詩の擁護

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  4月はいろいろなものが始まる季節である、と同時に様々な別れの季節でもある。

  繰り返し訪れるこの季節を、毎回様々な感慨を持って迎えてきた。

  学生時代から社会に出て、結婚し子供を授かって・・・・。その中でいろいろな出逢い

  と別れがあった。決して特別なことじゃない。ごく平凡で日常的な出来事である。

  自分の過ごしてきた時間を振り返るのは億劫だが、出会った人達の喜びや悲しみの表情

  が時々脳裏に蘇る・・・・僕は彼らから、何を学んで来たのだろうか。





  四月は残酷きわまる月で、

  死んだ土地からライラックをそだて、

  記憶と欲望をまぜあわせ、

  鈍重な根を春雨で刺戟する。

  冬はぼくらを温かくしてくれた、

  地球を忘却の雪でおおい、

  ちいさな命を乾いた球根でやしないながら。


          「荒地  1 死者をほうむる」 抄  T.S エリオット


  

 コーヒーでも飲みながら、寛いでゆっくり観賞してみてください・・・・・masayuki



   もう病気はなおっていると
   あたしの耳のそばでいうのだ
   だからつれていってよ
   あなたも耳のそばで
   なにかちいさい声でいうのよ
   うまれてこのかたつづいた
   頭痛のごとき雨期が
   今朝せいりした新聞のなかに
   たたみこまれていってしまった
   夏になると
   たぶん
   年増のおんなのようになって
   感覚にもけじめというものがつくのだった
   ひざのうえにレンブラントの画集かなにかを
   いちにちじゅうひろげて
   シナのちいさい足のおんなになってしまった
   おバカさんていいながら
   耳たぶにゆっくりキスしながら
   あたいを助けおこしてよ
   アンズのような味のする
   あたいの永遠というものを
   ミサにでもいって祈ってよ

   あたいだちが旅に出ると
   男が赤ん坊を背中にしばって
   夜のお菜をみつくろうのを見るのだ
   その脚がけとばす
   いくたりかの少年をみるのだ
   赤児のまちがった嘆きのなみだが
   その子が摘んではしがんで
   しがんでは吐きだすノビルやゼンマイが
   町の小路のわきから這い出る
   醤油で煮しめた牛の胴や腹が
   ころがるように道ばたにつみかさなって
   あなたがゆびさす方角をあたしはみつめ
   あたいだちはゆくのだ
   あたいのようなちいさな少女が
   風呂の中で乳と腹をおもおもしくたくしあげ
   いつもいつも洗っているのがよく見えた
   あなたはいったいいくつなのよ  
   たとえばあなたが七十才なら
   あたいはあんたとはだかでねむりたい

   わかっているんだ
   あなたは頭をまるめて
   あたしを虹のいろにかざった
   あたしはあなたのいれてくれた
   あの朝のコーヒーのひとさじの砂糖で
   殺されるより
   殺しはしないかと・・・・
   それぐらいに
   あたいの人生も長かった

   かなしいことなんてなにひとつなかった
   サカナがいまから交接しようとする
   恥でしめったきものをぬいで
   あのときわ木のこずえに
   窓から手をのばしてかけたまえ
   天井からおちてくる泥の色したしずくで
   おまえとふたりをかこむ壁はしみわたり
   夏のまひるに
   霧が窓硝子にもたれているんだ
   これでもむかしはスポーツが好きだった
   おめざめのせっぷんも
   あたいにはする気がしない
   かざりたてられる男の貢物
   まつりの次のあたしには
   きみたちにもやされて
   きわめてながい疲れを忘れることができる

   風のふきぬける頭のうえに
   毛糸の帽子をあみだにのせて
   あんたはあたいの誘いにのるんだ
   むかしの旅のひとのごとくに
   なまあたたかい植物のしたで
   おくれてくる季節を
   口に入れて舌でころがすのだ
   あたいだって時おりは
   懐疑というものをつかまえて
   葱のあたまにふりそそぐ
   帰らぬ雨をみているばかりであった
   今日は杖をどうしたのよ
   杖をもたなきゃ年寄りらしくなくていや

   きみの肩が
   骨をむきだしにしてうたいだし
   さかりのついた猫が
   ここかしこに
   きみと声をあわせて啼いて
   あたいを狂気じみておどかすんだ
   そんなとき
   あんたはぎこちなくも
   あたいをかばってくれた
   いったい
   いついいだしたものか
   あたいだちは
   礼儀ただしく
   さよならと・・・・
   あなたには見えもしないにんげんの生涯
   あたいはあなたに厚化粧をした
   あなたはあたいのすきな
   歩きかたをしてくれた
   あなたはいつも
   あたいの気に入るすがたをしてくれた
   あたいはあんたでなく
   あんたではなく
   なんていえばいいか
   たとえば

   きみはひとのむれと動物をけりながら
   ひとりでバスをおりるのだ
   いままでふみつけてきた
   じゅうたんに素肌でねころぶのだ
   こわくありませんか
   膝がしらの好色の
   となりのおんなにささやく
   このバスはふかい林を通り
   殺されるにんげんのひらいた目が
   いつも乾いているのです
   森のなかでは
   おおきな腹をつきだした裸体の幼児が
   ときどきバスにひかれて
   かれの臓物が時代の空にひろがり
   そのたましいは
   安ホテルの幼児の情人にとどいた
   ねえバスがしまったら
   苔のしとねに枕をかわして
   なにかいいお話をしてよ
   ほこりのまいあがってしまった夏のくれは
   あおい鏡のドアがひらいて
   背中からおしつけられるように
   酒のやかたにとじこめられることもあった
   綿入れのチャンチャンコのしたで
   白いカラーがきみの頸すじに切れ目を入れ
   かん高い声がさけぶのだった
   こんなにたいくつじゃないわね
   あたいだち・・・・
   ふるえる指がブランデーをかかげ
   男と男が鼻をつきあわして
   胸ポケットのハンカチを嗅ぎあった
   あたいおんなの人とハナシがしたいのよ
   おんなのひとはいないの
   むかしむかしは
   おんなの人なんてひとりもいなかったんだ
   あんたってば
   あたいのまっすぐの髪の毛をなでて
   いい子いい子してちょうだいよ
   あなたの手のひらが
   あたいを神さまへの犠牲のように
   ありあまる装飾をしてくれるだろう
   あたいにかざられるあたいのこいびと
   あなたにかざられるこのあたし
   あなたがついでくれるあたしのグラスは
   いつも椅子のしたにそうっとおとされて
   だれかがふみつぶすと
   それはやがて
   霙のようにまいあがり
   そこここの男のちいさい寂寞に
   ちいさな穴をうがつのであった
   あんたはたいくつじゃないわね
   あんたはもう帰っていって
   あたいをまつる祭壇をつくるのよ


                       富岡多恵子「草でつくられた狗」

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   鳥、千の鳥たちは

   眼を閉じ眼をひらく

   鳥たちは

   樹木のあいだにくるしむ。



   眞紅の鳥と眞紅の星は闘い

   ぼくの皮膚を傷つける

   ぼくの声は裂けるだろう

   ぼくは発狂する

   ぼくは熟睡する。


   
   鳥の卵に孵った蝶のように

   ぼくは土の上に虹を書く

   脈搏が星から聴こえるように

   ぼくは恋人の胸に頬を埋める。


            「地上の星」 滝口修造


   コーヒーの沁みやら手垢で汚れて、本を開くとページが剥がれそうになっているのですが

   長年持ち歩いているので、それも仕方ないですね。前にも一度取り上げた人ですが、もう

   一度紹介してみます。詩の言葉というのは、思わぬ時に不意に訪れる。探している時には

   一行も浮かばないのだけれど、ちょっとした一行、一句を切っ掛けにして詩は導き出され

   その姿を目の前に現してくれる。言葉が訪れる瞬間には、ある予感が働いて心地よい間が

   ある。「ぼくは発狂する   ぼくは熟睡する」この二行の美しい間のように。




   うつくしい歯は樹がくれに歌った

   形のいい耳は雲間にあった

   玉虫色の爪は水にまじった

   脱ぎすてた小石

   すべてが足跡のように

   そよ風さえ

   傾いた椅子の中に失われた

   麦畑の中の扉の発狂

   空気のラビリンス

   そこには一枚のカードもない

   そこには一つのコップもない

   欲望の楽器のように

   ひとすじの奇妙な線で貫かれていた

   それは辛うじて小鳥の表情に似ていた

   それは死の浮標のように

   春の風に棲まるだろう

   それは辛うじて小鳥の均衡に似ていた


                   「妖精の距離」 滝口修造



   滝口さんの詩を眺めていると、言葉が奇妙な生き物のように思えてくる。独りきの書斎で

   言葉立ちと戯れる詩人の横顔がぼんやりと浮かぶ。「小鳥の均衡」とは一体なにか?

   そんなことを考えながら三十年近くも、彼の詩と戯れている。





   「詩は信仰ではない。論理ではない。詩は行為である。行為は行為を拒絶する

    夢の影が詩の影に似たのはこの瞬間であった」

                       「詩と実在」 滝口修造

帰途   田村隆一

  言葉なんかおぼえるんじゃなかった

  言葉のない世界

  意味が意味にならない世界に生きてたら

  どんなによかったか


  あなたが美しい言葉に復讐されても

  そいつは ぼくとは無関係だ

  きみが静かな意味に血を流したところで

  そいつも無関係だ


  あなたのやさしい眼のなかにある涙

  きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦

  ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら

  ぼくはそれを眺めて立ち去るだろう


  あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか

  きみの一滴の血に この世界の夕暮れの

  ふるえるような夕焼けのひびきがあるか


  言葉なんかおぼえるんじゃなかった

  日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで

  ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる

  ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる



                              「帰途」 田村隆一




  詩人が言葉に拘るのは、言葉のみでしか表現する手段がないからなのだろうけど、言葉には限界

  があることを十分理解しているのも詩人なのである。日常的に使われる言語で、あらゆる事象を

  表現する事は所詮不可能なことであって、ありふれた単語を連ねて良しとしてしまうのが我々凡

  人の言語使用法であるが、詩人は其処を諦めきれない。

  「愛してる」と叫んで抱きしめてしまえば、それで事足りる事を、詩人は言葉のみでやろうと試

  みる。だから「愛してる」だけでは不十分なのである。抱きしめる行為の中に含まれた経緯や感

  情、ややもするとその日の天気や自分の健康状態まで表現しないと気が済まない。

  だからこそ、相手の五感全てに響く言葉を探すのだろう。

  何だか難しくなってきて、これ以上書けない。言葉で表現できないのが「詩」なのだとしたら

  ほとほと厄介な代物である。






   ウィスキーを水でわるように

   言葉を意味でわるわけにはいかない

                 「言葉のない世界」 田村隆一

元旦

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  何時、何処で買ったのかも忘れてしまっているのだが、本棚の隅からこの本が僕の方を見ていた

  ので、なんとなく手にとって読んでいる。昨夜から酒を呑んでいて、とりあえず他に何もしなく

  て良いのだから、正月とはありがたいものである。少し酒が醒めて、文字をぼんやりと眺めなが

  ら、ページを捲っていると、西脇順三郎さんの作品が紹介されていた。「元旦」というタイトル

  なので、ここに書き写してみる。



   ああ太陽のまわりをまた

   生物が繁殖するこの惑星が

   苦悩と悦楽の回転を始めた。

   でもそういう天体の旅の巡りだけは

   祝いたい、瓢箪の幻影として。

   豆の枝や枯れた菊をたき

   青白い酒をかすかにあたため

   この古い色あせた帽子にそそぐ。


  
   五行目の「瓢箪」は、原文では中国語の「フールー」と記述されているのですが、漢字が巧く

   変換出来ないので僕が「瓢箪」と記述しました。


   ・・・・さて、西脇氏と共に「苦悩と悦楽の回転を始めた天体の旅」を祝って、またお酒を

   呑みましょう。

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