ミッドウェー海戦研究所

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プーチン政権誕生で軍の近代化に向かうロシア
サイバー、放射線、遺伝子、地球物理・・・最先端兵器開発へ
 
選挙後、支援者に挨拶するウラジーミル・プーチン首相(3月5日)〔AFPBB News
3月4日に行われた大統領選の結果、ウラジーミル・プーチン首相が大統領職への返り咲きを果たした。これによって少なくとも6年間、再選すれば12年もの間、プーチン政権が続くこととなる。
 
 では、新たなプーチン政権はどのようなグランドデザインを描いているのだろうか。
 
 その一端をうかがわせてくれるのが、2月にプーチン首相が発表した7本の論文である。
 
 これは『ラシースカヤ・ガゼータ』紙や『モスコフスカヤ・ノーヴォスチ』『コムソモリスカヤ・プラウダ』『コメルサント』『イズヴェスチヤ』といった主要紙に掲載されたもので、テーマは「ロシアの挑戦(総論)」「民族問題」「経済」「民主主義と国家」「社会政策」「国防・軍需産業」「外交・安全保障」となっている。
 
 いずれもかなり詳細な長文の論文であり、各分野のブレーンと密接に協力しながら書いたものであろうと想像される。
 
 全体として見れば、これらの論文は、彼なりの国家戦略を広く国民に示したものと理解できるだろう。
 
 プーチンは、2000年に大統領に就任する際にも、「新千年紀を迎えるロシア」と題する論文と、ジャーナリストによるロングインタビュー『プーチン、自らを語る』を出版しているが、今回は各分野に関してより精密な見取り図を示している。
 
 そのすべてを紹介することは困難だが、今回の小欄では、「国防・軍需産業」についての論文を紹介したい。
 
 この論文については、大統領選を前にして軍の支持取りつけを図ったものとの見方も成り立つだろうが、同時に、軍事分野に関するプーチンの思想がうかがわれる興味深い箇所も多い。
 
1. 全般情勢認識
 この論文でプーチンは、現在の国際情勢が極めて流動的で予測不能な状態にあり、「力による圧迫の下に他者を犠牲にして自らの問題を解決しようという誘惑」が存在しているとしている。
 
グルジア・南オセチア自治州の州都ツヒンバリに駐留するロシア軍(2008年)〔AFPBB News
 
 従って、このような状況下ではロシアは「戦略的抑止力」を維持しなければならないと見る。
 
 プーチンによれば、このような抑止力こそが1990年代の混乱期にロシアの主権を守ったのであり、今後ともこの抑止力を維持することが、今後ともロシアが大国としてやっていくための必須要素であるという。
 
 ここで言う「戦略的抑止力」の内容は明らかでないが、戦略核を中心とする軍事力を指していると考えられよう。
 
2. 「スマート」な国防
 
 ただしプーチンは、これが軍拡を意味するものではなく、あくまでも1990年代に弱体化した軍事力を回復するものにすぎないと主張する。
 
 では、どのような軍事力を目指すのか。
 
 それは「スマート」な国防であるという。これまでロシアが公表してきた安全保障関連文書と同様、すでに大国間の全面戦争(核使用を含む)の可能性は低いとしながらも、30〜50年という長期的スパンで国防を構想しなければならない。
 
 第1に、米国などが用いる高精度の非核長射程兵器は今後、ますます戦争の決戦兵器となっていくと見ている。
 
 第2に、宇宙空間やサイバー戦が、決定的ではないにせよ重要な分野として台頭しつつある。
 
 第3に、さらに遠い将来には、放射線、地球物理、ビーム、遺伝子、心理その他といった要素を利用した兵器が登場し、核兵器に並ぶ威力を持つようになる。こうした兵器は使用の敷居が低いため、核兵器の役割は段階的に低下していくという。
 
 以上の見通しは、戦略核を「戦略的抑止力」の中核とするロシアとしては危惧すべき状況と言えるだろう(ただし、後述するように、当面は戦略核は重要な抑止力であり、そのため、旧式化が進む戦略核戦力の近代化は必須と見ている)。
 
 また、ロシアを含む旧ソ連諸国の周辺で多発している地域紛争も脅威であるとしている。面白いのは、これらの紛争が「特定の目的のためにこのような紛争を焚きつけ」られているという記述だ。
 
 旧ソ連・社会主義圏における「カラー革命」や一連の「アラブの春」の背後に欧米諸国が存在しているという警戒感を反映した見方と考えられよう。
 
 こうした新しい状況に対応できる軍事力づくりが「スマート」な国防なのだ。
 
3. 軍の貢献
 
 では具体的にどのような軍事力づくりを進めるのか。この点に筆を進める前に、プーチンは軍がいかにロシアのために貢献してきたかを力説する。
 
 将校たちが満足に月給を受け取れず、住宅もなく(ロシア軍の住宅問題については次回の小欄で取り上げたい)、兵士たちの食事にも事欠く状況下で、チェチェンやタジキスタンその他の紛争地域で彼らが自分を犠牲にして戦ってきたことを称揚している。
 
http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20110817/7649145.jpgロシア初のステルス戦闘機「T-50」〔AFPBB News
 
 また、兵力が削減される一方で高級将校ばかりが増え、135万人もの兵力がいながら第2次チェチェン作戦のために必要な6万6000人の兵力さえすぐに集められなかった状況にも触れている。
 
 さらに、エリツィン政権下での軍改革については、組織のコンパクト化以外は誤りであったとして手厳しい。
 
 そのうえで、プーチンが提示する新しい軍隊の形は、機動性が高く、常時即応体制にあり、契約軍人(志願兵)で充足された軍隊だ。
 
 プーチンによれば、従来のロシア軍は数百万人の兵力を動員することを前提とした20世紀型の軍隊であり、これを冷戦後の新たな戦略環境に合わせて根本的に変革していかねばならないという。
 
 これは第1期プーチン政権下で出された軍改革路線、そして現在のセルジュコフ国防相による改革路線を再確認するものだが、それには非常な困難が伴ううえ、軍を含めて社会からの鋭い批判にさらされていることも率直に認めている。
 
4. 軍改革の成果
 
 続くパートでは、プーチン政権以降に達成された軍改革の成果がいくつか挙げられている。紙幅の関係であまり詳しく取り上げることはできないが、次のような点が主要な成果とされている。
 
●陸軍で約100個の常時即応旅団が設置され、かつては戦時体制への移行にほぼ1年を要していたものが5日で戦闘準備を完了できるようになったこと。
 
●従来の重厚・長大型の師団からより軽量で機動性の高い旅団が陸軍の中心となったこと。
 
●火砲・防空・通信・偵察といった支援能力が強化されたこと。
 
●訓練・教育体制の改革、軍の研究体制の強化、軍管区の統合等により指揮機構の簡素化、空軍の航空基地ネットワークの統合と近代化、弾道ミサイル攻撃警戒システムの更新とGLONASS航法衛星システムの稼働開始、戦略核戦力の近代化、外洋プレゼンスの拡大など。
 
 (戦略核戦力の近代化GLONASSシステムについてはこれ以前の拙稿を参照されたい)
 
5. 今後10年間の装備更新
 
 今後の課題として挙げられているのが、軍の装備更新である。冒頭でも述べたように、これまでの20年間でロシア軍はほとんど新型装備を導入できずにいたが、昨年から始まった大規模装備更新計画によって全面的な装備更新を図る計画である。
 
 プーチン論文によれば、優先課題は戦略核戦力、航空宇宙防衛、通信・偵察・指揮・電子戦システム、無人偵察機、新型攻撃システム、輸送機部隊の近代化、個人用防御システム、精密誘導兵器およびそれに対する防御システムなど。
 
 具体的な調達計画としては、以下のような内容となっている。
 
ロシアの原子力潜水艦「ユーリー・ドルゴルキー」〔AFPBB News
 
●長距離弾道ミサイル(ICBMとSLBM)400基
●弾道ミサイル搭載原潜8隻
●多用途潜水艦20隻、水上戦闘艦50隻以上
 
●軍事衛星100基以上
●第5世代戦闘機を含む航空機600機
●ヘリコプター1000機以上
 
●S-400防空システム28個連隊分
●ビチャージ防空システム38個大隊分
●イスカンデル-M短距離弾道ミサイル10個旅団分
 
●戦車2300両以上
●自走榴弾砲2000両以上
●その他の軍用車両1万7000両など
 
 特に注目されるのは長距離弾道ミサイルの調達数で、プーチン論文の通りであれば年間40基以上ということになる。これまでの3〜4倍ものペースだ。このため、論文発表直後、プーチン首相は新たな弾道ミサイル工場の設立を検討すると述べている。
 
 これらを通じて、2020年までに全軍の70%以上を装備更新する計画だ。
 
 このほか、プーチン論文では軍人の社会保障や軍需産業の改革にも触れているが、これについては機会を改めて触れることにしたい。
 
 今回取り上げた範囲に関して言えば、全体として国家の基礎としての軍の役割とこれまでの貢献を最大限に称えつつ、弱体化した軍事力の再建を政権の重要課題として打ち出した内容と評価することができよう。
 
 選挙戦を前にしての軍へのリップサービスという側面は多分にあろうが、第1次プーチン政権から続いてきた軍改革を完了させるという強い意欲も読み取れる。
 
 プーチン自身も述べている通り、これは軍拡というよりは弱体化した軍の立て直しという側面が強い。その一方、軍事力の再建を通じて大国としてのロシアを復活させようとする意図があることもたしかであろう。
 

 まもなく発足する第2次プーチン政権がどのように「スマート」な国防を実現していくのか、これからも注目していく必要があろう。


JBpress.ismedia.jpより引用

 
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