アトモス部屋

ばたばたしていて、レス、訪問遅れてすみません。

眼とろん星人地球滞在記

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【ファイル16】2006.10.25スジャータ、キャリアウーマンになりたいよお『その1』

 前回、あれだけ心配させられたスジャータちゃんだが、もうケロッとしている。
 彼女の中で、気持ちの整理はついたのだろうか。心配したシルベさんがノレン君に、心当たりが無いか聞いている。

「ああ、姉貴ねえ。

 姉貴はむしゃくしゃすることがあると、別荘に設置されている加速装置(サイクトロン)で実験に没頭するんだよ。

 あの時も、加速された電子と陽電子を衝突させて、B中間子と反B中間子対事象の崩壊過程を、Belle測定器で調べて、CP非保存の研究をしてたよ。寝食を忘れてね。そういう時の姉貴は、凄くおっかないから、そっとしておいてやるんだよ。

 よく、女の人で、夫婦喧嘩でお皿を崩壊させて・・・・、じゃなかった、割ってストレスを発散させる人がいるだろ。あれと同じじゃないかな?」

「それ、少し違うんじゃないかなあ」
 
 そう言ったシルベさんは呆れ顔だ。
 
 何はともあれ、今回もスジャータちゃんは絶好調である。ひとまず安心だ。

「シルベ先生。『キャリアウーマン』て、なあに?」
 
 シルベさんは、これまでスジャータちゃんが自分の事を『先生』と呼ぶとロクなことがないことが分かっているので身構えながら答えた。

「技術や知識を習得して、自立して社会の中でキャリアを積んでバリバリと働く女性のことらしいね」
「ふーん」
「スジャータちゃんみたいな、親掛かりの裕福なお嬢さんが、庶民の生活を理解したいのだったら、働くのも良いかもしれないね」

「あれえ。シルベさん誤解してるよお。スジャータ親掛かりじゃないよお」
「お父さんの会社を手伝ってるの?」
「違うよお。スジャータの会社だよ」
「うそだろ?」

「うそじゃないよお。
 暴走族やってた時に、研究で特許をとってえ、その特許料を資金にしてえ、会社を作ったの。最初はバイク宅配便の会社だよ。
『チーム・スジャータ』以外のグループの『族』の連中はあったま悪いから、就職口が無かったんだ。それで、社員にしたの。みんな、ちゃんと更生したんだよお。それだけじゃ利益が上がんないから、他の業種の会社も設立したの。

 コングロマリットってやつ。

 スジャータ、経営は得意だもん。それでもって、利益が上がって、いろいろと忙しくなったから、東証二部に上場したところで面倒くさくなって、今はお父さんの会社の人にまかせてるの。私は創業者で筆頭株主。経営顧問だけやってるの。だから、親掛かりなんかじゃないよお」

「・・・・・・・。あははははははは。ふーん。偉いんだね」

「そうなんだ。スジャータって偉いんだよ。えっへん。でもスジャータって、キャリアウーマンじゃないでしょ?」

「うん、経営者は違うかもね」
「スジャータつまんないよお」
「ああ、またスジャータちゃんのわがままが始まった」
「『また』って何よお」

「でも、スジャータちゃんの周りにも技術や知識を習得して、自立して社会で働いている女性っているでしょ」

「執事のメリーさんみたいに?」

「ああ、あの羊を飼ってる、執事のメリーさん?」
「うん、そのメリーさんだよ。京都大学を出て、弁護士と公認会計士の資格を持ってるんだよお」
「・・・・・・!それは、申し分の無い、完璧なキャリアウーマンだね」

「すっごーい。そーなんだ。メリーさんて偉いんだね。じゃあ、彼女を呼んでお話を聴こうかな」

 私の住んでいるアトモス部屋は二間である。それをスジャータちゃんの使用人が、一間を今私たちの話している居間兼書斎に、もう一間を、ボディーガードのまあくんと、執事のメリーさんの控えの間兼寝室にしつらえ、部屋間の連絡にインター・フォンを設置したのである。

 スジャータちゃんがインター・フォンで連絡すると、執事のメリーさんが現れた。

「とつぜんで申し訳ないんだけど、スジャータの質問に答えてね。勿論差しさわりの無い範囲で結構だよ。
 ところで、メリーさんはキャリアウーマン?」
 
 スジャータちゃんはいつもと違ってはきはきと話す。

「違います」
「じゃあなに」
「執事です」
「でもキャリアウーマンでしょ」
「違います。その言い方、私は軽薄だから嫌いです」
「どうして?」
「何か荷物を運んでいるみたいだし」
「それで?」
「私は食べるために働いているし」
「それってキャリアウーマンじゃないの?」
「違います。私は彼女たちみたいに社会進出なんて馬鹿なこといいたくありません。食べなきゃなんないからお金が必要。お金が要るから働く。働く以上責任がある。責任があるから、プライドを持って一生懸命働く。当たり前のことです。
 そこに社会進出なんていう言葉なんか介在しません。第一、主婦も立派な仕事です。お給料をもらって働くのも、家庭で働くのも、立派な仕事です。そこに序列をつける考え方が私には卑しく思えて嫌いです」

「・・・・だそうです」とシルベさん。

「ふーん」

(『その2』に続く)


【ファイル15】2006.09.26シルベさん庶民代表として試験を受ける(その4)

「でも、シルベさんは、名前がキチンと書けているから、スジャータ、おまけして20点あげるね。だからお願いだから泣かないで」
「頭の悪い小学生じゃないんだから、0点でかまいませんよ。僕は」
「シルベさんが良くても、スジャータの庶民学の先生が0点坊主だったら、スジャータが恥ずかしいよお!」
「潔く、0点に甘んじます」
「どうしても、私の20点を受け取らないっていうの。受け取らなかったら、ひどいよ」
「僕を脅すのですか?小切手だったら、その場で破り捨てるからかまいませんよ」

「あれえ、なによお。その挑戦的な態度わあ。
 いいもん。それなら、シルベさんが発明した素粒子『ベルボトム』の実在を理論的に証明する論文を書いて、『ネーチャー』に寄稿するから。ある素粒子の実在を想定したら、大統一理論解明の研究が、飛躍的に発展しそうなんだ。それで、ノーベル賞取ったら、シルベさんはストックホルムで記念講演したり、蛙飛びしなきゃなんないけどいいのかな?」

「世の中にはそんな脅し方があったんだ。知らなかったなあ。勉強になるなあ」泣き止んだシルベさんは、すこぶる感心している。

 それを聴いたドブロクスキー博士の顔が見る見るうちに青ざめた。
「分かったぞ!」博士は叫んだ。
「スジャータちゃん。去年の受賞者で、記念講演中に、くも膜下出血で急逝した学者がおったろう」

「うん、いたねえ」
「犯人はスジャータちゃんだな」
「違うよ。そーじゃないよ」
「でも、スジャータちゃんは、あの先生に教わったことがあったね」
「あんな先生に教わることなんか何も無いよ」
「でも、接点はあったろ。白状しなさい」

「あーあ、ばれちゃった。うん、私が出したレポートについて研究室で論争したよ。あの先生、あったま悪いくせにスジャータのレポートを完全否定したんだ。なのに、自分の論文にスジャータのレポートを盗用したんだよお。
 
 私が文句をいっても先生は取り合わないし、みんなに言っても信じてもらえないし、結局業績はその先生のものになったの。だから、スジャータ、その先生の意に沿うように内緒でその理論を発展させた論文をその先生名義で投稿してやったんだ。それがとても評判になって・・・・・、あの先生喜んでたよ。馬鹿だねえ。
 第一、あの先生の実力で、スジャータの理論の理解なんかできるわけないじゃん」

「うーん、やはりそうか。あんな凡庸な学者にあんな素晴らしい着想ができるはずがないと、学会では噂だったんじゃ。しかしながら、あの理論が独創的で、学問の前進に多大な貢献をしたのは確かじゃから、彼のノーベル賞受賞に異議を唱えるものは一人もおらんじゃった。まさか、自分の業績を、当て付けに他人の名義で提出する人間がおるなんて、誰しも夢想だにせんからのう。
 ただ、受賞記念講演の時、彼の講演内容がしどろもどろで、でたらめだったということは、その時の講演録で明白じゃった。

 実はワシも、あの理論に用いられた数式を何処かで見覚えがあったという気がしてならんじゃったんだ。今やっと思い出した。あれはスジャータちゃんが九つの時に、『いいこと思いついた』とはしゃいでおった理論を発展させたものじゃ。

 確かにスジャータちゃんの学説を盗用した彼の行為は愚劣で学者として断じて許されるものじゃない。

 しかしのう。彼も、自分の私利私欲だけのために、ニセモノのノーベル賞を受け入れたたわけではあるまい。受賞によって、自分の研究室の研究環境が改善されるのも確かなんじゃ。それに目が眩んだのじゃろうて。出来心だったんじゃろう。

 それにしても、ワシはなんという怪物を育て上げてしまったのじゃ。

 スジャータちゃん。君のやったことは、理由はどうあれ、絶対にしてはいけないことだったんじゃよ」

「なによ。スジャータ悪くないもん。なにさ、あの先生が、私のレポートを盗用したから、あの先生の意向に沿っただけだもん。

 あの先生は私のレポートを奪ったけど、私は何も奪ってないよ。スジャータ、誰からも奪ってないよ。私は与えただけだよ。あの先生も、ノーベル賞受賞を喜んでたじゃないの。どうして怒られなきゃなんないのさあ。どうしてみんなスジャータのことを苛めるの?

 みんなみんなだいっきらい!」

 そう言うと、スジャータちゃんは泣きながら部屋を飛び出した。私とシルベさんは慌てて彼女を追って外に出た。

 彼女の愛車、『メークイン3世号』は玄関前の駐車場に置かれたままだったが、彼女の姿は見当たらなかった。

 私とシルベさんは、悄然として部屋に戻った。

 シルベさんは呟いた。
「スジャータちゃんは、『私は誰からも奪っていない。与えただけだ』と言ってましたよね。
 彼女は、没落を許されないツァラトストラなんだよな。無邪気で、陽気で、ルサンチマンなんかかけらもない。彼女は美しくて、頭が良くて、あらゆる面において豊かだ。普通の人間が欲しいと思っても手に入れられないものを所有している。だけど、それを彼女は絶対に鼻にかけない。本当に無邪気なんだ。しかし彼女は不幸なんだ。彼女は彼女なりに、一生懸命に生きているだけなのに・・・・・。

 眼とろん星人さん。これってどういうことですか?あなたの星にはこんな不幸って、存在しますか?」

 シルベさんはすがるような目で私を見つめた。

「それは、私には何とも言えませんね。そんな僭越なまねはできません。地球人の問題は地球人で考えるべきです。私にも思うところはあります。しかしそれを語るつもりはありませんし、語るべきではありません。それは、菜食主義者の人間が、ライオンに向って肉を食うなと言うことと同じだから・・・・・」

「そうですね。そんなんだよな。そうなんだ・・・・」
 シルベさんは、自分を納得させるかのように、何度も何度も繰り返し呟くのだった。


【ファイル14】2006.09.23シルベさん庶民代表として試験を受ける(その3)
 
 スジャータちゃんは、どんどん落ち込んでいく自分自身の気持ちを励ますかのように、努めて陽気な声で言った。
「次が最終問題だよ。見なくても結果は分かるけどさあ。それにしてもシルベさん沢山書いたねえ!少し期待が持てるよ」

5問目(最終問題)
素粒子について述べよ

シルベさんの解答:
 素粒子とは、この世界を構成する微小な究極の粒子である。粒子という呼称をもつが、量子力学の知見によれば、粒子の性質と波動の性質をもつとされている。
 素粒子には、電子、半電子、中性子、反中性子、陽子、反陽子、トリノ、ニュートリノ、ミラノ、ニューミラノ、ヨーク、ニューヨーク、トン、ニュートン、中間子等、反中間子等がある。
 中間子は日本の湯川秀樹博士が理論的に予言し、後にその存在が確認された。
 とりわけパイ中間子が有名だが、この場合のパイとは、3.141592653589793284・・・・・の循環しない無限小数を意味する。最近の日本の文部科学省の精密な測定で、この数値が正確には『3』という整数であることが証明された。よって、小学校の算数の教科書においても、パイの値は『3』に訂正された。

 陽子、反陽子、中性子、反中性子はさらにクオークで構成されている。
クオークには、アップ、ダウン、クイズ、チャーミー・グリーン、ママレモン、ベルボトムがある。

 物質は、素粒子の状態によって、その性質が変容する。
 
 例えば、水は水の原子によって構成されるが、核融合によって、氷の原子に変化する。また、水の原子は、核分裂反応によってお湯の原子になる。その結果生じるのが温排水である。さらにこの温排水を再利用するのが高速増殖炉で、これは文殊菩薩が発明した。
 再利用されたお湯の原子は、更なる核分裂によって、湯気の原子になり、さらに制御棒をはずして炉心溶融させると水蒸気の原子になる。最後の反応をメルトダウンという。この水蒸気でタービンを回転させ、発電をおこなうことこそが、何を隠そうまさしく原子力発電である。
 この原子力発電には、水を水蒸気にまで核分裂をさせるために、多量の石油が必要とされる。二酸化炭素も放射線も出るので、とっても危険が危ない。よって、わたしは原子力発電所建設に断固として反対する。

 最後に湯気の原子が、メルトダウンし、水蒸気の原子に核分裂したさいに、空気の原子と混ざるが、この状態をプラズマ状態と呼ぶ。間違いない。自信がある。

 太陽は巨大な核融合炉である、そこでは水の原子が核融合によって氷の原子に変化することによって膨大なエネルギーが生じる。
 何故、このような氷という冷たい原子が生じる核融合反応でニュートリノや、光という電磁波や、熱エネルギーが放出されるかというと、太陽の水原子は反陽子、反中性子、半電子という反物質でできているからである。
 このことは、ニュートリノ物理学の草分け的存在である、小柴博士のカミオカンデの観測により証明された。

 ここで、私見を述べさせていただくと、『常温核融合』という珍説が一次取り沙汰されたことがある。水の原子の核融合反応は摂氏0度でないと生じないから、絶対に間違いである。
 そうじゃないと、冷蔵庫が売れなくなる。家電メーカーがそれによって、倒産すると、大量の失業者が出る。これはすぐれて経済問題でもある。

 実は、こんな物知りの私にも良くわからないことがある。たとえば、森から木を切り出すとき、木は木の原子で構成されている。これが製材所で核分裂をおこし、材木の原子に変化するのである。
 これを椅子に組み立てる場合、材木の原子から核融合によって生じた『椅子の原子』はどの段階で発生するのであろうか。最後の釘を打ち込んで椅子が完成した時であろうか。それとも最初に人が座って椅子としての機能を果たした時であろうか。このアポリアが解明されれば、ノーベル物理学賞受賞は確実である。私が請け負う。

以 上。

※  ※  ※

「最後のこの問題の解答には自信があるんです」
シルベさんは大きく胸を張った。

 これを読んだノレン君はぎゃーっと叫んだ。そして体を大きく仰け反らせ、指先を鍵のように折り曲げ、中空を掻き毟った。
 スジャータちゃんは、冷厳に結果を発表する。

「あれえ、全問不正解だよ。0点じゃないのさあ。シルベさんは0点坊主だよ」
 
 一方、ノレン君は腹を抱えながら身もだえし、涙を流しながら笑っている。
そして、息も絶え絶えにノレン君は言った。
「はーはー苦しいよ!苦しくて死にそうだ。ひーひーひー。でも、ある意味、ものすごい解答だ。シルベさんって、ひょっとして天才かもしれないよ」
「そうじゃのう。ノレン君の言うとおりじゃ。ワシも久しぶりに大笑いした。シルベさんのユーモアのセンスは一流じゃ。眼とろん星人さんはどうじゃな」
「私も、シルベさんは天才だと思います」

「あの、待ってくださいよ。僕は真剣に、このテストに答えたんだけど・・・・」
「そおだよお。シルベさんは、すっごくあったま悪いよー」
「姉貴はユーモアのセンスがないんだよ。僕はシルベさんのこと尊敬しちゃったな」
「なによ。ノレンたら、生意気よ」
 兄弟喧嘩が始まった。

「二人とも僕のため兄弟喧嘩はやめてください」
「本当に、シルベさんったら、スジャータ信じられないよ」
「どうして僕が0点なんです?だったら、模範解答を教えてほしいなあ」
「模範解答ってなあに?」
「正しい答えですよ」
「またシルベさんたら、庶民の言葉を使うから、スジャータわかんないじゃない。あのさあ、問題の答えなんて、自分で調べるんだよ。人に教えてもらったら、カンニングだよ。常識ないなあ。スジャータ悲しいよ」

「庶民で本当にすみません。でも、僕も一応大学は出てるんです」

「へえー。シルベさんすごーい!なんていう大学?庶民立庶民大学?」
「庶民立の・・・・いいや、国公立の大学は、頭が悪いので入れませんでした。私学です」
「だって、ハーバードも私学だよ。わーい、一緒だあ」
「一緒じゃありません!」
「どうして?スジャータと一緒じゃ嫌なの?なんていう名前の大学?」
「そればかりはお許しください。母校の恥晒しです」
「私そこに入学していーい?」
「ダメです。僕の後輩達は、確かに頭はそれほど良くないけれど、善良なやつらばかりです。彼等のぬるま湯の平和を脅かすような真似はやめてください。幼稚園に大学生が入学したら、幼稚園が迷惑です」
「でも、大学は大学でしょ」
「そりゃあ、『ダイヤモンドも玄武岩も同じ鉱物だ』という意味合いにおいてはそうです。しかしなあ、これも考えてみると問題なんだよなあ・・・・・」

「シルベさんが、なに言っているのかスジャータわかんないよお」
「そもそも、ハーバードのビジネススクールというのは大学院でしょ?」
「そうだね。でもシルベさんは大学は卒業したんでしょ、学士さんなんでしょ、0点坊主なのに。あっ、そうか。やだあ、シルベさんはお金持ちなんじゃないのさあ」
「どうして?」
「だって、お金を積んで卒業したんでしょ?裏口卒業でしょ」
「世の中には例え裏口入学はあったとしても、裏口卒業はありません。あのですねえ。日本の大学は卒業が簡単なんです。適当にやってりゃあ、卒業できるんですよ。特に文科系の場合は」
「でもさあ、0点坊主のシルベさんのレベルの学力で適当なお勉強っていうのは、どんなレベルの適当?お遊戯とかお絵かきのお勉強?かわいいねえ」
「これ以上、僕を苛めないでください。あーんあんあん。えーんえんえん。おーいおいおい」
「シルベさんたら、どうして泣くのさあ。泣かれるとスジャータが苛めているみたいだよお」
「姉貴。客観的に見ると、そういうのを『苛め』っていうんだよ。シルベさんは、とても優しくて、いい人で、天才だよ。俺は尊敬するなあ。だから、苛めないでおくれよ」
「ノレン、あんた生意気よ」

「あーあ。スジャータ、きらわれてばっかり。つまんない!」スジャータちゃんはぷーっと頬を膨らませた。
(その4に続く)


【ファイル13】2006.09.20シルベさん庶民代表として試験を受ける(その2)

「次は、ニュートンの問題だよ!」

 3問目
 ニュートンの万有引力の法則について述べよ

 シルベさんの解答:
 ニュートンは有名な『万有引力の法則』を『発明』した。
 それまで、この世界には『万有引力の法則』が存在していなかったため、万物は空中に浮かんでいた。
 
 ニュートンがそれを発明したのは、ペストの流行で、ケンブリッジ大学が学校閉鎖になり、田舎に引きこもっていたときだ。
 
 ある日、とても暇を持て余していた彼は、庭のリンゴの木に、完熟しきった美味しそうなリンゴがなっているのを『発明』した。

 しかしながら、リンゴは宙に浮いたまま落ちてこない。そこで、口卑しい彼は、『万物はすべて落下せよ』という『魔法の呪文』を『発明』して唱えた、すると、そのリンゴは、あんぐりと開けたニュートンの口にすっぽりと入った。この『魔法の呪文』のことを『万有引力の法則』という。

 この呪文の文句を私は良く覚えていない。確か『テクマクマヤコン』だったように記憶している。それとも、『マハリクマハリタヤンバラヤンヤンヤ』だっけ?

 かくして、彼は首尾よく目的を果たしたが、リンゴは少し大き過ぎて、それを咥えたニュートンは顎が外れて病院に向かう羽目に陥った。でも、病院はペスト患者の治療に忙殺され、お医者さん自身もペストが院内感染したりして、顎が外れた間抜けな人間の世話どころではなく、治療してくれません。やれやれ!
 
 それはともかく、『万有引力の法則』が『発明』されたことにより、大変な天変地異が起こった。南半球に住む人たちがみんな下に落っこち、地球の外に放り出されたのだ!ニュートンがリンゴを食べたがったばっかりに!
 当然、地球も下へ下へと落ちている。これは一大事である。
 
 そのことから、顎が外れたままのニュートンは、同時に『重力=加速度』という等価原理を導き出した。
 
 ほんとうにニュートンって、凄い人だねえ。だから、偉人伝に必ず出てきます。
 ニュートンのおかげで、グレープフルーツは、機械で木を揺すって、落とすだけで収穫できるようになりました。

 なお、すっかり名士になって造幣局長の職に就いたニュートンは、アイルランドに対して過酷な通貨政策を施行したため、アイルランドの作家、スウィフトが書いた有名な『ガリバー旅行記』の、『空を飛ぶ国=ラピュタ国』の章では、ニュートンをモデルにした物理学者が、徹底的にカリカチュアライズされて登場する。

※  ※  ※

「シルベさん、最高だね。伝記的事実は結構詳しいのに、物理が全くダメだ。
 どういう、教養のバランス感覚をしているのか、俺は、シルベさんの精神構造に関して、とても興味深いものがあるな」

「どおして、こんなところに、『等価原理』が出てくるのよお。一般相対性理論じゃないのさ」スジャータちゃんが声を荒げた。

 そして、乳幼児をあやすような猫なで声で尋ねた。

「それにしも、シルベさん。『地球の下』って一体なあに?」

 シルベさんは、部屋の隅にある地球儀を机の上に置き、説明しだした。
「だから、地球がこうあるとするでしょ?」
「そうだねえ」
「それで、机がある方が下でしょ?」
「机がある方って、宇宙には机なんて無いよお」
「だから、仮にこの地球儀で説明したから、分かりやすいように、机って表現を用いたんですよ」
「地球儀や机があろうとなかろうと、宇宙に下なんか無いよお!」
「だから、南の方が下でしょ?」
「南は南だよ」
「わかんないかなあ!南が下だから、地球は南に落ち続けているんですよ」
「南に地球を引っ張る力なんて存在するの?」
「だって、床があるじゃないですか」
「宇宙に床なんかないよお!」
「だから、この部屋に例えれば、床があるでしょう」
「どうして、この部屋に例えるのさ?」
「分かり易くですよ」

「あのねえ、強いて『地球が落ち続ける』と表現するとしたら、太陽に向ってだよお。地球にも当然質量があるから、その分太陽も地球に引っ張られているわけだけど。
 でもねえ、地球はそこから逃れようとする力も働いているから、引力と遠心力が釣り合った状態で公転軌道を描いてるんだよ。
 厳密に言えば、一般相対性理論が作用する分、少し軌道がずれているけどね。ただし、この場合、月とか、他の惑星とか、銀河系自体の動きや、膨張宇宙のことは捨象してあるよ。

 それに、南半球の人が下に落ちたってどういうこと?」

「だって、南は下でしょ?落ちるじゃないですか!」
「第一、今現在、南半球に住んでいる人は、一体どうしてるの?ブラジルやオーストラリアの人達は」

「それは、地面に鉄板を張り巡らせて、磁石の靴を履いて、落ちないようにしてるんじゃないかな?僕は、庶民で貧乏だから南半球なんて行った事無いけど」

「仮にシルベさんの理論が正しいとして、人が南に落ちて、地球も南に落ちているとしたら、自由落下を始めた飛行機の機内みたいに、無重力状態になるんじゃないの?」
「ああ、そうか。でも、無重力でも、やはり地面の鉄板と磁石の靴は要るよね?」

「『ああ、そうか』とか『でも』じゃないよお!それから、重力が南に働いているとして、日本にいる人は、斜めに傾いて生活してるわけ?」

「当たり前ですよ。ただ、生まれつき日本にいるから慣れてるんです。例えば、人間は一気圧という物凄い気圧に耐えているけれど、これは生まれつき慣れているからでしょ?」

「じゃあ、日本で、水平な床にボールを置いたら、南側に転がるの?」

「スジャータちゃんたら、いやだなあ!勿論、転がりませんよ。ボールも生まれつき日本にいるから、慣れてるんです!これを『慣性の法則』というのです!どうです。完璧な論理構成でしょう」

「スジャータ、もう、知らないよお!ノレン。笑って見てないで、なんとかしなよ!もう良いよ。次の問題だよ!」


4問目
 フレミングの左手の法則について述べよ

 シルベさんの解答:
 フレミングの左手の法則というのは、『長い指から電磁石』と覚えているから簡単だ。

『電気掃除機』と『磁石』と『石』とをそれぞれ垂直に交わるように配置すると、きっといいことがあるはず。今週のあなたのラッキーアイテムはこれ。素敵な彼との出会いがあるかも!
『007(ダブリュー・オー・セブン)シリーズ』のイアン・フレミングが発明した法則。これで輪ゴムを飛ばすと良く飛ぶ。ジェームズ・ボンドと麻丘めぐみの必殺技。

※  ※  ※

「『長い指から電磁力』でしょう?『電磁石』ってなによ!スジャータ、本当にもう知らない!どおして『フレミングの左手の法則』で彼氏が見つかったり、輪ゴムを飛ばしたりするのさあ。信じられないよお!」
(その3に続く)


【ファイル12】2006.09.18シルベさん庶民代表として試験を受ける(その1)

 スジャータちゃんが、何やら紙をもって現れた。
 そして、元気よく宣言した。

「ぱんぱかぱーん。今日はスジャータが庶民の知性・教養を把握するために、シルベさんにテストを受けてもらいます。がんばれ庶民代表!

 時間は無制限です。できたら提出してね。では、どうぞ!」

「どうしてそうなるんです!誰が決めたんです」
「スジャータに決まってるよお」
「テストするならするで、どうして抜き打ちなんです。予告ぐらいしてもいいじゃないですか」
「シルベさん。直前の一夜漬け勉強っていうのわあ、一種のカンニングなんだよお。そんなことも分からないの?常識無いなあ。スジャータ、悲しいよ」

 結局シルベさんは、スジャータちゃんの我が侭に押し切られた形でぶうぶういいながらテストを受けた。

 シルベさんの、鉛筆を滑らせる音がさらさらと聞こえる。あれだけテストを固辞しながら、いざ始めてみると、なかなか快調らしい。さすがに庶民とはいえ、私のみこんだモデルだけはある。

 私も、スジャータちゃんも、ノレン君も、ドブロクスキー博士も、今は読書の時間だ。

 ※  ※  ※

 シルベさんは解答を終え、スジャータちゃんに答案用紙を提出した。スジャータちゃんは威厳に満ちた表情で、鷹揚に頷きながら、神妙にそれを受け取った。

「さあて、スジャータが、これから採点をします」

第1問
特殊相対性理論について述べよ
シルベさんの解答:一般相対性理論を特殊化した理論。

第2問
一般相対性理論について述べよ。
シルベさんの解答:特殊相対性理論を一般化した理論。

※  ※  ※

「あれえ、なによお。この頭の悪い辞書みたいな答えは。ノレンどう思う?」
「あははははははは。傑作だね。せめて『慣性系』と『加速度系』っていう言葉ぐらい書いて欲しいもんだよね」
「そうよねえ。どうしてこんな簡単な問題ができないのかなあ」

 シルベさんは憤然と抗議した。
「そもそも学問には、文科系と理科系があるでしょう」
「『文科系と理科系』ってなあに。それも庶民の言葉?」

「文科系というのは
 数学とか自然科学とか医学とかができない、かわいそうな人達のためのコース。

 理科系というのは
 文学とか哲学とか法学とか社会科学とかができない、かわいそうな人達のためのコース」

「それで、シルベさんは、どっちの『かわいそうな人達のためのコース』だったの?」

「文学とか哲学とか法学とか社会科学とかができない『文科系』のかわいそうな人達ためのコース!」

「なによお!それじゃあ全滅じゃないのさあ。第一、この世界には文科系だの理科系だのなんてないんだよ。文科系の人が崖から飛び降りても、ニュートンの法則は厳然として存在するんだよ」

「庶民なんです。すみません」
「でも、シルベさんて選挙権があるんでしょ」
「ありますよ。でも、相対性理論なんて知らなくても、社会生活には不自由しません!」

「あれまあ。それって頭の悪い不良が、勉強したくない時に使う自己正当化の理屈だよー。シルベさんたらいい歳して、今頃グレてるの?いまから暴走族をやるつもり?」
 
 ノレン君もスジャータちゃんに加勢する。
「そうだよ。俺もそう思うなあ。そんな人達の選挙による政治っていうのは、ブレーキの無い、車に乗っているのと一緒じゃないか。学識・教養っていうのは、判断を下すのに必要なキャパシティーの問題だろ。ポテンシャル・アビリティーの問題だろ?
 
 ちょっと姉貴、来てくれないかな。相談があるんだ」

 スジャータちゃんとノレン君は部屋の隅で、協議を始めた。

 ノレン君が人差し指で自分の頭を指差してクルクル回すと、スジャータちゃんは両手にお盆を持ったウェイトレスのように手のひらを天井に向け、肩をすくめてアメリカ女性がやる『私、日本語わっかりませーん』のポーズをとる。ノレン君が小さな子供の頭を撫でるようなポーズをとると、スジャータちゃんが、眉をひそめて腕組みをしながら首を振った。

 やがて、二人はにこにこ笑いながら、戻ってきた。

「二人とも、話し合いはついたかね」
 シルベさんは、他人事のように尋ねた。

「うん。まあね。
 それで、最近『老人性痴呆』の事を『認知症』に、『精神分裂症』のことを『統合失調症』に言い換えることになったけど、
『庶民』って、一体、何を言い換えた言葉かなって・・・・。

 それは、バ・・・・・・」
「わーわーわーわー」
「ちがうわよお、ビン・・・・」
「わーわーわーわー」
「ひょっとして恥知・・・・」
「わーわーわーわー」

「シルベさんたら、何を一人で騒いでいるのよ。しょうがないなあ。じゃあ、採点を続けるね」
(その2に続く)


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