NY貧乏文庫

おいしいラーメンが食べたい

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赤の他人

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わたしは冬が好きだ。

雪国で育ったから、ニューヨークの冬の寒さはそれほど酷く感じることはない。
もっとも、歳を重ねるごとに寒さには弱くなってはいるけれど。
寒いだけで雪の降らない地方は、少し辛い。
雪が、好きなんだろう。
本当に気温の低い夜に、フワフワとした白くて大きな雪が音も無くゆっくり落ちてくるさまを眺めるのは、
子供の頃から大好きだった。
そして、翌朝のまぶしいほどの真っ白な世界。
街の雑音は雪が吸収してくれるから、静かで、清らかだ。
自分自身も、無垢な姿に清められ、新しくなったような気分になる。

秋は、冬を待つ季節。
そう思うと、ここ数日のピリッとした木枯らしも、頬に心地よく感じる。

ところで、
ニューヨーカーは、やたらと路上で知らない人に声をかける。
今日は、三人に声を掛けられた。

まずは近所のバス停でバスを待っているとき。
初老の、背の小さな女性が
「psychic teller(超能力あるいは霊能力の語り手)を知らないか?」
と聞く。
「ごめんなさい、知らない。」
と答えた。

知らんわ。そんなん。


二人目。
路上の隅っこでタバコを吸っていたら、
若いアフリカ系の男性がラップのリズムに身体を揺らしながら近づいてきて、
「#’%$’&(‘#$‘$%$&@:(#(’%(&%#”#$%&‘&’%‘&)」
……????
全く何と言っているのかわからない。
道でタバコを吸っていたら、良く「一本頂戴」と言われることが多いから、
これか?とタバコを一本差し出したら、
「ありがとう!&’&$)’(%))(‘’&)(‘’)%&%#$#‘(’)!!」
う〜ん、やっぱりタバコが欲しかったのかな…あれ?タバコはポケットに仕舞ったよ。
じゃあなんか別の用事かな。
「%&%$&&$#%$“%”‘&%’=)=‘&$&$#7」
あー、わからん、全然わからん。
「ごめんなさい、わたしあまり英語上手じゃないからあなた言っていること、わからない。ゆっくり話してくれる?」
「$(&&’$&%#()%’%#’’=$‘%$#%()’&&‘$$“%KJHGJ$#%$G&$#)You addicted me!」
「You addicted me?」
うなづいてる。You addicted me?わたしにおぼれた??
あー全然意味わからん。
「ごめん、わからん、さよなら。」
はー。ラッパー風のアフリカ系のスラングは本当に聞き取れない。
こういうことがあると、くたくたと無力感と劣等感に苛まれてしまう。
でも、冷静になって良く考えてみると、わらないからゆっくりしゃべってくれと言っているのに、
ちっともゆっくりしゃべってくれず、
そもそもわかってもらおうという話し方じゃない。
初対面の、赤の他人に対する態度じゃない。
良く考えたら、わたしは悪くない。


三人目。
これまた近所の地下鉄の駅の近くで二本目のタバコを吸っていたとき。
北欧風のきれいな顔をした若い女性が、
「すみません、この近くに○○(すぐ横のビルの高級食料品店)以外のスーパーマーケット、知りませんか?」
あー、この人は感じがいいし、発音も聞きやすい。
今日はじめてのまともな赤の他人だ。
はいはい、知ってますよ、近くにありますとも。
「すぐそこにありますよ、○○店」
「おう、それどこ?」
「そっちの、となりのブロックです」
「そっちね?わかった、どうもありがとう」
「どういたしまして」
あー良かった。
お役に立てて何よりです。
でも、あれ?あれ?そっち?なんでそっちへ?だからあっちだってば。

もう、知らない。
変な人ばっかり。


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真っ赤な嘘

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コンビニの駐車場を出て目の前の国道に出ると、信号待ちの列に加わった。
助手席では彼氏がユーロビートのCDを物色している。
彼氏が乗るといつでもユーロビートを聴かされる。
4リッターの黒のアリストからパラパラの音が聴こえたら、
間違いなくアホのヤンキーだと思われるだろう。
彼氏がCDをプレイヤーに入れる前に、私は全ての窓が閉じていることを確認した。
――♪時代にホラ呼ばれてるの やっぱ ウチらが イケてるでしょ パラッパパラパ♪
なんて歌詞。なんて音。
だけどこれは音楽じゃないと思ってしまえば少しだけ楽になる。

信号が青に変わる直前に、右隣に停まっている車から視線を感じてそちらを向いた。
若い男がふたり。
運転席の男は軽く身を乗り出してこちらを見ている。
国道とはいえ、住宅街の夜の11時だから、暗くて顔ははっきり見えないが、
明らかに、私を見て、なにやらニヤニヤしながら話している。
向こうの車の助手席の窓が開いた。
信号が青に変わったので、私は前を向いて車を発進させた。
なんだ?あいつら。
助手席に男が居るの、見えなかったのかな。
彼氏が気付かなくて良かった。モメたりしたら、めんどくさい。
それにしても、ふたりとも、相当ないい男だったな。
皺のない濃い色のスーツ着て、車は、あれはレクサスだったか。
助手席の男の顔は、かなり好みだった。
結局、私はああいう、ボンボンみたいな顔が好みなんだな。
さりげなく助手席の彼氏の顔を盗み見る。
改めて見るまでもない、好みの顔じゃない。
競馬とRPGが好きで音楽はユーロビートしか聴かない、顔も好みじゃない。
だけど、仕事は堅くて真面目にやっているし、酒に飲まれない。
何より、「愛してる」なんて真顔で言われたのは初めてだったから、
あんまり驚いて、断れなかった。

さっきからジーンズのお尻のポケットで携帯が震えているが、運転中だから、出ない。
一人だったら出るのだけれど、彼氏は運転中の携帯操作を凄く嫌がる。
いつも人に運転させておいて、運転規則にはやたらとうるさい。
シートベルトはもちろん、速度は厳守だし、三点確認も怠るとガミガミ小言を言う。
命根性が汚いんだな、きっと。
そういうところが、これまでつきあった、どの男とも違うところだ。

それに、こいつはときどき「永遠」みたいなことを言う。
「死ぬまで」とか「ずっと」とか、ぞっとするようなことを平気で言う。
私はそういうとき、いちいち分かり易く嫌な顔をしているつもりだけれど、
それをこいつは私が不安がっているとでも思うらしく、
ますます「絶対」とか「本当だ」とかサムい空気を濃厚にしていく。
こいつはそういうサムい幻想を本気で信じているらしい。
言った本人がいくら信じていたって、嘘は嘘なんだけれど、あんまり真剣だから、
私も仕方なくあきらめて、信じているふりをする。
そうするうちに、嘘が嘘じゃなくなる、なんてことは、「絶対」にないけれど、
こいつがそういう嘘を言葉にするたびに、
私の内部が僅かに短く痙攣するように、狭くなってこいつを締め付けてしまうらしい。
ひょっとすると、それが欲しくてわざとサムいことを言うのではないだろうか。
本当に、そうかも知れない。

部屋に着き、買ったビールをテーブルに置いて、冷蔵庫からハムを出して切っていると、
彼氏が後ろから腰を押し付けてきた。
ごりごりと硬いものをお尻にこすりつけられて、
それで私はさっき携帯が鳴っていたことを思い出した。
切ったハムを皿に盛り、片手で彼氏の股間を撫でながら、
お尻のポケットから携帯を取り出して着信履歴を見る。
思いがけない名前だった。
懐かしくて、切ない名前。
さっき国道で隣に並んだレクサスの、助手席の男の顔が、この名前と重なった。
あいつだったんだ。
私に気付いて、それで、電話してきたんだ。
どうりで、暗がりで、好みの顔なわけだ。
それにしてもどうして、今更。
しかも、あんなに楽しそうにニヤニヤして、窓を開けて私に話しかけようとしていた。
「誰?」
彼氏が携帯を覗き込む。
「元彼」
「ふうん」
「うん」
彼氏の手がTシャツをたくし上げて、私の左胸を掴む。
携帯に表示された、懐かしい名前がまぶたの裏で光る。
キッチンで立ったまま、ジーンズを下げて、彼氏が後ろから入ってきた。
そうか。
暗がりとはいえ、あの顔を見てすぐに思い出さなかったということは、
私はあの男を忘れていたんだ。
ずっと忘れない、と信じていたけれど。
やっぱり、「永遠」は、真っ赤な嘘だ。

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参考: 椎名林檎『ギブス』


椎名林檎 [PVギブス]

号泣ギターがいいです。

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赤チン

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中学の同級生のW君とは、良く席が隣になった。
わたしはあまり好みではなかったけれど、
少なくない数の女子が「顔が可愛い」と言ってチラチラ見るような、
まあ、きれいな顔をした男子だった。

それでいて、非常に内気で、声は小さいし、趣味も暗くて、
当時のわたしは遠慮なく面と向かって「根暗」「キモイ」とか言っていたように思う。
その暗い趣味というのが、読書、ゲーム、コンピュータという類。
読書は確か、星新一はほとんど全部読んだと言っていて、
その他には当時の文庫型RPGを良くやっていた。
「暗い」と馬鹿にしつつ時々お勧めを借りてみると、それらは例外なく面白かった。
当時家庭にコンピュータがあるのは非常にめずらしかったけれど、
W君は自分のを持っていて、それでゲームを作っている、と言っていた。

そう、W君は頭が良かった。
さほど熱心に勉強している風には見えなかったけれど、
いつもまあまあの成績で、まあまあの高校へサクッと合格した。
そのまあまあさ加減が、ムキになっていない加減のちょうど良い程度で、
まあ、がつがつしていない感じの秀才だ。

文章も上手かった。
年に一度の学校文集で、W君は
『キタナ、最後の日』
というタイトルの作文を書いた。
キタナとは、W君の一番の親友だったのだが、転校してしまったのだ。
名前の「北名」と「来たな」をかけているわけ。
『夏休みの思い出』みたいな作文を書いていた無邪気な「積み木崩し」肉まんには、
物凄いハイレベルなことに思えたし、
中身もドラマティックでかつ冷めた硬質の文章で、とても感心したものだ。

W君は、エッチなことに関して、非常に知識が豊富で、
何を聞いてもちゃんと答えてくれた。
「オンナの人のオナニーって、どうやってするものなの?なんか道具とか使うの?」
「うん、ボールペンとか、細長いものがいいみたい。」
「うへえ。そうなんだぁ。」
とかなんとか。
しかしその、ボールペンというのはW君、どこから仕入れた情報だったのか。
(細すぎないか?)

どんなに下品なネタでも必ずノッてきてくれる数少ない(というか唯一の)友人だったから、
W君とは良く他の誰にも聞こえないような声でコソコソと下ネタで盛り上がった。
給食で「マヨネーズパン」が「ウインナー」と一緒に出たりすると、
無言で目を合わせて腹が捻れるほどに爆笑したものだ。
(下品すぎて解説できないし、わかったところで大人にはちっとも面白くない)

W君が卒業のときに書いてくれたメッセージカードには、
彼の好きなRPGに出てくるドラゴンの絵と一緒に、
「君とはけっこう色んな話をして、仲良かったから、ひとつ大事なことを教えるよ。
先月、僕、皮がむけたよ。」
と書いてあった。
ちなみにその頃わたしは「皮がむける」というのは、
男子が大人になった証拠とは知っていたが、
実際には日焼けした肌の皮がむけるごとく薄皮がむけるものだと思っていた。
W君のちん○の薄皮がむけている様子は、少々グロテスクなイメージだった。

しかし赤チンに関しては、残念ながら、下品な話では、ない。

W君がある日、
「ねえ、家に開けてない赤チン、無い?」
と聞く。
「わかんない、なんで?」
「赤チンは発癌性物質を含んでいるとかで、どうも発売禁止になるらしいんだ。だから、今のうちに集めておこうと思って。」
「え?わかんない、発売禁止になるものを、なんで集めるわけ?」
「だから、今後は買えなくなるから、貴重になるっていうこと。」
「ふうん、なるほどね。うちの薬箱、見ておく。」
「うん、ぜひよろしく。」
なんてやりとりがあって、
もう売っていないもの、というものが貴重になる、ということを初めて知った。

しかし今調べると「赤チン」とはマーキュロクロム液のことで、
製造工程で水銀が発生するとかで日本では1973年に製造が中止されたが、
海外で製造した原料を輸入する事で現在も販売されている。
W君の「発癌物質」「発売禁止」という情報はどこから来たものだったのだろう?



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赤の他人
真っ赤な嘘
赤っ恥
赤貧
赤裸々
赤ちゃん
赤字
赤チン
赤点


わたしには赤点が一番馴染み深いかな。

ちなみに赤チンは仲間はずれ。
なんとなく懐かしいから入れてみたかっただけ。
他は全部「赤」という色とは直接関係無く、
「極めて」「明らかな」といった意味の赤。
あれ、赤ちゃんて、なんで赤なんだろう。

特に意味は、ない。



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