|
【ファイル16】2006.10.25スジャータ、キャリアウーマンになりたいよお『その1』
前回、あれだけ心配させられたスジャータちゃんだが、もうケロッとしている。
彼女の中で、気持ちの整理はついたのだろうか。心配したシルベさんがノレン君に、心当たりが無いか聞いている。
「ああ、姉貴ねえ。
姉貴はむしゃくしゃすることがあると、別荘に設置されている加速装置(サイクトロン)で実験に没頭するんだよ。
あの時も、加速された電子と陽電子を衝突させて、B中間子と反B中間子対事象の崩壊過程を、Belle測定器で調べて、CP非保存の研究をしてたよ。寝食を忘れてね。そういう時の姉貴は、凄くおっかないから、そっとしておいてやるんだよ。
よく、女の人で、夫婦喧嘩でお皿を崩壊させて・・・・、じゃなかった、割ってストレスを発散させる人がいるだろ。あれと同じじゃないかな?」
「それ、少し違うんじゃないかなあ」
そう言ったシルベさんは呆れ顔だ。
何はともあれ、今回もスジャータちゃんは絶好調である。ひとまず安心だ。
「シルベ先生。『キャリアウーマン』て、なあに?」
シルベさんは、これまでスジャータちゃんが自分の事を『先生』と呼ぶとロクなことがないことが分かっているので身構えながら答えた。
「技術や知識を習得して、自立して社会の中でキャリアを積んでバリバリと働く女性のことらしいね」
「ふーん」
「スジャータちゃんみたいな、親掛かりの裕福なお嬢さんが、庶民の生活を理解したいのだったら、働くのも良いかもしれないね」
「あれえ。シルベさん誤解してるよお。スジャータ親掛かりじゃないよお」
「お父さんの会社を手伝ってるの?」
「違うよお。スジャータの会社だよ」
「うそだろ?」
「うそじゃないよお。
暴走族やってた時に、研究で特許をとってえ、その特許料を資金にしてえ、会社を作ったの。最初はバイク宅配便の会社だよ。
『チーム・スジャータ』以外のグループの『族』の連中はあったま悪いから、就職口が無かったんだ。それで、社員にしたの。みんな、ちゃんと更生したんだよお。それだけじゃ利益が上がんないから、他の業種の会社も設立したの。
コングロマリットってやつ。
スジャータ、経営は得意だもん。それでもって、利益が上がって、いろいろと忙しくなったから、東証二部に上場したところで面倒くさくなって、今はお父さんの会社の人にまかせてるの。私は創業者で筆頭株主。経営顧問だけやってるの。だから、親掛かりなんかじゃないよお」
「・・・・・・・。あははははははは。ふーん。偉いんだね」
「そうなんだ。スジャータって偉いんだよ。えっへん。でもスジャータって、キャリアウーマンじゃないでしょ?」
「うん、経営者は違うかもね」
「スジャータつまんないよお」
「ああ、またスジャータちゃんのわがままが始まった」
「『また』って何よお」
「でも、スジャータちゃんの周りにも技術や知識を習得して、自立して社会で働いている女性っているでしょ」
「執事のメリーさんみたいに?」
「ああ、あの羊を飼ってる、執事のメリーさん?」
「うん、そのメリーさんだよ。京都大学を出て、弁護士と公認会計士の資格を持ってるんだよお」
「・・・・・・!それは、申し分の無い、完璧なキャリアウーマンだね」
「すっごーい。そーなんだ。メリーさんて偉いんだね。じゃあ、彼女を呼んでお話を聴こうかな」
私の住んでいるアトモス部屋は二間である。それをスジャータちゃんの使用人が、一間を今私たちの話している居間兼書斎に、もう一間を、ボディーガードのまあくんと、執事のメリーさんの控えの間兼寝室にしつらえ、部屋間の連絡にインター・フォンを設置したのである。
スジャータちゃんがインター・フォンで連絡すると、執事のメリーさんが現れた。
「とつぜんで申し訳ないんだけど、スジャータの質問に答えてね。勿論差しさわりの無い範囲で結構だよ。
ところで、メリーさんはキャリアウーマン?」
スジャータちゃんはいつもと違ってはきはきと話す。
「違います」
「じゃあなに」
「執事です」
「でもキャリアウーマンでしょ」
「違います。その言い方、私は軽薄だから嫌いです」
「どうして?」
「何か荷物を運んでいるみたいだし」
「それで?」
「私は食べるために働いているし」
「それってキャリアウーマンじゃないの?」
「違います。私は彼女たちみたいに社会進出なんて馬鹿なこといいたくありません。食べなきゃなんないからお金が必要。お金が要るから働く。働く以上責任がある。責任があるから、プライドを持って一生懸命働く。当たり前のことです。
そこに社会進出なんていう言葉なんか介在しません。第一、主婦も立派な仕事です。お給料をもらって働くのも、家庭で働くのも、立派な仕事です。そこに序列をつける考え方が私には卑しく思えて嫌いです」
「・・・・だそうです」とシルベさん。
「ふーん」
(『その2』に続く)
|