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田中芳樹原作、藤崎竜漫画『銀河英雄伝説 12』(ヤングジャンプコミックス、2018年)はヴェスターラント虐殺が起きる。表紙は背中合わせのキルヒアイスとラインハルト。キルヒアイスは上を向き、ラインハルトは下を向く。
ヴェスターラント虐殺は原作と異なった形で描かれる。これを改悪とする批判は強い。原作ではヴェスターラントの民衆は領主の収奪に耐えかねて放棄した。これはゴールデンバウム朝銀河帝国の体制の行き詰まりを示すものであった。ラインハルトの簒奪は時代が求めたものであることを示していた。
これに対して本作品では陰謀家に唆されて蜂起する。社会を描くという観点では薄っぺらである。しかし、元々、本作品では姉を皇帝に奪われた怒りは大きいものの、身分制度の不合理への怒りの描写は弱かった。その流れからは自然となる。また、最近の銀英伝の二次小説では貴族支配が、それほど悪くないものであったとの解釈もある(古ぼけた蝶番「帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?」など)。その流れもあるかもしれない。
石黒版アニメなどでは領主を殺した民衆が集まって今後を相談する描写があった。これは民主主義の萌芽を感じるものである。このシーンがないことも批判される。但し、好敵手のヤンの思想の本質は民主主義よりも個人主義・自由主義である。民主主義国でも査問会のような体質は強く否定する。特に本作品ではヤンを個人主義・自由主義の人として強く描いている。その意味では物語で民主主義を出す必要は薄いと言える。
ヴェスターラント虐殺に対するラインハルトの責任も原作とは異なる。このためにヴェスターラント虐殺に限ればキルヒアイスの諫言が的外れに見える。しかし、民衆を犠牲にするオーベルシュタインの手法への批判とすれば意味がある。ヴェスターラントだけが問題ではない。「私とオーベルシュタインのどっちを選ぶの」的な低次元の話になりかねないが、原作でもロイエンタールの反乱時のミッターマイヤーの言動がある。それほど原作の精神に逸脱しているわけではない。
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