もう十数年前になるだろうか、満開の桜と大阪への出張が重なり
仕事が終わったあと吉野駅に着いたのはもう夜の10時をまわっていた。
近鉄の吉野駅から電話帳を見ながらのホテル探し、やっとその夜の宿を見つけてほっとした思い、目覚めに見た窓からの向かいの山の煙る様な桜の美しさ、あの時いつかもう一度満開の時期にと言う思いが今回の吉野山に足を運ばせた大きな要因であった。
全国津々浦々からそれぞれの思いを胸に観光バスの列が吉野川を越えて山に登っていく。
満開と週末が重なったせいか、バスが駐車場に付くと溢れんばかりの人の群れが中の千本の国宝、蔵王堂に向かって一斉にながれ始める。
両側のお土産屋さんを見ながら少し歩くと吉野山にある全ての寺のための総門、黒門が目に入ってくる。
この門をくぐりさらに暫く進むと真正面に仁王門が現れた。
数十段の急な石段、さらにその上に黒っぽく覆いかぶさるように構える国宝の仁王門と両脇の金剛力士像が参拝の人に威圧感をあたえる。
境内入ると其処は騒然した参道と一変し古い石碑が並ぶ古色然とした短い登り参道に続き蔵王堂の真横を通り抜け堂の前庭の東端に出る。
あとで一緒に行った友人がこの事に気が付きビックリしたのだが、
仁王門が北向きに蔵王堂は南向きにしかも仁王門が蔵王堂の真後ろに作られている。
単に地形が理由だとも考えにくく面白い造りではあるがどんな意味があるのだろうか。
蔵王堂は1591年に再建された寺院で現存する建物の中でも国内で2番目に古いとあったが、お祭りされている蔵王権現と共にこのお堂の建物としての歴史も何故だか人の心にしみ入る有難さが漂っていた。
蔵王堂から南に向かって2〜3kmくらいが吉野山で最も賑やかな門前町でここでは吉野名物の葛を使った商品が最も多く、次に柿の葉寿司や奈良漬などの食べ物やさん、葛湯料理の喫茶店、等・・、お店の客引きの声と観光客で狭い道路はすれ違うのも大変なほどの混みようであった。
少し町外れまで歩くと旅館や雰囲気のある宿坊がならんでいる。
その中の一軒の宿坊の前を通ると庭の隅に真っ赤な藪椿が咲き、手入れの行き届いた砂利の庭に着物姿の楚々とした女将らしき人が客を出迎えていた。
あれ宿坊に女将が居るのだろうかと不思議に思ったが、それでもお坊さんだけより女性が居るにこした事はないとすんなりと納得した。
友人は「次回はここに泊まろう」いたく気に入っていた。
門前町の東の裏側はかなり急な下り斜面でここには背の高い大きな山桜が谷間に向かって満開の花びらを一斉に散らせていた。
少し離れた場所から門前町と蔵王堂とそれを囲む桜の風景の全体像が見たくて上の千本に向けて歩いてみた。
歳をへし雲居の桜きょう見れば
花より多き見る人の群れ : 孝市
決められた時間内には到底これらの風景を見れる位置まで登ることが出来ず
周囲の景色が見えなくなる森との境で引き返した。
|