勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり

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ネット選挙解禁?

21日は参議院選挙投票日。今回、話題になっているのがネット選挙の解禁だ。これでもって候補者の主張がネットを通じてダイレクトに伝わり、投票率、とりわけ若年層のそれが上昇することが期待されている。で、例によってテレビもこの文脈で選挙を煽っているのだけれど……残念ながらメディア論的に考えた場合、今回のこの「ネット選挙」でも投票率が上がることはまったくもって期待できない。良くて通常通りの50%後半、ただし6月の都議会議員選挙の低投票率(過去二番目の低さ)ということを鑑みれば、もっと悪くなるかもしれない。まあ、すくなくとも前回(57.9%、2010年)を上回ることはないと見た。

毎日新聞と立命館によるTwitter調査は、掘る穴を間違えている
僕と同じような議論、つまりネット選挙に疑問を呈している世論はある。その典型が毎日新聞と立命館大学が合同で行ったTwitter上の選挙に関するツイートの分析だ。ここでは候補者とTwitter利用者が今回の選挙についてツイートした単語の数を比較している。それによれば候補者が多くつぶやいたのが演説、選挙、駅、街頭。一方、有権者=Twitter利用者は日本、憲法、原発、TPPといった具合。つまり候補者が発したいコンテンツと有権者が欲している情報がかみ合っていないことが指摘されている。毎日が展開した記事はここまでだが、要するにこれは「候補者と有権者のニーズがかみ合っていないからネット選挙がうまく機能しない」という立ち位置に言外に含まれているとみた。ということは、両者のニーズがかみ合えばネット選挙は投票率の上昇に繋がるという文脈になる。

この調査に代表される、ネット選挙に関する世論。しかし、メディア論的に考えると、分析の場所=掘る穴がまったく間違っている。言い換えれば、メディア論的には「候補者と有権者のニーズがかみ合ったところでネット選挙は投票率に影響を及ぼさない」となる。なぜか。

プッシュ・メディアとプル・メディア

すでによく知られている用語だがメディアは大きく二つに分類することができる。「プッシュ・メディア」と「プル・メディア」だ。プッシュ・メディアは受け手が情報に自ら主体的アクセスすることなく、メディアの方から情報をプッシュ=提供してくるメディアをさす。典型的なのはスタジオアルタの掲示板で、新宿駅東口駅前で待ち合わせをしていれば、情報が勝手にこちらに入ってくる。またスマホのプッシュ機能も「お知らせしてくれる」ので、これに入る。テレビをつけっぱなしにしてダラダラと見ていると、知らないうちに情報が頭の中に入ってくるなんてのもテレビのプッシュ性だ(ただし、これらは一般的な傾向で、受け手の状況に応じてメディアはプッシュにもプルにもなる)。一方、プル・メディアは受け手が任意に情報にアクセスに行くメディアだ。つまり、情報を知りたいので、そのメディアに向かう。Googleで情報調べをするなんてのがその典型だ。当然、こちらは任意で情報にアクセスするのでプッシュ・メディアよりアクセスする側の主体性・任意性が高くなる。

インターネットは原則プル・メディアに位置づけられる(YouTubeをヒマつぶしにダラダラと見ているような場合は、これには該当しないけれど)。つまりインターネットアクセスのためのディバイスを開き、必要なサイトにアクセスし、必要な情報を引き出す。ということは、その情報が掲載されているサイトにアクセスに行く前に、受け手は先ず何らかの情報を知ろうとするモチベーションがなければならない。

宮崎県知事選挙で有権者がそのまんま東のサイトにアクセスしたのはサイトが魅力的だったからではない

選挙でウェブサイトがうまく機能した例をひとつあげよう。それは2007年1月に行われた宮崎県知事選挙だ。この選挙で泡沫候補と呼ばれたそのまんま東(後に東国原英夫)が圧勝する。これには様々な要因があるが、そのひとつとして東がサイトでマニフェストを公開したことがあげられる。つまり、公示前にオフィシャルサイトで県知事候補としては初めてといってもいいマニフェスト公開を行ったのだ(当然だが、選挙期間中はサイト更新がストップしている)。

ただし、これが功を奏したのは東のマニフェストが有権者のニーズに応えたからというわけでは、必ずしもない。つまり東のニーズと宮崎県民のニーズが合致したというのではない(後に東自身もコメントしているように、 よく見てみれば、このマニフェストも結構イイカゲンだった)。そうではなくて、たけし軍団で宮崎出身のそのまんま東というタレントが立候補したということに有権者は関心を持ったのだ。つまり、サイトが魅力的だったのではなく東という存在が魅力的(=関心を惹起する)だったのであり、こういったプッシュ要因が、結果として東のサイトに人々を向かわせた=プルさせたのだ。だが、これはいいかえればサイトそれ自体では関心を惹起するとことはないということになる。これがプル・メディアの宿命なのだ。プルメディアはまずアクセスする側に動機がなければならない、これが前提となる。

これとまったく同じ図式が今回のネット選挙にも該当する。つまり、どんなに有権者のニーズに沿ったサイトを構築したところで、そもそも候補者のサイトにアクセスする動機=プッシュ要因がないのだから、そこにアクセス=プルすることはないということになる。いいかえれば毎日新聞+立命館の分析に典型的に見られるような世論が展開している今回のネット選挙に関する議論は完全に的が外れている。インターネットは有権者に政治的な関心をかきたてるカーゴでは決してないのである。

ネット選挙は、やっぱりネット投票のこと!

じゃあ、ネット選挙が投票率をアップさせる可能性は全くないのか?といえば、「いや、そうでもない」と考えることはできる。ただし、まったく別の視点から考えればの話だが。それは、現在まだ実施されていない「ネット投票」を実施することだ。現在の投票システムは投票所に有権者が出向いて投票するというもの。当日投票が難しい有権者のために期日前投票が準備されているが、これとて役所に出向いていかなければならない。つまり「面倒くさい」のである。これがプル要因を阻害する。あるいは選挙に向かうことを躊躇させる。つまり「自分は必ず選挙に行く」と決めている層(公明党・共産党の支持者や自民党の一部の有権者が典型)はともかく、「まあ、選挙に行ってもいいかな?」と軽く思っている層は、天候が悪くなったり、別の用事ができたり、あるいはただただ単に「面倒くさいなあ」と思ったりすると、これが投票に向かうのを止める方のプッシュ要因となり、投票所に向かうことを思いとどまらせてしまう(ということは、今回の選挙結果はすでに見えているということでもある。自民党の圧勝、公明党、共産党の躍進、維新が以外にダメ、民主党が大敗北。でねじれ国会は解消する)。

ところが、ネット投票ともなると、こういった、いわば「ライト有権者」たちもまた投票しようというプル要因が現れる。なんのことはない、投票所に出向くという「面倒くさい」作業が取り払われるからだ。だから、ネット投票すれば当然ながら投票率が上がることになる。ただし、それはやっぱりネットが政治への関心を惹起したからというわけではない。これまで取りこぼしていた有権者をインターネットというシステムによってすくい取ることが可能になるだけだ。とりわけ若年層がこれに該当するだろう。

で、この場合、政党の構成がかなりかわるだろう。「出向く」までの動機がない有権者を取りこむということは、いわゆる「浮動票」「無党派層」の投票率を高めることに繋がる。だから、もう少し政党勢力がばらつくだろう。そして選挙に「プル」な集団が有権者の中心である共産党や公明党の議席数が減少する。

結局、ネットは政治的関心を高めない

ただし、ネット投票による投票率のアップは、底引き網に例えれば網の目が細かくなり、小魚まですくえるようになるだけのこと。ということは、たとえネット投票が実施されたとしても、くどいようだが政治への関心それ自体を惹起するわけではないので、当初こそ、こういった「面倒くさがり」の有権者を確保することはできるが、やはり現在の政治への無関心がそのまま進む限り、また投票率は漸減していく。

政治に対する関心を高めるためには、もっと別のところを掘っていく必要がある。つまり、有権者の政治的関心をあおり立てるようなプッシュ的な要因を探し当てる必要がある。そして、それはインターネットそれ自体には決して存在しない。少なくとも現状においては。

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はじめまして。
私もネット解禁による投票率の向上は見込めると思えないひとりです。
そもそも選挙もしくは政治に興味が無い人が受動的にも参加するとも思えません。。。
仮にネット投票が始まるとした場合、アンケートちっくに簡単に投票できればいいですが、現実はWEBセキュリティなどの問題で簡単に投票できないですよね、おそらく。
( ̄▽ ̄;

2013/7/21(日) 午後 2:00 [ 犬田ポチヲ ] 返信する

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