ミッドウェー海戦研究所

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近年の核兵器をめぐる世界各国の動向(2)
第2回:ロシアと中国、そして北朝鮮
2011.07.11(Mon) 矢野 義昭
 
(1)からの続き

ウ 高まる米国とアジア近隣国の対中警戒心

 このような中国軍の増強近代化に対し、2010年頃から米国の対中警戒心が高まってきている。
 
 2010年1月に米国防総省は、米議会に対し総額63億ドルに上る台湾への武器売却計画を正式に通告した。これに強烈に反発した中国は、米中軍事交流を一方的に中止した。
 
 これに対し2010年夏には米国側から、米中軍事交流において、中国側が誠意に欠ける、また戦略核問題について協議するとの約束が守られていないなどの不満が表明され、中国の軍事力建設が米国を目標としているのではないかとの疑念が報じられるようになった。
 
 またロバート・ゲーツ国防長官は2011年1月、訪中途上の機中で、中国の軍事的な躍進により「太平洋地域での伝統的な米軍の軍事能力がいずれ掘り崩されることになる」ことを認めつつも、「我々はそれに注意を払い、我々の計画に基づき適切に対応しなければならない」と表明している。
 
 ただし議会からは、ゲーツ長官が主導する780億ドルに及ぶ国防予算削減により、米軍事能力の一部が予算不足に陥ることへの懸念も出された。
 
 増大する中国の軍事費に対する警戒感も高まっている。中国が公表している軍事費は、2011年度は7.5%増と1ケタ増にとどまったが、2012年度は915億ドル、12.7%増と再び2ケタ増に戻り、中国の外洋進出に伴い太平洋のバランス・オブ・パワーは中国に有利になると見られている。
 
 しかし、日本、フィリピン、ベトナムは中国の軍用機や艦艇の領域侵犯に抗議し、インドは新型の空軍機と潜水艦を購入するため軍事費を12%増加させるなど、中国の軍事費増加が他国の警戒を呼んでいる。この点を指摘し、暗に中国の軍事費増加を牽制する見解も米国内では出ている。
 

エ 中国の対外姿勢、特に核疑惑国への支援に対する疑念

 また米側では、中国が北朝鮮、イラン、シリアなどの核疑惑国に対して毅然とした制裁姿勢を取らないことへのいら立ちも高まっている。
 
 イランの核計画に対する経済制裁に毅然とした態度を取らず、北朝鮮のイランへの中国経由のミサイル技術移転を黙認し、イランの石油や天然ガスへのアクセスを維持しているとの不満が表明されている。
 
 また米中貿易において年2000億ドル以上の対米黒字を出しているにもかかわらず、米国企業の中国国内での活動に十分な場を与えず、他方で国営企業に補助金を出しその国際競争力を高めながら、元を安く抑え、外国企業の技術を盗用しているとの、貿易、経済、金融面での不満も高まっている。
 
 特に、イランへの北朝鮮の核関連支援貨物の飛行に対し、中国がその国内通過を黙認していることについて、2011年5月に国連安保理に専門家委員会の報告文書が提出された。
 
 文書の中で名指しされていた中国は不快感を示し、文書の出版に対し拒否権発動をほのめかし、また同委員会の中国人専門家は、中立を保つべきであるにもかかわらず本国からの圧力で同文書への署名を拒否した 。
 
 パキスタンの核開発が近年加速しているが、その背後にも中国の支援がある。パキスタンは2007年7月に締結された「米印原子力協定」に怒り、核兵器の増産に転じたとされている。
 
 そのためにIAEAの監視の目をくぐり、核兵器用物質が蓄積された。2010年末に米国の専門家から、IAEAが効果的な監視ができなかったため、パキスタンがウラン採鉱へのIAEAの援助を核兵器生産に利用したとの非難が発せられた。
 
 このIAEAの援助により、パキスタンは約60発分の兵器用核分裂物質を生産できたとされている。またパキスタン国内で採集したウランは、大半が兵器用に使用されたと見られている。
 
 その結果、近年パキスタンは核を増産しており、インドはパキスタンが世界のどの国よりも速い速度で核兵器を増産していると非難している。また米国の2011年1月時点の評価によれば、パキスタンは90発半ばから110発以上の核弾頭を配備していると見られる。
 
 米国はパキスタンの核の安全性を憂慮し、1億ドル以上を使い、核施設の壁の建設、センサーシステムの設置、警護要員の武器訓練などの支援を行ってきた。それでも心配は残り、今でも内部での盗難が最も憂慮されている。
 
 さらにパキスタン政府が米軍のウサマ・ビンラディン暗殺を許したことに対し、パキスタン国内やインドではパキスタン政府や軍の核兵器管理能力に対する疑念が高まっている。
 
 米国内では、ビンラディンが核生産施設の近くに長期間滞在していたことから、核兵器が国際テロリストの手に渡る恐れがあるとの懸念が出ている。
 
 逆にパキスタン国内では、米国がパキスタンの核備蓄を奪い去る作戦に関する著作が出されるなど、米国に核を奪われるとの懸念が高まっている。
 
 米国でも、過激派のクーデターなどの緊急事態があった場合に備え、パキスタンの核兵器の安全性を守るための緊急事態対処計画が作成されたと報じられている。
 
 また、核テロの恐れもある。グアンタナモ基地の収容所内で作成された秘密文書には、ビンラディンが殺害された場合にアルカイダが計画していると噂されている核爆発計画が、詳細に述べられていると報じられている。
 
 バラク・オバマ政権は、テロリストグループが核兵器を持っているとは見ていないが、アルカイダの創設者の死により、事前に調整された報復計画が発動されることを心配している。
 
 問題は、いかに早くザワヒリその他の残党が新たな作戦に手を染められるかであり、新たな作戦実行への動機づけは、かつてないほど高まっていると米国の専門家は見ている。
 
 さらにビンラディン殺害直後の2011年5月に発生した、パキスタンの海軍基地での内応者を巻き込んだ襲撃事件は、パキスタン軍内への過激派支持者の浸透への懸念を高めている。
 
 このようにビンラディン殺害をきっかけに、パキスタン国内のテロリストへの核兵器の拡散と核テロの可能性が、かつてないほど憂慮される事態になっている。その意味では核拡散阻止に向けた米パの連携は、ますます重要になっている。
 
 しかし、パキスタンと米国は微妙な関係にある。パキスタンは民生用の原子力協定の締結を米国に要求しているが、一方で原子力施設への査察や透明性に関する米側の要求を拒否しており、交渉は進んでいない。
 
 これに対して中国との間では、中国企業との原子炉の3番炉と4番炉の建設契約締結に向けて動いている。
 
 インド政府は、中国がパキスタンと1ギガワットの原子炉プラントの契約寸前にあることを確認しており、中国はインド政府に、この原子炉はIAEAの査察に服することを公式に通告している。
 
 ただしインド政府は、パキスタンが精力的に活動を続けているクシャブにある3番目の原子炉はIAEAの査察を受けておらず、何が行われているかを憂慮している。
 
 また、この新しい原子炉以外に、チャシマにはすでに中国の援助で建設された2基の300メガワットの原子炉があり、そのうちの1基は操業しており、もう1基も近く稼働すると見られている。
 
 中国はこれで計4基の原子炉を建設することになる。インドは、当面は静観するしかないと見ているが、他の原子力供給国グループ(NSG)を集い、中パ間の契約を阻止するために行動する可能性もほのめかしている。
 
 特に問題となるのは、軍用生産炉と見られるクシャブにある原子炉であり、活動は活発化しているがその内容は不明である。また中国の民生用原子炉への建設援助は、間接的にパキスタンに原子炉の軍事利用の余力を与えることにもなり、インドの憂慮を呼んでいる。
 
 パキスタンは、米国の原子力関連の支援を当てにせず、米の支援は他の民生品に振り替えるとしているが、米側は核拡散阻止、対テロ作戦、情報収集のためにはパキスタンを捨てられないとも見ている。
 
 逆に米側はパキスタンの経済発展と対テロ作戦にとり、米国の経済的軍事的支援は欠かせないと見ており 、パキスタンが決定的に米国との関係を断つ可能性は低い。
 
 パキスタンは、米軍がビンラディンを襲撃する際に事故を起こし現場に残してきた特殊作戦用のヘリを、米側に引き渡した。
 
 しかしその直後に、首相自ら北京に向かい、パキスタンは中国を安全保障と経済援助の提供国と見ているとのシグナルを送るなど、米中を手玉に取る二股外交を展開している。
 
 他方中国は米パ関係の間隙を縫い、巧みにパキスタンでの影響力を拡大しており、その梃として民生用原子炉の建設支援も躊躇していない。
 
 しかし、このような支援は間接的にパキスタンの原子炉の軍事利用の余力を増大させることになり、結果的に核テロなどの脅威を高めることになりかねない。国際的責任を負う大国としての姿勢に欠けると言わざるを得ない。
 
 以上のような中国の挑戦的な対外姿勢の背景について、「フォーリン・アフェアーズ」誌上でトーマス・クリステンセン(Thomas J. Cristensen)は以下のように述べている。
 
 中国はここ2年間、1990年代の路線から外れ、近隣国や米国との関係を悪化させており、ワシントンの北京に対する不信感は明らかになっている。中国は2008年の金融危機以来の、自国の勃興と米国の凋落を反映して戦略を見直し、より独断的になったと見る意見が多い。
 
 しかし実際は、中国の近隣国や米国に対する非生産的な政策は、より独断的となり変質したためと見るよりも、状況の変化に対応した結果であり保守的なものと理解すべきだ。
 
 北京の新たな凶暴な姿勢は、誇張された中国の世界的パワーとしての台頭と、国内の政治的な危険性に根差している。その結果、中国の政治家は国内のナショナリストの批判に極めて敏感で、国外からの挑戦に対する対応がより厳しく、時に傲慢になるのである。
 

 その動機や国内要因はともかく、クリステンセンも、中国の姿勢が近隣国と米国との関係を悪化させ、米側の不信を招いていることは否定していない。では、米国側はそのような中国に対し、どのように対応しようとしているのであろうか。


(3)へ続く

JBpress.ismedia.jpより引用
 
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