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夏休みがもうすぐ終わりそうな一日。
わたしは「マーガレット」という少女漫画雑誌を読んでいた。外はうだるような猛暑だが、家の
なかは、ひんやりとして、薄暗い。
昼間なのに、雨戸がたててある部屋。雨戸に開いた、小さな戸口から、外の光が射るように
射し込んでくる。
家には祖母や母、叔母たちがいたはずだ。しかし彼らはどこにも見当たらない。子供の世界
からは見えなくなっている。夏の一日には、こんなふうに、すべての大人が不在になる時間が
ある。
ふと漫画本から目をあげたわたしは、不意に「退屈」というものを知る。時間はどこにも流れ
出せずに、たぷたぷと、皴を寄せて澱んでいた。
なぜわたしは、草でもなく、花でもなく、ひととして在るのだろう。しかも、たったひとりで、ここ
にいるのか。唐突な疑問がわたしにやってくる。答えなど、どこにもありはしない。
ただ、わたしがひととして、たったひとりであること、それはこれからも変わらないと思う。家族
がいようと、こいびとができようと、ひとがひとりであることは、不変の事実だ。わたしはそのこと
を、なぜかきゅうに知る。そして、このとき、知ったことを、いつかまた、思い出す瞬間が来ると思
う。そのときもわたしはたったひとりで、この瞬間のことを思い出すだろう。
さあっと音をたてて、風がたち、ものが素通しに見えてしまうおそろしい瞬間。わたしを追い越し
て、いま、何か通った。
小池 昌代 「十の点描画」 より
明け方に読んでいた小池昌代さんの文章にビックリして何度か読み返し、書き写してみたくな
った。ただ書き写すだけでは面白くないので、ここで紹介します。
子供の頃から常につきまとっている「孤独」というものの手触りを巧く引きずり出してくれた文章
だとおもう。句読点の一つにまで緊張を感じる、印象深い点描画である。
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本棚
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「abさんご」を読んだことをきっかけにちょっとばかし文学について勉強してみようとおもい連休を
使って集中的に学んでみた・・・・・まぁ〜いつものとおり寝転がって本を読んでただけのはなしな
のだが。
ナボコフも保坂和志さんも小説家なのだけれど、小説家の書くこの手の本が異様に面白いのは
(小説家ならどなたでもというワケではないが・・・・)じつに独断と偏見と云われもない差別と依怙
贔屓によって話を推し進めていくからなのだけれど、この2冊もそういう意味では実に爽やかに
力強くそんでもって奔放に云いたいこと言ってくれちゃってるワケで面白かった。。。。。というか
面白すぎてもったいなくてまだ読み終えてない。栄養満点の料理にお腹が膨れちゃって中休み
しているような状態である。。。保坂和志さんのガルシア・マルケス礼賛もナボコフが思い入れた
ッぷりに語ってくれるプルーストも作家の冷静な視点と「小説読むのが大好き」という何処か初初
しくも微笑ましい情熱が入り交じって楽しかった・・・・・・そーなのだ・・・・・楽しくなければ読書じゃ
ない。
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2月9日といえば『肉(にく)の日』 『服(ふく)の日』 『フグの日』 『風(吹く)の日』といろいろある
のだが僕にとっては文藝春秋3月号の発売日なのであって早速コンビニで購入し今年上半期
の芥川賞受賞作を読んだ。今回は・・・・というか今回も作品の内容以外の話題が先行して、芥
川賞史上最高齢の受賞者が大胆にも横書きで書いた難解・晦渋・摩訶不思議で格調高く美しく
蓮見重彦大絶賛の傑作だという噂が喧伝されていたワケであるが、そのわりに作品自体に触れ
た記事がなくて、たぶんそれだけ難解で晦渋で取扱に慎重を期するべき作品なのだろうという
ことは薄々感じていた。。。。。んんなワケだからいつもよりちょっと気合いをいれてコンディショ
ンも整えて、一日のうちで一番脳味噌がリラックスしている午後にタイミングを合わせて、柔らか
い陽射しのもとゆっくりと読み始めたのであった・・・・・・・・・・・結果・・・・・・・とてもリラックスした
時間を過ごすことが出来た。。。。。。横書きでページを逆に繰りながら、繰る毎にページ下に
印されたページ数の数字が減っていくという体験も初めてであったが、作品の内容も斬新で
大胆でやりたいことやっていて、こういう作品をよくぞ世に出してくれたなとあらためて『早稲田
文学』と蓮見重彦にお礼を言いたい気分であった。。。。。大絶賛するほどではないと思うが
面白い試みとそれを遂行した手腕に拍手を送りたい。言葉をつかって表現を試みる者ならば
こういうことを一度やってみたいと感じているのではないだろうか。例えば描写力を訓練する為
に固有名詞を無くして書いてみるとか。横書きで書くことで克服できる課題を試してみるとか。
作者がどういう意図でこういうスタイルにしたかは分からないが、とにかくすんなりと愉しめた。
作者の意図する愉しみ方に沿っているかは分からないが、小説の愉しみ方は読む側個人の
ものであっていいと思う。。。。課題図書読んで感想文書かなきゃならないワケではないのだか
ら。
ついでにちょっとしたパロディーのアイデアが浮かんで『ba産後』という作品を書き出したのだが
途中で厭きてしまった。。。。子供を授かる前と後で人生がどう変わっていくかを難解に美しく、
横書きで格調高く上品に書いてみようというアイデアなのだけれど・・・この文体はちょっと真似
できなかった。。。。。
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上半期の芥川・直木賞が発表されて、75歳の女性が書いた作品が芥川賞を受賞して
話題になっている。森敦さんの記録を大きく飛び越えた最高齢での受賞ということと、
作品のスタイルが変わっていると同時に内容が難解だけど蓮見重彦さんが絶賛して
いるのだから凄い物なのだろうという好奇心で、結構売れるのではないかと思う。
横書きで書かれた小説というと以前流行った(今でも流行っているのかも知れないが)
携帯小説など連想してしまうのであるが(ソンでもって、あれらもアル意味難解な作品
だったのかも知れないが)黒田夏子さんの受賞作品『abさんご』は固有名詞も代名詞
も使わず、更にカタカナもカッコも排除して書かれた小説だそうだ。。。。これは是非
読んでみたい。「固有名詞も代名詞も使わずに小説が書けるのか??」と云う意見に対
しては「固有名詞や代名詞を使わなきゃ小説を書けないのか??」と反論してやればいい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・窓辺に置き忘れられて色褪せた造花が、その部屋に流れ
た時間を語ってくれるのなら、自分の時間を割いてじっくりと耳を傾けてみたい。
小説を愉しむというのは、そういうことなのだと思う。
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一月三日に高校時代の同級生達と新年会を催して、帰るのが面倒なのでホテルに一泊して翌朝
電車で帰ってきた。水戸駅南の賑やかさは、僕が知ってる30数年前に比べると別世界のようだっ
たし、その年月を経て僕も級友達もそれなりに貫禄が付いた・・・・・・・というか経年劣化に抗うよう
に各々(おのおの)頑張っているようで元気が出た。朝の水戸駅南口通路は人も少なく、店舗も半
分ぐらいしか開いていなかったのだけれど、川又書店(・・・・ここに出店してたのね・・・)が開いて
いたので立ち寄り、入り口右側に平積みされていた本を買った。
スティーブ・ハミルトンの『解錠師』・・・・・2012年度の「このミステリーがすごい」海外部門で一位
となった作品だ。早川ポケットミステリーで出ていたものが受賞後に文庫化されて売られていた。
帰りの電車で読み始め、家に帰ってすぐにソファーに沈んで読み続け、読み終わる頃には窓外
暗くなっていた。とにかく面白かった。プロットが単純で登場人物が少ないからストーリーに入り
やすいという事もアルのだろうが。恋アリ冒険アリそして深い悲しみに胸抉られるような秘密が
開かされる件アリと起伏に富んだ内容で楽しませて貰えた。夢中で読み終えた後にズッシリ重
く響く550ページ。。。。さすが「このミス第一位」である。
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