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【ファイル11】2006.09.28スジャータちゃんの暴走族の話
「シルベさん。聞いて聞いて!スジャータは昔暴走族だったんだよ」
「らしいね。眼とろん星人さんから聞いたよ。それに、『アトモス部屋』でも、その話は何回か出てきたよね」
「なあんだ。知ってるんだ。つまんないの。スジャータ、シルベさんを驚ろかそうと思ってたのに」
「でも、あんまり自慢できたことじゃないよ」
「そうだね、でもスジャータ、悪かったんだよお。不良だったんだよお」
「ふーん。何時も乗ってくる、あのオートバイで飛ばしたんだね」
「うん。『メークイン2世号』だよ」
「ああそうか。スジャータちゃんの愛馬が、『メークイン号』だって言ってたものね。それでオートバイが『メークイン2世号』なんだ」
「そーだよお」
「じゃあ、メークイン2世号で飛ばしたんだね」
「飛ばしたなんてもんじゃないよ。なんたって、時速200キロ以上だからね」
「ええっ!そんな馬鹿な。それじゃあ。一発で免許取り消しだよ」
「違うよお。免許取消しになんて、なんないよお」
「本当だよ」
ノレン君がつまらなそうに、口を挿んだ。
「でも、それは公道じゃないけどね。別荘の庭のサーキットでの話だよ」
「そうだよ。スジャータ時速200キロ以上で飛ばしたんだよ」
「そうなんだ。でも、いくらサーキットでも時速200キロ以上は危ないよ」
「だから、スジャータ、オートバイの運転を教わったんだよ」
「誰に?」
「全国白バイ安全運転競技大会で優勝した、交通機動隊のお巡りさん」
「あのねえ、お巡りさんに運転を教わる暴走族なんて聞いたことないよ。確かにあの人達は一流のテクニックを持ってるけど・・・・」
「聞いたことなくてもスジャータがそうなんだから、文句言わないでよお。それから、MotoGPのチャンピオンの人」
「あのねえ、MotoGPって、オートバイ・レースの世界最高峰だろ?原田 哲也とか、ノリックこと阿部典史とかの」
「そーだよ。原田さんは、GP250の方が凄かったんだけど、イタリアでは、サッカーの中田ヒデ選手より人気があったんだよお」
「無茶苦茶だなあ!」
「だって、お父さんの会社がチームのスポンサーだもの。あたりまえだよお」
「それで、確かスジャータちゃんは、暴走族の頭(カシラ=総長)だったよね」
「そうだよ。『チーム・スジャータ』だよ。」
「へえ。凄いんだ」
「そりゃそうだよ。凄いんだよ。えっへん。メカニックもホンダからの出向社員だからさあ」
「あのねえ・・・。族には構成員がいるだろ?スジャータちゃんの子分の」
「そーだよ。お父さんの会社の従業員の子供だよ」
「可哀想だなあ。どうして社員の子供だと、そんなことにまで、付き合わされなけりゃならないんだ」
「でも、みんな、不良になったこと無いから、楽しんでたよ。
けどねえ。受験があるって、休憩の度に参考書開いて勉強するんだもの。スジャータ、頭にきたよお!」
「しまらない暴走族だな。それで、スジャータちゃんは、私道のサーキットで走っただけかい?」
「もちろん公道でも走ったよ。公道で走らなきゃ暴走族の名がすたるよ」
「それはそうだけど」
「ただねえ、『メークイン2世号』は、レース仕様だから、公道は走れないんだ。つまんないよお。だから、公道では普通のリミッターやマフラーが付いた『メークイン3世号』に乗るの。だから、ここに乗ってくるのも実は『メークイン3世号』なんだよ」
「へえー」
「それでね、公道で走る時は、白バイのお巡りさんとパトカーが先導してくれるの」
「なんだよ、それは!」
「それで、スジャータは白いドレスを着て『メークイン3世号』に乗るんだ」
「変な暴走族だねえ」
「それでね。タスキを掛けるんだよ」
「タスキ?」
「シルベさん、知らないかなあ。『交通安全』って書いたタスキだよ」
「あらまあ」
「それで、沿道の子供に風船を配るんだ」
「ほほえましい暴走族だねえ。それって、『交通安全』の啓発キャンペーン・パレードだろ?」
「でも、交通妨害でしょ?道いっぱい塞いだんだもの」
「分かった分かった。そうだね。交通妨害だね。白バイとパトカーが先導するんだものね。確かにじゃまだね」
「そうだよお。それで、スジャータ、悪かったんだよ」
「悪かったって、どういうことをしたのさ。例えばカツアゲとか?」
「カツアゲならしたことあるよ。スジャータ、それ、得意だったよ。そりゃあ、脅したよお。額面を抜いた小切手をほっぺにぴたぴた当てて、受け取らなきゃ酷い目にあうわよって」
「なんていうカツアゲなんだよ」
「スジャータは悪かったんだよお!」
「わけが分からないよ。それってカツゲじゃないよ。お金を人にくれてやるだけじゃないか。寄付だよ」
「でも、脅してやったんだよ」
「それで、相手は受け取ったのかい?」
「最初の頭(カシラ)は喜んで受け取った」
「じゃあ、次の頭は?」
「『俺は乞食じゃない!』って、小切手を破いちゃった」
「それは筋の通った正しい不良だね。大したもんだ」
「でも、不良だよ。第一、生意気だよ。スジャータがあげるっていうのに受け取らないんだもの」
「でも偉い奴だよ」
「でもスジャータに逆らって生意気だから絞めることにした」
「えっ!スジャータちゃんが?」
「違うよ。まあくんだよ」
「まあくんて、ひょっとして、いつも黒いスーツ着たボディーガード?」
「そうだよ」
「それは卑怯だよ」
「でも、執事のメリーさんも付いてたよ」
「メリーさんの執事?」
「ちがうよお。執事のメリーさんだよお」
「なんだよ。ボディーガードと執事付きの暴走族って。そんな暴走族無いよ」
「だけどね、まあくんもメリーさんも、そんなことしてはいけないって。その時、凄くスジャータに怒ったんだ。まあくんもメリーさんも、スジャータが暴走族に入るのに大反対してたんだ。でも、スジャータがどうしても入るって我がままいったら、心配してついてきたんだよ」
「そりゃあそうだよ。二人とも正しいよ」
「それで、スジャータのお金がいらないんだったら、帰れって言ってやった」
「うん。よかったよかった。それでいいんだ。でも偉いなあ、その不良は」
「うん。偉いねえ、ヒロシは」
「えっ?ヒロシ君って、眼とろん星人さんが言ってた、タカシって子に刺されて死んだ子かい?」
「うん、そうだよ。ヒロシったら、スジャータの小切手を断ったくせに、自分でアルバイトしたお金で、スジャータにブローチを買ってくれたんだ。変なのお!」
「それじゃあ、ひょっとして、小切手を受け取ったっていうのは?」
「タカシだよ」
「スジャータちゃん。それはないよ。それは酷いよ。ヒロシ君は、本当にスジャータちゃんのことを好きだったんだよ。どうして分かってやんなかったんだよ」
「でも、スジャータって、ヒロシのこと好きじゃなかったし・・・・・」
「でもさあ、ヒロシ君はタカシって子に刺されたんだろ?死んじゃったんだろ?可哀想じゃないか」
「うん。スジャータもそう思うよ。スジャータが馬鹿だったんだよ」
「そりゃあないよ。ヒロシ君が可哀想だよ」
「シルベさん、泣いてるの?」
「だって、可哀想じゃないか」
「シルベさんて、優しいんだね」
「やめてくれよ。僕は女の人に優しいっていわれて、碌な目にあったためしがないんだ」
「でもさあ。スジャータも、知らなかったんだよ。二人が喧嘩するなんて。まあくんもメリーさんも、ヒロシが死んだこと聞いて、泣いてたよ。いい子だったって。スジャータもすごく泣いたんだよ」
「それでやめたのかい?暴走族を」
「うん。みんなに迷惑かけたもの」
シルベさんも、スジャータちゃんも、後はずっと押し黙ったままだった。私は、私のモデルをシルベさんに決めて、本当によかったと思った。
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