mhは一応自分で着物を纏える。
着付けの資格を取得はしていないが、
なにせ若い頃から和装で出席する場所が多かったこともあり、
着付けは習っておいたのである。
お茶会、御花、お琴と、
和物が好きだったので、
あらゆるシーンに着物は必要だった。
母が着付けてくれていたのだが、
ある日、それが凄く痛いことを知った。
どうも同じ位置に「コーリンベルト」(和装小物の商品名)があたり、
その部分だけが赤くなるのである。
冗談じゃないやい、
だったら自分で着てやろうじゃんと思ってお稽古に通って、
ちゃんと袋帯までは自分で結べるようにしておいた。
さて、話がそれた。
今年も着物は纏うことなく過ぎたが、
当時は例年どおり、
正月は着物を纏っていたmh、
その年も正月のデートに着物を着付け、
ボーイフレンドの到着を待機していた。
若き日の話である。
その彼と大きな神社に初詣に出かけた。
先の御籤の出来事は、
その時に起きた話であり、
御籤を引けば引くほど青ざめていく私に、
彼は上手く声をかけられなかったのであった。
若い彼には、
それだけの語彙がなかったのかもしれない。
読書家だったが、
表現力には乏しい人とでもいうのか、
会話で慰めるような器用な人ではなかった。
あるいは、
殺気立った私の形相を横目に、
もしかすると、泡を吹いていたのかもしれない。
大凶、大凶、凶と、
トリプル凶のmhは、
言葉もなくその神社を後にした。
彼も気まずい気分だったであろう。
そのあとどこかに出かけた記憶もなにも飛んでしまっている。
が、そのときは、
それが、
長年付き合い、
結婚したいと考えていた彼との「最後の初詣」になろうとは、
想像さえしていなかったのである。
この御籤事件から15日ほどして、
私は彼に将来をどう考えているかを問うた。
結婚の意志がなかったら、
やはり自分も考えなければならない。
ところが、
自分に自信が無かったmhは、
この彼を失ったら、
自分はもう結婚できないだろうと信じて疑わなかったのである。
本当に、
若いとは浅はかで、無知で、愚かなのだ。
この彼と私のデートは私の自宅であった。
父と酒を飲み、
家族でご飯を囲み、
私とテレビを見て帰るという、
今の若者には考えられないようなものだったと思う。
お金を貯めるために、
外食をさけ、
貯金を私が管理して、
めったに外で遊ばず、贅沢はせず、
いったい何が楽しかったのだろう。
一緒にいられればよかったということだろうか。
私の親は安心出来ていたであろう。
娘はいつも自宅にいて、
ご飯も拵えて、そこに彼もいて、
なにも不安などなかったに違いない。
この年、mh25歳。
田舎では適齢期を過ぎていた。
私達の間には、
障害があった。
彼の母親のこの縁への猛烈な反対。
むこう5年に及ぼうとしていたこの障害は、
結局、この母親の思う壺という形で終焉を迎えた。
若かりし日のmhは、
この彼に言ったことがある。
「ねえ、一度だけでいいから私があなたの母親になりたい。
そして、思い切り中を引き裂いて反対してやるの。
どんな気分か味わってみたい」
彼を困らせることは承知で、
それでも言わずにいられなかった。
トリプル凶御籤は、激動の一年の幕開けの合図でもあったのである。
しかし、新たに新しい出会いの年ともなったわけで、
私はこの一年で、
大きな別れと、
新しい出会いと、
結婚までしてしまったのである。
恐るべし御籤パワー。
何が起こるか不安になったのは、
そのせいである。
まあ、今はそんなことに一喜一憂するほど、
若くもなければ、
経験も浅くないわけで、
過去の悲しき思い出の一つとでも記しておこう。
|