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「複数犯といっても、事件の現場の状況からすると、実行は単独でしょう。争った形跡はありますが、被
害者の春日さんは、体の具合がよくなかったようで、お一人で動けることは動けますが、当然、それなり
の動作しかできないわけで」
神谷にそう言われて、白瀬は自分の母親のことをふっと思い出していた。やはり歳をとると、男女問わ
ずに体のどこかが悪くなるのだなと感じる話だった。
「そもそも、犯人は、ドアやガラスを叩き壊して、強引に中に侵入しているわけじゃあないんですよ。最
近、大阪だけじゃなくて、あちこちで多いでしょ、バールでドアノブを完全に破壊して押し入る窃盗グル
ープの話。ああいう手合いとは、異なるんですよ」
と、榎田が言う。その手には、タバコが一本握られていて、それでテーブルをタンタンとリズミカルにた
たいている。誰が見ても、タバコが吸いたくて少しイライラしているのがわかるほどだ。
「おそらく、春日さんは、訪ねてきた相手をちゃんと確認せずにドアをあけて、そのまま招き入れてしま
ったようでね。そうなると、顔見知りとも考えられる可能性も出てくるわけでして、我々としても、頭の
痛いところなんですよ、しょーじきね」
不機嫌そうに榎田はそう付け加えた。
「ただ、パターンとしては、ドアを開けさせたところで、犯人はそのまま素手で春日さんの喉を締めて殺
害、いや、無論、手袋付きでね、そのまま放置して静かに逃走という感じでしてね」
「そうなると、物取りの犯行、ですか?」
と、白瀬がたずねると、榎田は眉間にしわを寄せながら、困った表情を浮かべた。
「それがよくわからんのですよ。物取りではないと思っとるんですがね。少なくとも、室内に争った形跡
は少しはあるものの、金品やら金目のものを物色した後がまったくないし、春日さんのところには手持ち
のそれなりの金銭が、わかりやすいところに置いてあったのに、そこには見向きもされていない。となる
と、強盗というよりも、個人的怨恨での可能性が高いわけでしてねえ」
「それだと、なおさら結局、ネットの書き込みと今回の殺人事件、どうやって結びつけて考えればいいん
ですか?」
今度は、藤咲が口を挟んだ。外見がおさなく見えてしまうので、榎田が大学のゼミの先生で藤咲がその
生徒で、質問しているような構図である。
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