増加の要因は、自然豊かな高原を売りにした中央高原別荘団地やペンション区画の分譲、東京に近い自然に恵まれた村としてのPR、将来を見据えた福祉施策の充実など様々である。
さらには、コンパクトなエリアに1保育園、1小学校区、1中学校区という体制が、自然環境や景観を求める外部からの移住者にとって、子育てに向いた環境として魅力的に映っていることも一因と思われる。
また、2010年度の国勢調査で65歳以上の高齢者の就業率を見ると、全国平均が21%であるのに対して、長野県は全国第1位の30%で、さらに原村は55%と圧倒的な高さを誇る。農業を主産業にする地域性と、芸術家やクラフトマンが移り住んで活動していることが寄与していることは間違いない。
さらには福祉行政が充実しており、1981年度から全国に先駆けて、65歳以上の医療費を無料化し、その他各種検診を無料にすることで、早期発見・早期治療を進めるなど予防医療にも力を入れ、1人あたりの医療費は31万円と県下でも低水準にある。
働くことで健康を維持し、健康ゆえに働き続けるという好循環が生まれている原村が、「日本一元気な村」をアピールしているゆえんである。
ちなみに医療費の無料化は2006年度からは中学3年生までに対して、さらには2012年度からは高校3年生までに対してその対象を広げている。
そして、忘れてはならないのは、生涯学習の充実であろう。原村では、むらづくり講座(行政出前講座)と呼ばれる取り組みが行われ、地域集会や団体の会議、学校の授業などに村の職員が講師として出向き、村の事業や施策などについて話をすることで継続的な学習活動と行政への参加を促している。
そのテーマは、村の財政状況にはじまり、地域福祉、各種診断、農業振興、商工業振興、観光事業、リサイクル事業、教育行政、社会教育、防災知識、地域づくり、総合計画などなど、その数100以上に上る。
これだけ多岐にわたる分野を学ぶこと自体、脳の活性化にもつながるだろうし、地域活動への参画を通じて、社会とのつながりや生きがいを感じるきっかけにもなる。人口は少ないが、原村むらづくり生涯学習推進委員会に約100人ほどが属しているのは住民の意識の高さを物語っている。
観光振興への取り組み
そんな原村の抱える最大の課題は、他の市町村のご多分にもれず観光の伸び悩みである。観光入り込み客数は最盛期の38万人から現在は二十数万人に減少している中で、様々な観光の振興に取り組んでいる。その一端を紹介する。
(1)原村ブランドの振興
原村は、大気が澄み、星の輝きをさえぎる光源が少ないため、全国でも有数の天体観測地域であり、夜になると満天の星が輝く。
毎年恒例の星まつりには全国の天文ファンをはじめ約1万人が原村を訪れ、都会では味わえない宇宙観を堪能している。他にもスターダストシアター(星空映画会)や星空観望会(年間を通してほぼ毎月開催)なども実施している。
この新鮮な空気とさんさんと降り注ぐ太陽の光、昼夜の著しい気温差が生み出す、美味しい高原野菜や色鮮やかな高原花卉はまさに原村らしさの象徴である。有機低農薬作物への転換などによる高付加価値化を図り、安心で信頼できる農作物の推進や、農産物加工品の商品化、農作物の直売所での販売などの促進に努めているところである。
また八ヶ岳中央高原を舞台にした「高原の爽やかコンサート」は近年開催数が増え、自然の中でのふれあいのあるコンサートが、聴衆に感動とやすらぎを与えて人気を博している。今後もジャンルを広げ、裾野を拡大しながら、「音楽による村づくり」で原村ブランドを広めていこうとしている。
それと同時に村にIターンした多くのクラフトマンや芸術家などが、スローライフや田舎暮らしを希望する都市住民との交流やアドバイスを行い、宿泊施設への観光滞在を促進したり、芸術家をネットワーキングし「アートビレッジ」としてのブランディングも図っている。
(2)森林(もり)の里親事業
森林の里親事業とは、環境保全に熱心な企業・住民・行政のパートナーシップにより、地域の森林を育てていこうという事業で、ジャパンエナジーと「森林の里親」契約を結び、「未来に残そう『原村・JOMOあゆみの森』」をテーマに協働して森林を整備している。
また、この事業では福利厚生を兼ねてジャパンエナジーの社員が原村を訪れ、ボランティア活動の一環として地元住民と一緒に森林整備作業を実施し、原村の自然に触れたり住民との交流を図ることも推進している。
(3)農業学校の取り組み
八ヶ岳中央農業実践大学校(専修学校)では、修学旅行生や総合学習における農業体験として、全国の小中学生を対象とする農業体験学習(1日)を実施している。
「おやき・ジャム作り体験」「乳製品加工体験」「森林作業体験」などのプログラムには全国から1万5000人以上が参加し、校内にある農産品即売コーナーも、週末は多くのお客で賑わっている。都会では得ることのできない自然環境や産業、文化、民俗などの社会環境を肌で感じることに価値を置く農業体験を今後も推進していく。
この他、住民が自ら考え、行動する田舎づくりとして、「原村体験ツアー専門部会」「よみがえれ、八ヶ岳森林軌道専門部会(トロッコ部会)」など、田舎のよさを積極的に情報発信しようと、住民が中心になった活動が芽生えている。
人口が増える背景:徹底したゾーニング
原村は八ヶ岳という自然に恵まれた村ではあるが、人口が増え続けているのには、冒頭の理由を支える背景がある。
原村では1960年代後半に森林を活用して別荘団地やペンションの開発を行ったが、村独自で雄大な自然を大切にしながら、落ち着いた雰囲気のある保健休養地を目指してきた。
そして1981年の中央自動車道諏訪南インター開通の翌年には、原村環境保全条例を施行し、八ヶ岳中央高原をはじめとした村内全域を乱開発から守るため開発行為を厳しく規制して、良好な環境と景観の保全に努めてきたという歴史がある。
そして適正な土地利用は「原村ブランド」の村づくりにおいて骨格となるとの考えのもと、昭和61(1986)年策定の第2次総合計画から土地利用のゾーニングを計画的に行っている。
ゾーニングは、村全体を「グリーンリゾートゾーン(森林保養地帯)」「リビングゾーン(農業生活地帯)」「テクノパークゾーン(産業公園地帯)」の3区分とし、総合計画及び国土利用計画において各ゾーンの土地利用の方向性を定めており、昭和61年の設定当初から現在までこれらに関する変更はほとんど行われていないほど徹底している。
さらには、近年の村の人口増は主としてグリーンリゾートゾーンへの転入によるものであることから、今後の高齢化の進展も踏まえ、20〜30代を中心とした若者の定住の促進を図ろうと、40歳未満の個人が宅地等開発地内(リビングゾーン、テクノパークゾーン)に住宅を新築した場合、50万円の補助金が交付される制度が平成18(2006)年度に設けられた。
その結果、毎年上限の20件への交付が実施されており、リビングゾーンへの定住誘導に効果を発揮している。
また、平成19(2007)年度からは、リビングゾーンにある耕作放棄地を村が借り受けて市民農園を開設し、約50m2を1区画として有料で貸し出している。
これまで農業に縁のなかった人たちに農業への理解を深めてもらうと同時に、農地の荒廃防止の効果をねらった結果、現在は主に都市部から移住してきた高齢世帯や若年世帯が農園を借り、ほぼ全てが貸し出されている状況である。
原村は自然の恵みに安住することなく、村全体の土地利用も計画的に進めることで、住みよいまちとなり、転入人口の増加につながっていることと思われる。
小さな村ではあるが、行政と住民が一体となって原村ブランドを創出していることが分かる。