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近年の核兵器をめぐる世界各国の動向(2)
第2回:ロシアと中国、そして北朝鮮
2011.07.11(Mon)
(2)からの続き
オ 米側の対応の可能性と今後の米中軍事バランス 核拡散疑惑に対する対応はオバマ政権にとり、対テロと並び安全保障上の最大の課題である。しかし、そのための対応策は外交的努力が主体となる。以下では、主として軍事的対応策について分析する。
軍事上は、中国側の意図や国内事情がどのようなものであろうと、米国側としては前述した中国側の、いわゆる「接近拒否戦略」を脅威視しており、その対応を迫られている。
そのため、米軍がいま打ち出しているのが、海空戦力により接近拒否戦略に対抗する「統合海空戦闘概念(a joint air-sea battle concept)」である。
この概念は、高度の対接近、地域拒否能力を持つ装備を備えた敵性勢力などを打ち負かすために、米海空軍が共同で開発した全軍事作戦にわたる新たな概念である。
空、海、地上、宇宙、サイバー空間などすべての作戦領域にわたり、米国の行動の自由に対する高まりつつある挑戦に対処するために、いかに海空軍がその能力を融合させるかを扱っており、効果的な戦力投射能力に必要とされる、将来の能力開発の方向付けに役立つものと期待されている。
しかし、まだ構想段階であり、その実現の可能性には疑問が残る。前述した厳しい米国の財政事情を考慮すれば、統合部隊構想の実現は容易ではない。
事実、2011年の「米国国家軍事戦略」では、「われわれの国家と軍はともに厳しい予算不足にさらされており、国防予算の増加は見込めない。これらの圧力に適応するために、必要とする即応性、訓練、近代的装備に欠けた空ろな戦力になるわけにはいかない」とし、その代わりに、「将来の挑戦的リスクを効果的に和らげるための持続可能な進度」で統合部隊を整備していくとの方針が示されている。
以上の、中国の経済成長と軍事費の急増、米国の財政悪化と国防費の削減という見通しを前提にすれば、今後、米中軍事力の我が国周辺でのバランスが中国側に有利に傾いていくことは、ほぼ間違いないであろう。
外交は背後にある軍事的優位性が伴わなければ、大国相手に強制力は発揮し得ない。優位に立つ中国が米国の外交的な核不拡散努力に協力姿勢を示さないとすれば、米国の核不拡散努力にも自ずと限界が生じてくるものと予想される。
(4) 北朝鮮を中心とする核とミサイル拡散の国際的ネットワーク
ア 北朝鮮とイラン、ミャンマー 北朝鮮は、米国を目標とする核搭載可能なミサイルを開発していることは、ほぼ間違いない。
現在ミサイルに搭載できる核弾頭の開発に成功したことはまだ確認されていないが、6発分のプルトニウムを保有し、2010年11月には、第2の兵器用物質を得るためのルートとしてウラン濃縮能力があることを誇示している。また金正恩(キム・ジョンウン)後継体制になっても、これらの政策に変化は期待できそうにもない。
前述した2011年5月の国連安保理への専門委員会の報告文書では、北朝鮮について、イランとミサイル開発で協力している兆候として、2010年10月の軍事パレードで出現した新型のノドン・ミサイルの弾頭が、イランのシャハブ3と設計が極めて類似していることが指摘されている。
またミャンマーについても、核開発している確たる証拠はないが、北朝鮮と核拡散活動で協力しており、ミャンマーは核・民生両用物資の最終使用者となり、あるいは北朝鮮に対する輸出の中継点になっている可能性がある。
イ シリア シリアが2007年にイスラエルの空爆により破壊された原子炉を再建しているとの疑惑は、2009年頃から持ち上がり、IAEAは再三査察を要求していた。
2011年2月にシリアは、6フッ化ウラン製造工場に対する査察には同意したものの、疑惑の核心となる原子炉への査察は認めなかった。これに対し米国は強く疑惑の原子炉への査察を要求し、同年5月にようやくシリアは査察受け入れを回答している。
なお、2007年イスラエルの空爆により破壊されたシリアの原子炉は、北朝鮮の寧辺にある原子炉と同型であったが、同じ場所での原子炉の建設を北朝鮮はひそかに支援しているとして非難されている。
ウ イラン イランについては、核開発疑惑が2010年秋には頂点に達し、イスラエルの空爆の可能性などが予測されていた。しかし、2011年2月、Stuxnetと呼ばれるコンピューターワームにより、ナタンツの遠心分離装置を統制するコンピューターソフトが破壊されたことが報じられた。
その結果、イランの核開発は一時止まり、2014年までは脅威にならないと見られていた。しかし2010年11月に、北朝鮮のウラン濃縮施設が「数千台」の遠心分離機を使い、正常に稼働していることが報じられ 、施設が米側の専門家に公開された。
このことは、イランのウラン濃縮が北朝鮮で密かに継続されていた可能性を示唆しており、イランの核開発は依然として継続しているとの見方が高まっている。
なお、IAEAは2011年3月、イランが2007年初めから4.1トンの低濃縮ウラン、核爆弾2発分を生産し、公表されていない核関連活動の兆候が見られ、その中には核ミサイルの搭載用弾頭の開発と見られる兆候もあるとの報告を提出している。
またイランに協力した企業として中国企業が挙げられ、中国の核専門家がイランの核施設に招待されたことをイラン側が証言している。
イランとパキスタンの関係についても、新しい動きが報じられている。イランは核起爆用の中性子発生実験を行い、シャハブIIIミサイルの核弾頭用の高性能通常炸薬の減量化についても研究しており、核兵器を組み立てるまでに1年から5〜6年の間にいる と報じられている。
またISISは、イランがナタンツでこれまで499kgの低濃縮ウランを生産し、施設の能力は月産156kgに増強されていると、国連文書から分析している。またIAEAは、遠心分離機は5860基あり、そのうち2100基は停止中だが、164基の新型が配備されていると発表している。しかしイランの施設の秘匿度は増大しており、核施設建設の疑いが高まっている。
(5) まとめ
以上の現在の核戦力の趨勢から判明することは、米国の核戦力と通常戦力の近代化は進められているものの、米本土防衛、核拡散阻止と対テロに重点が置かれ、前方展開戦力を支える装備は削減方向にある。
また米露間の核戦力の削減交渉は、戦術核の削減とミサイル防衛システムの扱いで頓挫しており、これ以上の進展は当面期待できない。
しかし戦術核戦力、戦域核戦力は日本周辺では中露が優位にあり、米国の核の傘の信頼性も、これ以上の核戦力削減に踏み切れば揺らぎかねない状況にある。
他方で中国とロシアは日本周辺において接近拒否戦略を追求しており、日本有事に米軍空母打撃群が予定通りの時期と規模で来援すると期待するのは、軍事バランス上から見て困難になりつつある。
また、中国と北朝鮮は自ら核戦力の増強に努めつつ、パキスタン、イラン、シリア、ミャンマーなどの核兵器とミサイルの開発を直接的間接的に援助し、核拡散を黙認または支援している。
特に近年の核拡散ネットワークの協力関係は、これら諸国間に複雑に張り巡らされるようになり、他方で各国国内の開発も進んでいるため、ますます拡散の発見や阻止は困難になっている。
これらの諸事情を考慮すれば、日本や米国など、既存秩序を擁護する立場にある諸国は、今後、中露、北朝鮮、パキスタン、イラン、シリア、ミャンマーなどの秩序挑戦国から、核、通常戦力などの軍事面でも、核不拡散などの外交面でも、様々な挑戦を受けることになると予想される。
それへの備えを、特に米国との安全保障体制を外部からの侵略対処のよりどころとしている日本としては、真剣に考えるべき時にきている。
何よりも日本自らが、中露朝などのミサイル、特殊部隊、核兵器、サイバー攻撃その他、種々の多様かつ重層的な脅威にさらされていることを自覚し、米軍の来援が得られない場合も、独力で国防に当たる覚悟と備えを持たなければならない。
JBpress.ismedia.jpより引用 ↓記事を読み終わりましたら、こちらにもクリックをお願いします。m(_ _)m
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