詩の擁護

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「正午」 田村隆一

 窓の外にあるもの、

 火と石と骨と、

 歯と爪と毛髪のなかに刻み込まれたわれわれの「時」、

 驟雨と予感と暗示のなかで、寝台から垂れ下がる、

 彼女の腕


 窓の外にあるもの、

 それは死なない、

 それは歴史の部分ではない、

 ひとつの叫喚は、誰にむかって叫ばれるのだろう、

 誰が傷付ける、彼女の腕を、

 窓の外にあるものを!


 彼女は病んでいる、それは

 ぼくを愛していることになるのだろうか、

 ひとつの、一回かぎりの彼女の呼びかけが、

 大きな砂漠に影をつくり、いま

 世界は正午に入る


                        「正午」  田村 隆一



 「四千の日と夜」は田村隆一の第一詩集であり、詩人 田村隆一の原型がはっきりと刻み込まれた

 代表作であると思う。自分の表現したいことが、しっかりと見えていて、そのヴィジョンを形にす

 る言葉達が、あらゆる場所から集結していった。収録された総ての作品は、力強く鮮明な輪郭を持

 った映像を読む側に提示してくれる。抽象を抽象のまま描き出す自信と勇気が、言葉の中に漲って

 いる。詩を読むことは、言葉を観賞する行為でもある。遠くから眺めてみて、気に入ったら近づい

 て、じっくりと細部を見詰める。気に入らなければ、通り過ぎればいい。

 木について

 きみと話しがしたい

 それも大きな木について

 話しがしてみたい

 どんな木だっていい 北米中西部の田舎町の

 食卓やドアになるカシの木

 群馬の山のなかのニレの木

 武蔵野のケヤキの木

 鎌倉のモチの木

 どんなに生きる場所が変わってもぼくの世界には

 大きな木がある


 不定形の野原がひろがっていて

 たった一本だけ大きな木が立っている

 そんな木のことをきみと話したい

 孤立してはいるが孤独ではない木

 ぼくらの目には見えない深いところに

 生の源泉があって

 根は無数にわかれ原色にきらめく暗黒の世界から

 乳白色の地下水をたえまなく吸いあげ

 その大きな手で透明な樹液を養い

 空と地を二等分に分割し

 太陽と星と鳥と風を支配する大きな木

 その木のことで

 ぼくはきみと話しがしたいのだ



 どんなに孤独に見える孤独な木だって

 人間の孤独とはまったく異質なものなのさ

 たとえきみの目から水のようなものが流れたとしても

 一本の木のように空と地を分割するわけにはいかないのだ



 それで

 ぼくは

 きみと話しがしたいのだ


                          「きみと話しがしたいのだ」 田村 隆一






  田村隆一さんの詩を、少しずつ読み始めた頃、この作品は何処か気障な感じがして好きには

 なれなかったのだけど、ある日、教育テレビの「若い広場」を見ていて(かなり昔の話です)

 斉藤とも子(知ってる人少ないだろうなあ)がこの詩を朗読するのを聴いてから、忘れられな

 い作品になりました。無菌室で育った文学少女のような斉藤とも子さんの朗読は、決して上手

 ではなかったけれど、椅子に腰掛けて本を朗読する姿に仄かな恋心など抱いたものです。

 その彼女が、芦屋小雁と結婚したニュースを聞いた時は・・・・腰が抜けそうになりました。


 「若い広場」の「マイブック」というコーナー。良い番組でしたね。

 ・・・・・・詩は声に出して読むものなんですね・・・・・僕はそうしています。

    もう病気はなおっていると

    あたしの耳のそばでいうのだ

    だからつれていってよ

    あなたも耳のそばで

    なにかちいさい声でいうのよ

    うまれてこのかたつづいた

    頭痛のごとき雨期が

    今朝せいりした新聞のなかに

    たたみこまれていってしまった

    夏になると

    たぶん

    年増のおんなのようになって

    感覚にもけじめというものがつくのだった

    ひざのうえにレンブラントの画集かなにかを

    いちにちじゅうひろげて

    シナのちいさい足のおんなになってしまった

    おバカさんっていいながら

    耳たぶにゆっくりキスしながら

    あたいを助けおこしてよ

    アンズのような味のする

    あたいの永遠というものを

    ミサにでもいって祈ってよ

                     「草でつくられた狗」 富岡 多恵子


   凄く長い詩なので、最初の部分だけ書き写したのだけれど、富岡多恵子さんの詩の中で

   これが一番好きです。日常的なしごく普通の言葉で、何気なく語られる彼女の感性が好
 
   きなんだな。生も死も、ごく日常的なことなのだけど、我々は、そのあまりの普通さに

   納得出来ないから、何か意味づけをしたくなる。だから儀式の後には、堪らない寂しさ

   を感じるのだろうね。

Taller Today

仕事の合間に立ち寄った古書店で、オーデンの詩集を見つけた。

  随分昔、友達に貸したまま返ってこないオーデン詩集の中に、やけに気に入った作品

  があったなと思いだし、ページを開いてみると、一番最初にその詩が眼に飛びこんで

  来た。早速、七百円で購入し、河の近くに車を止めて、携帯電話をオフにして読書の

  時間。       些細なことで、良い一日となりました。





     きょうはかおをあげて、ぼくたち、おなじような夕方を

     思い出している、小川が砂利の上を流れ、はるかに

     氷河をのぞむ風のない果樹園をいっしょに歩きながら。



     夜は雪をもってくるんだ、死んだ人々はあぜ道のしたの

     吹きさらしのすみかで吠えるんだ

     「悪魔」が寂しい道について

     あんまりやさしい質問を出したからさ。



     けれどいまは幸福だ、お互い前より近くはないとしてもね、

     ぼくたち、谷中の農家に灯がついたのを見てるんだ、

     したの水車小屋の音もやんで
   
     人々は家路をたどっているんだ。



     夜明けの物音を解放の響きと聞く人もあろうさ、

     だがそれは、どんな鳥も否定できぬこの平和じゃない。

     その平和も過ぎていくが、いまここでは充分なのだ、

     愛したか堪えたかして、何かがこの時間を満たしたから。

              『きょうは顔をあげて』 H W オーデン  中桐雅夫 訳




  

詩の擁護

 

  口語自由詩というかたちが生まれてから、多くの人達は詩を読まなくなった。

  そんなことを、何かで読んだことがある。確かに文語定型で書かれた詩は暗記しやすく

  歌をうたうように、口ずさむ事が出来た。庶民の間で愛され、日常の中にあった。

   現代詩は、難しい、理解できない、書き手の自己満足だ、などと敬遠され、読者も
 
  かなり狭い範囲に限られている。

   絵画を鑑賞するように、詩を眺めて欲しい、美術館の中を歩き回る様に、詩を眺め

  気になる物があったら、立ち止まり、近づいて細部を見る。そんなふうに、詩を観賞

  して欲しい。



       『水いらず』       富岡 多恵子


    あなたが紅茶をいれ
    わたしがパンをやくであろう
    そうしているうちに
    ときたま夕方はやく
    朱にそまる月の出などに気がついて
    ときたまとぶらうひとなどあっても
    もうそれっきりここにはきやしない
    わたしたちは戸をたて鍵をおろし
    紅茶をいれパンをやいて
    いずれ
    あなたがわたしを
    わたしがあなたを
    庭に埋める時があることについて
    いつものように話しあい
    いつものように食物をさがしにゆくだろう
    あなたかわたしが
    わたしかあなたを
    庭に埋める時があって
    のこるひとりが紅茶をすすりながら

    そのときはじめて物語を拒否するだろう
    あなたの自由も
    馬鹿者のする話のようなものだった
  




    二十歳の頃、彼女がいて浮かれていた僕は、この詩に触れて

    世の中の女性全てから、三行半を突きつけられた様な気分になった。

    

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