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アベル・ガンス監督作品 「ナポレオン」(1927年作品)

私はこの映画を観終えて、思わず「ブラボー!」と心の中で叫んでいる自分に気付きました。
この作品はフランス革命を背景に生きた人間ナポレオンの見事な人間讃歌であり、アベル・ガンス畢生の一大叙事詩!!そして彼が映画監督としての命を賭けたライフワーク。かつて映画評論家の双葉十三郎氏が映画はサイレント時代にその映像の表現形式を既に極め尽くしていたと書いていたのを読んだことがありますが、このような作品を見ると改めてその感を強くします。しかし同じガンスの「鉄路の白薔薇」(1922年)やシュトロハイムの「愚かなる妻」(1921年)、そしてチャップリンの「黄金狂時代」(1925年)といい、この時代のサイレント映画の完成度の高さは本当に凄い!

トリプル・エクランと呼ばれる3台のカメラを使用した撮影(これは後のシネマ・スコープやシネラマの先駆!)、モンタージュやカットバックを多用した映像処理の卓抜さ。これらは当に映像技術がこの時代に既に頂点を迎えていたことの証!アベル・ガンスは「ナポレオン」より先にサイレント映画の精華とも言える「鉄路の白薔薇」を制作しています。「黒の交響曲」、「白の交響曲」の2部に分かれたこの作品でアベル・ガンスは見事に人間の心のドラマ=愛憎のドラマを格調高い芸術作品として描きあげました。この作品でサイレントの一つの映像芸術を極めた彼は、次には大衆性と娯楽性そして芸術性を兼ね備えた彼のライフワークともいえる作品「ナポレオン」の制作に取り掛かかります。

「ナポレオン」は撮影だけで1年半、完成までには4年の年月を必用としました。制作費は1,500万フラン!150以上のセットが組まれ、専門のスタッフは200人以上、エキストラはシーンによっては6,000人というのですからそのスケールはやはり壮大なものですね。
オリジナルの上映時間は6時間、しかしこれは興業的には大失敗に終わってしまいます。またオリジナルのフィルムもカットされ、現在では4時間ほどの作品に纏められています。
当初この作品は6部作の第1部として制作されましたが、興業的な失敗によりこの第1部しか作ることは出来ませんでした。(このあたりはヴィスコンティの「揺れる大地」を連想させますね。この作品も当初は壮大な3部作になる予定でした)

しかしアベル・ガンスはこの作品が興業的に失敗しても作品への愛着心を失わず、またその価値を信じ続けて、何度も撮り直しては、再編集をしてステレオ音響によるサウンド版や部分色彩版等を終生に渡って制作していきました。このあたりに「ナポレオン」に命を賭けたアベル・ガンスの芸術家としての執念を観ることが出来ますね!


映画は次のクレジットで始まります。

「1781年、雪はプリエンヌ兵学校の庭に降り積もった」

カメラは雪合戦に興じる幼いナポレオンを捉えます。プリエンヌ兵学校に入学した幼少期のナポレオンが周囲から孤立しながらも、その大成の礎を築いていく有様を映画は温かく描いていきます。
ナポレオンが皆から疎まれて、ただ一人の友人といえる「鷹」をも失って、寄宿舎のベッドルームで喧嘩騒動を巻き起こすあたりは、ジャン・ビゴの「新学期操行ゼロ」(1933年)の世界!このシーンはアベル・ガンスがいかに後世に大きな影響を与えたかの大きな証左でもあります。

コルシカ島に若きナポレオンが一時帰島し、英国主義者から命を狙われて小舟で命からがら脱出するシーンのカットバックの素晴らしさ!フランス議会と嵐に揉まれる小舟のカットバックの編集は見事です!
またイタリア遠征直前に「革命の炉」=国民公会の議場でただ一人で思索するナポレオンの姿とそれにオーヴァーラップされる様々な幻影の卓抜さ。
圧巻はラストの20分にも及ぶイタリア遠征の勝利を描くトリプル・エクランを駆使した戦闘シーン!!このモブシーンは圧倒的な見どころです。
私はこの作品を観ながら数年前にフィルムセンターで見た伊藤大輔監督の「忠治旅日記」(1927年)を心に描いていました。どちらの作品も国民的英雄を描いた見事な一大叙事詩ですが、その人間味溢れる人情のドラマが映画を観る者の心に染みて来ます!人間を観る監督の目の温かさが私たちの胸を強く打ちます。

作品が公開されて半世紀以上も経った1981年になって、アベル・ガンスを敬愛するフランシス・フォード・コッポラが映画史家のケビン・ブラウンロウと共に「ナポレオン」を復元し、元NBC交響楽団員であった父のカーマイン・コッポラの生オーケストラの指揮を加えて公開し、世界中で大ヒットしたのは記憶に新しいことですね。これはやっとこの作品の真価が世界に認められた瞬間でした。
日本でも82年に上映されたのですが、残念ながら私はとうとう見ることが出来ませんでした。(今回はDVDでの鑑賞記になります)

それからこの作品に対してナポレオンの全生涯が描かれていないという評論をされる方を見受けることもありますが、あくまでもこの作品は6部作の第1部(6部作は遂に実現はしませんでしたが)!しかし第1部だけでもアベル・ガンスの描くその高らかな人間讃歌は見事なものです!!
81年のニューヨークでの上映会の大成功を当時病床にあったアベル・ガンスが国際電話で聞き、「やっと・・」と呟いたという逸話は有名ですね。同年の11月10日の彼は肺水腫で惜しくも92歳でその生涯を閉じました。

今回は久しぶりに映画の楽しさを満喫しました。(やや長いのもまたご愛嬌)
時代の先取りをした偉大なる映画人アベル・ガンスに合掌!


「ナポレオン」 1927年度作品

監督: アベル・ガンス
脚本: アベル・ガンス
撮影: ジュール・クリュージェ レオンス・アンリ・ビュレル ジュール・クリューゲル
音楽: アルトゥール・オネゲル カーマイン・コッポラ

出演: アルベール・デュードネ ジナ・マネス アレクサンドル・クビツキー アナベラ シュザンヌ・ビアンケッティ ウラジミール・ルーデンコ エドマン・ヴァン・ダエル

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閉じる コメント(14)

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こんばんは。
トリプル・エクランはシネマスコープというよりシネラマに近いでしょうか?
コッポラ版が公開されたのは中学生の時で、劇場では観ていませんが、はじめ中央だけに映し出されていた画面が左右にバーっと広がるのは大画面で観たらすごい迫力でしょうね。
TVサイズで観ると逆に画面が小さくなってしまいます。
今DVD化されているのはコッポラ版なのでしょうか?カール・デイビスが音楽を付けたバージョンも評判が良かった気がします。

2007/8/19(日) 午後 7:16 bigfly 返信する

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今晩は、コメントありがとうございます。おっしゃるようにトリプル・エクランはシネラマの方に近いかもしれませんね。しかし大画面ということではシネマ・スコープの先駆けともいえるでしょう。(本文を少し修正しておきました)
現在この作品をスクリーンで観ることが出来ない以上は、テレビの画面で我慢するより方法がありませんが、数年ぶりに再見してもやはり感動しました。
今回の作品の音楽はコッポラ版ですが、この音楽は正攻法で見事でした!!
<big flyip>さんはどのヴァージョンを見たのでしょうか?

しかし、この作品が私たちを感動させるのは何よりも人間を包み込むアベルガンスの温かいこころでしょうね。そこには現実に生きる人間の熱い「血」が通っています。

2007/8/19(日) 午後 8:39 [ maskball2002 ] 返信する

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maskball2002さん、こんばんは。
文章をわざわざ修正させてしまってすみません。
私もコッポラ版しか観た事ないのですが、20年位前にフジテレビの確か木曜日の深夜に放送していた映画番組で観ました。
この番組は民放にも係わらず字幕でしかも本編中はCMを挟まないというスタイルで、ミニシアター系の作品を中心にいい作品を放送していました。
BSやケーブルTV、オネットなど今のようにオリジナルが普通に観る事が出来る環境ではなかった当時は嬉しい映画番組でした。
ガンス作品は「ナポレオン」と「鉄路の白薔薇」しか観た事がないのですが、他の作品もソフト化されるといいですね。

2007/8/20(月) 午後 10:16 bigfly 返信する

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確かに、民放で1回放送されたのは私も覚えています。
この時は観逃してしまいましたが!
本当に彼の他の作品もDVD化して欲しいものですね。
本文修正の件は気にしないで下さいね!!
いつもコメントをありがとうございます。

2007/8/21(火) 午後 8:47 [ maskball2002 ] 返信する

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このコッポラ版が公開された時は、まだ学生だったと思いますが、今思うと是非観ておくべきだったと思います。(未だに未見…。)
こういった古典的な作品はなかなか劇場で観るチャンスは少なく、貴重な経験を逃してしまいました…。

2007/8/27(月) 午後 1:40 [ ted*001*p ] 返信する

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tedさんコメントありがとうございます。
私も劇場では未見なのですが、しかしそれでも充分に楽しみました!!アベル・ガンスの人間ナポレオン讃歌。彼のこの作品に賭ける執念のようなものが伝わってくる一作でした。

2007/8/27(月) 午後 6:03 [ maskball2002 ] 返信する

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'83の2月4,5,6日に武道館で30mスクリーンで上映しましたね。
それ以外にどこかで上映しましたっけ?
記憶にありませんが・・・・・
ギリギリでチケットが購入できて見に行った覚えがあります。
確か資生堂が協賛していましたね。
当時のポスターをまだ持っています。
かなり傷んではいますが・・・
DVDも出ているようなので久しぶりに見てみようかと思っています。

2009/2/2(月) 午後 11:13 [ ncc**01_e*ter*ri* ] 返信する

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nccさん、コメントをありがとうございます。
確か記憶では日本の大都市近辺で上映をしたとおもうのですが!
素晴らしい体験をされましたね。
わたしの方はDVDでの鑑賞でしたよ!!

2009/2/3(火) 午後 11:07 [ maskball2002 ] 返信する

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こんにちは。
元日の帰省で実家にあるパンフレットを整理していたら…ナポレオンが出てきて、
懐かしくなり、ネット検索してこちらに来ました。
ナポレオン(コッポラ編集版)の公開は、NHKホールで2日間だけ上映されました。
それが好評で、武道館で2日間位?の上映になったと記憶しています。
私は、初日のNHKホールで見ました。
その時、テレビカメラや、映画評論家も多数来ていて、雰囲気は映画上映と言うより、
なんかオペラ鑑賞のような気分でした。
上映方法は、効果音・音楽は、コッポラの父カーマイン・コッポラ指揮で日本フィルのフルオーケストラ
付きで、とても迫力のある贅沢な上映スタイルでした。
特に音楽と映画のタイミングにピッタリあっていて、何度も拍手が起きていました。
ラストの戦闘シーンは、突然スクリーンの両サイドカーテンが広がり圧巻のトリプル・エクラン(3台の映写機
で横繋ぎの超ワイドスクリーン画面)+パイプオルガン演奏+フィルオーケストラ演奏でもの凄い
盛り上がりだったです。 削除

2010/1/4(月) 午後 8:34 [ hika26 ] 返信する

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hika26さん、はじめして、コメントをありがとうございます。
当時見に行かれたんですね!!
その時の興奮が伝わってきます。

私も当時上映されるのは知っていたのですが、いかんせん都合が合わずに涙を飲んでしまいました。

しかし映画は素晴らしい人間讃歌になっていましたね。
今でも好きな作品の一つです。

2010/1/6(水) 午後 4:16 [ maskball2002 ] 返信する

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はじめまして、話題からかなり経ってしまってますが、偶然ここを見つけ懐かしくなりました。私も当時札幌で見に行きました。在りし日のカーマイン・コッポラにも興味ありましたしトリプルエクランは確かに衝撃的でした。
スタイルは違いますが、上映時間が長いという部分であの頃同じく話題になっていた「1900年」も良い映画でしたね。今更のコメントすいません。 削除

2011/9/8(木) 午後 11:11 [ KAWAUSO ] 返信する

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KAWAUSOさん、コメントをありがとうございます!
古い記事へのコメントもまた大歓迎です。

しかしアベル・ガンスのこの作品は愛すべき名作ですね。
「1900」は残念ながら未見です。
いつでもお気軽に訪問してきてくださいね。

2011/9/9(金) 午後 11:11 [ maskball2002 ] 返信する

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この古い記事を見て武道館で見た生オーケストラで見た記憶が復活してきました3スクリーン一杯に映された画面とオーケストラの大音量、数々のスクリーン映画見てきましたが一番興奮した映画かも 特に音声が無いのでいろいろ想像できましたしね 削除

2012/11/5(月) 午後 8:28 [ sakae ] 返信する

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sakaeさん、はじめまして、コメントをあり,がとうございます。
私は武道館では見ることができなかったのですが、この作品のナポレオン讃歌、そして人間讃歌には深く感動しました!

2012/11/7(水) 午後 5:22 [ maskball2002 ] 返信する

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