空飛ぶ車

最近深夜にカップ麺を食べます。

自作小説

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中学生の頃ですか……こんなもんを書いたのは笑



セカンドライフ H.M

 冬は嫌いだ。
 何故って……滑るから。
 滑ると、何か体だけじゃなくて、「自分」っていう物理的ではない価値みたいなのも揺らいだような気がして、恥ずかしいから。
 なるべく夜がいい。滑った所を見られたくないから。でも、夜道は滑りやすい。
 世の中、理不尽だらけ。
 

 目の前に倒れているのが、自分だって気づくのに数秒掛かった。


 何だ……。
 脳裏に、何かがフラッシュバックした。
 猛スピードでこちらに向かってくるトラックには気づいていた。ライトが眩しかったから。でも、それに目が眩んで足を滑らせてしまった。
 僕の体は驚くほど遠くに投げ飛ばされていた。そうだ、今僕が立っているこの位置が、事故の起こった場所。
 ひき逃げ……。
 次第に、怒りに胸が熱くなる。
 世の中は、ああいう奴がいるから、明るくならないんだ。
 僕は界隈をぐるりと見回すと、そっと、「自分」に近づいていった。
 見るのが怖い。きっと無惨だ。きっとひしゃげてる。そんな自分を客観視したくない。
「では、見なければいい」
 声がした。
 不意に、何処からか。当然ぎょっとなって首を回したが、何も見当たらない。閑散としたバス通り。
 気のせいだろうか?
「気のせいではない」
 すると、目の前に何かが降りてきた。ふわり。
 僕は目を丸くしたと思う。
 女の子だった。
 全身黒い服を着てる。スカートはちょっと短めかも。
「初めまして」
 丁寧にお辞儀をされた。反射的にやり返す。
「ジグレ、と呼称するといい」
「……僕は」
「西田 朔」
 少女は、表情を崩さず、抑揚のない調子で言った。
「午後七時二十三分十七秒コンマ二二。よかったら覚えておくといい」
「何……それ?」
「君の時間の終わった瞬間」
 少し腹が立った。
「君は誰」
 僕は僕と「僕」に挟まれて立っている、背の低い少女に尋ねた。
「何だと思う」
 遊ばれている?
「天使?」
「鬼」
 最悪の答え。息を呑むと、ゴクリ、と、わりと大きな音がした。
「だったらどうする?」
 完全に遊ばれている。
「じゃあ何なの?」
「何でもない。ただの案内人」
 案内人……。
「天国……地獄の?」
 妙に全身に寒気がする。でも、外の空気のせいじゃない。どういうわけか突然、息が白くなるのも止んだ。
 すでに命を感じる要素が薄い。そういえばこの少女の息も白くない。
「それはまだわからない」
「え?」
「私は地上にいる間の案内人」
「地上にいる間? これから、何処かに移動するの?」
「する」
「どれくらい地上にいられるの?」
「三十分」
 少女は瞬き一つせず、ただじっと僕の目を見てる。見返すと、何かこっちが恥ずかしくなって先に反らしてしまう。にらめっこが強そうだ。
「えっと……何かすればいいのかな?」
 二人とも無言になると、やけに寂しく感じたから、話しかけてみた。
「好きにすればいい。いずれにしても、消える」
「三十分……なるほど、こういうルールだから、魂で地上が溢れかえらないんだね?」
「そうなる」
「でもな……家帰っても、何も触れないんだよね?」
「触れない」
「でも……どうだろう。一応、最後に見納めぐらいしとこうかな」
「好きにすればいい」
 僕は、歩き出した。
 早歩きで帰路の続きを進む。
「あの……」
 振り返ると、少女がすぐ後ろを着いてきているのがわかった。
「何してんの……?」
「三十分間、君に取り憑く」
 幽霊も取り憑かれるんだな。
「あのさ、空、飛んだりとか、出来ないの?」
「出来ない」
 あっさり言われた。
「じゃあ、歩かなきゃならないの? 早く移動する術とかないの?」
「元の個体の能力を超えることはできない」
 わかりやすい説明だった。
「で、でも……壁抜けは、出来るだろ……?」
「出来る」
 超えてんじゃん。
「じゃあ、そこの民家の中をスルーして、反対の道に出られるよね。そうすると近道なんだ」
「好きにすればいい」
 また静寂がやってきた。無言のまま早歩き。確かに壁抜けは出来た。出来たらどうなんだろうなぁといろいろ考えたことはあったが、やってみると以外と自然だった。
「あ、でも……変だ。何で床を抜けたりとか出来ないの? だったら地下とかどうなるのさ。地面が壁みたいなもんなんだし」
「嘘」
「……?」
「今までの話、全部嘘。やってみれば出来る」
 僕は空に舞い上がった。
 一度でいいから空を自由に飛んでみたいって思ってた。僕は夜空に舞い上がる。体は思い通りに動いた。飛翔する速さとかも、どうやら自由自在のようだ。
 ただ、風の抵抗などは全くないので、思ったより気持ちよくはなかった。
 やはり少女も着いてくる。
「そういえば、君も空から降ってきたんだったね」
「そうなる」
 僕は上空から自宅を探した。以外とすぐに地形が理解出来て、安心する。
「あ……」
 下降し始め、ふと上を見上げたら、ちょうどそこに少女がいて、下からだから「中」が見えた。
 白だった。純白。白と黒のコントラスト。
「覗くのは、やめてほしい」
 初めて少女の表情が変わったような気がした。
 屋根の上から、自分の部屋に入った。
「ああ……これが最後になるのか……」
 部屋の片隅にあるギター。おもむろに持ち上げようとしたが、その手は願いを叶えてはくれなかった。
 部屋を出、階段を降り、リビングに入った。
 いつもの光景だった。食卓は準備万全で、お袋は台所に立ち、弟はテレビを見て寝転がり、親父はパソコンの前。
 僕が帰るのを、待っている……。
「朔、遅いな」
 唐突に親父に名前を呼ばれ、少しギクリとする。
「先に食べよー」
 弟が台所のお袋に語りかける。
「だーめ。朔だって頑張ってくるんだから。みんな一緒でしょ」
「そうだ。みんなで囲んで食べるのが一番ウマいんだから。家族みんなで輪になって。俺はその瞬間が一番幸せなんだからな」
 何だろう。
「うふふ。それに今日は朔の好きなオムライス。先に食べてちゃ、きっと怒るわよ〜」
「じゃあ俺、お兄ちゃんのに、先にケチャップで落書きしとこっ」
「やめろ……」
 僕は思わず、弟に語りかけてしまった。震える声で。弟は僕の体を通り抜け、食卓の、僕の席に着いた。
 僕はその場に崩れる。
「やめろよ、この……」
 涙で視界が歪んだ。
「後残り十分」
 少女の冷静な声に、我に返った。
「十分……か」
 とぼとぼ歩いて家を出て、再び暗闇の通りに出る。
「本当に……人に触れることは出来ないんだ?」
「できない。でも、まれに具現されることもある」
「え? ……じゃあ心霊写真とか、ビデオとかのって……本物?」
「9割以上はフェイク」
 まさか信じていなかったけど。
「じゃあ、あのイタコとか、オーラの泉とかのも……本物?」
「9割以上はフェイク」
 僕は道の真ん中に寝転がった。真上を車が一台通る。
 何か見たり聞いたりしても、それを誰かに伝えることも出来ないもんな。
 溜息が零れる。
 何だか……今まで普通に生きてきて感じたことのなかった感情に、苛まれている。
 けっこう……生きるって……
「いいもの?」
 真上から少女が見下ろしている。また、「中」が見えた。
「うん……」
 僕は上半身を起こす。
「何だかんだ言って、やっぱり死にたくないな」
 僕は再び溜息をついた。
「もう二度と……生き返れないんだね……」
「生き返れる」
 思わず全身の力が抜けてしまった。
「生き返れるの? ……あ、転生、みたいな? 感じの……?」
「転生もある。今すぐ生き返るケースもある」
「今すぐ?」
 しかし、さすがに話が美味しすぎるような気がする。
「何か……条件があるとか?」
「死に方による。様々な角度から考慮して、生きてもいいと判断された場合、生き返れる」
「ズバリ、僕は?」
 心臓が早鐘を打っている、ような気分だった。
「好きにすればいい」
「本当に?」
 僕は興奮して、目に涙を浮かべる。
「本当に……転生して犬になったりとかしないで、この体のまま、この僕のまま、生き返れるの?」
「生き返れる」
 信じられない展開だ。
「ただ」
 少女が冷たい声音で切り出したのに、すくみ上がった。やはり何か、あるのだ。
「私との記憶は、抹消される」
「わかった」
 僕はゆっくり頷いた。
「後残り四十七秒だった」
「よかった、危なかったよ」
「ほんのわずかな可能性で、デジャブをもよおすことがあるかもしれない。それは保障しない」
「ちょっとぐらいなら大丈夫だよ。あ、そっか……じゃあテレビとかに出てくるデジャブっていうのも……本物?」
「9割以上はフェイク」
 次の瞬間、頭の中がすーっと真っ白になっていくのがわかった。


「……ん?」
 何故なのか、ベットの上にいる。でも、不思議と怖い感覚はなく、幸せな気分だった。
 無性にギターに触りたくなって、触った。

続きです(一応終わり)

やった。
 これで、保障された。
 次第に冷や汗すら掻く。本当に、来た。
 小学児童に講話でも開いてやりたいと、彼は妙なことを考えた。夢は叶うもの。
 ついに、実現する。
 男は空気も微動だにしないような音の無い世界を堪能する。今は、誰もいないのだ。昼間なら、あのうるさい連中が何やかやと余計な注文やら報告やらに集まって来るような場所だが、今は無人。
 ゴポリ、ゴポリ。
 巨大な培養器の中に、安置されてある。
 男は、愛おしむように、泥酔したような瞳にすらなって、それを眺めた。
 素晴らしい。
 私は、全世界を支配出来る。










 二



「ああ〜楽しみ」
 城岩はなかは、思わず内意さえ名状した。
「華、さっきからそればっかし」
 隣を歩く、佐藤麻美は狡猾ぎみに笑う。
「えっ、だっ、だってぇ〜。あの人生で見れんだよ、麻美ちゃん」
「まあね。すっごい愉しみではある」
「あたしね、昨日からテンションやばくて眠ってないの」
 喧噪に包まれ、いつも異常に慌ただしい状況となっている、ギフト本部レベル18、多目的会館前廊下。落ち着いた緑の観葉植物に、暖かそうな真紅の音質吸収マット、ゆったりとした豪奢な椅子にテーブル、至る所に沢山の人間。
 彼女等は、いそいそ、さっそく会場に突入した。
「ガッビーン!」
 華は両手で頭を抱え、膝を付いて叫んだ。
「あ〜あ〜」
 開始三十分前では、とうに前方一角の席はオール占拠されている。華はまた一つ人生の戒めが増えたことを泣けるぐらいに喜んだ。彼女は過ちこそが人生の栄養だという哲学者なのである。
「もう……過ちはくり返さないぞ〜」
「はいはい。まあいいじゃない。ほれ、双眼鏡 貸したげるよ」
「あ、ありがとう……」
 この人もまた、準備がいいなぁと、呆れるほどに感嘆する。
 集まった面々、年の頃は様々で、年齢層は十代から六、七十代までとても幅広い。彼女等のような中高生ぐらいの顔ぶれも、ちょうど家庭を持ち始めたといった雰囲気の成人達、孫のたくさんいそうな老人達の顔ぶれも、男女問わず、統一感なく多種存在する。
 前列に座る同年代頃の少女達を遺恨がましく最後に見据えると、華は嘆息。
「うぅ……ま、しかたがないよねぇ〜」
 麻美は愁然と肩を落とす華の肩にぽんと片手を掛ける。
「とりあえず座ろうよ。なるべく前に」
 このままペシミストになられるのも困るので、麻美は気を遣って愉悦ある雰囲気を構築しようと、進んで華に話しかけたりと工作を講じたが、いつの間にやら華が会話をリードし始めていて、先ほどまでの暗澹も何も残らず笑顔に変わっていた。
 まあ、単純なこと、と麻美はようやく安心した。
 そして、時間も来たようである。
 ビー。
『お集まりいただいた皆様、大変長らくお待たせ致しました……』
 アナウンスが会場全域に伝播し、華はうずうずと動いた。
「待ってましたぁー」
『それではご登場いただきましょう。講師、碧晶太さんです』
 急激に会場内が高騰する。熱狂的な拍手、さらにはコールすら飛び交う。
 舞台袖より、大人びたベージュ色のスーツに身を包み、ネクタイまでしっかりと拵えた、一人の少年が登場する。
 騒ぎはピーク。そろそろ誰かが止めに入るのではないかと有らぬ疑問を浮かべてしまう。
狼藉の一つでも起こっていそうな騒ぎだと、麻美はやや疲弊したように思った。
『えー』
 晶太がマイクに口を付けると、辺りは悶絶したように静まり返る。
『今講演、『『0』とは何か』の講師を務めさせて頂きます、碧晶太です。頼りない私ですが、どうかご静聴願います』
 本物。
 まるで酔いつぶれてしまったような感覚に、やや面食らう。
「ほ、ほんものだぁ〜」
 華は両手を組み、もはやファンシーガールだった。双眸は溢れんばかりに光り輝き、そろそろ涙になって落ちてきそうに見える。彼女の内部は激しい霹靂及び、凶暴な嵐に襲われていた。そして、時折天より授かる雷の作用により、全身に麻痺症状を永続的に煩う運びとなっている。
『まずは『0』そのものについてですが 皆さん知っての通り、あれは宇宙生命体の片
鱗です。北アメリカやヨーロッパを中心に、地球には多数のクレーター、つまり隕石の衝突後が発見されています。『0』もまた、一隕石の、突然の襲来でした。1978年に発見されたユカタン半島北部のチクシュルーブ・クレーターは、6500万年前に地球にやってきた直径10キロメートルの隕石ですが、これは諸説では恐竜を絶滅させた原因なのではないかと分析されています。しかし」
 会場内は静寂。一瞬置いた間に反響した自信の声を最後まで聴いて。
『今度の隕石は、地球をリセットしてはくれませんでした』
 華は痺れに堪え、この有り難いお話は絶対に最後まで聞き逃すことなく解釈しよう、と努めた。
『落下地点は太平洋の中心です。幸運だったと謳われました 規模こそはさして、65
00万年前と変わらなかったのです。しかしながら、大気圏突入の角度やら、落下地点のクッション作用やら、様々な影響を受けた結果、人類にはごく微少な程度しか被害を及ぼさなかった、と、そう謳われたのです』
 晶太はやや、辛辣な表情。
『ですが 私はこれを幸運だとは思えませんでした』


 一層。静まる。
『……では、前置きはこれぐらいにして、さっそく『0』の紹介を行いたいと思います』
 この声が響くと、同時に照明が落ち、プロジェクターが作動した。
 瞬間に。
 会場全体がざわっと息を呑む。
 プロジェクターには、ある映像が流れていた。
『これは、最も初期の貴重な映像。原始『0』です』
 電子顕微鏡のアングルの中で、よく分からないが球状の形状をした、激しく動き回る物体が鮮明に映し出されている。複数、いる。
 キュー、キュー。
 そして、何かが、聞こえる。
『この細胞を元に、バイオ学の進化と発展を意図して結成されたのが、ここ ギフトで
す。ギフトは大きく三つの支部に分かれています。まずは全てを司る評議会。世界中のギフトとネットワークを組み、様々な方策を考慮し、組織全体を動かしてします。そして二つめが研究会。実際に様々な実験や試作を行い、科学、さらには工学の進展を担っている
のはここです。そして、ベンジェンス 』
 何やらおぞましい映像に口を覆っていたが、ようやく映像が切り替わったので、安堵する。華はごくりと生唾を獲得。それはそもそも、彼女はベンジェンスの見習いだからであった。
「これは 詮じつめて言えば、二次的な柱です。元々はこんなものなど設計図もなかっ
た。では何故、このギフト最大人数の集約を誇る、巨大会合が発足してしまったのか」
 ますます静かになったように思う。息使いも測れない。
『みなさんに一つ質問しておきましょう はたして『0』は、神の気の利いたプレゼン
トですか。それとも 地獄への片道きっぷですか』
 ふぅ。
 晶太は少し汗ばんだ掌を遊ばせた。
 民衆は静まる異常に、寒気のような発作に襲われていた。
『さて。別にこの問いに答えはありません。どちらを取っても構わないのです。どのみち、
世界は変わりません』
 何か 怖い。
 華は細い腕を怯えるように抱えた。
『『0』の目的用途は、いかなるものなのか。皆さんなら既にご承知の通りだと思います。『0』は恐ろしいほど地球上の生命体との細胞レベルでの相性が良かった。よって、我々ギフトはそれを利用し、現生する、ありとあらゆる地球上の生物、及び有機物体に、『0』の遺伝子を刷り込ませてみたのです。結果、想定以上の素晴らしいデータ、成果が見られました。生物達は全くの拒絶反応もなしに、基礎寿命を倍加させ、身体能力値を飛躍させ、
知能レベルすら 著しい向上を見せたのです」
 ほんの一瞬、晶太は思い返した。
 サタン
 しかし、振り払う。
『この魔法のような技術は、早速医療にも取り入れられ、世界中の医学界を大いに揺るがしました。具体的にも、不治の病とされていた数百種の呪いも、この『0』結合を応用す
ることで、問題なく解決されていったのです。人類は有頂天になった そう。何も考え
られずに』
 ゴホ。
『人間は、知性を授かった。他の生物にはない、特殊な能力。人間は、知恵を絞ることが出来るようになったのです、いかにして、自分はより良い生活を送れるか。楽をして生活
を送れるか。快感を得られるか。それを追い求めることが可能になった。ただし そ
れは別に、素晴らしいことでも、何でもない 』
 華も麻美も、他の人々も例外なく緊張した。
『何故なら。人間は知性そのものを授かっただけなのであって、それの使い方を考える知
性は 授かることが出来なかったからです』
 晶太は難しい表情。
『我々は 本当の意味では進化など一縷もしていません。ただ……自らの首を絞め続け
ているだけ。むしろ、地獄へと近づいて、いつまでも差さない光を夢見ている、それだけの生物。地球上最も進化に失敗した生物なのですよ」
 ここまで言い終え、また若干の間を置く。
『ベンジェンスは、そんな進化の代償です。目の前を見ることの出来ない、哀れな人間達
が創る途方にも暮れる廃棄物を 処分する係です』
 この空気のヘゲモニーは、冷気。
 寒気ばかりが走る。
 華は震えた。
『……と、このようにギフトは構成されています。では次に、研究会より頂いた資料をいくつか、紹介していきましょう』……








……一応この話は続きがありますがここまでとしておきます。最後までいくと長すぎるかもしれませんし…。

またまた続き

三人は、長テーブルがいくつか設置された、閑散とした休憩所に落ち着いた。
「あ〜あ由利ちゃんもいれば、もっと愉しかったのに」
 しかし、どのみち居なくて正解だったんじゃないだろうか。もうさっきの任務の話はしたくないだろうし、この顔ぶれならだいたいは専門的な話に移行してしまう。やはり居ない方がいい。晶太は確信した。
「今でも欠かさずお見舞いに行っとるんじゃ。殊勝なものではないか」
「祐喜には、本当に、早く良くなって欲しいと思います」
「うむ。彼女には、家族はもう祐喜君一人しか残されておらんじゃろう。大切な家族が一人でも生きとるんじゃ……やはり幸せになってもらいたいものよ」
「ええ……」
 ところで、晶太の前にも缶ビールが置かれている。
 龍が並べたものだが、JSBに未成年者の飲酒を許諾する規範はない。まあ、この研究エリアに限っては、そもそも支配者がこいつなので、別に誰が咎めるわけでもないだろうから、問題は発生しないのだろうが。
「そういや、昔晶太の命を救ったの、じいさんなんだってな?」
「何じゃ、突然」
「忘れもしませんよ。当時ベンジェンスだったじいさん――あの暗がりでの正確な発砲はお見事でした」
 懐かしい。
 彼は懐かしそうに述懐する。
「しかし……あの時の恐怖はまだ忘れられませんね。今でも時々夢に見るんですよ。俺自身は忘れたつもりでも、きっと何処か無意識な所で鮮明に覚えているんです。トラウマ、ってやつですかね」
 達蔵は腕を組み、ふうと一息。
「君も、非常に残念じゃった。まさか自分の暮らす町の下にあんなものがあったとはの、誰も考えられなかったことじゃろう。あの汚染被害は甚だ酷いものじゃった。わしは後数
ヶ月で引退するという所じゃったが、あれほどの事故は例外なく初めてじゃったよ」
「……その事故で、お前は両親を失ったんだな?」
 龍が珍しく、悲愴さを付帯させた声音。
「両親どころか、兄弟も、祖父母も、叔父も、叔母も、近所の知り合いや学校の友人なんかも何もかもを失いました。残ったのは自分、ただ一人だけでした。全く、ジークムント・フロイトは偉大です。彼が深層心理学、精神分析――トラウマと夢の関係を明らかにしてくれていなかったら、こうして悪夢からのせめてもの逃げ道、トラウマなのだという合理化すらも出来なかったのですから」
 晶太は若干やけになり、缶ビールの蓋を開けていた。
「ふう。まあ」
 少し首を回し。
「LSBで働くベンジェンスやら、研究員やら、特に俺や由利みたいな未成年者はまず完全に、みんな汚染都市から拾われてきた難民みたいなものです。それぞれに悲しいエピソードがあります。そして、それを隠すように、護るように、みんな必死に頑張って生きています。俺だけが嘆く道理もないでしょう」
「……」
 龍もいつもはない悲哀ぎみな様相だ。
「汚染都市は日に日に拡大するばかりじゃからのう……毎日のように被害者やら加害者や
らが運ばれてくる。幼くして両親を失った子供、またその逆も、本当に――残念じゃ」
 妙な精神的圧力の増した嫌な空気。
 破るべきだ。
「ところで、今回入手したサンプルの件ですが」
「ああ、そうそう。一応じいさんにも話しとくか」
 晶太は指を絡めた手をテーブルに運ぶ。
「まずあれは、昆虫ベースのシードでした。まあ、それは至って珍しくも何ともないので
すが――あれは、所内の研究員を全滅させたのはおろか、精密機械など細かな機材、更に
は保管された研究資料やらサンプルなども、非常に手際良く、ほぼ全てを計画的に破壊していたのです。単なる昆虫シードに、そこまでの行動ができるとは思えません」
「確かに」
 白髪頭が知的に首肯する。
「確実に、偶然ではないのじゃな?」
「あれだけ広大な施設です。さすがにそれは想定しかねます」
「マグレじゃねえだろ、ありゃ……」
 老人は頭を掻く。
「昆虫は本能しかない。自ら物事を考えることなど出来ん。その事実は覆せん」
「『0』を使っても、ですか?」
 晶太は目力強く、まっすぐ達蔵を見据える。
「『0』は単に、そのベースそのものを強化、変形させるきっかけに過ぎねえ。虫類のシードには特に、巨大化や融合、筋肉組織の強化、それぐらいしか効果は発揮出来ないぜ……」
「うむ。矢崎博士の言うとおり」
「直接リモコンのようなもので操ったりは、不可能ですか」
「電脳化、か――しかし、ベースがベースじゃ。言語認識が極めて困難な上、行動パタ
ーンの信号を上手く接続するのは容易なことではないじゃろう」
「ああ。言っとくが、マジで面倒だぜ。つうかたぶん、接続した所で要領足りねえんじゃねえかな……どう思うよ、じいさん」
「脳組織そのものを別の有機体から移植しなければならないかもしれんのう」
 まあ――と、龍。
「ただ一つ、例外も……」
 すると達蔵も眼光を鋭くし、龍の方を振り返る。
「しかし。あれは矢崎博士すら生まれる前に廃止されたのじゃぞ」
「だからこそ、あなた自身の口から聞きたい」
 何だろう。
 一体、何だ。何が二人の間を伝播し合って……。晶太は憶測すら立たない。
「……サタン計画」
 老人はそっと口にした。
 その瞬間、良くわからなかったが、空気の摂理が歪んだような、風向きが変わったような、そんな、微妙な雰囲気の変化を感じた。
「何ですか、それは?」
 同調して声が落ちる。何か完全犯罪の計略を練るマフィアグループのような、そんな風情を界隈からひしひしと感じてしまい、立つ瀬が落ち着かない。
「ある、細胞連結の方式なんだが――」
 あからさまに言い辛そうだ。
「神を作ろうとしたのじゃよ」
「え……?」
 かみを、つくる?
「しかし――事故が起こってのう。サタン計画のプロトタイプの一体が、錯乱状態による
謎の暴走を起こしたのじゃ。何とか食い止めたが、多大なる被害やら今後の改善策の行き詰まりやらによって、全面廃止、厳禁処分となった」
 達蔵は頭を抱える。
「人間を遙かに超えた頭脳と身体能力を持った生命体――究極生物の研究じゃよ」
 究極生物?
「でもじいさんは当時ベンジェンスだった。よって、研究には一切関与してないってわけ。詳しいことはほとんど誰の頭にも残ってねえ、もう伝説になった話さ」
 究極生物――何という、不吉な響き。
「それを使えば、例のシードの行動の説明がつくのですか?」
「どんな情報も抹消された後じゃ。何とも言えん」
 謎の研究。
 晶太は寒気を感じた。
「すまんのう、晶太君。力になれなくて」
「いや」
 晶太は姿勢を少し変える。
「とりあえず、例の、俺の持ってきたサンプル、調べておいてください」
「そうだな。とにかくあいつを徹底的に調べあげてやらねーと。そしたらまた何か、新しいことが分かるかもしんねえんだ」
「ああ、結果が出たら、教えてくれ」
「おまかせあれ」

さらに続きです。

「では――何も回収されなかったんだね」
「ええ。由利の調査では、保管室のサンプルは全て破壊されていたとのことです」
 畑は何か考えるように視線を落とした。
「回収出来たものといえば、例のシードの細胞を少々、それぐらいですが……」
 晶太はやや怪訝な面持ち。
「どうかしたのですか」
「いや」
 すぐに、威容ある体裁に戻る。
「とにかく、その細胞とやらは、研究室に運搬を頼む」
「はい……」
 御意しつつも何処か釈然としない。微妙な表情で、晶太は身を翻した。
 広大な円形ホールに足音をカツカツ響かせながら、退出する。重ための引き戸がバタンと壮大な余韻を残して閉まった。
「晶太。案外早かったねぇ」
「まあ、報告書を提出しただけだからな」
 特殊合金で全面をコーティングされたホール前ロビーの壁は、上と下から照らし付ける鮮やかな光を分け隔てなく全て反射させ、その反射光がさらに反射されてと、そんな無限のサイクルによって異常に明るいのであった。さして都合が悪いこともないので、気にはならない。
 由利はベンチから腰を浮かせる。
「何か言われた?」
「特に何も」
「これからどーする?」
「ちょっと研究室に。来るか?」
 やや、躊躇し。
「うぁぁ……わかったよぅ」
 どうしても、もうあれは見たくないらしい。
 人混みで溢れる明るい廊下を三度ほど曲がりくねると、少し開けたスペースに出る。そこには用意周到に、ほぼ壁全面に並ぶ自動式のドアがある。
 エレベーターステーション。
 実はこの位置が、LSB日本本部の中心になる。
 既に大勢が順番待ちだったが、晶太と由利は研究区画にのみ通ずる緊急エレベーターを選び、そこは誰一人近づいていなかったので、あっさり搭乗できた。由利が中にあるパネル、レベル20を押す。
「……なあ」
「何」 
 二人だけの密室は、音もなく地下深くへと下降する。
「俺たちは、何か隠されているのか」
「え……」
 晶太は暫時物憂すような眼光を湛える。
「俺たちが知らない何か、何か重大な秘密」
「何言ってんの……?」
「いや、気にしなくていい」
 高速移動のエレベーターはすぐさま目的地を辿る。
 二人は、静かに足を降ろした。
 研究室が軒を並べるエリアは、あくまで粛々とした態度で臨まなければならない。話し声はおろか、足音すら一切抹消したいといった空気だ。
 迅速に、かつ音もなく二人は歩む。
 何人もの白衣の研究員が、ガラス張りの研究室内で何かを忙しくやっている。由利には何一つ解釈に苦しむ光景だが、晶太は違う。そもそも彼は、どちらかと言えばベンジェンスよりもサイエンティストの知り合いの方が多い。
 まあ、博士や龍のお陰なんだが。
 ある白い金属扉の前で立ち止まった。
 ガラ。
 開けると、中にいた数人が皆振り返る。
「おぉー晶太〜よく来たねん。由利ちゃんも」
 巨大な顕微鏡を覗いていた龍が、顔面に巻き付けたばかでかいゴーグルを外す。
「失礼します」
「で? 何かよーう?」
「解析、進んだか」
「はぁ? ちょ……さっき帰ってきたばっかだろ。いくら何でもそりゃ」
「あら。晶太君。由利ちゃんも」
 すると、奥の部屋から何者かが顔を覗かせる。
 富岡知恵子。少し年上の、レベル20外部サンプル専門エリアの、研究員だ。
「富岡。至急、データベースの解析を行いたい。デバイスのスタンバイ頼む」
「はい」
 というように、龍はギフトの研究管理長の一人であり、こうしてはっきり言って日本中の全研究員は直ぐさま思うように動かすことが出来るのだ。よく分からないが、現実はそうなっている。
「とりあえずじいさんに会うか? まだ準備掛かるぜ」
「そうだな」
 奥の部屋は、これまた広大な一室で、いくつものコンピューターやら文献資料やらが所狭しと置かれている。
「じいさん。晶太達だ」
 龍の声に反応し、特殊ラメ入りのゴーグルのような物体で目元を覆っている、白髪頭が振り返る。
「おお、そうかそうか。来たか来たか」
 よく支えられるなあと、思わず巨大な博士――『じいさん』の愛称で呼ばれるご老人、
杉山達蔵が腰を下ろす椅子なんかに興味を持ってしまう。
「何かあったのかな?」
「いえ。先ほどの任務で回収したサンプルをお持ちしました」
「ま、解析はこれから富岡達にやらせるけどね」
「あ、やば」
 唐突に、由利が焦るように腕時計を凝視する。
「何がやばいの?」
 龍もキョロキョロした。
「あたし、弟のお見舞い行くんだった! 晶太、後お願い。ばいばい」
 研究員より忙しそうに、足早に退出していく。
「つうか、俺にも一声くれよな」
「弟……そういえば、由利君の弟君は元気なのかね」
 博士が真摯になる。
「残念ですが、それほど良好というわけでは……ないですね」
「ふむ……」
 老人は真剣な面持ちで、何処か虚空を見た。そして、コンピューターの電源をオフにする。
「一杯どうかね」
「え?」
「まだ……時間が掛かるようじゃし、せっかくだからの」
「いいですね」
「よし。俺も同行しよー」

また続き

『それより、由利ちゃんだいじょぶ……?』
 無言。顔を上げない。
 残念ながら、早くも問題が発生してしまったようだ。
『でもぉ意外だったなぁ〜天下無敵の由利様に、こ〜んなちっぽけな弱点があったなんて〜』
「う、うるさーいっ!」
 裂帛の叫びが、静まりかえった廊下中を高速で駆けめぐる。
「由利、静かに」
「うぅぅ……だってぇ、しかたがないじゃーん。ほんっと、これだけはやなの」
『でも、ちょっとは女の子っぽいとこあって、安心した』
「うるせー龍。後で絶対袋叩きにするから。いっちゃんと」
『郁子と?』
 イヤホンの向こうから、郁子のクスクス笑いまで漏れてきた。晶太は胸を撫で下ろす。そう――龍はわざと戯れ言を吐き捨てている。彼もただの馬鹿ではない。
 だからこそ、こうしてここまで来た。  
「よし、じゃあ行こう。こんな所、早く出たいだろう」
「分かったよぉ、分かった……」
『お二人さーん。その通路を真っ直ぐ行って、二番目の角を右折、すると見える扉に入れ』
 龍の指示通り、暗黒の廊下を移動する。
 しかし、この死体の数は酷い。
 ついでに転がる、先ほど晶太が制裁した化け物インセクトどもの死骸と、その傷口から溢れる何か濁った黄色がかった液体を視界に入れないように努力しながら、由利もすたすた後ろを着いていく。要するに、もはやフォーメーションは崩れている。
 この奥か。
 二枚式の、防弾ガラスのはめ込まれたドア。見たところ、異常はなさそうだが……。
「龍」
『センサーに異常はねえ。たぶん何もいねーよ』
「由利」
 勘弁してほしい。
 由利はうるうる眼で、歯医者に行くのを拒む幼児のように見えた。
 彼はノブを掴む。
「開いてるな。じゃあ突入だ」
 三、二、一
 ガチャン!
 余韻が木霊。
 勢いよく開け放たれる入り口と同時に、二人の人間も勢いよく突進する。
 静かだった。
 相変わらず。
 二人はゆっくりと凶器を下ろし、ふうっと一息。特に由利は、神に感謝するぐらい喜んだ。
『とりあえず、予備電源動くか?』
 晶太は慎重に室内を移動し、奥にあった広々とした操作盤に目を走らせる。 
 次の瞬間、目が眩んだ。
 もう、数週間ぶりのような錯覚。室内は煌々とした蛍光灯の明かりに包まれた。
 そして、発覚する。
 やはり――事故現場は紛れもなくここである。
 積み上げられた資料もフロッピーも電化製品も、何でもかんでも引っ繰り返され、室内全域がぞんざいたる印象を持っている。研究員の死体はここにも数体あったが、大半は先の廊下での大量の『邂逅者』、すなわち脱出を図った一派に変換されるようで、よってここにはさほどの屍は無かった。 
 付属の精密機械も無惨な破壊工作を受けていたが、非常電力の操作盤は生きていて助かった。
「あ! 晶太?」
 由利は目をまん丸くして、ナーバスに。
「怪我……血……」
「ああ。大したことない」
「嘘! ごめん。あたしがお荷物になったんだよね……戦力にもなれなかったし」
「気にするな」
「もう、ちゃんと頑張るよ。迷惑かけたくないし」
『いいムードんとこ悪いが、電力が復活したお陰で、こっちの操作盤からもシステムを操れるようになった。けっこーいい兆候だと思うぜ』
「いいムードって何よ!」
 これだけ元気になれば十分だろう。
『ああ……なるほどねー。培養室の扉が破壊されてやがらぁ。おそらく、こっからウジャウジャ出てきたんだろーな』
 由利はデジタルカメラで室内の至る所を撮影して周る。晶太は上着からフロッピーを出しかけたが。
「ここのパソコンと、そこから接続出来るか」
『う〜ん……え? ……出来るって。園葉が』
 さすが、と言うしかない。



 ゴポリ――ゴポリ
 時間と共に、進化する。



 レベル五の培養室は、息を呑む広大な施設だった。巨大な培養カプセルがいくつも用意されてあり、どうやらレベル七ぐらいまでは優に掘り建ててある。
「龍」
『異常なし。動くもんはない』
「うわ。広」
 由利の淡々とした声が反響する。
 二人は周囲に警戒しつつ、培養カプセルの列の間を進む。怪しげな謎の、色取り取りの
液体に身を浸す、いくつもの奇っ怪なる研究生物ども
 『0』のもたらした、神の真似事。
 シード。
 ギフト。
 晶太の頭を何か憮然とするような罪の意識が過ぎる。
「……これだ」
 途中、遂に粉々に内側から破られたガラスカプセルの一群を発見する。
「こいつに入っていたんだろう。由利、カメラに 」
 気が付かなかった。
 今、気が付いた。
 晶太はやや焦燥と辺りを振る。
 いつの間にか、由利の姿が消えていた。
「由利?」
 小声で訪ねてみるが、やはり反応はない。
 まさか。
 個人的な僻説だが まさか。
『どーした』
「由利が消えた」
『はぁ? あ……レーダーに反応が――くそ。シードの探索に気を取られてるうちに…
…おーいっ! 由利ちゃーん?』
 ここで、龍を恨んだりはしない――何より、不注意だったのは自分だ。
『……ん、あれ……?』
「あ?」
『晶太……一旦どっか身を隠せ』
 鬼気迫る。
『お前の方に、まっすぐ向かってるぜ』
 傍らにあった培養カプセルに身を隠すようにして、通路の全貌を確認しやすい体制を取る。
 由利は一体何処へ。
 考えたくない、考えたくない。
 晶太は由利が腸を引き裂かれる映像を――命がけで封印した。
『どうやら……ボスのお出ましかな?』
 冗談じゃない。
 正体不明の感知物体に、弥が上にも緊張が増す。汗の雫が地肌を伝わり落ちる感触が、うっとうしいほどはっきりと解る。
 レーダーは単に定められた区域内において感知した生物の方角、標高を表す他何のスペックも持ち合わせていない。目標がどんな形状を持つのか、最も重要な情報が常に欠けることになる。晶太は不意に、そんな機能不全のレーダーを憎んだ。
 ただ。
 捌け口が欲しかっただけである。
 この、緊迫を紛らわす
次の瞬間。
 ドン!
 晶太が身を預けていた、巨大カプセルの分厚いガラスの一部が破片となった。
 ドン! ドン!
 強力そうなショットシェルが何度も叩き込まれる。晶太は片目を閉じ、やや焦るように身動ぎする。反対側のカプセルの陰へ身を投じる。
 ドン!
 な
 不快だ。
 どうやらあっちもセンサーを持っている。それも、軽く俺たちのものよりは高精度のも
のを 晶太は苦い思いを殺す。
『平気か!』
「まだ何とも言えない」
 こちらからは姿が確認出来ないが 奴は手に取るように自分の動きを把握している。
 恐怖。
 晶太は恐怖に染まる。
 だが、これには慣れてもいる。
 彼は走り出した。絶え間ない乱射攻撃に追尾されつつ、大きく迂回して広大な培養プールを走る。目指すは、目標の存在する方向。
 円形に走り回る事で、空間的に目標の位置を捉える 皮肉なことに、ここまで発砲さ
れれば嫌でも、私はここにいます、とそんなことが伝わってくるようだ。
 ようやく。
 ドン! ドン! ドン!
 ようやく、狂気の物体の正体が露わとなった。
 不気味な、赤い双眸。
 戦闘ロボットのような外見だが、全身を覆い隠した装甲の隙間、関節部分には何か有機的な筋肉組織のようなものが覗いている。それに、何やら酔狂者のようによたよたとした足取りである。
 中に何かが入っている――?
 晶太は好奇心というか仕事上の問題なのだが、やはり中身を確認したいと考えた。ところが、それの両手に接着された銃兵器の喧噪たる乱射攻撃が、どうしても、彼の身動きの自由を束縛する。
 すると。
 ドゴン、と、厖大な爆発音が轟き渡った。
「晶太!」
「由利?」
 怪物の暴発が一時止み、晶太はようやく縁際から前方を視界に捉えられた。
「ふっふーっ、ふーっ」
 破壊ロボットは片手を付いて、震えるように身を崩している。もう片方の腕は、由利による後方射撃によって消し飛んだそれの背中の装甲と共に、何処かへ葬られたようである。
 一瞬、二人とも動きを止めた。
「またたびかついだきんたろう」
 露呈された、赤目シードの、背。
 そこには、出鱈目なほど巨大な。
昆虫の――鱗。
 やはり何の種類のものかは判然としなかったが、それは、昆虫特有の鱗関節―― 外骨
格であった。上方から降る蛍光灯の光に薄茶色の光沢をぎらつかせ、うねる。
 どうやら、ここは巨大な虫籠の中だったようだ。
 由利は物怖じする。
「うげぇ……」
「お前、いつの間にグレネードガンを」
 由利が両手でしっかりと抱えたグレネードガンを見据えながら、早めの足取りでバランスを崩した怪物に近づく晶太。
「きんたろう! きんたろう!」
 止めを刺す。
「きんたろう! きんたろう!」
 最後に、暴れるように転がり、息の根が耐える。
「全く」
 晶太はそのまま上着のポケットから黒い小瓶を取り出すと、その蓋を開け、入っていたピンセットを手にすると、葬ったばかりの巨大昆虫の背中、今彼が開けてやった銃痕に先端を突き入れる。
「サンプルは回収した」
『ふぃーっ。おつかれさん』
「お前、今まで何処に」
「よ、よ、よく……ん、なっこと出来るねぇ」
 やはり好き嫌いは禁じ得ないものか。
 近頃の昆虫シードの普及を、組織一忌み嫌っているのは間違いないだろう。だが、それ
は同感だ――晶太は、涼やかに。
「まあいい。証拠も手に入ったことだ。とっととおさらばしよう」
『おっしゃ。これでやっとこ飯ですかい』

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