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確かに有効な手があるとは思われなったし、自分たちが今まで遭遇してきた他の事件でも、結局は地道
に手がかりをつかむしかないこともわかっていた。しかし、これまではそれで死者が出るようなことはな
かった。今回は違う。犯人が外国人なのか日本人なのかはともかくとしても、誰かがどこかで確実に犠牲
になる。それは、あずさとしても望むところではない。焦る気持ちはかなりあるのだが、だからといっ
て、何ができるわけではない自分自身に、かなりのはがゆい思いが生じる。
「白瀬さん、また、何かあったらすぐにご連絡させていただきますよ」
そう言いながら、神谷はイスから立ち上がる。名推理が披露できたことに満足したのか、次の予定が立
て込んでいるのか、腕時計をちらっと見る。そのときに初めて、あずさは、そういえばお茶もコーヒーも
何も出していないことに気がつく。ついでに、ここでこれ以上、あれこれ言っても仕方のないことだなと
も思い、同じようにイスから立ち上がり、神谷を見送ることにした。
「わかりました。こちらも人員体制を厚くして対応するようにします」
「そうしていただけるとありがたいことです。我々も、もっと各省庁にも働きかけをして、何とか次の犯
行をくいとめるつもりです。あとは、マスコミ対策もしなければならないので、少々きつい道のりにはな
るのですが」
と、神谷は言いながら、ガラスドアの前でふと立ち止まる。ややあって、ふいにあずさの方を軽く振り返
る。
「ときに、白瀬さん」
「はい」
「つかぬことをおうかがいしますが」
「はい?」
「ネット業界って、景気はいいんですか?」
「え?」
ふいの質問だったので、あずさはたじろぐ。どこの何を答えると正解なのかがわからなかったのだ。業
界の経済規模なのか、純利益の構造なのか、いまやテレビメディアの倍にまで膨らんだ広告媒体としての
威力なのか、業界の労働人口なのか。
「ああ、まあ、悪くはないとは思うんですが・・・」
と、とっさにあたりさわりのない、大雑把な答えを出す。それが神谷の求めている答えだとは思われなか
ったが、細かい説明をしてはキリがない。
だが、神谷はそれを聞くと、ひとつうなずいた。
「そうですか。それはよかった」
そう言い残して、ゆっくりとミーティングルームから出ていった。
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