八重山教科書問題の真実

八重山を愛する法科院生の会 Kosuke Akiko Kazuo Tomotaka

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八重山教科書問題の真実
 
私たちは、東京在住の学生(4名)です。平成23年9月に沖縄県石垣市を旅行したとき、「八重山教科書問題」に遭遇し、9月8日の「全員協議」を直に傍聴する機会に恵まれました。このブログでは、私たちが沖縄県内で収集した情報などをもとに八重山教科書問題の実相に迫って行きたいと考えています。
 
なお、本ブログにおいては、イデオロギーを対比しての議論は控えます。したがって、教科書の優劣についての議論も控えます。また、個人についての固有名詞の使用を可能な限り控え、石垣市教育長、沖縄県教育長、文部科学省などの機関名を用いて議論を展開したいと考えます。
 
1 問題の概要
 
2011年6月27日、八重山地区教科書採択協議会(石垣市、与那国町、竹富町の教育委員会の諮問機関、以下、「協議会」という。)が開催され、協議会(旧委員)は、同協議会長に石垣市教育委員会教育長(以下、「石垣市教育長」という。)を慣例に従って選出した。協議会長に選出された石垣市教育長は、旧委員に対して、「新委員の皆さんは信頼のおける方々ですから承認下さい」と新委員の承認を提案し、新委員が全会一致で承認された。 
新委員は、3教委の教育長(3名)、3教委の教育委員(各1名)、PTA代表(1名)、学識経験者(1名)の8名で構成され、旧委員には含まれていた指導課長と指導主事(いずれも教員出身)が除かれていた。
 
旧委員の一人は、「あれが全てのはじまりだった。新委員が別室で待機していると聞かされ、直ちに承認することが当然といった雰囲気のなかで、委員構成の変更点の説明などもなく承認を求められ、承認してしまった。こんなことになることが分かっていたら、徹底して反対した。」と振り返る。この時点で、協議会の多数派(5対3)が形成されたと言ってよい。以後、多数派を背景に以下のようなことがらが次々と決定されていった。
 
①教科書名を上げずに教科書を審議する方式が、協議会長から提案され、了承された。
②協議会規約によって、教科書調査員は協議会に出席して調査結果を委員に報告しなければならないと定められていたが、委員の一人が教科書調査員(教員)に顔を知られたくないと訴えたため、「必要に応じて報告する」と急遽、規約が改定された。
③協議会規約には、教科書調査員の選任については、協議会役員会に事前に諮らねばならないと規定されていたが、協議会長が協議会役員会に諮ることなく教科書調査員を選任し、委嘱状を交付した。このことについて、委員の一人が規約違反であると指摘したが、協議会において、事後承認でも問題なしとされた。
④協議会の新委員に校長や指導主事などの学校教育の専門家を委員に加えることが望ましい旨を県教委が指導・助言したが拒否した。
⑤教科調査員の複数推薦に含まれていない教科書が選定されたことについて、委員が、不適切として再検討を要求したが問題なしとして却下された。
 
協議会は8月25日に、育鵬社の教科書を5対3の多数決で選定し、答申した。8月25日の答申を受けて、石垣市と与那国町の両教委は8月26日に、答申の通りに育鵬社の教科書を採択するが、竹富町教委は、8月27日に東京書籍を採択した。すなわち、3市町教委は地教行法に定めた採択権を行使するも、無償措置法に規定する地区内同一の教科書採択には至らなかった。地区内同一採択が完結しない事態を受け、3市町の教育委員長は協議し、9月8日に八重山地区の全教育委員を招集し、教育委員13名による全員協議を行い、東京書籍を8対2の多数決(棄権2、欠席1)で採択した。
 
しかし、文科省は、2市町の教育長から無効とする文書が発出されたことを理由に、9月13日に全員協議は無効と発表し、9月15日(県教委の需要冊数の報告期限の1日前)に3教委は8月25日の答申通りに採択すべきであると指導助言した。さらに同省は10月31日に、「答申通りに採択しない教委は無償措置法第13条第4項に違反し、無償給付の対象外となる」との方針をも打ち出した。
 
一方、沖縄県教委は、「8月25日の答申に法的拘束力はなく、3教委が8月26日及び27日に個別に行った採択に違法性はない。しかし、3教委の採択は無償措置法第13条第4項(教委は協議して同一の教科書を採択しなければならない)を満たしていないので、3教委は、全員協議の有効性も含めて協議し、同一の教科書を採択すべきである。」との声明を発した。
 
2 問題理解の鍵
 
八重山教科書については、いくつかの誤解がつきまとっている。その一つは、協議会の「選定」を「採択」と誤解することである。この誤解に立つと、「全員協議の決定と協議会の選定はどちらが有効か」といった二値的な問題提起や「逆転不採択が起った」、「9月8日の全員協議は無効。よって、8月23日の協議会の決定に従うべきだ」、「答申に従わない竹富町はルールを守っていない」といった誤った結論を導くことになる。八重山教科書問題を正しく理解する鍵は次のとおりである。
 
①教科書の採択権限は地方教育行政法第23条6号に市町村教育委員会に存すると定められている。
②3教委は、八重山採択地区協議会を「諮問機関」として位置づけており、答申に強制力を与えていない。
③教科書無償措置法第13号第4項に、採択地区内の各市町村教育委員会は協議して同一の教科書を採択しなければならないと 定められている。
④3教委が8月26日及び27日に行った採択は地教行法第23条第6号に則った行政行為であり、これらの行為には違法性はない。
⑤八重山採択地区協議会は、各教委が答申と異なる採択をした場合を想定しつつもそのことが生じたときの解決策を規約に予め定めていない。したがって、各教委が答申と異なる採択をした場合は、無償措置法第13条第4項を適用し、3教委が協議して同一の教科書を採択する以外に解決策はない。
 
3 文部科学省と県教育委員会の主張の相違
 
 
<文科省の主張>
①無償措置法第13条第4項は、「地区内の教育委員会は協議して同一の採択をしなければならない」として、地区内同一採択を求めている。
②地区協議会は、無償措置法第13条第4項における「協議」を行なうために3教委が合意して設置した組織であり、その答申は協議にあたる。
③答申と異なる採択をした竹富町教委の採択は無効とまではいえないが、無償措置法第13条第4項の規定に違反し、答申の通りに育鵬社を採択をした石垣市、与那国町の教委は無償給付の対象になるが、答申と異なる東京書籍を採択をした竹富町教委は無償給付の対象にならない。
 
<沖縄県教委の主張>
①地区協議会は諮問機関であり、その答申に法的拘束力はなく、答申と異なる採択を以て違法とすることはできない。協議会規約は、答申に基づいて採択することを義務づけてなく、答申と異なる採択が規約違反にも当たらない。
②竹富町教委の採択行為に違法性がないことは、文科省も「無効とまではいえない」として認めざるを得ない。
③他県において、採択地区を構成する教委が協議して答申と異なる採択をした事例は存在し、協議会の答申を「協議の結果」とするには無理があり、3教委の間の協議は完結していない。したがって、3教委は、全員協議の有効性も含めて、協議し、同一の教科書を採択する必要がある。
④地区内同一採択が完了していないことについては、八重山地区全体が違法状態にあるのであって、竹富町教委のみを違法とし、無償給付の対象外とする判断には不当である。
⑤県教委が3教委に対して協議を促している最中に文科省が報告期限の2日前に答申に従って採択せよとの指導助言を行なったことが混乱に拍車をかけた。
 
4 全員協議の有効性
 
全員協議について、文部科学省と沖縄県教委は、「3市町教委が合意すれば、全員協議を協議の場とすることも可能であり、全員協議の決定を最終的な採択とすることも可能である。」との見解を共有している。しかし、全員協議の有効性については、 3市町教委の間においても県教委と文科省の間においても認識が以下のように異なっている。
 
①石垣市と与那国町の教育長から協議を無効とする文書が発出されており、合意に基づいた協議が行われたとはいえない。よって、協議は無効である。(文科省)
②全員協議に先立ち、3教委が個別に会議を開催して全員協議をすることを決定した。協議の開催に反対する教委はなかった。協議は成立している。(県教委)
③与那国町教委とは、全会一致を条件に協議に臨んだが多数決で決定されたので協議は無効である。(与那国町教委)
④石垣市教委は、採択は曲げないとの条件を付して協議に臨んだが多数決で決定されたので協議は無効である。(石垣市教委)
⑤協議に条件を付して臨むことはできず、採決の方法は協議の中で決めることが常道である。多数決は紛糾した結果に採用したものであり、民主的に決定した。(竹富町教委)
 
5 全員協議を無効とする場合の対応
 
全員協議を無効とする場合の対応についても、3市町教委、県教委、文科省の間で各見解は異なっている。
 
①全員協議が無効である以上、3教委は協議会答申に従うべきである。(文科省)
②全員協議を無効とするなら、状況は同協議以前に戻ることから、全員協議に代わる新たな協議の開催が必要である。(県教委)
③文科省の見解が正しいので、協議には応じない。(石垣市教委、与那国町教委)
④県教委の見解が正しい。協議に応じたい。(竹富町教委)
 
6 文部科学省の法規を超えた対応
 
文科省が八重山地区教科書問題においてとった措置は以下のとおりである。これらの措置はいずれも超法規的な対応となった。
 
①地区内同一採択が未完結の状況下で、文科省は3教委に対して、(法的拘束力のない)答申に従うべきだとの裁定を下した。
②答申に従わない教委に対しては国として教科書給付を行なわないとした上で、給付を行われない教委に対して、教委が自ら教科書を購入して生徒に給与するように勧めた。
③無償措置法に定めている「県教委から文科省への教科書の冊数報告」が行なわれていない状況で、文科省は、石垣市と与那国町の2教委に対して教科書給付を行なった。
 
7 竹富町教育委員会の決断
 
竹富町教育委員会は2月22日、臨時会を開き、東京書籍版の教科書について、一般人から現物寄贈を受けて生徒に給与する方針を決めた。同教委は「無償給与を受けるまでの暫定措置」と述べ、今後も引き続き東京書籍版の無償給与を訴えるとした。また、同教委教育長は、東京書籍版を採択した昨年9月8日の全教育委員による協議が有効だという考えを改めて示し、「教科書の公費負担をせず、篤志家等の支援を受ける」と述べ、現物寄贈を受け付けたい考えを示した。同教育長は「公費を使えば簡単に済むが、何のため無償を求め続けてきたのかということになる。4月から新学期も始まるし、いくら大人の論理を言い張っても、教科書が子どもに届かなくては何のためか分からない」と説明した。 
 
8 沖縄県の八重山地区の教科書採択の状況
 
沖縄県教委は、公式ホームページを通して、八重山地区の公民社会科の教科書採択状況を、石垣市(育鵬社)、与那国町(育鵬社)、竹富町(東京書籍)と公表している。教科書採択にあたっては、「教科書の採択権限は市町村教育委員会に存する」(地方教育行政法第23条6号)と「採択地区内の各市町村教育委員会は協議して同一の教科書を採択しなければならない」 (無償措置法第13号第4項)の2要件が満たされなければならないが、八重山地区においては、要件が満たされていない。(M.Kosuke)
 

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