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おいしいラーメンが食べたい

太宰 治

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太宰 治 『桜桃』

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蒼空さんのところの課題図書になっていて、わたしのはじめの感想は以下だった。

読みました。
確か二度目ですが、細かい部分はあまり覚えてませんでした。「涙の谷」という言葉でぴんときましたが。太宰が長男の障害を苦にしていたということについて、わたしは長い間、苦にしています。というのは、障害があって気の毒、ということではなく、障害のある子供を持ったことを、ただ苦にすることしかしていなかった太宰が悲しいからです。「桜桃」という小説の存在自体が、そのことを象徴しているようで、悲しいのです。長男が大人になって、もしこの小説を理解したら、どんな気持ちになるか。それを考えると、悲しくてたまりません。だから、太宰が憎くなります。これは以前からどう自分のなかで消化しようか悩んでいた感情だったのを、思い出しました。(忘れていたくらいだから大袈裟なことではないのですが)
もう一度読みます。また新たな感想が浮かんだら書きます。

小説としてどうか、ということを全く考えていない、
これはこれでわたしの素直な感想文だったと思う。


肉まんさんが早くも感想をアップして下さいました。詳しいコメントは避けますが、もう一度お読みになるならば、この主人公の「私」がとてもいい夫であり親である、という気持ちをもって読み返してみて下さい。悪ぶっているのではないか、ということです。

一人称の私を作者と思ってはいけないというのは、理解できるのですが、太宰の場合、小説内に太宰の名前が出てきて、家族や周囲の設定も太宰そのものだと、どうしても切り離して考えるのが難しいです。
「事実」を書いているのではなく、「小説」を書いているのだ、ということはわかってはいるのですが…
それでも、意識して作家太宰ではない主人公として読んで見ると、確かに違う読み方ができることはわかってきました。
「私」=作者という完全な私小説はあります。例えば上林暁。
太宰はそういう作家と比べると「私」が作者ではないという工夫を見えないようにしています。

ふむふむ、なるほど、ということで、更に4、5回、繰り返し『桜桃』を読んでみた。

作品そのもの、小説としてのテクニック、に注目して、
読みやすく、軽やかな文章の、この短い作品の良さ、というところに注目して。

はじめに「子供より親が大事、と思いたい。」とあり、
最後に「そうして心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が大事。」とある。
これはまさに虚勢であることは一目瞭然なのである。
妻の「涙の谷」から「ふわりと」逃げて、飲みはじめても、
ちっとも家のことを忘れてはいないのだ。

桜桃を、子供の土産にしたら喜ぶだろう、首飾りにしたら珊瑚のようだろう、
そんなことを考えているようでは、ちっとも逃げた甲斐などありはしないのに、
むりやり次々と桜桃をまずそうに食べては、苦し紛れに虚勢みたいに呟くのだ。

どうしようもなく家族思いなのに、どうしても素直な態度をとることができない主人公の、
おかしくてかなしい虚勢の物語だ。

主人公の本当の心情は一切直接には書かれていないのに、
情けないほど素直じゃない男の哀れが伝わってくる。
確かに、これは、テクニックなのだ。
「子供が大切で、妻が哀れで仕方が無い。それなのに俺ときたら、何の力にもなってやれなくて、申し訳ない。すまない。許してくれ。」
と書いては、小説として全く面白くないものになるだろう。
本音を書かずに虚勢を読ませる技術なのだ。
これは確かに、作者自身と主人公との間に、距離を置き、
客観的に見ることができてはじめてできることなのではないだろうか。

なるほど、そう考えるとやはり太宰は凄い。




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太宰治 『待つ』

 省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人をお迎えに。
 市場で買い物をして、その帰りには、かならず駅に立ち寄って駅の冷たいベンチに腰をおろし、買い物籠を膝に乗せ、ぼんやり改札口を見ているのです。上り下りの電車がホームに到着するごとに、たくさんの人が電車の戸口から吐き出され、どやどや改札口にやって来て、一様に怒っているような顔をして、パスを出したり、切符を手渡したり、それから、そそくさと脇目も振らず歩いて、私の坐っているベンチの前を通り駅前の広場に出て、そうして思い思いの方向に散って行く。私は、ぼんやり坐っています。誰か、ひとり、笑って私に声を掛ける。おお、こわい。ああ、困る。胸が、どきどきする。考えただけでも、背中に冷水をかけられたように、ぞっとして、息がつまる。けれども私は、やっぱり誰かを待っているのです。いったい私は、毎日ここに坐って、誰を待っているのでしょう。どんな人を?いいえ、私の待っているものは、人間ではないかも知れない。私は、人間をきらいです。いいえ、こわいのです。人と顔を合せて、お変わりありませんか、寒くなりました、などと言いたくもない挨拶を、いい加減に言っていると、なんだか、自分ほどの嘘つきが世界中にいないような苦しい気持になって、死にたくなります。そうしてまた、相手の人も、むやみに私を警戒して、当らずさわらずのお世辞やら、もったいぶった嘘の感想などを述べて、私はそれを聞いて、相手の人のけちな用心深さが悲しく、いよいよ世の中がいやでいやでたまらなくなります。世の中の人というものは、お互い、こわばった挨拶をして、用心して、そうしてお互いに疲れて、一生を送るものなのでしょうか。私は、人に逢うのが、いやなのです。だから私は、よほどの事でもない限り、私のほうからお友達の所へ遊びに行く事などは致しませんでした。家にいて、母と二人きりで黙って縫物をしていると、一ばん楽な気持でした。けれども、いよいよ大戦争がはじまって、周囲がひどく緊張してまいりましてからは、私だけが家で毎日ぼんやりしているのが大変わるい事のような気がして来て、何だか不安で、ちっとも落ちつかなくなりました。身を粉にして働いて、直接に、お役に立ちたい気持なのです。私は、私の今までの生活に、自信を失ってしまったのです。
 家に黙って坐って居られない思いで、けれども、外に出てみたところで、私には行くところが、どこにもありません。買い物をして、その帰りには、駅に立ち寄って、ぼんやり駅の冷たいベンチに腰かけているのです。どなたか、ひょいと現われたら!という期待と、ああ、現われたら困る、どうしようという恐怖と、でも現われたときには仕方が無い、その人に私のいのちを差し上げよう、私の運がその時きまってしまうのだというような、あきらめに似た覚悟と、その他さまざまのけしからぬ空想などが、異様にからみ合って、胸が一ぱいになり窒息するほどくるしくなります。生きているのか、死んでいるのか、わからぬような、白昼の夢を見ているような、なんだか頼りない気持ちになって、駅前の、人の往来の有様も、望遠鏡を逆に覗いたみたいに、小さく遠く思われて、世界がシンとなってしまうのです。ああ、私はいったい、何を待っているのでしょう。ひょっとしたら、私は大変みだらな女なのかも知れない。大戦争がはじまって、何だか不安で、身を粉にして働いて、お役に立ちたいというのは嘘で、本当は、そんな立派そうな口実を設けて、自身の軽はずみな空想を実現しようと、何か不埒な計画がちろちろ燃えているような気もする。
 いったい、私は、誰を待っているのだろう。はっきりした形のものは何もない。ただ、もやもやしている。けれども、私は待っている。誰か、ひとり、笑って私に声を掛ける。おお、こわい。ああ、困る。私の待っているのは、あなたではない。それではいったい、私は誰を待っているのだろう。旦那さま。ちがう。恋人。ちがいます。お友達。いやだ。お金。まさか。亡霊。おお、いやだ。
 もっとなごやかな、ぱっと明るい、素晴らしいもの。なんだか、わからない。たとえば、春のようなもの。いや、ちがう。青葉。五月。麦畑を流れる清水。やっぱり、ちがう。ああ、けれども私は待っているのです。胸を躍らせて待っているのだ。眼の前を、ぞろぞろ人が通って行く。あれでもない、これでもない。私は買い物籠をかかえて、こまかく震えながら一心に一心に待っているのだ。私を忘れないで下さいませ。毎日、毎日、駅へお迎えに行っては、むなしく家へ帰って来る二十の娘を笑わずに、どうか覚えて置いて下さいませ。その小さい駅の名は、わざとお教え申しません。お教えせずとも、あなたは、いつか私を見掛ける。




人と関わるのは、いや。
家に居て母と縫物しているのが楽。
でも大戦争が始まったから、お役に立ちたい。
いえそれは嘘。口実。
不埒な計画。
でも、旦那、恋人、友達、お金、亡霊、どれも違う。
やっぱりわからないけれど、とにかく待っている。

たったひとつの、娘にとって大切な、
待っている何かというものの正体の謎は、
たったこれだけの小さな小説のなかに、
とてつもないスケールの大きな得体の知れないものを含ませている。

これを読んで(正確には書き写して)、
わたしは世界保健機関(WHO)の健康の定義改正に関する議論があったことを思い出した。


従来、

"Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity."

「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全な状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」

とされてきた健康の定義に、

spiritualとdynamicの二つの語を新しく加えた、

"Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity."

という新しい文章に改める提案をWHO総会へ提出するための検討が行われた。
(1998年 第101回WHO執行理事会)

各国の代表者がおのおのの賛成、反対の意見を述べるなか、
ホンジュラス代表者の下記の表現が、
追加を検討されている二語の含む意味について有る程度合理的に説明していると思われた。

Lopez Benitez(ホンジュラス)
「専門家委員会が十分検討した結果であれは、どちらでも問題はないでしょう。ただspiritualという内面的健康は特定宗教には依存せず、宗教との混同は好ましくありません。人は病気になって初めてspiritualな健康を求める気持ちを知ります。spiritualは健康定義にあるsocialが意味する社会的とは反対の内面的健康を意味し、またdynamicという言葉は健康と病気が一体のものであることを表現しています。」

これに対しイスラム諸国の代表者たちは、
spiritualには「霊的」「魂の」といった宗教的な意味合いを強く認めていたようだ。

「社会とは反対の、個人の内面的健康」、「霊的」、「魂の」、
あるいは「人間の本質的尊厳」と訳す人も居る。

宗教を抜きにして説明することが非常に困難な、この単語の意味するものこそが、
二十の娘の待っているものなのではないだろうか。

わたしは、そう、思った。

Spiritual something


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イメージ 1

いつものようにカバーをはずし、
新潮文庫の上品な表紙を捲ろうとして、
ふとなにやら感傷というか、
感動というか、
とにかく情動が確かに何かに反応して、
胸がどきん、といった。

はっとして表紙をよくみると、
どきん、の原因は間違いなく、
表紙にある著者の名前にあるようであった。

「太宰 治著」

ただ単に、その字ずらそのものがわたしの感傷の原因であった。

わたしはかつて、
たしかに太宰に恋していたのだ。
そして今も、やはり恋しい。

もう忘れたと思っていた。
若かったから、夢中になっただけだと思っていた。
彼のような男は女をも不幸せにするし、
現にどこかの女と逝ってしまったのだし、
もうわたしは大人になったから、
あんな純粋は必要ないのだと、
きっとそう思っていた。

しかしながら、今も好きなのだ。

あらら。
やめやめ、はずかしいです


『パンドラの匣』は、
噴き出してしまうような箇所のたくさんある、
かろやかな、面白く、楽しい小説である。
まさに、「かるみ」の極意。
お得意の、ところどころに「道化」があるだけで
根は暗い、というのではなく、
テーマそのものが明るいのだ。
そう、太宰のくせに。

昭和20年の10月から新聞に連載を始めたというから、
8月15日から2ヶ月しか経っていない、
殻蝉のようになっていた多くの国民が、連載を待ち遠しく、
日々の大きな支えとしていただろうことが想像できる。

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「喧嘩ではないぞ!単なる、単なる、ううむ、単なる、単なる、ううむ。」とうなって、
とほうに暮れたように、僕のほうをちらと見た。
「お芝居。」と僕は小声で言った。
「単なる、」と越後は元気を恢復して、「芝居の作用だ。」と叫んだ。
 芝居の作用とは、どういう意味か解しかねるが、僕のような若輩から教えられた事をそのまま言うのは、沽券にかかわると思って、とっさのうちに芝居の作用という珍奇な言葉を案出して叫んだのではないかと思われる。

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芝居の作用!
なんてセンスが良いのでしょうか。
噴き出して、そして唸りましたよ。

.......

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