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                             黛敏郎:涅槃交響曲

                         http://ecx.images-amazon.com/images/I/61w94dyOHEL._SL160_.jpg
 
 
 こんにちは、正月の3日も過ぎ今日は4日、今日から仕事を始められた方も多いことでしょうね。私も今日が仕事始めでした。さて今年は一体どのような年になるのでしょうかーいや、しっかりどのような年にしていくのかと前向きに考えて行動しながら1年を過ごしていきたいものですね。
 さて今日の午後は黛敏郎の作曲した「涅槃交響曲」を紹介することにしましょう。今日紹介する記事は私が若い頃書いた文章ですので、やや硬い表現になっていますが、ご了承くださいね。
 
 「題名のない音楽会」という音楽番組がある。黛敏郎の軽妙な司会で(現在は佐渡裕氏)好評を博し二十数年来続いている長寿番組である。ある夏の盂蘭盆会の頃、「和讃のお稽古」と題したプログラムを放送したことがある。
 
 此れはこの世のことならず
 死出の山路の裾野なる
 西院の河原の物語
 
 一つや二つや三つや四つ
 五つにならぬ幼子が
 父上恋し、母恋し・・・
 
 天台声明「西院の河原地蔵和讃」−年端もゆかぬ幼子が死ぬと、その子は父母を思い西院の河原で石を積み上げるという。ところが、せっかく積み上げた石も鬼によって無惨にも壊されてしまう。これを見て憐れに思った地蔵菩薩が子を救うという。仏教音楽というものを意識したのはこの時が初めてだった。重く暗い現世に絶望したかのような救済を求める音楽。和讃の響きは多感な高校生の心を揺するのに充分なものを持っていた。現世への絶望ー漠とした「死」への憧憬、この思いを払拭しながらも、和讃の響きに惹かれていく自分がいた。
 
 別の折の仏教音楽の特集プログラムだったと思うが、その「題名のない音会」で黛氏の「涅槃交響曲」(1958年)を演奏したことがある。カンパノロジー(第一楽章)だけではあったが、作品の持つ不思議な音響空間に引き付けられた覚えがある。全曲を通して聴いたのはそれから一年ほど経た後の、NHKのFM放送での実況録音だったが、この作品の持つ独自な美しさに益々魅せられていった。恰度その頃、「涅槃交響曲」のレコードが発売された。或いはFM放送の実況録音をレコード化したものかもしれない。広大な宇宙空間の意識と天台声明の旋律による「解脱」。この作品に対する愛着はレコードを聴くことで一層深まっていった。
 
 カンパノロジーエフェクト、黛はこの作品で分析学を用いている。梵鐘の響きを電子工学的に分析し、各要素をオーケストラの楽器に振り分け、その音響の統合のなかに梵鐘の響きを再現してゆく。
 
 第一楽章 - カンパノロジー I
 第二楽章 - 首楞厳神咒 (しゅうれんねんじんしゅう)
 第三楽章 - カンパノロジー II
 第四楽章 - 摩訶梵 (まかぼん)
 第五楽章 - カンパノロジー III
 第六楽章 - 終曲(一心敬礼)
 
 第一楽章、カンパノロジー(鐘を造る時の音響を考える技術)。ここにはメロディーもリズムもない。ただ音響の塊によって表現される広大な宇宙空間だけが存在している。梵鐘の音は次第に高揚し、様々な要素が統合されて全山の梵鐘が一斉に響く終結部を迎えて第二楽章へと入っていく。
 
 第二楽章、「南無楞厳会上諸菩薩」(なうれんねんいじょうじほぞ)ー禅宗で最も重要とされる「首楞厳神咒」(しゅうれんねんじんしゅう)が六人の男声独唱と男声合唱によって厳かに歌われる。高揚した合唱とテノールのソロとの掛け合い。そしてffによる「般羅」(ほうら=喝)の絶叫とゲネラルパウゼ。声明の形式を借りながらも、それとは異質の空間を作り出していく。
 
 経過部のような第三楽章のカンパノロジーを経て、第四楽章では「摩訶般若婆羅蜜」(もこほじゃほろみ)と楞厳咒の終わりの「摩訶梵」と呼ばれる讃が歌われる。これが六人の独唱によって唱され、宗教的色彩の濃い音響空間を作り、合唱を加えて静かに終えようとしたその時、第五楽章のカンパノロジーⅢによる全山一斉の鐘の音が浮かび上がってくる。ここで男声による母音「オー」の唱和が力強く繰り返された後、終曲(六楽章)「一心敬礼」へと入っていく。
 
イメージ 1
 
 終楽章「一心敬礼」ー天台声明の「法華懺法総礼三宝」に基づく旋律(a)・・不思議な美しさと官能性を持つこの旋律が合唱で歌われ、次第に音量と深みを増していき、曲はfffのクライマックスへ向かう。そしてその頂点で「永遠の涅槃」に到達したことを象徴しながら宇宙の中へ溶け込んでいく。ここで黛が浄土宗や真言宗の声明の響きによらずに、天台声明の旋律型に依ったことも私には面白い。実はこの作品の模糊とした美を印象づけたのはこの天台声明の旋律であった。
 
 この作品で黛は、仏教哲学的な考察というよりはむしろ音響学的な考察による「美」−人工の造形の果ての曖昧模糊とした美ーの追究を行っていったのだろう。従ってこの作品では彼の心の響きというよりは、考察し尽くされた技巧の音響空間が意識されてくる。ここで表現される涅槃=解脱とは、仏教的な直感というよりは演繹法による弁証法的な解脱の概念といった方が適切なように思える。聴衆はその演繹法によって導き出された模糊とした人工の美に引きけられることになる。
 
 この作品に対して、西洋語法の中に日本の語法を強引に組み込んでいるとする評もあるようだが、この西洋と日本(東洋)の融合が彼の意図したものに他ならないだろう。黛敏郎といえばそれまで、「X・Y・Z」や「七つのヴァリエーション」等、アヴァンギャルド的な手法を取った作品を発表していたが、この作品で一転して日本の伝統文化へと目を向けたと言われている。しかし、彼が突然アカデミックな伝統音楽に帰依してしまったというのは的を得ない評だろう。それまでのアヴァンギャルド的な姿勢ーミュージク・コンクレート的な作曲技法はこの作品での電子工学的分析に活かされている。むしろ彼の作曲に対する取り組み方には変化がない。黛はこの作品で伝統音楽の素材を使うことによって自らの語法を築こうとしたのではないだろうか。おそらく彼にとっては伝統的な素材も、アヴァンギャルド的な素材も自分の音響空間ー独自の語法を確立するための手段に過ぎなかったのだろう。彼の創造したソノリティーの中で、伝統音楽は決して過去の遺物ではなく、現代の「生」の問題として提起されている。黛の提起した独自の語法=「生」の問題はとはとりもなおさず、現代を生きるミクロコスモスとしての人間の生き方であり、「生命」そのものへの問いかけである。天台声明の妙なるメロディーが、現代の生活空間の中に鮮やかに蘇っていく。
 
 なお、この作品は1959年度の第7回尾高賞を受賞した作品です。それでは黛敏郎の「涅槃交響曲」の全曲をお楽しみください。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

閉じる コメント(6)

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私は明日から仕事開始です。今年は大いに動こうと思います。この曲は今までと違った世界です。神秘な部分が良く出ています。

2011/1/4(火) 午後 10:38 [ O - ]

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とりあえず二楽章まで聴かせていただきました。現代音楽ですが、我々の心に何か根源的に共鳴する響きがあるのではないかと思わせてくれます。不思議な音空間を体験させてくれる。ご紹介有難うございました。
(続きはまた、明日の夜にでも聴かせていただきます。)

2011/1/4(火) 午後 10:43 [ cygnus_odile ]

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O - さん、コメントをありがとうございます。
<今年は大いに動こうと思います>
本年は卯年、お互い大いにぴょんぴょんと跳ねて動き回りたいものですね!

<神秘な部分が良く出ています>
まさにこの点が黛敏郎氏思いなのだと思います。

2011/1/6(木) 午後 3:40 [ maskball2002 ]

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cygnus_odileさん、全曲聞き終わられました?(笑)

<我々の心に何か根源的に共鳴する響きがあるのではないか>
ご指摘の通り、黛敏郎氏の根源的な思想は、私たちの心の中に厳然として存在している「仏性」を音楽で表現することでした!

私は高校生の時以来、今でも時折この作品を聞いております!

2011/1/6(木) 午後 3:43 [ maskball2002 ]

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こんばんは。
涅槃交響曲、中学の頃ウィルヘルム・シュヒター指揮NHK交響楽団のLPを購入し、一時はまり込みました。
ここしばらく聴いていませんでしたが、また引っ張り出して聴きたくなりました。

ポチ☆

2011/2/20(日) 午後 7:15 アノニマ

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アノニマさん、コメントをありがとうございます!
シュヒターの演奏は私も聴きました。
随分昔の話になりますが!記憶ではモノラル録音だったと思います。

久しぶりに「涅槃交響曲」を聴かれてみるのもまた一興かもしれませんね!

2011/2/21(月) 午後 6:12 [ maskball2002 ]


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