|
とりあえず、感を研ぎ覚ますための準備運動をする。
ただ後ろから眺めているだけではあるが、テーブル横のディスプレイに表示されている今までの出目録を参考に、次の出目を予想するのである。
この出目の流れが、テーブルによってそれぞれ異なるのである。
大大大小小小大大大小小小と、綺麗な流れを形成しているテーブルもあれば、大小小小大大小大小大小大大大小と、全く予想不可能なテーブルもある。
30分くらいだろうか、しばらく後ろから「練習」をしていた訳であるが、これが見事に当たらない。
所詮大か小の2つしかないのだから、確率は50%のはずである。ここまで当たらないと、カジノに心を読まれているような気がする。
きっと賭けていないからだなと、勝手な推測をする。
賭けていないから予想も適当なのだ。金を賭ければ精度も上がるさ。そうに違いない。
次の瞬間、僕はテーブルに500ドル札(7500円)を投げ込んでいた。
ディーラーは慣れた手つきで、100ドルチップを5枚返してよこす。
さて、どちらに賭けるか。
このテーブルは特に流れも何もない。大と小がランダムに出ているようである。
ベットリミット(賭け終了)まであと15秒、客がチップを大へ賭け始める。小にも若干ではあるが賭ける客もいる。
大は小を兼ねる、大きいほうが縁起もいいだろう。
200ドル(3000円)を大へ賭けた。
結果は小。
テーブルの小が明るく光る。
外れた客のチップが回収される。
まだ1回の表だ、まだまだ逆転できる。
次の回、また大に残りの300ドル(4500円)を賭けた。
このテーブルにはまだ特に流れはない、大小がランダムに来るのなら、次は大が来てもおかしくないだろう。
結果はまた小。
チップを置いたテーブルは、悲しいままに暗い。ライトは光らず、ディーラーが無機質にチップを回収していく。
4分で500ドル(7500円)が消えた。
これがカジノである。
財布から更に500ドル札を抜き取りテーブルへ投げ入れ、プラスチックのチップ5枚と交換する。
次は見よう、賭けない。
テーブルの流れは小か、きっと次は小だ。だけど賭けない。
結果は大。
見事に外れる。今回は賭けなくてよかった。
このテーブルは俺の流れではないな。テーブルを変えよう、他にもまだ3台ある。
しばらくは後ろから見ることにした。
テーブルの流れ、ディーラーとの相性を見極める。周りの客の運に相乗りできるかもしれないし、自分の運を吸収するジョーカーだっているかもしれない。
しばらく見ていると、その台は綺麗な流れを形成するようになっていた。
大大大大大小小大大小大大大小小小大・・・
大は最低でも2回連続で出ている。大の引きが強い。
次は間違いなく大だ。
リミット残り3秒のところで、大に200ドル(3000円)を置く。
結果は大。
200ドルが400ドル(6000円)になって返ってくる。
負ければ死神に心臓をつかまれた感じがするが、勝てば天使のささやきが聞こえてきそうである。
その後は一進一退の状況が続く。
1000ドル(15000円)にまで増えることもあれば、300ドル(4500円)程度にまで衰退することもある。
やはり完全に流れをつかみ切れていないのか、じりじりとチップは減ってくる。
想像では完璧だったのに、現実は厳しい。
そのときにラッキーは起きた。
分散させて15に張った50ドル(750円)がヒットしたのである。
15の当たり目は18倍、50ドルの掛け金が750ドル(11250円)、同時に張っていた大の200ドル(3000円)も400ドル(6000円)になって返ってきた。
ゲームオーバー寸前から、2万円弱に吹き返す。
次は2連続で負け。
手元のチップは1000ドル(15000円)、資本が1000ドルなので、勝ち負けゼロである。
オーケー、休もう。
2時間もノンストップで張り続け、ゼロに戻すので精一杯であった。
一旦カジノから外に出て、ちょっと離れたローカルの食堂へ入る。
メニューは漢字で書かれて入るが、広東語のメニューというのはいまだによくわからない。
新鮮小龍包と鶏肉菜飯みたいなものをオーダーする。
そして、前半戦の反省。
テキトーに賭けすぎである。それぞれのテーブルには必ず流れというものがある。
例えば、サーファーだって、ボードに乗って沖に泳いでいって、これだと思った波に乗るわけだ。
波のないところで立つやつはいない。波が来ても、自分に合わなければ次を待つだろう。
大小も同じだ。
絶対に自信のあるゲームでしか賭けない。今まではそうやって買ってきたはずなのに。
こればかりは待つしかないのである。
リスボアへ戻る。
途中のセブンイレブンで、スニッカーズとリポビタンDを買う。この組み合わせが、僕は一番集中できるのだ。
テーブルは4台ある。まずはじっくりと自分にあった台を探す。
時間をかけてゆっくり見ていると、必ず自分の流れにあった台が見つかる。
海には波が起きるのと同じで、カジノにも波が起きる。
流れが見えたような気がした。
テーブルの中央に座る。大にも小にも手の届く、一番いいポジションである。
ゆっくりと小額で、絶対に自信のあるゲームだけに賭ける。
特に自信のある時は、掛け金を増やしてみたりもする。
すると、前半戦とは打って変わり、面白いほど当たる。8割は当て続けただろうか。
テーブルには100ドルチップの塔が2つできるほどになった。
ふと見ると自分のテーブルはだんだんと盛り上がってきたようだった。
他の客に目をつけられたのか、僕が大や小に賭けると、周りの群集もそれに続く。
誰も僕より早くは賭けようとしない。
そのテーブルのラッキーボーイになってしまったようだ。
そう意識して以来、当たらなくなってしまった。
100ドルチップの塔の1つが崩壊するまで10分とかからない。
出目の予想に相当集中していたのか、ディーラーが代わっていたことにも気がつかなかった。
手際のよいお姉ちゃんから、やる気のなさそうな中年の男に代わっていたのである。
ツイていない、流れが読めない。
このディーラーがジョーカーなのか。
すかさずその台を離れた。
チップをポケットに押し込み、トイレへ走りこんだ。
鏡の中に移る自分を見つめ、冷静になるように言い聞かせる。
そして、カジノの鉄則を思い出す。
勝っている間に止めろ。
流れに乗っているうちに帰れ。
熱くなりすぎていた。
儲かる金の多さに、我を忘れていた。
気づかなければ、間違いなく負けに転じていた。
冷静になったところで、再度大小の場へ戻る。
22時を回ったくらいであったか、カジノは一番の盛り上がりを見せる。
盛り上がりも必要だが、熱くなってはダメなのである。
そして、自分の流れに合った台を探す。
この時間帯はカジノが客へ金を還元している時間帯なのか、カジノが儲けるの前奏なのか、どの台も流れをつかむのは簡単だった。
簡単に予想できそうな出目ばかりだった。
それでも注意しながら、絶対に自信のあるゲームだけに集中し、テーブルには座らずに後ろから賭け続けた。
誰の目にも留まりたくはないからである。
先ほど失った一方の塔は簡単に回収することができた。
この位にしておこうか、もう少し稼がせてもらうか、そう考えていた矢先だった。
テーブルには20人くらいの人であふれかえっていた。
大と小が一定のパターンで出続ける。出目録からすると、次回は間違いなく小だった。
毎度のように、残り数秒のところで小に300ドル(4500円)を置こうとしたときだった。
場の雰囲気は最高潮である。だが、ちょっと盛り上がりすぎではないか。
200ドル(3000円)の小額から10000ドル(150000円)の大金まで、乱れ入るように小にチップが置かれる。
その裏を読み、同じくらいの金額が大にも賭けられる。
後ろから、現金の束も投げ入れられる。
出目の合計や目の模様にまで、テーブルはチップと現金で溢れ返っている。
残り数秒の瞬間に、第6感が言った。
賭けるな。
そして、小に置こうとした手を引っ込めた。
ベットリミットの鐘が鳴る。
それでも群集は賭けを止めず、チップと金が投げ入れられる。
サイコロのフタが外される。
次の瞬間、ため息、悲鳴、罵声が辺りを覆う。
2・2・2、ゾロ目だった。
ディーラーの総取りである。
場は一気にしらけ、半数以上の客が去っていく。
唯一勝ったのは、それまで瀕死の重傷を負っていたように見えた、僕の前に座っていた若い青年だった。
彼は、2・2・2のゾロ目に50ドル(750円)のチップを置いていた。
ゾロ目は150倍の率である。
50ドルが7500ドル(112500円)へと化けた。
満面の笑みで、彼もまた去っていった。
いや、俺も今のゲームには勝たせてもらった。
ゾロ目に賭けていれば更に大金を手に入れられたかもしれないけど、賭けないものまた勝ちなのだ。
カジノにたら・ればはないのではあるが。
よし、帰ろう、これで十分だ。
負けが多かった分セイコーの腕時計は買えないけど、ラルフローレンのシャツを買っても釣りがきそうだ。
終わったときの開放感はすがすがしい。開放されるような気分である。
賭けをしないカジノに長居は無用、次回の運まで奪われそうな気がする。
そして、リスボアカジノを後にする。
もちろん、フェリーターミナルへは路線バスで帰ったことは言うまでもない。
※注
「深夜特急」のマネか?とは言わないでくださいね。
昨日のゲームの事実ですので。
|