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立正佼成会附属佼成病院裁判は治療中の母親に対し、十分な治療をせずに死に至らせたとして、長女が兄夫婦(長男夫婦)と病院を経営する立正佼成会を相手に提起した裁判である。長女は以下の点を主張し、損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した。
・長男は入院中の母親の経鼻経管栄養の注入速度を速めた。これによって母親は嘔吐して誤嚥性肺炎を発症した。
・佼成病院は経管栄養の管理をしておらず、長男が経管栄養の流入速度を速めたことを発見できず、適切な措置ができなかった。
・長男夫婦が他の家族に相談せず、独断で母親の延命につながる治療を全て拒否した。
・佼成病院は患者本人や他の家族に説明も意思確認もせず、長男の治療拒否の意見に従って必要な治療をしなかったため、母親は続発した敗血症及び急性腎不全により死亡した。
長男は2007年8月15日に医療従事者でもないのに母親の経管栄養の流入速度(注入速度)を速めた。その後に母親は嘔吐した。その日のカルテ「経過記録」には「Bedに戻り臥位になった時嘔吐してしまう」と記録されている。その夜の16日1時過ぎにも嘔吐した。医師が診察し、医師記録には「原因判明するまでintubation feeding(注:経管食事法)は中止し、Div.(注:点滴)管理とする」と記された。
その後、母親は点滴管理とされて小康状態になった。ところが、長男は母親の延命につながる治療を全て拒否した。医師記録の2007年8月20日には「family (son)は延命につながる治療を全て拒否。現在Div.(注:点滴、Drip Infusion into Vein)で維持しているのも好ましく思っていないようである」と書かれている。このために佼成病院は点滴を中止した。
長男は8月27日には医師の勧める高度医療を拒否した。医師記録には「……変更、増強したいところであるが、familyはやんわりとであるが、高度医療は拒否されている」とある。
9月3日には母親の呼吸状態が悪化したが、長男は酸素吸入も断った。9月3日の医師記録には「familyの要望どおり、O2 inhalation(注:酸素吸入)も行わない→当直時間帯のみ許可」とある。夜間のみ酸素吸入を行ったため、日中に症状が悪化し、夜間に持ち直すという状態が繰り返された。
病歴要約には「ご家族は一切の延命的治療を望まれなかったため、DiV (注:点滴)とエンチベース(注:皮膚のかぶれ等にぬるボデイクリーム)のみとした」と記載されている。
東京地裁判決は2016年11月17日に言い渡され、長男が経鼻経管栄養の注入速度を速めたことを違法とした(17頁)。
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経管栄養は医療行為であり、嘔気、嘔吐、腹部膨満や腹痛などの副作用や誤嚥性肺炎の危険もあるため、医師の指示に基づいて行う必要があり、病院では看護師が行うこととされており、患者の家族が行うのは自宅での例外的な場合に限られているのであるから、患者の家族であっても、医師の指示に基づかずに患者の経鼻経管栄養の注入速度を変更することは違法であるといわざるを得ない。
したがって、被告長男が8月15日に医師の許可なく母親の経鼻経管栄養の注入速度を変更することは違法であるといわざるを得ない。
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一方で判決は「立正佼成会にとって、被告長男が母親の経鼻経管栄養の注入速度を速めることを予見することは不可能であった」とした(18頁)。しかし、問題は病院が点滴をいつ始めて、いつ終わらせるか管理していないことである。病院にとって予見できないから責任がないとは無責任である。現実に大口病院などで点滴の操作が問題になり、病院の責任が追及されている。病院の予測不可能で済まされる問題ではない。
判決は患者の死因については「気道及び尿路に感染症があったことからすれば、母親が8月15日の嘔吐とは無関係に誤嚥性肺炎を発症した可能性も否定はできない」とした(25頁)。これは佼成病院の医師が証人尋問で証言した多剤耐性緑膿菌の院内感染の問題である。医師が裁判の証人尋問でカルテの死因は誤りで、多剤耐性緑膿菌の院内感染であると証言した。何れにしても佼成病院の問題である。原告の主張を退けたから問題ないとはならない。
患者本人の意思確認について判決は、母親は意思確認ができる状態でなかったとする。その理由として「自ら経鼻胃管を抜去してしまうことがあり、経鼻経管栄養の必要性について理解できていない様子であった」とする(22頁)。
しかし、これは一般常識に反する。管を抜こうとすることは、人間として本能がある証拠である。誰だって不快なものは外したくなる。「経鼻経管栄養の必要性について理解できていない」と言うならば、病院が経管栄養の必要性を病院が説明したのかが先ず問われる。しかも、頭で理解しても不快なものをとろうとする衝動は残る。その衝動の通りに動いたとして、意識がなかったことにはならない。
長女に意思確認をしなかった点については、「キーパーソンを通じて患者の家族の意見を集約するという方法が不合理であるとは認められず、そのような方法を採ることも医師の裁量の範囲内にあるとされる」とした(23頁)。
しかし、その理由を二点挙げているが、何れも成り立たない。第一の理由「医師が患者の家族の全員に対して個別に連絡を取ることが困難な場合」は本件には該当しない。目の前にいる家族に説明し、その意見を確認しなかったことが問題である。
第二の理由「延命措置には費用や介護の分担など家族の間で話し合って決めるべき事柄も伴う」は、「この問題は家族で話し合って結論を出してください」とすれば済む話である。一切をキーパーソン経由にすることを正当化するものではない。
その上で原告が積極的・明示的に意見を表明しなかったことを根拠に正当化している。これは消費者問題や詐欺事件などで被害者不利の判決を出す裁判所の論理と同じである。特に医療の分野ではInformed Consentという言葉がある。単に異議がなかったということでは足りない。説明された上での同意が必要になる。
地裁判決に対し、控訴及び上告・上告受理申立をしたが、残念ながら覆すに至らなかった。しかし、厚生労働省が2007年に策定した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」では「患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとって最善の治療方針を採ることを基本」と定めている。長女の明示的な意見がなかったことを異議がなかったアリバイに使うが、それは十分に話し合うという趣旨に反するものである。
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