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素堂46才 元禄元年(1688)『柱暦』所収。鶴声編。(刊は元禄十年素堂)
 
 「芭蕉翁庵に掃るを喜びて寄る詞」
 
  むかし行脚脚のころ いつか茶の羽折 と吟じまち侍し、其羽折身にしたひて五十三次再往来、
  さらぬ野山もわけつくして、風にたたみ日にさらせしままに、離婁が明も色のわかつによしな
  し、竜田姫も染かへすことかたかるべし。これ猶、ふるさとの錦にもなりぬるかと、をかしく
  もあはれにも侍る。たれかいふ、素堂素ならず眼くろし、茶の羽折とはよくぞ名付ける。其こ
  とばにすがりて又申す。
   茶の羽折おもへばぬしに秋もなし
 
 素堂46才 貞享四年(1687)『績虚栗』宝井其角編。
 
 風月の吟たえずしてしかももとの趣向にあらず。たれかいふ、風とるべく影ひらふべくば道に入べしと、此詞いたりて過て心わきがたし。ある時人来りて今やうの狂句をかたり出しに、風雲の物かたとあるがごとく、水月の又のかげをなすににたり。あるは上代めきてやすく、すなほなるもあれど、たゾにけしきのみいひなして情鳴きをや。古人いへる事あり、景の中に情をふくむとから歌にていはば、
   穿花□蝶深深見離水蜻蛉□飛
 これこてふとかげろふは所を得たれども、老杜は他の国にありてやすからぬ心と也。まことに景の中に情をふくむものかや。やまとうたかくぞ有べき。又ききし事あり、詩や歌やこころの絵なりと、
   野渡無人船自横月落かかるあはじ嶋
 などのたぐひ成べし一猶心をえがくものは、もろこしのしらねにうつして、方寸を千々にくだきものなり。あるはかたちなき美女を笑はしめ、いりなき花ににほはしむ。
 
 花には時の花有、ついに花あり、時の花は一夜妻にたはぶるるに同じ。終りの花は我宿の妻となさむの心ならし。人はみな時のはなにうつりやすく、終りの花はなおざりに成やすし。人の師たるものも此心わきまえながら、他のこのむ所にしたがひて、色をよくし、ことをよきすらん。来る人のいへるは、われも又さる翁のかたりかける事あり。鳩の浮巣の時にうきしづみて厨波にもまれざるがごとく、内にこころざしえおたつべしとなり。余笑ひてこれをうけがふ。いひつづくればものさだめに似たれど、屈原楚国をわすれずとかや。われLわかかりしころ狂句をこのみて、今猶折にふれてわすれぬものゆへ、そ“ろに弁をつひやす。君みずや漆園の書、いふものはしらずと、我しらざるによりいふならし。ここに其角みなし栗の続をえらびて、序あらんことをもとむ一そもみなしぐりとは、いかにひろひのヅのせる秋やへぬらんのこころばへなりとや。おふのうらなしなれば、なりも入1よらずもいひもこそせめといなびつれど、こまの瓜のとなりかくなりと猶いひやまず。よつて右のそぞろごとを序成となりとも名づくべしとあたへければ、うなずきて去りぬ。
     江上隠士素堂書
  
  春もはや山吹しろし菖苦し
素堂46才 貞享四年(1687)『伊賀饒別』
 
 芭蕉…故郷へ旅立つ。
 素堂三絶外
 
  絶芭蕉老人有故赴郷園 老人常謂他郷即吾郷
  今猶莫作戯斯語 吾何不信斯御乎
  因綴卑語三絶 以投頭陀
        初冬念素堂山子
 
  君去蕉庵莫止郷 故人多処即成郷
  風□露宿豊労意 胸次素無何有郷
  河辺楊梛無由折 早動翠條迎老身
  隠月称陽又小春 小春又邦以陽春
  挙盃皮裏陽春在 為唱陽関一曲春
 
 芭蕉庵主しばらく故園にかへりなんとす。とめる人はたか
 らを送り才ある人はことばを送るべきに、我此ニツにあづ
 からず。むかしもろこしのさかひにかよひけるころ一ツの
 頭巾を得たり。これをあたへてたからと才にかふるものな
 らし。
   もろこしのよしのの奥の頭巾哉
 
 芭蕉…書簡
 
 素堂餞別、一字二字忘れ候、言葉書なども御座候。失念い
 たし候。江戸より書き揃へ、寄せ申すべき由申侯故、写し
 参らず候。猶来年御意を得べぐ候。
素堂46才 貞享四年(1687)『績の原』岡本不卜編。
 
 古き予の友不卜子、十余ふた番の句合を柚にして来て判を
 求む。狂旬久しくいはず、他の旬猶わきがたし。左蟹右触
 争ふ事はかなしや。是風雅のあらそひなればいかがはせん。
 世に是非を解人、我判かゝはらじとすれど人又いはん、無
 判の判も判ならずや。丁卵の冬素堂書.
素堂46才 貞享四年(1687)
 
 『素堂・芭蕉蓑虫の遣り取り』
 
 素堂…隣家の僧行脚に出て久しく帰ざりし頃
 
  みのむしやおもひし程の庇より(貞享二年四月)
 
 素堂…此日予が園にともなひけるに、又竹の小枝にさがりけ
    るを
 
  みの虫にふたゝびあひぬ何の日ぞ
 
 このゝち芭蕉のもとより
 
 芭蕉…草の戸ぼそに住みわびて秋風のかなしげなるタ暮友達
    のかたへ言ひ遣はし侍る
 
 素堂…芭薫翁みの虫の音をきゝにこよとまねかれしころ
 
  みのむしみのむし声のおぼつかなきをあはれむ
  ちゝよちゝよなくは、孝のもっぱらなるものか
  いかに伝へて鬼の子なるらん清女が筆のさがなしや
  よし鬼の子なりとも又瞽叟そうを父として舜あり
  汝はむしの舜ならんか
 
  みのむしみのむし声のおぼつかなくてかつ無能なるをあはれぶ
  松虫は声のうるはしきがために籠中に花をしたひ
  桑子は糸をなすによりからうじて賎の手に死す
 
  みのむしみのむし静かなるをあはれぶ
  胡蝶は花にいそがしく蜂は蜜をいとなむがために往来おだやかならず
  誰がためにこれをあまくするや
 
  みのむしみのむしかたちのすこしきなるをあはれぶ
  わずかに一葉をうれば其の身をうるほす
  竜蛇のいきほひあるもおほくの人のために身をうるほす
  しかじ汝のかたちのすこしきなるに
 
  みのむしみのむし蟷螂のいかりなし
  糸をひけども蜘蛛のたくみなし
  其の糸をたづさへたるありさまは漁翁の雨の江にたてたるに似たり
  漁翁は得たものをはすれす
  渭水の翁すら文王を釣のそしりをまぬがれず
  たれかいふ駟馬の事はむかし一蓑の風流に及ず
 
  みのむしみのむし玉むし故に袖ぬらしらん
  田蓑の鶴の名にかくれずや
  いけるもの誰か此まどひなからん
  遍照の蓑しぼりたまふは古妻を猶わすれざればなり
 
  みのむしみのむし春は柳にすがりそめて桜が塵にまじはり
  秋は萩ふく風にねをそへて紅葉のはやしにかくれ
  やゝ木枯の後はうつせみに身を習ふや
  からも身もともにすつるや
 
   蓑虫蓑虫 適逢園中 従容侵雨 ?然乗風  (?=(票風))
   自露甘口 青苔掩躬 天許作隠 我燐呼翁 
   諌啄野鳥 制払家童 脱蓑衣去 誰知其終
 
    かつしかの隠士素堂
 
 芭蕉…
 
「蓑虫販」草の戸さしこめて、もの・佗びしき折しも、偶蓑
 虫の一句を云ふ。我友素翁はなはだ哀がりて、詩を題し文
 をつらぬ。其文や玉をまろばすがごとし。つらつら見れば、
 離騒のたくみ有に似たり。又蘇新其黄奇あり。はじめに虞
 舜・曽参の孝をいへるは、人におしえをとれとなり。其無
 能不才を感じる事は、ふたたび南花の心を見よとなり。終
 に玉むしのたはれは、色をいさめむとならし。翁にあらず
 ば誰が此むしの心を知らん。静にみれば物皆自得す、とい
 へり。此人によりてこの句をしる。
 むかしより筆をもてあそぶ人の、おほくは花にふけり実を
 そかなひ、みを好みて風流を忘る。此文や、其花を愛すべ
 し。其の実猶くらひつべし。ここになにがし朝湖と云有。
 この事を伝へききて、これを画く。まことに丹青話淡して
 情こまやか也。こころをとどむれば、虫うごくがごとく、
 黄葉落るかとうたがふ。みみたれて是を聴けば、其むし声
 をなして、秋のかぜにそよそよ寒し。猶寒窓に閑を得て、
 両子の幸に預る事、蓑むしのめいぼくあるに似たり。
 
 素堂…「蓑虫賛」
 
 延喜のみこ兼明親王、小倉におはせしころ、ある人雨に逢
 ふて、蓑かかけられるに、山吹の枝をたをりてあたへ玉ふ、
 
  七重八重花はさけとも山吹の
         みのひとつたになきそかなしき
 
 との御こころはへにて、貸した間はさりしとや。また和泉
 式部、いなり山にて雨にあひ、田夫にみのをかりけるに、
 あをといふものかしてよめるとなん。時雨するいなりの山
 のもみち葉は青かりしよりおもひそめてあをは蓑のたくひ
 なるよし。若汝にみのをからんとき、山吹のこころをとむ
 らや、いなり山のうたによらんや。
 
 
 嵐雪…「蓑虫をき・にゆく辞」あり。

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