★松谷龍馬(まつたに たつま)のページ★

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         (三)

月の綺麗な夜のことである。

 いつものように共に夕餉をすませ、二人は床に入った。あちらこちらから月光が差し込み二人を包み込んでいた。その光は、柔らかいが、どこか凛とした冷たさをもっていた。その光が、さきの顔を、浮かび上がらせている。

 「おまえさん、すこしこのまま聞いて下さいな」
 「なんじゃえ??」
 「おまえさんが、今回、京の市へ行ってお帰りになってからというものおまえさんの何かが変に感じるんよ」
 「そんなこと……」
 「いいからきいてくだされ」
「……」
 小平はだまりこんだ。
 「それからというもの、私は、夜も昼もおまえさんのことばかり考えて気が、変になりそうなん。そしてもしや、京に別に好いたお方が出来たのではないかと思うようになったんよ。もし、そうなら、おまえさん、遠慮はいらんよ。私を捨てて、そちらの方の所へいってくださいな」
 「なんと!!」
 「夫婦なのにこんな疎遠な関係でいるほうが、私は我慢できんで。二人がどうしようもないほど年を取って取り返しがつかなくなる前に、別々の人生を歩き始めるのも、一つの男と女のありさまかと思うんよ。私もおまえさんのことをきっぱり忘れ、別の連れ合いをこれから探しますから」
 と涙ながらに訴えた。
 もちろんさきは小平が別の女性のことを思っているなどと、はなから考えてはおらぬ。二人は筒井筒の仲で、小平の頑とした一途なところにさきは心をよせたのであって、それは昔も今も変わりようがないことは、さきが一番知っていた。だから、ここまで言えばいかに口が重い小平といえど、だまってはおれまいという計算が、さきには、あった。
 案の定、小平は、飛び起き立ち上がると血相を変えて、
「な、な、何と……何といった。いかに季節が秋だからというて、おまえに飽きることなどあるものか。おまえは、わしの心を紅葉のごときものと思うておるのか……わしが、おまえを、いとしく思う気持ちは、昔から一時たりとも変わったことはないわ」
 ここまで疑われた事への怒りにまかせて、息も荒々しく一気にぶちまけた。

 そのとき松虫が鳴いた。

 二人は月光に照らされるお互いを見つめ合い、しばしの時が流れた。尾花のそよぐ音が、聞こえたそのとき、小平は膝を折って座ると、
「おまえを思う気持ちに変わりはないが、この前の商いのとき、市とその帰り道で考えてもおらなんだ問題にでくわしたのじゃ。その答えを出したいのじゃが、わしの頭では、何度も何度も同じ事のくりかえしじゃ」
 と物静かに独り言をいうようにつぶやいた。その後、小平が語った内容は、およそ次の通りであった。

     (二)
 秋萩も色づくころ。さきは寝床から松虫の鳴き声に耳をすませていた。時折、山の麓が響くほど一際高く、鹿が鳴き声をあげる。紅葉を踏み分けるその音が聞こえてきそうで、さきは思わず衣の袖を握りしめた。深まる夜の闇に、寝床は草葉でもないのに白露が置くごとくであった。ふと気づけば東の空はもう淡い赤に色着き始めている。小平が、京の市に出向いて三日目の朝を迎えようとしていた。
 小平が商いで市に出かける場合、翌日に帰ってくるのが常で、小平がそれより遅くなることは希であった。たとえ遅れても二日日目の昼過ぎには帰るのが通例であった。それだけに、三日目の夜、さきに秋の夜の独り寝はこたえた。

 小平が無事帰宅したのは、三日目があけようとするころであったろうか。
 小平の顔には、明らかに疲労の色がうかがえた。さきは、いつもより明るく装って、

「おかえりなさいませ、今、朝餉の支度を……」

 小平はその言葉を遮って、

「さき、すまぬ、疲れておるので今日はこのままやすませておくれ。商いは、思い通りにはこんだからのう」

 と乾いた微笑みを浮かべた。

「はい」

 と、さきはひきさがるしかなかった。
 さきには、小平の様子が少し変わったように感じられた。次の日、以前にも増して小平は無口になり、肩を落としてボーと遠くを眺めて考え事をする時間が多くなった。そして何より木を細工する小槌の音に魂が籠もっていない。さきは途絶え途絶えに聞こえる小槌の音を聞きつつやきもきしていた。

「どうかなさいましたか」

 と聞いても、

「なんでもないんじゃ」

 と乾いた笑いをうかべて、軽くいなされるのが落ちである。京で何かあったに違いない。果たして何が、あったのか。小平にはさきに言い出せないでいるうしろめたさがどこかにあり、さきには隠し事をする小平の真意をつかめぬもどかしさがあった。このわずかな心のすれ違いが二人の仲を少しずつ疎遠なものにしていった。このままでは二人の仲はどうなってしまうであろう、さきは移りゆく紅葉に目をやり、溜息をついた。小平に何があったのか、どうしても知りたかったさきは、そこで一計を案じて小平の反応を見ることにした。

     (一)
 今は昔、藤原頼通は宇治の別業を喜捨し、天台僧明尊を開山とし平等院と号した。次いでその地に鳳凰堂を建立、定朝作の丈六阿弥陀如来座像を安置したという。

 そのころの話である。

 京の西の方、嵐山の麓、嵯峨野の辺りに、静かに暮らす仲睦まじい夫婦がおった。小平とさきである。
 小平は、野山に分け入っては、竹だの木材だのを持ち帰り、それを細工して日用品と成し、市で商うことを生業としていた。さきはさきで住まいの裏方にある猫の額ほどの畑での野良仕事に精を出すといった塩梅で、「豊かさ」とはほど遠い、その日暮らしの生活であった。さきは、野良仕事をしている時、家の方から聞こえてくる小槌の音を聞いて心弾ませ、小平はさきの謡う労働歌を聞いてそれに合わせるかのように小槌を振るった。
 二人はともに無口であったが、それでいて小槌の音一つ、歌の一節でその日の体調から機嫌までなんとなく伝えあえるそういう年月の過ごし方をそれまでしてきたのだった。
 小平とさきにとっての「世の中」は、これがすべてであり、小平もさきも、それに疑問を挟む余地など、これまでは、これっぽちもなかったのである。

 こんにちは。松谷です。私がブログを開設して今週の金曜日で二週間になろうとしています。
 すこしブログライフにも慣れてきましたので、そろそろ小説のほうも発表していこうかとおもい、連載を開始することにしました。

 タイトルは『新今昔物語』巻の一 「怪盗袴引きの成仏」です。原稿用紙で90〜100枚前後になるかと思いますが、毎週日曜日に更新したいと思っています。今週は今日、このあと第一回をアップしたいと思います。
 『バーバの夏休み』とは全く違ったジャンルですし、テーマも文体もまったく違うものへの挑戦となります。説明が勝ちすぎるのが今の小説としては難点かもしれませんが、わかって試みていることですので・・・みなさんはどうお感じになるでしょうか。

 またご意見をお寄せください。

今回は、第一回と第二回分で冒頭部分をこのあとアップします。よろしくお願いします。

ちなみに舞台は平安時代の都と宇治です。

 形而上学的な理想郷である浄土を形而下に実現したいという怪盗袴引き。彼との出会いで運命をかえられてしまう小平。小平も偶然に子供を死へとおいやるという経験をしてしまいます。偶然に支配される死を前に不条理な生と死に苦しむ人々・・・人生のすくいとはなんなのでしょう・・・。

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