|
米国企業在職中に書いた処女作らしい。
悪のヒーローが主人公だから、
ハードボイルドもの、とでもいうのだろうか。
米国滞在が長かったのか、最初から日本語で書かれたものというより、
翻訳ものを読んでいるような錯覚を覚えた。
主人公は若くして両親を飛行機事故で亡くしたマッチョな秀才という、
わかりやすい設定がわりと好ましい。
「どんな人間でも持っている悪の感情、そして悪への憧れを押しとどめるのは、その成長過程で培われた道徳観もさることながら、その人間を取り巻く生活環境が大きな要因を占めるのは言うまでもない。それは多くの場合、自分がそうした道に入ることできわめて身近な所にいる人間――多くの場合それは家族であることが多い――が迷惑を被るからに他ならない。しかしすでに天涯孤独の身となった恭介に、そうした気持ちを押し止めるものはなにもなかった。」
とまでわかりやすく説明してくれている。
悪のヒーローとしての小道具もお約束通り揃っている。
両切りのゴロワーズ、ディープグリーンのジャガー、
バーボアのハンティングジャンパー、酒はなぜかシャンパン。
主人公はその頭の回転の良さと天涯孤独であることに由来する悪への躊躇のなさで、
コカインの米国から日本への密輸ルートを開発し、
巧みに司法の手を逃れて富を築いていく。
ハードボイルドは「男のハーレクインロマンス」と言った女性書評家が居たそうだが、
なるほどと思う。
コカイン中毒者の、鼻粘膜が爛れて絶えず膿が出てきて、
ちょっとした刺激で鼻血が出る様子の描写は、生々しくリアルで、
楡氏もまた(『ブルー』の話題に引き続き…)
実際に身近で見てきた(試した?)のだろうという印象を持った。
コカインの輸入元はニューヨークという設定で、
想像するに楡氏が在職していた米国企業も
マンハッタンのウォール街にあったのではないだろうか。
我が家も、想像を絶するような高所得者が多く住む
マンハッタンのミッドタウンにあるので、
ご近所さんの中には小説のように週末のセレブパーティーで、
白い粉を鼻からエレガントに吸引するような日常を送っている面々もいるのかも知れない。
それが本当にお隣さんかもしれないけれど、
そういう現実は、小説よりもリアリティがない。
---
|