそうな声が、部屋に響いた。なぜ殴ったのか。なぜ罵倒したのか。なぜ・・・・

  捨てるように出て行ったのか。私には応える言葉がない。自分の馬鹿げた理想や、ちっ

  ぽけなエゴや、収拾の付かない意固地な傷を説明する言葉など尚更無い。

  傷ついた妻と泣きじゃくるこの子の姿が、私の行き着いた場所だった。そして、私は其処

  に居ることに耐えられなくなり、逃げ出したのだった。

  
  陽が翳り、狭い部屋の中に少女の白い顔が浮かび上がった。時々鼻を啜っては小さな掌で

  頬を擦る美しい少女の存在が、私の小さな住処を温かく包んでくれている。

  「もう帰らなきゃね」そう言って、少女はテーブルの上に紙袋を置いた。

  「そろそろ寒くなるからと思って・・・・・・」

  玄関に向かう少女の後ろ姿を、私は座ったまま見送った。彼女が開けたドアの向こうから

  冷たい風と、様々な光と、街中の深い闇が、私の部屋に入り込んだ。

  「でも、なぜ・・・・・帰ってきてくれないの」

  溜息のような言葉と共に、扉が閉まった。

  
  私は暫くぼんやりとそれを眺めたあと、紙袋を開けて赤いマフラーを取り出した。

  隅の方に、私の名前が刺繍されていた。

  「ばか・・・・こんなの派手じゃないか・・・・・」

  テーブルの上に一枚の写真が落ちた。私はそれを見詰め、マフラーを頬にあてて泣いた。

  私の膝の上で笑う、幼い娘・・・・カメラに顔を向けて笑っている私。

  その前に置かれたテーブルの上には、優しい光が満ちあふれていた。

  

初冬

  「ねえ・・・・ほんとにこれでお終いなんでしょ?」

  今日最期の診察を受けて、部屋から出てきた妻が、私にそっと囁いた。

  廊下に置かれた長い椅子に座って、じっと順番を待つ患者達の眼を気にしながら、妻は少し

  背伸びをして、私の耳元に顔を近付けてきた。

  「ねえ・・・・もうお終いでしょ」

  「そうだよ、今日はこれで終わりだ。何か買い物して帰ろうか?」

  病院内の、何か尋常でない空気に気圧されないよう、私ははっきりした声でそう言った。

  暗く長い廊下の外れから、済んだ冷たい空気が流れ込んできて、私の頬を震わせた。

  私の顔を覗き込む妻の瞳が、小刻みに震え、白く変色しながら、私から遠離っていく。

  少し開いた唇から、細い舌を覗かせて、ごくりと生唾をのみ込む。それが昔からの妻の癖

  だった。その仕草を見る度に、私はホッとした。少しずつ記憶を無くしていく妻本来の姿

  を、私はそんな些細な仕草の中に確認し、今目の前にいる女と過ごした幸せな記憶の中で

  彼女との再会を楽しむのだった。

  しかし、それは此処にいる妻ではない。私は現在目の前にいる妻に内緒で、若かりし頃の

  妻と密会している。そうすることで、私は辛うじて老いの恐怖を回避し、現在ある状況に

  対処する力を得ているのだ。

  「ほんとに、もうお終いでしょ?」

  「そうだよ・・・さあ、家に帰ろう」

  私は妻の手を握って病院を出た。十一月の街は、もうすっかり冬の色をしていた。

  買い物客で賑わう夕暮れの商店街を、私は妻の手を握りしめて歩いた。私より半歩後ろを

  歩く妻が、出逢った頃の溌剌とした姿に変わっていった。私は少しずつ速度を上げて歩い

  ていた。

  「新しいコートを買おうよ・・・・今年の冬は寒いっていうから」

  人混みをかき分けてテンポ良く歩きながら、私は妻に話しかけた。人混みからはぐれぬよう

  妻はしっかりと私の手を握ってきた。

  「病院の雰囲気が暗いからさあ、明るい色のコートにしよう。君は体型変わらないから少し

  若向きの物だって似合う筈だよ」

  雑踏の騒音にかき消されないよう、私は元気よく語りかけた。細く小さな掌から、忘れかけ

  ていた様々な記憶が蘇ってきた。


  ショーウィンドーの前で、私は妻の肩を抱き、店の中に入るよう促した。

  妻は動こうとせずに、大きなガラスの前に佇んだままでいた。

  「どうしたの? 入ろうよ」

  妻はガラスに映る二人の姿をじっと見つめていた。私は躊躇いがちに、妻と同じ物を見た。

  「・・・・ほんとに・・・お終いなんでしょ・・・」

  店の中に飾られた様々な色彩が乱れ、崩れ、流れ出した。私の大切な記憶も、容赦なく崩れ

  、堰き止めようもなく流れ出していた。


  「もう少しだけ・・・・あと少しだけ我慢してくれ・・・コートを選ぶまで」

  「・・・ねえ・・・お終いなんでしょ・・・・」

  暗いガラスの中から、じっと私を見つめて、妻はそう繰り返した。

  

  

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