NY貧乏文庫

おいしいラーメンが食べたい

雫井脩介

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全1ページ

[1]

雫井脩介 『火の粉』

---

以前書いた、よぼよぼの祖父と、母とは相性が良かったようだ。
祖母は誇り高く厳格な夫のオムツを直視できなかったし、
そもそも学問好きで家事が得意ではなかったので、
祖父の身の回りの世話は嫁である母がそのほとんどを担っていた。
祖父は嫁を信頼して可愛がっていたし、母も祖父を尊敬していたようだ。

祖父が身の回りのあらゆることに手伝いを必要とするようになった頃、
母方の祖母が倒れた。
脳梗塞で、半身が不自由になったが、
リハビリで一時は退院が可能なほどになった。
倒れるまでは一人暮らしで、帰る家は母のところしかなかったが、
祖父の世話があったから、連れ帰ることは叶わなかった。

母は毎日祖母の病院へ通い、
顔や手を拭いたり、食事の手伝いをしたり、
身の回りの世話を焼いて数時間を過ごし、
あわただしく家へ戻ってまた祖父のオムツを交換した。

高齢の人にとって、住み慣れた環境以外での生活は、
想像を絶するストレスになる。
慣れない環境で、痛みを伴う処置を受けたり、
色んなチューブやコードに囲まれた生活をすると、
一夜にして自分を見失うこともまれではない。
祖母も例外ではなく、夜中に病院のトイレにトイレットペーパーを丸ごと突っ込み周囲を水浸しにしたり、
オムツ内に排便したものをこねくり回してあちこちに撫で付けたりするようになり、
両手に白い布でできた野球のグローブみたいなものをはめられた。
グローブで両手が不自由になると、
歯の無い口でどうやったのか点滴を噛み千切ったりもした。

病院を転々とし、ベッドに縛り付けられるような生活をするうち、
点滴を噛み千切る元気は次第になくなり、
病院のベッドの上で身体はだんだん小さくなり、
自らゆっくり命をフェイドアウトするように息をひきとった。

約一年後祖父も亡くなり、絶望した祖母が何もできなくなった。
次の日から母は、祖母の身の回りの世話を始めた。

それからが長かった。
祖母は母を頼りにはしていたけれど、娘のようには思えなかった。
母も祖母を大切にしたけれど、母のようには思えなかった。

祖父の世話から始まり、その祖母が亡くなるまで、
二十年以上、母にとっていわゆる介護が生活の中心だった。

母がかけもち介護をしていたころ、わたしは中学生になったばかりで、
信じられないほど子供だった。
煙草を吸ったり、万引きをしたり、テレクラに電話したり、
髪にオキシドールをかけたり、要するに『積み木崩し』の真似事をしていた。

父は仕事、兄は勉強、わたしは積み木崩し、
母はどれほど孤独だったろう。

でも、祖父が亡くなったとき、一番悲しんでいたのは母だったから、
あるいは祖父との関わりは母にとって安らぎだったのか。



雫井脩介の『火の粉』は非常に良くできた長編ミステリーだ。
終始はらはらドキドキと読ませてくれる。
心理サスペンスとしての面白さはもとより、
何より凄いのが女性の生活に寄り添った心理描写だ。
一日の全てを布団の中で過ごす義母の介護をするひとりの女性の孤独が、
ドキドキのサスペンスの中に非常に上手く織り込まれている。

雫井脩介がこの作品を書いたのはまだ彼が三十代前半の頃だから、
いわゆる介護に関わる文献を読み漁ったか、あるいは
彼自身の家族、もしくは彼自身が介護に関わったことがあるのか、
そのいずれであったとしても、その若さでしかも男性でありながら
この女性心理への寄り添い方はただごとではない、と、思う。
実の親の介護を許されず、看取ることさえ叶わなかった嫁が、
大事にされた記憶のない義理の母を、実の親の分もと熱心に介護をする。

愛していない人の介護をするということ。
見返りのない奉仕をするということ。
それがどういうことなのか、雫井脩介は普通に理解していると思う。

---

開く トラックバック(1)

雫井脩介 『虚貌』

解説(福井晴敏・作家…ごめんなさい誰?)ではこのトリックについて
「それはないだろう」的な批判があったことに触れているが、
確かにそのような批判もわからなくはない。
特に本格ミステリー特に海外ものなどを良く読みなれている人たちにとっては
興ざめもあるのかもしれない。
けどそんな批判があることは作者も容易に想像できただろうし、
その上で思い切って書いているのだろうから
私としては全然構わないし むしろそれでも一貫して緊張感を維持させながら
読ませるストーリー構築の上手さに感心してしまう。

『火の粉』もそうだがこの人はサイコサスペンスっぽくドキドキ読ませるのが上手ですね
こういうのけっこう好きなんです。
私の好きな村上龍でも『イン・ザ・ミソスープ』とか『オーディション』とか好きですし。
(ちなみに一番好きなのは『5分後の世界』ですが)

それからこの人のいいところは、
基本的に簡単に人を死なせることはしないところ。
一人ひとりにちゃんと人格を与えて、命に重みをつけてから殺すという感じ。
けど最後にみーんな死んでしまって、「ずど〜ん…」とはくるんだけど、
なんていうか、哲学的な具体的キーワードには乏しい気がする…
若いからかなー私の4こ上のようです。

総合的に、軽い「善」の押し付けはないし、清潔すぎず、適度に汚れているというか、
それに深すぎないところもわりと気に入っている要因かもしれない。

全1ページ

[1]


.
肉まん
肉まん
女性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
友だち(2)
  • NONAJUN
  • 楽を尊ぶ鼻でか魔人
友だち一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!
話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!
コンタクトレンズで遠近両用?
「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用」
無料モニター募集中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事