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マンション耐震強度不足の恐れ1割
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コスト優先 安全置き去り

 2001年以降に建てられた全国の中高層マンションを無作為に抽出した国土交通省の耐震性調査で、強度不足の恐れがある物件が相次いで見つかっている。

 その数は、実に1割。マンション建設ブームに沸いたこの時期、構造設計の現場では何が起きていたのか。「コスト」が優先され、安全が置き去りにされたと専門家は指摘する。(社会部 高田浩之、広中正則)
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(上)水落元建築士が偽装したとされる構造計算書の一部 (下)耐震強度不足が見つかった新潟県三条市の分譲マンション「アパガーデンズ東三条ウエストコート」(手前)とイーストコート

 「我が国の建築物の安全に対する見方が変わった。予想以上に法の基準を満たさないものが多いということだ」。国交省住宅局幹部は今回の調査結果にショックを隠せない。

 このサンプル調査は、一昨年11月に発覚した元1級建築士・姉歯秀次被告(49)(1審実刑、控訴)を始めとする一連の耐震強度偽装事件を受け、国交省が昨年2月から、国内の建築物の安全度を検証するために実施。01〜05年に建築確認された鉄筋コンクリート造の中高層マンション約6000件から389件を無作為に抽出し、財団法人「日本建築防災協会」の専門家が構造計算書や施工状況をチェックした。

 この結果、389件中の3件が耐震基準の66〜85%しかないことが判明。さらに38件でも強度不足の疑いがあり、担当自治体が設計者から聞き取りをするなどして強度の確定を急いでいる。耐震強度50%未満と建て替えの必要な深刻な物件はなかったが、数字だけ読めば、この時期に建てられた全国の中高層マンションの1割程度に何らかの問題がありうることを示している。

 強度不足が確定した3件は、〈1〉施工ミス〈2〉構造計算書の改ざん〈3〉設計ミス――と、強度不足に陥る原因が三者三様にそろった。

 〈1〉のケースは、大分県宇佐市の4階建ての賃貸マンション。設計の問題はなかったが、施工段階で、壁と柱の間に強度のバランスを取るスリットと呼ばれる工法を採用しなかったため、66%の強度不足となった。

 〈2〉は、計10件の偽装や設計ミスが見つかっている富山市の水落光男・元1級建築士の物件だが、偶然、今回の調査のサンプルに選ばれていた。全国でホテルやマンションを開発、運営する「アパ」グループが04〜05年に新潟県三条市に建設した分譲マンション(9階建て)で、水落元建築士は、構造計算用プログラムを不正に操作して壁の強度の指標を改ざん、壁を厚くしたり、鉄筋を増やしたりしなくても基準を満たすよう偽装していた。

 〈3〉は静岡市の10階建ての分譲マンションで、同市内の月岡彰・1級建築士が、不完全な構造計算書を同市に提出、書類の不ぞろいを指摘されて出し直したものの、そこでも誤った計算書を再提出したことで、強度不足の建物になってしまったものだ。

 多くのケースで共通するのは、建築確認の際に不完全な構造計算書を提出し、それについて「多忙で後で差し替えるつもりだった」などという言い分だ。

 本来は、専門技術を持ったプロが安全性を検証し、完成したものを提出するのが当たり前だろう。「納期が迫っていた」ことを理由に、複雑な計算を後回しにするという、プロとしてあるまじき行為が建築の世界で横行していたといえる。

 3件以外でも、強度不足かどうかを最終的に確定中の38件の中には、一部の間取りを増やす設計変更をしているのに、全体の構造計算の見直しが行われていなかったものや、窓(開口部)が大きい場合は、壁の強度を割り増して設計すべきなのにその見極めを誤ったケースなどが見られるという。故意の偽装でなくても、強度不足に陥る恐れはあり、建築確認の審査ではそうしたミスが全く見抜けなかった。

 構造計算書 地震などに建物がどれだけ耐えられる強さがあるかを、各階の柱など部材ごとに検証した計算過程を記した書類。建築確認申請時に提出。耐震強度偽装事件では、計算書類の改ざんを審査担当者が全く見抜けなかった。
判定員 追試でやっと確保 「二重チェック」前途多難
再発防止策6月20日から

 「再発防止策がスタートすれば、今回のような偽装やミスで強度不足となる事態はまず防げるはず」。国交省建築指導課の担当者は自信をのぞかせる。

 耐震強度偽装事件を受けて国交省は建築基準法などを改正、その再発防止策の第1弾が6月20日からスタートする。その最大の目玉が、従来の建築確認に加えて、構造設計の専門家が審査する構造計算書の二重チェックだ。

 鉄筋コンクリート造は高さ20メートル超などの建物が対象で、現役の1級建築士や大学教授らから選ばれた「構造計算適合性判定員」が、電子データで提出させた構造計算書を再計算した上、偽装の有無や不適切な設計がないか、設計者本人から聞きながら「プロの目」でチェックする。

 国交省では、二重チェックの対象を年間7万件と推定し、必要な判定員数を1500人と見込む。全国8地区で開かれた判定員の講習会で、設計ミスを見つける試験の合格者は、3354人中、39%の1315人にとどまった。急きょ行われた追試で246人が追加合格した。不合格者は設計ミスを全く見抜けなかった。何とか人数は確保できたが、決して高いレベルから選ばれたわけではない。

 主な再発防止策〈6月20日から実施〉

 ・構造計算適合性判定員による構造計算書の二重チェックを導入

 ・3階建て以上の共同住宅について、中間検査を義務化

 ・耐震強度不足の建物を設計した建築士らは3年以下の懲役など罰則の大幅強化

 ・建築確認の審査基準を明確化

 ・建築確認の審査期間を延長(21日→35日、最大70日まで延長可)

  〈今後実施予定〉

 ・一定規模以上の建築物の設計は、新設される構造設計1級建築士、設備設計1級建築士だけに限定

 ・建築士に対する講習の義務付け
建築士の良心 不可欠

 規制緩和や減税措置などで多くの人が比較的、安価に我が家を手に入れた時代、それと引き換えに住まいの安全性のレベルが低下していた事実が今回の調査で突きつけられた。

 原因の一つは、安全の砦(とりで)であるはずの構造設計者の技術力不足や良心の欠如だ。耐震基準をぎりぎりクリアできるように、コンピューターの中で数字と格闘し、忙しさにかまけ、少々無理な設計もいとわない……。

 国交省の再発防止策は間もなくスタートするが、建築士の質の向上という最重要課題が残っている。(高田)
(2007年5月14日 読売新聞)より転載


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