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「すいませんねえ、こんな時間に」
大阪府警の刑事・榎田岳志は、相変わらずの無造作の髪の毛と、無精ひげ、お世辞にもきれいとは言え
ないよれよれの半袖の白のカッターシャツで、夕方頃にフラフープ社へやってきた。前回と同様に、ミ
ーティングルームであずさは出迎える事になったが、時間的には退社してもいい時間だったので、正直あ
まりうれしくないタイミングだった。藤咲と葉山は、特に大急ぎで処理することもなかったので、ほぼ定
時には退社していた。
「神谷さんは、今回は?」
前回とおなじように、あのエリート候補の神谷も一緒に来るのかと思ってたので、あずさがたずねる
と、榎田はあっさりと答えた。
「いや、今日、あいつ、休みの日なんですよ」
「ああ」
それもそうか。警察官と言えども、365日年中無休で走り続けられるわけはない。休みも必要だ。だ
が、それ以上に、今の自分には早い帰宅が必要だと思いつつ、あずさは席についた。それから、立場的に
当然すぎるくらい当然のことをたずねる。
「何か、あのあと、あの事件に進展がありましたか?」
「いやあ、残念ながら」
榎田は、あっさりと認めた。本当にきちんと捜査を毎日しているのかと、あずさの方が不安に思えてく
るほどに、軽い口調だった。そもそも、刑事としての威厳や風格などが感じられない人物なので、なおさ
らである。
「あれこれと、とっかかりみたいなものはあるんですが、被害者の神谷さんと犯人の接点が、いまひとつ
はっきりとしないんでね。仮に、犯人の気まぐれな犯行だったとしても、どうしてあのエリアに住む神谷
老人を狙う必要があったのか、ということがわからなくて。ま、捜査が劇的に進んでいるのかと言われれ
ば、いろいろあって、進んでませんというのが本当のところなんですがね」
「いろいろ?」
「ま、率直に言えば、人手不足ってやつですわ」
「そうなんですか?」
「ええ、お恥ずかしいお話ですがね、データからしても事実なんで、隠してもしようがないんですがね。
ほら、ここんとこ、ずっと公務員数削減ってやつが、あたりまえになってるでしょ。中央官庁だけじゃな
くて、各都道府県でも同じでしてね。それで新規採用はないけれど、定年退官者は毎年確実に出るんで、
結果的に人材の頭数がものすごく減ってましてね。ついでに、外国の方々が大量に移住されてきているん
で、いやあ、毎日毎日、細かい事件が起こる起こる」
「そんなにひどいんですか?」
「ひどいというよりも、なんか、細かいんですわ。たぶん、根本的に、メンタリティというかバイタリテ
ィが違うんでしょうなあ、大陸の方々っつーのわ。利用できるものは、他人のものでも自分のものでも関
係ないじゃんというお考えのようなんで、金銭やら土地やら家屋やらの所有でもめることが多くて。もめ
ると絶対に自分が正しいということで、我々警察をお呼びになられるんですわ。それでいて、もう言うこ
とが自己主張に関して細かい細かい・・・聞いていると、全部、おかしな主張なんですけどね」
そこまで言って、榎田は手を振って打ち消した。
「いやいや、今日は別に、白瀬さんに、わたしら大阪府警の愚痴を言いにきたわけではないんで。これは
失敬失敬。では、本題に」
「そうですね。また、そういう話は別の機会に」
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