勝手にメディア社会論

メディア論、記号論を武器に、現代社会を社会学者の端くれが、政治経済から風俗まで分析します。テレビ・ラジオ番組、新聞記事の転載あり

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財務省の福田淳一事務次官が複数の女性記者にセクハラ発言をしていたことが物議を醸している。そして今回、バーでやり取りした女性記者との音声データが公表された。「おっぱい触っていい?」「手縛っていい?」といったベタにセクハラ的な次元の音声がそれだ。こうした「音声」という決定的な証拠がある以上、もはや福田氏のセクハラは明らかだが、さて、じゃあ「これで更迭」とバッサリ切ってしまってよいものだろうか?

朝のニュースやワイドショーをチェックしてみると、もはや福田氏は完全にクロである。麻生大臣も「事実ならアウト」としているし、それ以前に「処分を考えていない」と明言したことに対し、今度は大臣自身の責任問題まで指摘されている。つまり「やることが遅いんだよ!」という文脈。

実際、メディアの福田氏に対する報道はすでに「アウト」という前提で展開されている。その際、福田氏の経歴が紹介されている。東大法学部を卒業し大蔵省に入省、財務省で辣腕を振るう。性格は豪放磊落であるなどなど。しかし、これらはどうみても「エリートだから世の中をよく知らない」というベタで偏見に満ちた前提、学歴コンプレックスの人間の溜飲を下げるような展開だ。

こうした報道の仕方、ちょっと問題ではなかろうか?そこで、ここでは敢えて、いったん福田氏を擁護する形で議論を展開してみよう。ただし誤解を招かぬよう僕の立ち位置を最初に示してから。つまり「福田氏は、いずれにしてもセクハラ」。

こんな文脈で福田氏を擁護してみよう。今回のスキャンダルもちろん森家計問題に端を発している。そこで女性記者が事実関係を掴むべく事務次官にアプローチした。ただし、接近してきた女性記者たちがあまりに執拗で事務次官はウンザリしていた。そこで、なんとかこれを拒絶する方法はないだろうかと事務次官は考えた。

「そうだ、セクハラまがいの話をして話を煙に巻こう!」

そして福田氏は実行に移した。

ただし、福田氏はこの戦略の副作用を予想できていなかった。女性記者の一人が音声を録音していたのだ。肝心のネタをゲットできなかった件の記者。それなら、この「セクハラ発言」はスキャンダルとしてはもってこい。で、報道。事は大騒ぎになり、麻生大臣は「事実とすればアウト」とコメント、メディアは「すでにアウト」という辞令を発するに至った。

実は、メディアがやっていることは、この時点で人権蹂躙だ。鬼の首を取ったかのように取り上げることが出来る根拠は音声データにある。だから「間違いない」というわけだ。

そんなことはないのだ。たとえばメディアのインタビューで、インタビューイーがある人物についてコメントを求められたとしよう。そしてインタビューイーが「あいつはバカだ!」とコメントしたとする。ところが、この「バカ」という発言は当該人物への親密さや凄さ、規格外れの大胆さを表現する褒め言葉だった。しかし、これを取材した側はインタビューイーと当該人物が揉めているように演出したいがゆえに「アイツはバカだ!」だけを音声的に切り取り、それを擁護するようなコメントを拾い集め、他の賞賛している部分を全てカットして報道した。必然的結果としてインタビューイーの意図とは異なるインタビュー記事が出来上がった。つまり音声や映像、それ自体は事実であったとしても真実を語っているかどうかは別なのだ。そこには編集者側の加工が存在する。

これと同じ危険性が、今回のスキャンダルにはある。音声が事実でも、意図は別なところにある可能性があるからだ。もし、これが完全にセクハラで更迭に値するならば、メディアは明確な証拠を提示しなければならない。その方法は「女性記者と福田氏のやり取りの音声を全て公開すること」だ。それで白黒はハッキリする(女性記者の匿名性を確保したければ音声を変更すればよい)。つまり女性記者があまりにしつこく事務次官に突っ込んでいたら、我々は「こりゃ、酷いな?」ということになり、文脈を理解することが出来る。逆に、そうでないとすればこれは完全にセクハラ、福田氏は更迭だ。

現状の女性記者の音声を省略した報道はメディア側の文脈に基づいた悪意的なそれでしかない。だから、事実がハッキリしていない現状でメディアがやっていることは人権蹂躙なのだ。もう少しまともな報道をやって欲しい。

ただし、である。福田事務次官の戦略は女性記者を退散させる方法であっただけであったとしても、それでも十分にセクハラだ。懲戒には十分値するだろう。更迭レベルかどうかはさておいて。

さて、福田事務次官、どういったコメントをこれからするのだろうか。

ちなみに、もう一つ事務次官がセクハラであるかどうかをハッキリさせる方法がある。それは「福田氏が本件について男性記者に対してどうコメントしていたか」だ。

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