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日時:2010年6月5日(土) 18:00〜
場所:サントリーホール(大) 曲目:ノクターン第5番
ピアノソナタ第2番
スケルツォ第2番
ピアノソナタ第3番
舟歌
演奏:クリスチャン・ツィメルマン(pf)
【全体について】
Welcome to the "Krystian Zimerman Theatre"!!!
まぁ訳すと「クリスチャン・ツィメルマン劇場へようこそ!」なのですが、演奏のみならず、会場の雰囲気全てが彼のコントロール下にありました。拍手のタイミングを呼び込むのも、ツィメルマンの絶妙なボディ・ラングエッジによってコントロールされていたようにさえ思えました(個人的には、もう少し、余韻に浸ってから拍手をしたかったのですが、待ちきれない観客が多かったようです)。
実は前回のツィメルマンの演奏会(昨年6月)では、正直あまり感動を覚えず、今日も少し不安(?)な気持ちのまま、会場に向かったのです。でも、舞台に現れたツィメルマンの表情を見て、前回とは大きく異なり、とてもリラックスした様子で『今日は楽しめそう!』と思いました。
【各曲について】
《1. Chopin: Nocturne No. 5 in F sharp major, Op. 15-2》
ノクターンの中で、私が最も好きな作品の一つに挙がる曲です。左手の音色と右手の旋律の音色の違いにまず驚きました。左手はまるでソフトペダルを利かせたような、ちょっと控えめな響きに対し、右手は深い響きのある、温かな音。中間部は、私はもう少し細やかな曲想のほうが好きなのですが、ツィメルマンの演奏は、ダイナミクスに富んだもので、ちょっと重たいテンポではありましたが、響きがあの大ホール全体に少しずつ、でも確実に一杯に広がっていくのを感じることが出来、これはこれでまた素晴らしい曲想。いえ、ツィメルマンだからこそ出来る、そして許されるこのダイナミークの幅なのかも知れない、と思いました。後は、ピアノと、もしくは作品そのもと「会話」を楽しんでいるように思えました。
《2. Chopin: Piano Sonata No. 2 in B flat minor, Op. 35》
さて、私はこの作品、自分の師匠をしのぐものには出会っていないと確信しています(笑)。3番と比較するとちょっと地味な内容でもあり、旋律の流れも、一楽章は決してスムーズではなくむしろ角ばった印象を与えるもの。私が特に好きな73〜80小節(一楽章)にはもっと力強くも滑らかで、50〜64小節(二楽章)は、もっと軽やかでお茶目な雰囲気が好きなのですが、ツィメルマンはかなり四角い状態の演奏をしていました。もちろん、この曲想はこれで完璧に近いのですが、私の好みとは大きく異なります。あくまで、好みの問題です。
ところで、今日の演奏で私が最も感動したのは、ペダルの使い方。ショパンなどについては、多くの演奏家がペダルを多用する傾向にある中で、この作品の三楽章ではペダルの絶妙なアプリケーションが、今日のツィメルマンの全てを物語っていたようにも思いました。それと、ダイナミークの幅の広さ。通常、サントリーホールのような大きな会場でショパンを弾くと、多くの演奏家はダイナミークの幅が狭く感じてしまう(響きが散ってしまうため)か、それを防ごうとするかのように力任せに弾いてしまうかのいずれかですが、ツィメルマンは楽器を丁度良く響かせることで、満席のホールにppp〜ffffくらいのレンジで演奏していたように思います。私の右耳は音より響きを多く拾ってしまうため、今日は耳鳴りが激しく、今も右耳は少しぼんやりしていますが、それほどまでに凄かったのです。
四楽章に関しては、これまで色々な演奏家の演奏を聴いてきましたが、もじょもじょした雰囲気が好みではありますが、ツィメルマンのような輪郭のもっとはっきりした、機敏でむしろ元気の良い内容に、斬新さを覚えたりもしました。ところで、三楽章の最後の一ページのダイナミークには少々驚きました。まるで、葬儀に参列した人たちが目の前をゆっくり通り過ぎていくその後姿をずっと眺めているような、とってもビジュアルな演奏だったのです。ショパンの作品にあまり「絵」を想像しない私ですが、これはかなり映像的な内容でした。
《3. Chopin: Scherzo No. 2 in B flat minor, Op. 31》
ソナタを終え、本来なら大曲であるこのスケルツォが、非常にこじんまりとしたものに感じました。意外とルバート加減が大げさでなく、比較的カッチリ弾いていたことに驚きました。個人的には、もっともっと左手を歌って欲しい、と思いましたが、恐らくこれは、会場の大きさと作品の相性の問題があるのかも知れません。低音部の重厚な響かせ方は、ちょっとショパンっぽくないなぁ、むしろベートーヴェンっぽいなぁ、と感じてしまいました。ただ、この作品では、ツィメルマンの休符の扱いは天下一品!私のような者が真似しても、「なにそれ、間違ってるよ」と言われるような時間のかけ方でしたが、これはもう、ツィメルマンの天才ぶりを目の当たりにした瞬間、と言うべきでしょう。
《4. Chopin: Piano Sonata No. 3 in B minor, Op. 58》
さて、ツィメルマンには2番のソナタよりもこの3番のほうが相性は良かったように思いました。なかなか熱い演奏家である彼には、四角い音型の続く2番よりも、旋律に様々な動きのある3番のほうが「似合う」感じです。また、35〜38小節(一楽章)がこれまで非常に分かりづらかったのですが、今日の演奏会では、(あくまでツィメルマンの解釈ですが)はっきりと理解できたように思いました。『あぁ!こうなっているのか!』と。驚いたのは、このソナタの一楽章に繰り返しをつけたこと。これは、近年では繰り返しをつけることはほとんど無かったので、ツィメルマンがどういう趣旨で繰り返しをすることにしたのか、非常に興味のあるところです。展開部は、もう少し歯切れよく弾いてほしいな、なんて思ったりしましたが(フーガ調をもっと強調して欲しかった)、繰り返しがあったとは思えないほどに短く感じる一楽章でした。各楽章間、相当の間をとったことも新鮮でした。ちょっと書くのが疲れてきたので、端折って四楽章。こちらは、9
小節目からはペダルをほとんど使わずに、深刻な音楽というよりは、ちょっと子悪魔的な内容でした。それにしても、68小節目のD♯の左手オクターヴ、ありえないほどに響いていて、むしろ気分良かったです。不思議なのは、テンポにあまり大きな揺れがないのに、十分な緊迫感があり、Agitatoをしっかりと表現していたなぁ、と。一般的な演奏といったい何が違うのでしょう。
《5. Chopin: Barcarolle in F sharp major, Op. 60》
やはり、オール・ショパンの締め括りはこの作品でないと。こちらも、実はけっこうカッチリとした左手を奏でていました。この作品、旋律だけで十分に甘いので、ちゃんと構想を練って弾かないと相当に安っぽい音楽になってしまいます。舟歌、というより木の葉が水面で風に押されて静かに滑らかに動いているような、そんな演奏でした。もう、これ以上、書く必要はないでしょう。極上の舟歌だったのですから!
土曜日の夕方。素敵な時間でした。ちょっと疲れましたが、それは、それだけこの演奏会が素晴らしかったことを意味しています♪お誘い下さいましたお友達に感謝です
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