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「何の用事なのかしら」
あずさはまったく思い当たる節がなかったため、首をかしげたが、そこは藤咲も同じことだったため、
こちらも同様に首をかしげていた。
「まったく見当もつきませんね。でも」
「でも?」
「無下にすると、ややこしくなるかもしれませんよ」
「ややこしく?」
藤咲の思わぬ回答に、あずさはとっさに聞き返した。ただでさえややこしいことが多い日常に、さらに
輪をかけるようなことは避けたいところである。藤咲は素直に答える。
「ややこしくなりますよ。無下に追い返したりしたら、それはそれで、取材拒否とか対応が悪いとか、真
実を隠蔽しようとしているとか、取材のガードは固いとか、いくらでも何でも、好き勝手な報道されかね
ませんよ」
「でもフリージャーナリストでしょ?」
「だから怖いんですよ。特に大阪のフリーは、良くも悪くも、東京の息がかかっていない分、ゲリラ的に
自由ですから。大阪弁で言うと、正しい正しくないとか、いい悪いとかではなくて、『書いてなんぼ』の
世界ですもん」
「なるほどね」
あずさは納得した。納得というよりも、あきらめだった。確かに、アポがないからお引き取り下さいと
言うのは簡単な話ではあるが、藤咲が言うことは明らかに一理がある。まずは相手の目的と素性を把握し
ておいた方が、後々トラブルにならずに済みそうだ。面倒な話になりそうだったら、広報か総務の担当に
回してしまおう。そっちの方が早そうだ。
素早くそういう結論を出して、あずさは、直感的には気乗りがしないままに、席に向かった。
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