コラム

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ラブレター

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大学卒業後、非常勤の音楽講師として派遣されたのは、東京都S区にあるK養護学校の高等部でした。
在学中に教育課程の単位をとっていたとはいえ、障害を持った子供たちに音楽を教えるというのは、
全く検討もつかない何もわからないままの赴任でした。


K養護学校に在籍する生徒の多くは,移動のために日常的に車椅子やクラッチ(杖の一種)を使用しています。
また、言語障害によって言葉でのコミュニケーションに限界がある生徒もいました。
特に「音楽」を履修するクラスは、重度一級の肢体不自由のハンディを抱えた子供達のクラスで、
(障害の度合いによってクラスが3つに分かれていました。)
約15人の一年生から三年生までの子供達に対し、常に教師が4、5名で付きっきりという中での授業が
展開されていました。


そういった子供達が、一番楽しく過ごせる音楽の授業内容は、「歌」でした。
歌は、声が出せる子は大きな声で、声がうまく出ない子は身体を揺らす、といった
それぞれのやり方で表現が可能だったのです。
歌といっても様々な歌がありますが、朝は特にアップテンポの楽しい曲が子供達の気分を高揚させて、
今日一日楽しく学校で過ごそう、と意欲を持たせる、という意味もありました。


また、時に合奏も試みてみました。
自分の手で物をつかむ、または握る、という行為ができる子に対しては、木琴のマレットを握らせ、
叩く動作をさせることもしました。
自分で力のコントロールをするのが難しい子もいたので、背後から一緒に握ってあげることも必要でした。

木琴は音色が優しいので、子供達は楽しそうに叩いていましたが、スネアドラムや大太鼓といった
大きな音に対しては、叩かせるとどうしても力まかせになってしまうこともあってか、
極端に拒否反応を示し、終止のつかない状態になってしまうこともあり、大慌てでそれぞれの担当の
子供を抱えて、教室の外に連れ出す、ということもありました。

彼らの心はとてもピュアで繊細で、大きな音、騒がしい音など苦痛を伴う音を発するということは、
ある意味とても危険な行為だとその時感じました。
子供達がとてもリラックスできたのは、ピアノの綺麗な曲を生で聞かせたり、ゆったりとした
ロマン派の作曲家のレコードなどを聞くことでした。



ある日、友人の琴のプロ奏者が学校に来てくれて、音楽の時間に子供達の前で演奏してくれたことがありました。
初めて見る楽器、初めて聴く音ということで、子供達は身じろぎもせず、じっと聞き入っていました。

その曲は「さくら」でした。

どこかで聴いた懐かしい曲、心に染み入る音、そんな風に感じたのでしょうか。
子供達のほほには、涙が伝わっていました。
彼らが泣くとき、私がそれまで見てきたのは、赤ん坊のように大声で泣く姿でした。
それが、琴の演奏の時は声も出さず、ほほに伝わる涙をぬぐおうともせず、一点を見つめるように
演奏を聴く彼らの姿。
私たち教師も、床に座って後ろから体を支えている子供の背中をさすりながら、一緒に泣いていました。


演奏が終わると、放心状態の子供達は急に我にかえったように周囲を見回して、側にいた教師にしがみつき、
大声で泣き始めました。
腕に食い込むくらいの力で握りしめたその指をほどくには、少々時間がかかりました。
あんなに静かに聴いていた子供達が、どうして急に泣き出したのか、それはその時も今もよくわかりません。


それぞれの子供たちの障害が多様で、それぞれのケースに対応しなければいけない状況にある、
肢体不自由児対象の養護学校では、子どもたちにとって何が必要で、その中で私たちに何ができるか、
手探りを続けながら実践していた、というのが実状です。


障害児の音楽教育について何が適切か、とうのは正直答えを出すのは大変難しいです。
現在は私が在職していた15年以上前の頃より、子供達も学校の体制もずいぶん変わってきていると思います。
当時からコンピューターを導入していましたので、今ごろはパソコンでコミュニケーションをとったり、
音楽を創作したり、音声を文字にできたり、彼らの世界もうんと広がっていることでしょう。
そして「音楽」が子供たちとのコミュニケーションツールになることを、多いに期待したいと思います。


最後に、私が担当していた電動車いすの子供が、当時自分の体の中で唯一1本だけ自由に動く足の指に
器具をつけて、とても長い時間をかけて床の上に置いたパソコンのキーボードで打ってくれた、
彼曰く"ラブレター"(笑)をご紹介します。




なぜ みんなは歩けるのだろう なぜ うまく手が使えるのだろう

僕だって手もある足もある どうして歩けないのだろう

思いどおりに手が動かないのだろう 一日でもいい みんなと同じように

僕の足で この足で一歩一歩ゆっくり歩いてみたい

そして おもいっきり走ってみたい

手も思いどおりに動いたら 体いっぱいに喜びを感じたい

夢でもいいから…




※養護学校勤務経験あり、ということで某音楽教育冊子に"障害を持った子供に対する音楽教育"
というテーマで、執筆依頼を受けて書いたときの原稿です。

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Kalin姉さんの違った一面を見た気がしました。 一点に集中してしまう分、感受性が突出して豊かだということなんですよね。ある作家さんが、陶芸を通して彼らと一緒に作った作品展を見に行ったことがあったのですが、その素晴らしさに心うたれました。

2005/4/15(金) 午後 0:44 +++ ひめ +++

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心に沁みるラブレターです。Kalinさん、素晴らしいご経験だったのですね。自分が心地よいと感じるものには癒される瞬間があります、音楽だったり、絵画だったり。そんな瞬間をこれからも大切にしたいと切に思いました。

2005/4/15(金) 午後 10:48 [ ぴあの ]

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ひめさん>ハンディを抱えた子供にも様々は分野で無限の可能性を秘めている子が沢山いるんじゃないかな、と思います。出来ることなら、そういう可能性を引き出してあげられるお手伝いができたら、と思っています。

2005/4/16(土) 午前 0:41 kalin0408

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ぴあのさん>この経験が今の私のライフスタイルの一つを支えているといっても過言ではないような気がしています。障害があるなしに関わらず、芸術を通して心地よいと感じる瞬間を出来るだけ提供してあげたい、また体験して欲しいな、と思っています。

2005/4/16(土) 午前 0:45 kalin0408


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