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【ファイル9】2006.08.20 スジャータちゃん初めてのお買い物
今日は、さっそくスジャータちゃんがシルベさんに庶民学の指南を受けた。
「あのねえ、シルベ先生。スジャータ生まれて初めてお買い物に行ったの」
「へえ、えらいえらい」
「プレタポルテっていう、お洋服買おうと思って・・・・」
「高級既製服のことだね。レディー・メイドともいうね」
「庶民の生活を体験しようと思って、青山のお店に行ってきたの」
「高級な場所だね。それ庶民の買い物するとこじゃないよ」
「そうなんだあ。スジャータったら失敗しちゃった。それで、いろんなお洋服がいっぱいお店に並んでて、とっても綺麗。そんでもって、お店の人が、いろいろお世辞をいってくれるの」
「スジャータちゃんの場合、あながちお世辞とも言い切れないけどね」
「気に入ったお洋服があったから、『これあつらえて』って言ったの」
「はあ?」
「よく分かるわね。お店の人もそういう顔したよ」
「だって、高級とはいえ、吊るしの既製服だから。そのまま買えばいいじゃない」
「へえ、そうなんだあ。でも人って、体形が違うでしょ」
「だから、大体合うサイズで決めるんだよ」
「ふーん。でもぴったりじゃないよお。お洋服はスジャータよりウエストは太いのに、お胸は小さいよ。スラックスはスジャータよりウエストが太いのに、足が随分と短いよ。つんつるてんだよお」
「そりゃあスジャータちゃんみたいな、『モデルさん以上の体型』に合わせたら、着られる人が限られてくるからね。商売だから、どうしてもそうなるのは仕方がないことなんだ。でもね、そういうことは、あんまり他所では言わないほうがいいよ」
「どおして?」
「庶民には、嫉妬という感情があるからね」
「ふーん。わかった。スジャータ、言わないようにするよ。でも、ぴったりしないのは事実だもの」
「庶民は気にしないんだよ。大体で良いんだ。ウエストなんか、詰めてもらえばいいじゃないか。補正してもらえるんだよ」
「へえ、そうなんだ。でも、スジャータこれが欲しいって言ったのに、そのままでも売ってくれなかったよ」
「どうして?お金持ってったんでしょ」
「持ってかない」
「じゃあだめだ。それで帰ってきたんだ」
「ううん。違うみたい。一緒についてきた執事と店員さんとが話をしていたと思ったら、血相変えた店員さんに奥の部屋へ案内された」
「丁寧なお店だね」
「そうかなあ・・・・。待ってたら、お茶が出てきて、店長さんが出てきた」
「へえ、それはおおごとだ」
「店長さんに、『これから先生が、スジャータ様にご挨拶させていただきたいということですので、しばらくお待ちください』って言われちゃった」
「それで?」
「待ってたら、先生がハンカチで汗を拭きながら、慌てて入ってきたの」
「ふむふむ」
「その先生っていうのが、何時もうちにきてくれるデザイナーのおじさんだったから、ご挨拶したの。こんにちわって」
「あらあら」
「それでおじさんに、『このお洋服がほしいよー』って言ったら、『この傾向でお嬢様に似合うデザインを本日中に仕上げて、明日、生地と一緒に何点かお屋敷にお持ちしますので、よろしゅうございますか?』って言われた」
「それはそれは・・・・」
「それで、スジャータが『違うの、これが欲しいの』って言ったのに、それなら、仮縫いまで、明日その場でいたしますからって、取り合ってくれないの。だから、結局何も買わずじまい。スジャータ、お買い物失敗しちゃってつまんない。酷い話でしょ?」
「・・・・・・。ある意味そうだね。でも、お店の人の対応は間違ってなかったと思うよ」
「シルベさんもお店の味方?」
「そうじゃなくて、お店にはお店の立場ってものがあるからね。スジャータちゃんは、オートクチュールで我慢しなさい。その方が世の中、円満に収まるんだよ」
「でも、初めてお買い物に行ったスジャータの立場はどうなるのさあ。ひどいよお。みんなみんな、だいっきらい!」
スジャータちゃんは憤懣やるかたない表情で地団太を踏んだ。
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