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松波慶次『自殺考察』(文芸社、2018年)は死をテーマとした表題作の中編と短編二作を収録した書籍である。「自殺考察」は母親から虐待され、顔に火傷の傷を持ち、学校でイジメに遭っている女子高生が主人公である。同級生の言葉をきっかけに自殺を考えるようになり、自殺の方法を研究する。自殺が問題になる中で際どい作品であるが、優等生的に自殺は良くないと言うよりも響く。首吊りをする際の苦しさなどがリアルに描かれる。
著者は当初、本作品を無意味な死で終わらせる構想だったと後書きに書いている。それではあまりにも救いがないために現在の結末にしたという。しかし、死ぬ必要はなかったという無意味な死の結末でも十分に物語として成立するだろう。『ロミオとジュリエット』も、そのような悲劇である。
一方で本作品の結末も、ある意味で現実的である。深刻な悩みも資金と技術で解決する問題である。日本では心の問題を根性や気合いで何とかしようという精神論が横行している。腹を割って話す、対面で話せば解決するという安直なコミュニケーション至上主義もある。それらとは全く別のベクトルの解決策である。精神論大好きな向きには、ある意味で「救いのない」結末になる。しかし、救いにならない精神論を押し付けて益々苦しめる日本の実態を考えると、有意義な結末である。
短編の一つは戦時中の闇につながる話である。自己の責任回避が第一の日本軍の病理が現れている。この無責任さは軍部だけでなく、日本の官僚機構に共通するものであり、戦後の公務員組織にもつながっている。祖父は相対的には良心的な人物になるが、自分の死後に表面化するようにしており、逃げている点は変わらない。
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